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急速に広まるDXの波
デジタル技術を用いて「人間中心の社会」をつくる

株式会社大和総研 専務取締役 調査本部長チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
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代表取締役社長/CEO 平野 洋一郎

デジタルは生活インフラの一部になり、IoTやAIも続々とデバイスやツールに導入されています。加速する情報社会に対応するため、企業や行政はDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。いま国内のデジタル環境では何が起きているのか。エコノミストの熊谷亮丸さんと当社代表 平野の対談です。


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― 近年、経済界を中心にDXが推進されています。昨今では菅首相がデジタル庁の発足を提言しました。なぜDXが注目されているのか? その社会的背景を教えてください。

熊谷亮丸(以下:熊谷):理由はいくつかありますが、資本主義の変化が大きな影響を及ぼしていると思います。今まではグローバル資本主義のもとに、企業や株主の短期的な利益だけが追求されてきました。そのやり方に限界が見え始め、新たな経済のあり方が模索されています。

― それはどのような経済なのでしょうか?

熊谷:ひとことで言えば「人間中心の資本主義」で、「経済の発展」と「人が生きやすい社会」を同時に目指すものです。DXを進めれば、ITや機械ができる仕事はそちらに任せ、人間の持つ能力を最大限に活かすことができる。そのため、新しい経済のあり方と相性がよいのです。

― 「人間中心」という文脈では、「働き方改革」や「SDGs※1」も関連する動きですね。

熊谷:その通りです。今までの社会は、経済成長と引き換えに次世代へ負債を残していました。近年は長期的視点に立った持続的な成長が求められるようになり、投資市場でもホットなテーマとして、SDGsやDXに資金が集まるようになりました。今後はそれらの取り組みが投資の評価基準になり、行政を巻き込んだ国際競争になると思います。菅首相の提言したデジタル庁の発足もそれを視野に入れたものでしょう。

― これらのムーブメントはコロナ・ショックが起きてから一気に加速しているように思います。ウィズコロナのなかでDXを進めるためには、何が必要なのでしょうか。

熊谷:「感染症の拡大阻止」と「社会経済活動の持続性」の両立が求められます。たとえば、大和総研では「緊急事態宣言を1年間続けると、個人消費が51兆円減少する」と試算しています。これを補填するためには、平時の国家予算の半年分のお金が必要になりますから、感染症の拡大防止のために、全国で全ての経済活動を止めることは現実的ではありません。メリハリのある感染症拡大防止策を行うために、人の接触を避けながら、生産性を上げていかなければいけません。その足掛かりになるのがDXとITです。ポストコロナの観点で見ても、DXは重視されています。政府が立てた成長戦略のなかで、「21世紀の石油」とも称される「データ」が注目されています。デジタル化が進めば、モビリティや医療・介護、製造業などの分野で、日本が持つ良質なデータを活用できるようになり、国際的な競争力も上がっていくでしょう。

― 時代の潮流と言えるDXですが、国際社会のなかで日本の取り組みは「遅れている」と言われています。なぜ、日本のデジタル化は滞ってしまったのでしょうか。

熊谷:技術やインフラはある程度の水準に達していますが、既得権益がこれを阻んでいると思います。たとえば、医療業界でオンライン診療を始めると医師の報酬が減ってしまう。そうした課題は様々な業界に存在しますから、各業界団体の協力が必要です。さらに、国民の意識としてプライバシーを過度に重視する傾向があります。情報の安全性を重視するあまり効率性が下がっているので、諸外国を見習って、効率性と安全性のバランスが取れた、データ活用のあり方を検討しなければいけません。

平野洋一郎(以下:平野):「経済を回すのか?感染を防ぐのか?」相反するように見える2つの課題ですが、DXによって両立ができると考えています。同様の二律背反的社会問題は「ワークライフバランス」でも起きていますね。「ワークを減らせばライフが上がる」というように二軸を相反する要素と捉える、ゼロサム的な考えが浸透していますが、仕事や生活とITを使ってトランスフォームしていくこと、つまりDXで両方をさらに良くしていくことが可能です。

― ここまででDXの必要性が理解できましたが、実際に現場へ浸透させるためにはどのような心掛けが必要なのでしょうか? 事業を通して様々な企業のDXに取り組んできた平野さんの意見を聞かせてください。

平野:DXをこれから進める企業には、3つのポイントがあります。(1)手作りせずレディーメードのパッケージやクラウドサービスを導入すること、(2)安心・安全にデータを扱えるクラウド環境を整備すること、そして、(3)マネジメント層がこれまでのプロセスを変更したり捨てたりする覚悟をすることです。それらのステップを同時に進行しなければ、逆に効率が下がってしまうこともあります。

― たしかに、テレワークを導入した企業から「メンバー間の連携が難しくなった」「行動が見えづらくなり、マネジメントが難しくなった」などの悩みを聞きます。

平野:コロナ禍で、テレワークは政府を挙げての企業への要請になりました。しかし、テレワークを始めてから「生産性が下がった」とする企業も少なくありません。それらの課題を解決するためには、企業活動そのものをデジタル基盤に載せることが必要です。こう言えるのは、当社が世に先立ってDXに取り組んできたからです。

― アステリアではいつ頃からDXに取り組んできたのでしょうか?

