Anis Uzzaman社外取締役(以下:ウッザマン):シリコンバレーに拠点をもつフェノックスというベンチャーキャピタルの共同代表兼CEOをしています。フェノックスは2011年に私がゼロから立ち上げたベンチャーキャピタルで、現在は日本を含むアジア、シリコンバレー、ヨーロッパなどの65社以上に投資をしています。ゼロからベンチャーキャピタルを立ち上げたという点では、私も平野さんと同じアントレプレナー(起業家)ですね。
ウッザマン:今から20年ほど前の1995年ごろ、ソニー、パナソニック、日立といった日本の電機メーカーが世界中でテレビなどの魅力的な製品を販売しており、そうしたきっかけから日本に興味を抱くようになりました。そののち、日本大使館から奨学金をいただき、東京工業大学で工学学士号を、オクラホマ大学でMBA(経営修士号)を取得しました。そしてIBM・ケイデンスでエンジニアとして働きながら、東京都立大学で博士号を取得しました。現在は、フェノックスで日本のベンチャー企業に投資し、何社かの日本企業の社外取締役をつとめています。
ウッザマン:IBM・ケイデンスで働いていた時代にスタートアップとの関わりがあり、そこでスタートアップへの興味を持ち、ベンチャーキャピタルを立ち上げて関わることになりました。
ウッザマン:インフォテリアとのかかわりは、日本のベンチャー企業への投資のなかで、ある企業の方にご紹介いただきました。平野さんとお会いし、世界を「つなぐ」というコンセプトに共感し協力させていただいています。
平野洋一郎代表取締役社長/CEO(以下:平野):もともとアメリカ、とくにシリコンバレーへの進出・投資を検討していました。しかし、ゼロからの進出・投資は自力で行うことは容易ではありません。そんな時ウッザマンさんと出会い、付き合いが深まるなかで、彼の力を借りようと取締役に就任していただきました。たとえば、彼の協力でYCombinator (ワイコンビネーター※1)のDemo Dayにも参加してスタートアップに投資することができました。そこは世界中から約1万社ものスタートアップ企業が応募するなか、選ばれた100社に満たない企業だけがデモをできるイベントで、その競争率の高さからスタートアップのハーバードMBAといわれています。
ウッザマン:デモに参加できる企業の選定はとてもユニークで、ルール化されていません。Y Combinatorのパートナーが応募者の個性を見て選んでいます。そして、いままで何をやってきたかというのは重視しません。むしろ、スタートしたビジネスを最後までやっていけるかどうか、それを応募者の個性で見極めます。ビジネスが具現化されていない初期段階の場合、最初のアイデアが最後に変わってしまうことはよくあることです。たとえるならば、作り始めたリンゴの出来上がりはオレンジでした、ということもあります。そして、リンゴからオレンジに変わろうともきっちり遂行できる能力、バイタリティー、柔軟性、これを判断することが重要なポイントなのです。
ウッザマン:企業の時期(ステージ)によって2つの戦略があります。一つは、初期段階、もう一つはアドバンスト(ビジネスが進んだ段階)です。初期段階で一番重要なポイントは、アントレプレナーとしての資質です。アントレプレナーとそのチームにやる気があるかどうか、最後まできっちりビジネスを遂行できるかどうか、初期段階では目利きで判断するしかありません。
アドバンストの場合すでにある程度、他の投資家からの投資が進んでいる状態で、日本国内で既に売上を立てている会社が多いです。こうした会社の多くがグローバル展開を見込んでいます。グローバルに展開したい会社とフェノックスとは親和性があります。
フェノックスは、シリコンバレーに拠点をもちながら、日本、韓国、インドネシアと数多くの拠点を有しています。そして、今後、グローバル展開を加速させたい企業に対して、海外展開の足掛かりを提供します。
