2017年6月13日

「日本人だけでは日本を救えない」中国発のユニコーン企業 Meituの日本法人・元代表、18歳で起業した木村アリサ祐美さんの挑戦

世界11億ユーザー以上を抱える美容アプリ「BeautyPlus」を開発する、中国発のユニコーン企業 Meitu。このサービスの日本法人代表を務めていた一人の女性をご存知でしょうか?その過去の経歴から今後の挑戦まで、インタビューで迫りました。


世界11億ユーザー以上を抱える美容アプリ「BeautyPlus」を開発する、中国発のユニコーン企業であるMeitu(美图、メイツ)。一日あたり数千万人ものアクティブユーザーを持つ驚異的なサービスですが、その日本法人代表を務めていた女性をご存知でしょうか?

それが、木村アリサ祐美さん
日本語・英語・中国語を操り、過去にはモデルとしての活動を行いながら、18歳の頃、中国で事業を立ち上げ。その後、日本の関西学院大学に進学し、企業のM&Aなどを行う会社に正社員として関わってきました。

そして大学卒業後、アドバイザリー会社Spinnaker Partnersのパートナーとなり、その後、世界的に有名なユニコーン企業「Meitu」の日本法人責任者に抜擢されたというキャリアの持ち主です。

これまでメディアに出ることは少なかった木村さんですが、「自分自身がリーダーとして女性のキャリアを引っ張っていける存在にならなくては」という強い使命感のもと、最近では少しずつこうしたインタビューや取材にも対応してくださるようになったとのこと。

そのとてもエネルギッシュな生き方と、逆境に挑戦し続ける強い姿勢を、少しでも知りたい!と、今回、in.LIVEでのインタビューに至りました。

木村アリサ祐美(きむら・ありさ・ゆみ)さん
ベンチャーキャピタル・アドバイザー

ITスタートアップ経営者
日本語、中国語、英語のトリリンガルで、日中米で教育を受け、アメリカと日本及び中国のテック業界にて活躍中。 大学入学前から、上海にて不動産コンサル、翻訳、会議通訳関係の業務に3年間携わり、関西学院大学の法律学部在籍中の頃からバイオテクノロジーおよびハードウェア業界におけるいくつかの国際的なM&A案件に参加。2013年関西学院大学法学部卒業し、スピネーカー・パートナーズ(SPI)のパートナーとなり、ベンチャーキャピタル事業を立ち上げて渡米。

2016年世界中11億人のユーザーを有するMeitu社(BeautyPlusの開発会社)の日本総責任者として就任し、2017年の5月辞任後、アメリカでLead Techという人工知能を使って価値観や、人生経験の分析結果によってメンターをピンポイントでマッチンぐするIT会社を立ち上げた。

18歳での起業、やりたい気持ちよりも「それしか道はなかった」

今日はどうぞ宜しくお願いいたします!
木村さんの経歴を見て、どんな方なんだろうとドキドキしていましたが… すごく笑顔が素敵で柔らかいお人柄!ちょっと安心しました(笑)。
そうですか、よく言われます(笑)。
こちらこそ、今日はどうぞ宜しくお願いします!
早速ですが、もともと大学に入る前の18歳で起業って珍しいですよね。
しかも場所は中国!具体的にどんなキッカケがあったんでしょうか?
もともと中国でモデルとして活動していたんですが、そんな中で日本人や日系モデルのニーズが沢山あることに気付きました。
だけど、言語の壁やビジネスのやり方の壁などがあったりするので、自分が仲介に回ろうと思い、周りの人たちを巻き込んで日本人モデルの仲介業を始めました。

その後、モデルだけではなく、不動産や通訳翻訳事業など、その時々でニーズのあるサービスの仲介を行っていたのが最初ですね。
なるほど。自身でモデルをやられながら、そうしたニーズに気付いたんですね。
でも、なかなか普通は「自分でビジネスをやろう!」という発想にはならないと思うのですが、もともと自分でビジネスをしたいという強い想いなどがあったのでしょうか?
いえ、私の場合はそうではなくて、18歳のときに家族の事情により家を出たこともあって、自分で学費を貯めて大学へ行くためには、そうするしかなかったんです。

自分の学費だけではなく、失業したお母さんを養っていく必要もあったので、金銭的な理由からも、会社で雇われて働くという発想はありませんでした。正直、他に選択肢が無かったんです。