平野:まだDXという言葉が無かった頃からです。今はDXと言われる企業の活動基盤を全てクラウドに載せる動きは、東日本大震災が起きた2011年に遡ります。当時はBCP的観点から全社員がテレワークできる環境を整備し、そのために社内システムもクラウドに移行、社内のサーバールームも廃止しました。いまでも、社員がどこでも仕事ができる環境を整備し続けています。今回のコロナ禍にあたっては社員の自宅に光回線を導入し、快適なテレワーク環境を実現してきました。
アステリアの事業そのものもDXの推進に役立っています。当社の事業はデータ連携用ソフトウェアの開発で様々な「つなぐ」製品を提供しています。他社の支援や自社システムの整備を通して、様々なノウハウを蓄積し、それをまた製品に反映してきました。
さらに、制度面でも、猛暑や豪雪に対応したテレワークの実施や、ワーケーションの導入など、独自の施策を実施しています。もう10年近くテレワークを実施しているので、社員の評価は高く、管理者もジョブ型の評価に慣れていますし、業績も上がっていて、テレワークを止める理由がありません。いま世の中ではDXが大きな注目を浴びていますが、ツールを導入してデジタル化するだけでは本質的なDXとは言えないですね。

― 「本質的なDX」とは、どのような状態を指すのでしょうか?

平野:DXは目的ではなく、人が働きやすく、かつ組織が掲げた目標を達成する手段であるということです。従来、企業のITシフトはシステム部門が牽引していました。そうして導入されたツールは必要十分な機能を備えていましたが、現場目線で見ると使いづらいシステムも多数存在しています。デジタル化だけではDXとは呼びません。本質的なDXを実現させるためには、ツールやインフラだけでなく、現場から経営までの仕事のやり方そのものを変えていくという意識改革が必要になるでしょう。

熊谷:平野さんの意見に共感します。「コスト削減」や「生産性の向上」は、DXのもたらす恩恵の一部でしかありません。デジタル技術はユーザーニーズを的確に反映したプロダクトづくりや、イノベーションを起こすために活用できます。今後は視座を上げて、お客様や従業員の幸福度を高めるための技術活用が求められるでしょう。

― アステリアはデータ連携を事業の中核に据え、デジタルと人を結びつけてきました。今後、活躍の機会は増えそうですね。

平野:はい。当社は時代の変化を先取りしてきました。時には「先行しすぎている」と言われましたが、皮肉なことにコロナ禍で社会のニーズが追いついてくれた。現在は、データ連携技術を用いたテレワークの支援や、IoT※2統合ソフトを利用した“3密”検知など、自社製品が活躍する場も増えています。近年では、地方自治体とともに行政システムの実証実験も行いました。民間のDX化とは異なり、行政は時間がかかる分野だと思いますが、いずれ普及は進んでいくでしょう。
これらの変化に対応する形で、この上半期は過去最高の利益を達成することができたので、これを足掛かりに今後も先進的な事業を行っていきます。

― 今後の話が出たので、将来の構想をお話しできる範囲で聞かせてください。

平野:今後は、「4D戦略」を推進します。「4D」とは「データ」「デバイス」「ディセントラライズド(非中央集権)」「デザイン」の頭文字をとったもので、アステリアの開発や投資はこの領域に集中させます。
この戦略の目標は、データを中心に考え様々なデバイスをつなげ、人々の豊かな生活のためにデジタル基盤を分散的に活用することです。さらによい技術というだけでは普及しませんので、世の中への普及のためにデザイン視点を取り入れます。
この戦略の実現のために、2017年にはイギリスのデジタルデザイン専業の会社を買収しました。世界に名だたる企業のDXをコンサルティングしてきた実績を用いて、人とデジタルの橋渡しを推進していきます。
さらに、個々の企業のDXの先にある非中央集権型のデータ流通の時代に備え、ブロックチェーン技術の研究開発に2015年から着手しました。デジタル化が進むと逆に必要となる、デジタル上の信頼を確保し、データの改ざんなどの不正を防ぐためにブロックチェーン技術は大変有効で、今後需要が増えていく領域なので、特に力を入れて取り組んでいます。

熊谷:「 4つのD」は、どれも本質的なテーマですね。私は大和総研で長年チーフエコノミストを務めていますが、時代のトレンドと合致している戦略だと思います。 人々の価値観は多様化していますし、コロナ・ショックをきっかけに社会も中央集権型から分散型へと変わっていくかもしれません。デザインも重要な視点で、人がどう使うか、どうやって触れてもらうかまで考えなければ、高度な技術は普及しません。現に、韓国と日本が家電でシェア争いをしていた時に、日本は技術面では負けていませんでした。しかし、韓国はデザインやマーケティングをテコに国際的なシェアを伸ばしています。その点でデザイン視点はとても重要なものです。
DXを進める際には技術だけが注目されがちですが、重要なことは人間が中心になることではないでしょうか。デジタル技術は、人がより幸福に、豊かな生活をするために活用されるべきだと思います。



※1 SDGs(持続可能な開発目標):2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標
※2 IoT:Internet of Things(インターネット オブ シングス)の略で、様々な物がインターネットにつながること


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    株式会社大和総研
    専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト
    熊谷亮丸

    1989年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2007年大和総研入社。2020年より現職。2016年ハーバード大学経営大学院AMP(上級マネジメントプログラム)修了。政府税制調査会 特別委員(2020年~)、総務省「情報通信審議会」委員(2015年~)などの公職を歴任。2020年10月、内閣官房参与(経済・金融担当)に任命される。近著は、『ポストコロナの経済学~8つの構造変化の中で日本人はどう生きるべきか?~』(日経BP)。

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    アステリア株式会社
    代表取締役社長/CEO
    平野洋一郎

    ソフトウェアエンジニアとして8ビット時代のベストセラーとなる日本語 ワードプロセッサを開発。1987年~1998年、ロータス株式会社(現:日本IBM)でのプロダクトマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。 1998年、インフォテリア(現:アステリア)株式会社創業。2007年、東証マザーズ上場。2018年、東証一部へ市場変更。2008年~2011年、本業の傍ら青山学院大学大学院にて客員教授として教壇に立つ。

以上
日時:2020年12月12日 10:00