2019年10月17日

AI技術の普及で「機械が自動で地図を作れるようになった」ってホント? 日本企業がAI業界で勝ち残るための戦略について聞いてみた

”GAFA” や “BATH” と呼ばれる海外の大企業が世の中を大きく動かす今。技術の進化が注目されるAI分野において、日本企業にもシェア獲得の可能性はあるのか? Asteria ARTの代表として、最先端のAI技術の研究開発に携わる園田先生にお話を伺いました。


「AI(人工知能)の普及によって、数年後には私たちの職業がなくなる!?」と騒がれていたのは数年前のこと。実は ”数年” も経たないうちに、特に専門性の高い仕事は機械に置き換わっているのがリアルな現状なのだとか。

そう話すのは、Asteria ARTの代表を務める園田智也先生。Asteria ARTとは、アステリア株式会社が2019年6月に立ち上げたAI研究開発子会社で、主にマシン・ラーニングの研究開発や、アステリア社の製品へのAIの搭載などを担当しています。

今回の記事では、AI技術やビジネスの現状、そして世界的にAI技術が進歩する中で日本企業が勝ち残っていく可能性はあるのか? など、気になる疑問をぶつけてきました!

アステリア Artificial Recognition Technology (ART) 合同会社 代表
ウタゴエ株式会社 代表取締役社長
園田 智也(そのだ ともなり) 博士・情報科学(早稲田大学)

1997年、世界初の歌声による曲検索システム開発。 2001~2003年、日本学術振興会特別研究員(文部科学省所管の独立行政法人日本学術振興会認定の日本トップクラスの若手研究者)。 2002年、IPA 未踏ソフトウェア創造事業採択。 2001年、ウタゴエ株式会社創業。 2019年、AI研究開発会社 アステリア ART 合同会社代表就任。

「AI」の歴史とマシンラーニングで出来るようになったこと

園田先生、今日はどうぞ宜しくお願いします!まずそもそもなのですが、「AI」って一体いつ頃から世の中にある技術なのでしょうか?
今世の中で「AI」と呼ばれているものは、遡ると1956年ぐらいからその概念は世の中にはありましたね。そこから技術の発展で少しずつ前進しているのですが、世の中的にはその前進とあわせるように「AIブーム」が何度か訪れている印象です。
1956年!そんなに昔からあるのですか。「AI=人工知能」という言葉の意味も広すぎて、具体的にどの技術を指しているのか分からなかったりするのですが…。
そもそも「AI」というのは、コンピュータで作られた ”人間のように物事を理解できる知能” のことを指します。具体的な技術としてはマシンラーニングの中でも「ディープラーニング」が現代のAI技術を支える大きなものと言えますね。

マシンラーニング=「機械学習」と言われるものですよね。ディープラーニング=「深層学習」も最近よく耳にするようになった印象ですが、概念自体は昔からあったのでしょうか?
実はディープラーニングの中で用いられる、重要な「畳み込みニューラルネットワーク」という考え方があるのですが、1980年頃、最初にその考え方を発表したのは日本人で、福島邦彦さんという方なんですよ。当時は現代のようにディープラーニングに耐えうるようなハードウェアが普及していなくて、なかなか実現化できなかったんですよね。
こうすればできると分かってはいたけれど、そこにハードがついてこなかったと!ようやくそれが追いついたのが最近ということなんですね。
そうなんです。2012年に開催された画像認識コンペティションで、ディープラーニングを用いた技術が、圧倒的に良いスコアを出して優勝したという記録があります。この記録がディープラーニングの技術を全世界に証明することになり、AI技術の歴史におけるターニングポイントになった出来事でもありますね。