その後、中国でのビジネスが回りだして、いよいよ大学へ進学できる目処が立ち、家族への送金もできるようになりました。 そこで日本に戻り、約3ヶ月間の猛勉強を経て関西学院大学に合格しました。
そして当時の中国での事業をやめて、関西学院大学に進学したんです。
3ヶ月間の猛勉強で大学へ合格!そのパワーも凄まじいですね…
独学で勉強されていたのですか?
そうですね。お馴染みの出口汪先生の参考書を片手に猛勉強しました。通常は一週間に一冊のペースなんですが、毎日一冊ずつやっていましたよ(笑)。
逆境の中でチャレンジされるパワーはその頃からお持ちだったのですね。
当時、中国で展開されていた事業は辞められたとのことですが、日本の大学に進学されてからの生活はどのようなものだったんでしょうか?
やっぱりビジネスは大好きだったので、大学でイノベーションの勉強をしながら、授業のプログラムの一環も含めて、新規事業の立ち上げ、企業の事業展開支援などを行っていました。
ただ大阪では出来ることに限界を感じて、東京で同じような仕事を探していましたね。

そんなときに企業のM&Aなどを手がける会社で Spinnaker PartnersのCEOと出会いました。私が別の人材紹介会社に転職したあとも連絡取り合いつつ、私が大学を卒業した途端に、一緒にSpinnaker Partnersのベンチャーキャピタルアドバイサリー事業を立ち上げました。

M&Aの会社や、人材紹介会社に勤めていた時は大阪に住んでいたので、大学2年生の後半ぐらいからは出張ベースで東京へ来て仕事をしていましたね。毎回夜行バスで移動しながら、結構ハードな生活を送っていましたよ(笑)。


大学3年生以降は、完全にフルコミットで、ほとんど東京にいました。友達のノートを借りながら、月に2回だけ学校へ行くスタイルになって… 。
学業との両立は大変でしたが、当時はキャリアのステップアップに夢中になってやっていました。

「経験がないからできない」とは絶対に言わない、
Meitu日本支社代表としての責任

その後、Meituにジョインされたのは卒業後3年目ですよね。
その当時すでにビジネスの経験も豊富だったかと思いますが、この就職はどういった点が決め手だったんでしょうか?
ずっと、将来の目標の一つに「自身のサービスを立ち上げたい」という想いがあったので、世界的にも影響力のあるサービスに関われるのは貴重な環境だなと感じていました。

2016年2月にSpinnaker Partnersから長期休暇を頂いて、魅力的な仕事のオファーを沢山いただいたのですが、やっぱりユニコーン企業の中で貴重な経験がしたいと想い、アメリカにてMeituの事業開拓シニアマネージャーオファーを受け、3ヶ月後に日本の市場を任されました。

※ユニコーン企業:企業としての評価額が10億ドル(約1250億円)以上で、非上場のベンチャー企業を指す。
Meituが運営する「BeautyPlus」というアプリは世界的にも有名なサービスですから、日本への進出は、戦略的にもかなり重要なプロジェクトだったのではないでしょうか。
日本支社の代表に就任されてからは、具体的にどのような業務をされていましたか?
ほとんど何でもやっていますね(笑)。
日本での法人設立から、戦略立案、立ち上げメンバーの採用、デジタルマーケティング、ブランディング、データ分析、ビジネス開発、セールス、広報・PR、法務関連に至るところまで。
これまでにやったことないこともあったので最初は戸惑いましたが、いつも「そもそも誰でも最初はできなかったんだから」と、自分自身に言い聞かせながらチャレンジしてきました。


未だに社員から「それは経験がないのでできません」と言われると「そんなの当たり前!だから一緒に頑張ろう」と励ましていますよ。
”経験がないからできない” という発想は、日本人に多くみられますが、そのような考え方では成長は生まれないと思っていますから。
木村さんのお話を聞いていると、逆境に立ち向かう強い力を感じずにはいられません! 木村さんがmeituにジョインされてから、日本でのユーザーもかなり増えたのではないでしょうか?
そうですね。
予算が少ないながら、一年で増やしたオーガニックユーザー数は、2012年〜2015年まで累計した日本のユーザー数の約4割を占めました。またMAU(マンスリーアクティブユーザー)も約1.6倍という実績がありました。

海外ではアンジェラベイビーさんなどを使ったプロモーションを行ったりしていましたが、日本では「ものまねメイク」で有名なざわちんさんとコラボすることができました。
日本法人の立ち上げという点でも、サービスを数字で伸ばしていくという点でも大活躍ですね。「BeautyPlus」はこれまでの写真の画像加工アプリとは違って、リアルタイムで動いている動画にも 自動的に加工ができるという特徴を聞きました。


そうですね。ただ日本での展開をしていく上で、最も大きな壁としてあったのが「BeatutyPlus」という加工アプリを使っているということを人に知られたくない!という日本人特有の感情でした。
こうしたところは難しいポイントなので、チームの皆で日本版の「BeautyPlus」を日本人にフィットするアプリにするために様々な工夫をしています。

