2026年2月26日

【代表対談】AI時代の勝機はどこにあるのか? GPUクラウドの旗手・ハイレゾ代表志倉氏が広げる未来地図。GPUの供給で見えてきた次なる波の正体

AIブームに沸く国内のビジネスシーンにおいて、その心臓部ともいえる「GPU」の供給で一際存在感を放つのが、日本各地に四つの大規模なデータセンターを構える、株式会社ハイレゾです。学生起業から始まり、時代の転換点を鋭敏に読み解きながら、戦略的なピボットを繰り返してきたハイレゾの代表・志倉喜幸氏。その裏側から、GPUの需要動向で見えてきたAIトレンドの行き先まで、アステリア代表・平野洋一郎が迫ります。


AIブームに沸く国内のビジネスシーンにおいて、その心臓部ともいえる「GPU」の供給で一際存在感を放つ企業があります。石川県志賀町をはじめ、日本各地に四つの大規模なデータセンターを構える、株式会社ハイレゾです。

学生起業から始まり、時代の転換点を鋭敏に読み解きながら、戦略的なピボットを繰り返してきたハイレゾの代表・志倉喜幸氏。地方自治体との共創の裏側から、GPUの需要動向で見えてきたAIトレンドの行き先まで、アステリア代表・平野洋一郎が迫ります。

株式会社ハイレゾ 代表取締役|志倉喜幸(しくら・よしゆき)氏
2007年に同社を設立。生成AI時代の到来を見据え、国内初のGPUクラウドサービスの提供を開始。現在は「日本をアジアの計算資源の中心にする」という目標のもと、地方自治体と連携し廃校を活用したデータセンターを展開。電力コストの最適化と雇用創出を両立し、持続可能なAIインフラ構築と海外展開を推進している。

ガラケーの終焉とスマホへの賭け。 二人の経営者の予見が重なったビジネスの転換点

志倉さんは大学のお仲間と学生起業をされたんですよね。
はい。大学1年生の時に先輩から誘われ、創業メンバーとしてジョインしました。約1年で年商20億円くらいに成長したのはよいものの、忙し過ぎて学校に行けなくなってしまって。結果、大学2年の終わりには会社を辞めて学業に専念しました。ただ、ある程度単位を取ってしまうと、今度は時間を持て余すようになってしまったんですよね。

そこで、次は自分で起業しようと思い立ち、2004年に会社を設立しました。大学3年生のときです。
私もコンピューターを勉強しようと、地元熊本大学に進んだのですが、学校のコンピューターがあまりにも古く、このマシンで学ぶには時間がもったいないと感じました。ただ、学内のマイコンクラブ――当時は、パソコンのことをマイコンって言っていたんですが、ここに天才的なエンジニアが何名も所属していて、その活動がとんでもなく面白かったんですよ。当時はコンピュータープログラムの投稿雑誌があったので、そこにプログラムを発表して、そのプログラムを保存したカセットテープを出版社から販売していました。

これが相当な金額になったこともあって、クラブの先輩と二人で大学を辞め、ソフトウェア開発の仕事を始めたのが起業の第一歩です。

志倉さんの会社は、創業当初は、どんな事業をしていたんですか?
当時は、iモードに代表されるガラケーのシステム開発を主に手がけていました。途中で端末の主力がスマホに替わったので、そっちに力を入れようと思ったのですが、株主からは「スマホはリスクがあるから別の会社でやってくれ」と言われまして。それで、スマホのシステム開発をメインに行うハイレゾを立ち上げました。

しかしその後はご存じの通り、世間ではスマホが主流になり、ガラケーのシステム開発は厳しくなりましたね。
スマホはリスク! いま振り返ると笑ってしまいますが、まさに当時はそういう時代でしたよね。アステリアの場合は、2005年に上場を目指すと決めたのですが、当時の株式市場はまさにiモード銘柄がすごいことになっていました。けれども、副社長の北原と2人で「iモードに未来はない。この先はパソコンがポケットに入る時代がくる」と考えたので、Macがポケットに入る時代に向けた研究開発を進めました。

Windows PCじゃなくてMacなのは北原はスティーブジョブズ信者だったからです(笑)。その後、2007年にアメリカでiPhoneが発売され、翌年には日本にやってきました。