今までの人類がどんなプログラムを組んでも見えなかったことが機械で学習さえすれば見えるようになった、ということが証明されたのは大きな進歩です。
人類が今まで見えなかったことがAIなら見れるって… 凄いことですよね。AIの技術の進化によって仕事がなくなるというのもよく言われることですが、どれぐらい現実的なのでしょうか?
かなり現実的だと思いますよ。それも数年ではなく数ヶ月のうちになくなる仕事がこれからどんどん増えていくと思います。職業でいうと、専門的な仕事になればなるほど機械に代わられていきますね。
え〜!専門的な仕事であればあるほど!? お金や時間をかけて勉強したことが簡単に機械に置き換えられてしまうのは辛い…。誰にでもできる簡単な仕事の方が、あっという間にとって代わられるんじゃないかと思ってました。

それもそうですが、分かりやすい例で言えば、例えばスポーツの試合の審判。これは正確なセンサーと画像認識の技術さえ整えば、人間の目視よりも確実なジャッジができるようになります。もちろん、審判の判定や駆け引きも含めてスポーツを楽しむということもありますが、場合によっては、フィールドの端から端まで、選手と一緒に走ったりする必要もなくなりますよね。

専門性が高く、かつ人件費が比較的高い職業は、早々に「AIに任せた方が確実だし値段も安い」という判断になりそうです。
確かに…。経済的なメリットがある分、積極的にAIが採用されていくという点は納得です。

AI技術の普及で「機械が自動で地図を作れるようになった」ってホント?

実際に、いま「AI」というのがどれくらい日本で普及しているのかって、先生から見るとどうなんでしょうか?
「普及」というのが私たちの日常生活の中だけの話なら、日本もアメリカも状況はほとんど変わらないですね。スマートスピーカーが家庭にある割合だとか、動画サイトが自動解析している「おすすめの関連動画」がどの程度見られているかとか。

普段あまり意識していないかもしれませんが、メッセージングアプリで出てくる「予測変換」なんかも機械が裏でコントロールしているので、おそらく日本のほとんどの人が毎日AI技術に触れていると言っても過言ではないと思います。
そうか…!予測変換も! もはやAIが普及している・していないの次元を超えて、私たちの生活の中でなくてはならないものになっているんですね。
そうなんです。だけど個人の利用における普及と同様にとても重要なのは、企業としてどの程度、ビジネスに活かせているか?ということですね。AIの技術を活かすためには、技術の源泉となる「データ」を大量に集める必要があるわけですが、現状はそのほとんどがアメリカのGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が中心となって握っています。

世界中で使われるクラウドサービスを持っているからこそ、大量のデータが集まりそれによって信頼度の高いAI技術が担保できているわけですが、そうした大企業の中になかなか日本企業の名前は上がらない。それを考えると、正直、いまの日本はとても遅れていると言わざるを得ません。
確かに、私たちは毎日のようにGoogleやAmazonを使っていて、企業はその利用データを回収して自らのビジネスに活かしているわけですもんね。それも超大量に…!
そうなんです。ちなみに先ほど「専門性の高い仕事がなくなる」という話をしましたが、今すでに「地図を作る」という仕事が機械に置き換わりつつあるのはご存知ですか?
全部AIで作れるようになったということですか?
ちょっと補足が必要なのですが、これまで一般的な地図を作るプロセスというのは「航空写真を撮る」人たちが上空から写真を撮り、実際に人が土地を歩いて測量して道の有無などを確かめ、さらにそれら2つのデータを元にCADなどを扱う人が製図するというフローでした。

このフローが、いま続々とAIに置き換わっています。航空写真から「ここに道があるだろう」と機械が勝手にイメージして地図にしてしまうんです。

えー!こうだろうという想像で地図を作っちゃうんですか。でもそれって、今まで人が足を使って調べていた情報と誤差もあるのでは…?
そう思いますよね。でもまさにその問題を解決しているのは、私たちなんです。
・・・・?
田中さんは、スマホから位置情報を発信するゲームやアプリなどを使ってたりしませんか? いま全世界の人たちが、自分たちのデバイスから位置情報を知らず知らずのうちに発信することによって、あたかも獣道ができていくように「ここには道がある」ということを機械が判断して、地図を形作っているんですよ。
おおお… めちゃめちゃ使ってますね。まさか自分の位置情報にそんな活用方法があったなんて… つまり将来的に位置情報から地図ができるようになるということを見越して、位置情報を発信するアプリや機能を搭載していたということですか?
そうとも言えますね。この地図を自動で作る技術もいつかは出来るだろうと思っていたのですが、実用化されるまでの時間は思った以上に早かったです。今やデータは、今世紀における石油、とも言われています。