Meituの次の挑戦は、女性の社会進出における課題解決

目標だったユニコーン企業での仕事を経て、次の目標などはもうお持ちなのでしょうか?
実は今年の4月末に、私もMeituから離れて新しい事業を始めることを決めています。
今度はまた自分で新しいサービスをアメリカで立ち上げる予定で、現在は投資家からアドバイスをもらったり、アメリカにいるチームメンバーはサービスの開発を進めているところです。
ものすごいスピード感ですね!
ちなみに今後は、具体的にどのようなサービスを開始されるのでしょうか?
今度立ち上げる予定のサービスは、人工知能の技術を用いて、似たような経験や同じ価値観を持つ人同士をマッチングし、自身のメンターを見つけられるプラットフォームサービスです。 女性のキャリアをサポートするために立ち上げています。

日本語で表現するのが難しいのですが、OB/OG訪問に近いかもしれません。女性が自身のキャリアアップや挑戦したいビジネスの突破口を見つける上で必要なメンターに、適切にマッチングができるサービスです。

去年の10月頃に構想が生まれ、色々な人に相談をし始めました。現在はすでにアメリカで著名な起業家、投資家たちにもアドバイザーとして関わってもらっています。


やはり「女性の社会進出」というのは、木村さんが人生を通して解決したいと考える課題なのでしょうか?女性はメンターが見つけづらいとも言いますし…

女性がメンターに出会えないのは、そもそものプールが少ないというのがありますよね。ですので、自分と似たような経験や業界で働いている人、同じような価値観を持っている人と知り合えることで、職場で出くわした問題や、キャリアについての悩みをより容易く解決し、転職やビジネス展開にも役立てられると思います。

ただ、私が目指しているのは「女性のためのサービス」ではあるものの「女性ユーザー限定のサービス」ではないんです。はっきり言って、女性がキャリアアップできない原因は男性にあることが多いので、男性のマネジメント層に働く女性のことを理解してもらうためのサービスとも言えるかもしれません。

「日本人だけでは日本を立て直せない!」
もっと世界を舞台に活躍すべき理由

なるほど。確かに女性リーダーと一緒に仕事をする立場である、男性のマネジメント層が変わらなければ抜本的な変化は生まれないですよね。

ちなみに、アメリカでのサービス展開後、また日本でサービスを開始される予定はありますか?
そうですね、日本人の投資家からも支援を受ける予定です。
ただ、どちらかというと今の日本人、特に女性についてはもっと世界という舞台に進出してほしいという想いの方が強いです。リスクを取らなければ前には進めませんし、いつまでも日本というぬるま湯な環境に甘えていてはいけないという危機感があります。

クールジャパンなどの施策で、日本のアニメや漫画などのカルチャーが世界で評価されることはありますが、未だに日本が「人」や「ビジネスパーソン」という視点で、世界に強さを発信できているとは思えません。それを変えていかなければいけないという使命感がありますね。
ビジネスパーソンとしての「人の強さ」で世界と対等に戦える日本…

確かにグローバルを舞台とした個人の活躍は、まだ遠い世界のもののように感じてしまいます。

木村さんご自身は、そうした危機感はどうやって生まれてきたと思われますか?
よく聞かれると思うのですが、何が強いモチベーションになっているのでしょうか?

危機感が生まれたのは、日本の社会問題に非常に興味があるからかもしれません。
言い方に語弊があるかもしれませんが、例えば、日本の社会問題である女性の貧困問題などが表面上に出てこないのは、未だに「売春」がセーフティネットになっているから。そうしたことにも違和感を抱いています。

国の施策や日本全体での投資額などを見ても、もっとリスクを取らなければ、日本という国として未来がないのでは?と思うこともあるんです。


日本人だけで日本を立て直すことはできない、もっと世界を巻き込まなければ、と。その一端に自分がなれたらと思っています。「リードする人がいなければ動かない」のであれば「自分がリードできる人間になろう」という使命感に突き動かされています。

中国、アメリカ、日本と様々な国でのビジネスシーンを「女性」という立場で見てきた自分だからこそ伝えられることがある。せっかく日本語・英語・中国語も話せるので、そうした世界の経済の架け橋になっていきたい。それを自分でやるしかない。そんな強い使命感が、今の自分のモチベーションでもありますね。

木村アリサ祐美さんインタビュー まとめ

自分がこういうことをやりたい!という気持ち以上に、このままではいけないという危機感を持ち、強い使命感をもとに挑戦を続けられる木村アリサ祐美さん。

その後、木村さんはMeituの日本法人代表を正式に退任され、現在は自身の会社である「Lead」を設立。先日アメリカで開催されたハッカソンでも優勝されたり、コスモポリタン紙でも取材が取り上げられるなど、グローバルに活躍されています。


自身の目標にたどり着くため、また目的を果たすためにあらゆるステップを果敢に踏まれている姿を見て、目が覚めるような想いでした。そして同時に、こんな強い芯をもつ女性リーダーが誕生していることを非常に心強くも感じました。

その眼差しの先に、一体どんな景色が見えているのか?
Meituの今後の展開はもちろんのこと、木村さん自身の新しいチャレンジからも目が離せません。最後まで読んでいただき、有難うございました!



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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。