当社には、『Handbook』というスマホやタブレットなどモバイル用のコンテンツ管理システムがあるのですが、2009年にリリースした当時は、iPhoneはまだ単なるガジェットの扱いでしたからね。私たちが「iPhoneがビジネスに使われる時代が来る」と説明しても、「遊んでいないで、主力の『ASTERIA Warp』に注力してくれ」と言う大株主もいたほどです。

まさに同じです。あの当時はまさかiモードが廃れてしまうなんて思いもしませんでした。
志倉さんが、「これからはスマホの時代だ」と思えた背景には何があったんですか?
当時iモードでは、ファミコンやスーパーファミコンぐらいのスペックのものしか開発できなかったんです。でも、スマホが出た途端、制約がなくなったことに感動を覚えました。グラフィックの進化はもちろん、表現できるものの幅が増えたことに大きな魅力を感じたんです。当時は若かったこともあって、心の向かうまま、どんなものがつくれるのか探求したことが大きかったですね。

ソーシャルゲームバブルが弾けて見出した、インフラベンダーへの道

そうですよね! そのエンジニア魂、通じるところがあります。その後、ハイレゾはGPU事業へと舵を切っていくわけですが、ターニングポイントになったのはなんでしょうか?
一つは、ソーシャルゲームバブルが弾けたことです。最初は開発に1億円かけていたら十分だと言われていたこの市場が、2、3年後には20億円あっても足りないようなことになっていました。私たちはゲームの中のグラフィック開発を中心に手がけていたのですが、大規模開発に移行していたのもあり、利益率が下がる一方だったんですね。

他方で、グラフィックの進化にともない、扱うGPUはどんどん増えていました。それもあって、自社でGPUを動かそうと社内にサーバールームを設けたところ、同業社から「貸してほしい」と言われるようになり、徐々に「金を掘りに行くよりもGPUを売るほうがいいんじゃないか」と考え始めました。GPUを扱う事業者が他にいなかったこともチャレンジする決め手になりました。

ビジネスがグッと上昇したと感じられたのはいつですか?
事業転換したのは10年くらい前ですが、GPUの需要が急激に伸びたのはここ2、3年です。やはり岸田政権時にオープンAIのCEO サム・アルトマンが来日し、『ChatGPT』が注目されたことが大きかったですね。それまでGPUの利用は限定的で、ディープラーニングに使う人も、そんなに多くなかったんですよ。
志倉さんの読みに、時代が追いついてきたような。
いえいえ。でも、当時からディープラーニングをはじめ、技術的にすごいものがあることは理解していました。ただ、『ChatGPT』のように、分かりやすいものがなかったんですよね。

「すごいものが出てくるぞ」といった業界の期待はずっと感じていたのですが、それがいつ来るのか? 具体的な時期までは分からなかったので、そのブームがやってくるまでの間は大変でしたね。

「必要なのは、若者が就きたい職種」ー 志倉氏が唱える地方産業の質的転換

ハイレゾさんは、2019年、石川県志賀町(しかまち)にデータセンターを設立していますよね。これは何がきっかけになったのでしょうか。
そもそもGPUって、消費電力がものすごく大きいんですよね。この事業は電気料金の安いところで運営しないとコストが嵩んで大変なことになると気づき、いろいろと調べたところ、当時、電気料金が安価なエリアの一つが志賀町でした。管轄の北陸電力が製造業をメインターゲットにしていることや、電源立地地域指定(※1)のため、税制優遇や交付金といった制度を使えること、東京から北陸新幹線で通いやすいことがポイントでした。

電源立地地域指定(※1) 原子力発電所が立地する周辺地域のこと。該当する自治体には交付金や税制優遇などの特別措置が講じられる

石川県 志賀町のデータセンター

なるほど、そういった背景があるんですね。佐賀県玄海町(げんかいちょう)にもデータセンターがありますが、ここはどういった経緯でしょうか?
これは、石川県の電気料金の値上げが発端です。それによって今度は九州の電気料金が一番安くなり、玄海町が電源立地地域でしたので、進出を決めました。
地方にデータセンターを立てることで、現地に新たな雇用を生みだすような取り組みもされているのでしょうか?
そうですね。ただ、一般的な製造業が工場などで100人200人単位の人材を雇うのに対して、僕らは多くても10人程度です。町の方も「そんなものですか」という反応だった記憶があります(苦笑)。