ウッザマン:やはり、最初から海外を見た事業を打ち立てて展開している日本企業は強いと思います。その点で、インフォテリアの戦略は正しいと思います。何を開発するか、どんな製品にするか、の時点で初めからグローバル展開ができるものを事業として選択しています。最先端のプロダクトや技術を活用し、世界中に広がるUI・UX※2を心がけているのではないでしょうか。インフォテリアのやり方は、今後海外展開を試みる日本企業が倣うべき点ではないかと思います。
平野:ソフトウェアの世界は、他の産業にくらべてフラットです。OSや開発言語ともに世界共通です。私は、フラットゆえに世界共通で使えることに喜びを感じました。一方で、これまで日本のシステム開発企業の多くが個別の受託開発でした。受託開発は、簡単かつ確実に売り上げを確保できる「おいしい食べ物」です。しかし、インフォテリアは、世界に役立つソフトウェアを開発するという考えから、あえて受託開発という「おいしい食べ物」を避けて、一貫してソフトウェア製品を提供してきました。
ウッザマン:世界のトレンドに乗ることがとても重要です。たとえば、写真共有サービスのInstagram(インスタグラム)が登場して、写真共有サービスというトレンドが誕生しました。一般的に、大企業はこうしたトレンドを追いかけるのが遅い傾向があります。そして、トレンドは移り変わりが激しく、2年単位で変わります。大企業もこうしたトレンドを追うことが重要です。トレンドに乗るためには、スタートアップ企業、いうならば、革新を生み出すイノベーション業界とのかかわりが重要です。日本の企業はもっとスタートアップ企業とかかわり、イノベーションを取り入れるべきです。幸いにして、インフォテリアにはこうした体制ができています。
平野:日本の企業はやはりこうしたトレンドに乗るという認識が足りないと思います。現在名だたる大手企業が苦境に陥っていますが、トレンドに乗れていないから、こうした問題が起きるのだと私は考えています。
ウッザマン:日本の多くの企業は変わることに対して遅く、組織として不十分だと思います。たとえば、サムスン電子(韓国)はシリコンバレーのスタートアップの技術を吸収するべく200名以上がイノベーション業務に携わっています。日本企業ではせいぜい2~3名です。そして、そうしたイノベーション業務を通じて、良いものを引き出して、それを自社の製品開発に活かしています。そして、サムスン電子は1社ではなく、サムスングループの複数社がスタートアップにアプローチして、お互い切磋琢磨しています。日本企業も、こうした体制を見習う必要があります。
ウッザマン:CVCはとてもよいステップだと思います。CVCによって、企業はスタートアップ企業との接点をもつことができ、そして、イノベーションを取り入れることができます。
平野:これまでも社内ベンチャーブームがありましたが、結局、うまくいきませんでした。なぜなら、うまく行かなくても戻れるという温さがあって、ビジネスへの情熱が低くなってしまうからです。CVCの場合、独立したスタートアップ企業に投資するので、その覚悟や情熱が違います。
ウッザマン:フェノックスの目指す方向性は、スマートマネーカルチャーです。スマートマネーカルチャーは、キャピタル(資本)+アドバイス、すなわち、資本を入れることと同時に、投資した企業がさらに成長するためにアドバイスをします。たとえば、アジアの企業に投資をして、その技術をシリコンバレーに取り入れる。もちろん、逆もあります。単に投資をするのではなく、他の地域への足掛かりをつくること、これがフェノックスの特徴です。
平野:そのような特徴を持ったベンチャーキャピタルはシリコンバレーでも珍しいのではないでしょうか?
ウッザマン:珍しいと思います。とくにシリコンバレーの場合、マーケットが大きいので、あえて海外に出ていく必要がありません。そして、外に出るとしても、中国やインドでしょう。フェノックスは、日本、韓国、インドネシア、バングラデシュ、ドバイ、イスラエルと多くの拠点を展開しており、その点が他のベンチャーキャピタルと違うユニークな立ち位置です。
平野:シリコンバレーのベンチャーキャピタルでは最も海外拠点が多いのではないでしょうか?