そう考えると、実際に仕事を奪っているのは機械ではなく、データ提供に加担している私たちなんですよ。ここから先は「人間の楽しみたい」という気持ちをうまく利用して、データを吸い取る企業がもっと増えていくと思います。
自分たちが知らず知らずのうち企業にデータを提供することに加担していて、それが思わぬところに活用されていたとは…! 全然考えてなかったです…。

GAFAの圧倒的強さの中で、日本が勝てる分野はあるのか?

こうしている間にも、GAFAなどの力のある大企業が世界中から黙々とデータを集めていることを考えると、日本の企業がゼロからAI分野に参入するのはハードルも高く、またグローバルで戦うというイメージは正直ちょっと湧きにくいのですが… 実際のところはどうなんでしょうか?
そうですね。GAFAのような大企業は、もう何年も前から「どうすれば膨大なデータを一般の個人ユーザーから集められるのか?」ということを追求し、フリーで公開する代わりにデータを集めるというやり方も行っていましたから。これは同時期の日本では考えられなかったことで、それが今となっては大きな差を生んでいるとも言えます。

ただ、日本の企業にも可能性はあるんですよ。それはクラウドからの膨大なデータに頼らないもの、つまり「センサー」を使ったビジネスです。現在、センサーと呼ばれるものは世界中で年間500億個以上生産されていると言われ、その多くは車に搭載されていたりします。

センサーですか! 人感センサーとか温度センサーとか… 私たちの身近な生活の中で物理的に取り付けられていたりするものですよね。
この市場はまだ日本でもチャンスがあると思っています。現時点ではまだ「センサーといえばこの会社」という圧倒的なトッププレイヤーがそれほどいないんですよね。例えば、今目の前にあるコーヒーカップにしても、いずれは100個ぐらいのセンサーがつくと思うんですよ。そしてそのセンサーによって、「どこで・誰が・何を・どれくらい飲んだか」が全部収集される時代になると思います。その代わりコーヒーは無料です、とかね。

そういう意味では、現時点でまだこのコーヒーカップに一つもセンサーがついていないというのは大チャンスとも言えますよね。
なんだか、データと人間の欲望が天秤にかけられている感じ…!(笑)
まさにそのとおりだと思います。企業としては、人間が何をしたいか?という欲望に対してデータを収集する仕組みを持つ。その結果、今後あらゆるサービスに展開できるデータが取得できる。そういう時代をしっかり見据えて事業展開をしていく必要がありますね。

アステリア×AIで目指していくこと。基礎研究とミドルウェアの相性の良さとは?

ちなみに園田先生は、今年6月からアステリア社によるAI研究開発子会社 Asteria ART(アート)合同会社の代表に就任されたわけですが、Asteria ARTとしてのねらいや戦略について教えていただけますか?
まさに先ほどの話につながるのですが、これからセンサーが確実に必要となってくる時代の中で、アステリア社が自前で「Gravio」などのセンサーやプラットフォーム、そしてミドルウェアを提供しているという点はとても重要なことだと思っています。
なるほど。センサーやプラットフォームの重要性はよく分かったのですが、「ミドルウェア」である意味は、具体的にどういったところにあるのでしょうか?
企業がシステムの裏側などで使う「ミドルウェア」の上位にあるのが「アプリケーション」になるのですが、アプリケーションの場合はサービスをすべて自分たちで組み立ててユーザーに対峙しなければいけない。基本のシステムの開発だけではなくて「サービスをサポートする」「カスタマーエクスペリエンスを作る」という業務が、仕事の大半になるんですよ。