でも、製造業の方の話を聞くと、100人以上の人材募集はあまりにも多く、地方だと集まらないことも多いんだそうです。ですが、実際、僕たちが求人を出したら、すぐに応募枠が埋まりました。それ以来、地方の行く先々で「若い人が率先して集まる職場があるということは、雇用する人数とは別の価値があるのではないか」と、アピールしています。自治体の方からも「新しい雇用よりも、その土地に新しい職種をつくる重要性を理解できました」と言っていただけました。

当社はまだ小規模ですが、これからの成長によっては雇用者を100人単位で生み出せる可能性を秘めています。故郷にUターンして、データセンターで働こうという人も出てくるかもしれません。そんなインパクトを日本の各地域に与えられる存在を目指したいと考えています。

その土地における「新しい職種」というのはつまり?
ずばり「IT」です。 『in.LIVE』の読者の方に、そんな感覚はないかもしれませんが、地方にはそもそもIT企業がないんですね。ITのスキルを持つ人が、毎日数時間をかけて都市に働きに行くケースもありますが、ITのスキルがあるのに活かせる場所がその土地にないということは、地方が持つ課題でもあります。
その話、とてもよく分かりますね。私の出身地である熊本の実家のある地域で、IT企業なんてありませんから。

アステリアは、新型コロナをきっかけに東京の一極集中を解消しようと、熊本と軽井沢にオフィスをつくりました。熊本のメンバーは現在8人です。うち4人が地元採用で、4人が熊本への移住組です。地方では下請け的な開発をする組織も少なくないですが、アステリアではブロックチェーン関連の開発や、次期製品の開発もしています。こうした高度なIT人材がやってきたとなると、地元の大学や高専が一目置いてくれるんですよ。すると、市や県の見る目が変わりました。
若い人にとっては、地元の就職先の選択肢が広がることは、とても良いことですよね。
本当にそう思います。地方に企業を誘致する担当者は、よく「地方なので人件費を抑えられますよ」とおっしゃいますが、当社は、熊本のメンバーにも東京と同水準の給与を支払っています。私は、人件費が抑えられることをアピールしていても、地方に新しい職種は生まれないと考えています。それよりも、移住組の社員が実感として言っている「何でも近くにある」「空が広い」「30分で温泉に行ける」など、その土地ならではの環境の良さや魅力をアピールすべきだと言っているんです。

東京のIT企業は採用の競争が激しいですが、熊本で東京と同じ収入を得られるとなれば、優秀な人材の選択肢になることができます。日本の人口はただでさえ減っていますから、地方自治体は雇用人数を指標にするのではなく、質で考えるほうが賢明だと考えています。

志賀町の工業団地に進出したときに管理組合の会長を任されたのですが、任期中のほとんどを「製造業の応募者数が少ない」という課題に向き合ってきました。結局、いくら受け皿があったとしても人が来なければ意味がない。要は、若い人の就きたい仕事がないんですよね。これは声高に指摘したいです。

その点、雇用者数はわずかながらも受け入れてくださった志賀町には、チャレンジングな決断をしていただいたと思いますし、長い目で事業の持続可能性を見ていただき、良い評価をしてもらえたのは本当にありがたいことだな、と感じています。

自治体との共創がもたらす、持続可能なデータセンターのカタチ

ところで、佐賀県の玄海町のデータセンターは廃校を活用したそうですが、どのような狙いがあったのでしょうか?

佐賀県 玄海町のデータセンター

第1号のデータセンターは倉庫を活用しいていたので、玄海町でも既存施設ありきで探していました。すると地元の方から廃校の再利用が課題になっていると伺い、それであれば、と。ちなみに、3月に開所する香川県綾川町(あやがわちょう)のデータセンターは、廃校の体育館を再利用した施設です。
そうなんですね。ちなみに、玄海町はハイレゾの “本店” 扱いになっていますよね。
はい。玄海町の関係者たちの「日本有数のGPUデータセンターを誘致したことを地域活性につなげたい」という想いに添いました。いまとなっては、とても喜んでくださっています。「玄海町」とインターネット検索すると、当社が上位に出てくるんです。すると、「データセンターのある町だよね」なんて言われることも増えたそうで。その土地のPRの面でも力になれていたら嬉しいですね。