ウッザマン:そうかもしれませんね。フェノックスはシリコンバレーで最初の活動をスタートし、その後アジアの重要性に気づき、アジアでも大きく展開している会社です。
フェノックスの強みはこうした多拠点へのアクセスです。最近、シリコンバレーにおいて限られた名門のベンチャーキャピタルしかアクセスできないピカピカのディールにフェノックスが参加できるようになりました。それもひとえにフェノックスが多くの拠点を抱えており、それによってさらなる成長が見込めるからです。さらに今後、注目している地域としてインドがあります。
平野:インドに展開する前にまずはASEAN地域を攻めたいと思います。ただ、ウッザマンさんがいてくれてとても心強いです。我々は世界に進出したいと思うものの、やはり、東京がベースです。ウッザマンさんは、グローバルな広い視野で見ているので、様々なビューポイントで様々な世界に触れることができます。
ウッザマン:ベースには、クラウド、モバイル、ソーシャルがあり、その上にバーティカル(縦の軸)として、CRM(顧客管理)、ペイメント(電子決済)などがあります。そして、今後のトレンドで注目すべきは、ビッグデータ、人工知能(AI)の活用です。また、インフォテリアが手掛けているブロックチェーンに代表されるフィンテックも重要な技術です。
ウッザマン:電子決済のPayPalやSquareといった会社はもともとソフトウェア企業であり、ソフトウェア企業ながらも金融分野に進出しました。フィンテックとは、こうしたソフトウェア企業が金融の業務をテイクオーバーする(引き継ぐ)流れです。そして、こうした流れは金融だけに限りません。ビッグデータを活用して、人工知能で分析することで、金融はもちろんのこと、医療・農業という分野において、ソフトウェア企業が重要なポジションを占めることになるでしょう。これが現在のトレンドです。
平野:フィンテックは金融業界の革命と呼ばれています。革命とは、プレイヤーが変わることです。プレイヤーが変わることで、新しい価値が生まれます。そして、プレイヤーを変えるためには、新しいスタートアップが興り、成長していくことで実現されていくのです。
ウッザマン:インフォテリアの魅力は、意思決定のスピードが速く、新しいものを取り入れやすいことです。企業が大きくなると、動きが鈍くなりますが、インフォテリアの場合は、新しいものを取り入れて実行することがとてもスピーディで効率的だと思います。
平野:インフォテリアはソフトウェア製品を開発している会社であり受託開発ではないので、お客様が今欲しいと思うことはやりません。むしろ2~3年先のビジネスを取り巻く環境、あるいは、必要となるハードウェアを見越して、開発をしています。たとえば、インフォテリアのプロダクトである「Handbook」は、iPadが登場する前からこうしたコンセプトが根付くと考えて開発しました。そして、ブロックチェーンも話題となる2年以上前から注視していました。そして、今後の注力分野がIoT(Internet of Things: あらゆるモノをインターネットに接続する仕組み)です。あらゆるデバイスがつながるということは4年以上前から考えていました。そして、それを実現する製品を今年投入する予定です。
ウッザマン:株主の皆様にお願いしたいのは、既存のビジネスを守りながらも、新しいチャレンジを見守ってほしいということです。既存のトラックを守りながらも、新しいトラックにチャレンジする。チャレンジすることは必ずしも成功するとは限りません。ただし、チャレンジなしでは企業の成長は見込めません。成長に向けてチャレンジする姿勢こそがグローバルで戦う企業にとって重要なのです。
平野:インフォテリアを世界に役立つ会社に育てたいと思います。そのためには、言われたことをやるのではなく、トレンドの流れを作りたいと思います。ウッザマンさんを含めた社内外のパートナーの知見を活かしながら、世界に役立つ会社を目指します。
本対談は、平野さんはシンガポールから夜行便で東京に到着された直後、ウッザマンさんも台湾から来たばかりというグローバルに展開するお二人ならではのセッティングで実施されました。対談中、とくに、印象的だったのは、ウッザマンさんが繰り返し触れられた「イノベーション」です。20世紀を代表する経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションについて、非連続なものを組み合わせて結合(新結合)することでイノベーション(革新)が生まれると定義しています。ひるがえって、ウッザマンさんはグローバルに展開し、非連続なものを組み合わせることで、新しいイノベーションを起こしているように見えます。そして、イノベーションを起こすためには失敗を恐れず常にチャレンジする、これがウッザマンさんからの大事なメッセージと受け取りました。非連続なものを組み合わせて結合する、ウッザマンさんを通じてインフォテリアにもこうしたイノベーションがもたらされると強く確信できた対談でした。
フューチャーブリッジパートナーズ(株)代表取締役 長橋 賢吾
*1 Y Combinator (ワイコンビネーター):米国カリフォルニア州のVC(ベンチャーキャピタル)。少ないお金を出資しながら、徹底的に次の投資ラウンドに進めるように指導するのが特徴。最強のスタートアップ養成スクールとも呼ばれる。
*2 UI・UX(ユーアイ・ユーエックス):ユーザーインターフェイズならびにユーザエクスペリエンス。近年のスマホアプリの成長等により、直感的にわかりやすい操作性、何度も試したい経験(エクスペリエンス)の重要性が高まっている。
以上
日時:2016年06月17日 17:00
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