その一方で、「ミドルウェア」というのはパーツのようなものなので、お客さんがそれを利用してアプリケーションを作ることでサービスになります。

そうなると、一番重要になってくるのは、技術の「基礎研究」なんです。 例えば、人感センサーを使ってどういう処理をすれば一番価値のある情報になるのか?といったことです。基礎研究がダイレクトに反映されたミドルウェア製品を使ってゲームを作る人もいれば、ドライブレコーダーに使う人もいれば、苺を収穫するためだけのロボットに使う人もいるかもしれません。
なるほど〜〜!アプリケーションの場合は用途がはっきりしているけれど、その中で使われるミドルウェアの場合は、汎用性が高いということなんですね。だけど「基礎研究との相性の良さ」まで考えたことはありませんでした。
基礎研究というのは「画像を認識する」とか「音声を認識する」とか、名前のとおり基礎的なものが中心です。しかし技術を一歩先に進める上で重要な役割を持つものがとても多いんです。

最終的なアプリケーションは何になるかは分からなけれど、基礎研究で開発された技術をミドルウェアにダイレクトに入れることができれば、革新的なテクノロジーをアプリケーションに落とし込むまでのスピードもかなり早められます。基礎研究の結果を、比較的すぐにシステムに反映できるのは「ミドルウェア」だからこその強みなんですよ。
そういうことだったんですね。では最後に、今後の Asteria ART の取り組みについて、短期的なこと・長期的なこと、2つの視点で教えていただけますか?
はい。まず短期的には、Asteriaの各製品「Gravio」や「Platio」などに、知能を搭載させていくことですね。まずは画像認識や音声の検出など出来るところからスタートしていく予定ですが、この辺りに関しては近々プレスリリースなどで発表できるようなこともあると思います。

そして長期的な視点では、人類にとって大きな価値をもたらす技術を基礎研究として開発していくということ。将来的にはAsteria ART として何かをつくって論文発表なんかもしていきたいと思っていますし、世界レベルの学会で発表できる実績は作っていきたいと思っています。これには少し時間がかかると思いますが、様々な技術をミドルウェアに載せるプロセスの中で基礎研究を続け、人類にとっても新しい価値となる技術を提供できる組織にしていくのが目標です。

センサーとプラットフォームを持つアステリア社がAI事業を行う意味や、主力事業としてミドルウェアを開発している強みを常に意識しながらプロジェクトを進めていきたいですね。

園田先生のお話を聞いて、日本企業のAI分野における可能性、そしてアステリア社がAsteria ARTを立ち上げる意味というのもより深く理解できました。本日はありがとうございました!

編集後記

以上、いかがでしたか? 今世紀における石油、とも言われるデータをすでに大量に保有している ”GAFA” や “BATH” と呼ばれる海外の大企業たち。そんな企業が世の中を大きく動かす中で、日本企業が大きなインパクトを世界に与えるのは難しいのでは? と勝手な思い込みを抱いていた私ですが、実際に園田先生のお話を聞いて、「センサー」という分野に大きな可能性があるということに希望を感じました。

実はまだ「インターネットに繋がれていないもの」だらけの私たちの生活。これから急速に成長していくであろうこの分野のイノベーションには、今後も引き続き追いかけたいと思います。

なお、AI研究開発子会社「アステリアART(アート)」の設立についてのプレスリリースはこちらで公開しています。AIに特化した研究活溌活動を通じて、アステリアグループの中長期的な連結業績や新製品開発に貢献していくねらいですので、ぜひご期待ください。

最後まで読んでいただき、有難うございました!

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この記事を書いた人
田中 伶
田中 伶 アステリア株式会社 広報・IR室。メディアプランナー。 大学在学中に人材育成会社を立ち上げ、その後はスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げなどを経験。話題のビジネス書や経営学書の解説をするオンラインサロンを約5年間運営。難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。