アステリアも、もっと地方に貢献していきたいと考えさせられるエピソードですね。今後も全国各地にデータセンターを設置していくという構想はあるのでしょうか?
はい。志賀町はデータセンターの設立から8年以上が経ち、その間に高松市、玄海町と稼働しています。また2026年3月には綾川町も稼働予定です。地方の過疎地であっても、GPUのデータセンターが成り立つことを証明できたと思っているので、今後も需要家の声に耳を傾け、そのニーズを満たしながら各地に広げていきたいと思っています。

地方に設置するとコストパフォーマンスが良いので、お客さまにも安価に提供できます。加えて、既設の自治体からは増設の要望をいただいているので、そこにも並行して取り組んでいくことになります。

また今後の構想として、「脱炭素」はもはや経営戦略に絶対に盛り込んでおかなければならない重要なことの一つです。現在は、GPU開発を強化し、最先端を走ることが優先事項ですが、開発競争が落ち着いた先では、これまでの炭素エネルギーから再生可能エネルギーへと順次切り替えていくことが求められると考えています。そのときには、他社に先駆けて実行できるよう、いまのうちから準備を進めておきたいです。

目まぐるしく変わるAIのメインストリーム 「ソブリンAI」で加速する日本の技術革新

アステリアが2019年に設立した子会社は、ロボティクス向けのAI開発専業です。昨年、ロボットを動かすソフトで環境を聖地にシミュレーションするプロダクトを販売したのですが、AIが進化していく先では、当社のマネタイズモデルは書き換えられているんじゃないかと考えています。AIの進化にともない当社も企業も社会も、ますます大きく変わっていくだろうと――。

その点、AI開発の根幹ともいえるGPUを提供されている志倉さんは、私たちよりもさらに先を見通していらっしゃる気がするんですよね。来年再来年辺り、どんな波がやってくると考えていますか?

マクロで見たときの需要は変わらず伸びていますが、用途は目まぐるしく変わっていると感じています。『ChatGPT』は大きなムーブメントを巻き起こしましたが、その後、『DeepSeek』や『Gemini』が登場したことで、多くのプレイヤーが「AIを扱えるのは、巨大資本だけだ」という見方をして、自らは生成AIを利用したAPIの開発に流れ込みました。その結果、今度は追加学習の需要が生まれています。

ただ、いまはソブリンAI(※2)ですね。国のDX戦略、GX戦略を基に日本の大手企業が戦略を練りつつ、動き出しています。具体的には、ロボティクスをはじめ、フィジカルな分野でのAI活用が一足飛びで進化していくような、そんな気配と期待を感じます。さらには、推論のサービスも出てきています。僕らも事業計画書を都度書き換えながら、事業を進めているところです。

(※2) 国家や組織が自国のデータ、法制度、文化、価値観に基づいて、AI技術を独立して制御・運用する仕組み。ソブリン(Sovereign)とは、日本語で「主権」を意味する。

なるほど。アステリアも画面から飛び出したAI、リアルワールドでAIがどう役に立てるのか、研究開発しています。これまでのロボットは、工場や人が立ち入れない場所で活躍していましたが、パソコンがオフィスや店舗、学校に入ってきたのと同じように、普通の場所にロボットがいる世界はそう遠くないうちにやってきそうですからね。
ロボットの分野は、大手企業がこれまでとは桁違いの投資を考えているなと、ひしひしと感じます。製造業のロボット化は国内需要をかなり見込めそうですし、ソブリンAIとの相性が非常にいいんですよね。製造業の方は自社データが外に出ることを嫌がりますが、この部分がしっかり担保されたプロダクトが出てくれば、一気に進むと思います。
その根幹を支えていくのがハイレゾさんですね。
もちろん、力強く伴走していきたいと思っています。それにしても、ちょっと前までは『ChatGPT』だったのに、もうロボットですからね。顧客の需要も変わりつつあるので、引き続きニーズにしっかり対応しながら、日本の技術革新を後押ししていきたいです。
これからがますます楽しみですね。未来に向けて一緒に頑張っていきましょう。本日はありがとうございました。

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。