2020年8月12日

目指すは貿易のDX化! アナログな貿易業界をブロックチェーンで変える、STANDAGEの挑戦

貿易プラットフォームサービス「DIGITRAD」を運営する STANDAGEの大森様にお話を伺いました。売り手と買い手のアナログなやり取りが主流だった貿易業界に、ブロックチェーンという新技術でデジタル化の変革を起こすSTANDAGE。ブロックチェーンの使い所や、具体的な事業スキーム、目指す未来について伺います。


こんにちは! アステリアのブロックチェーンエバンジェリストの奥です。 話題のブロックチェーン技術をビジネスに適用するさまざまな企業にお話を伺うべく、貿易プラットフォーム「DIGITRAD(デジトラッド)」を開発・運営する、株式会社STANDAGE(スタンデージ)の創業者・大森健太さんを訪ねました。

売り手と買い手のアナログなやり取りが主流だった貿易業界に、ブロックチェーンという新技術でデジタル化の変革を起こすSTANDAGE。自社サービス DIGITRADの具体的な事業スキームや、目指す未来についても伺っています。

株式会社STANDAGE取締役副社長/COO大森健太

株式会社STANDAGE 取締役副社長/COO
大森健太(おおもり・けんた)さん

2012年に東京大学大学院化学生命工学専攻を修了。大学時代の研究内容は、がん細胞の早期検出のための診断薬の素材開発。 旅行好きのため、仕事では海外への出張頻度を重視し、総合商社の伊藤忠商事株式会社へ入社し、主に医薬品やヘルスケア製品の貿易、海外企業へのM&Aに従事。

趣味でAmazonやEbayで転売ビジネスを行っていた事もあり、BtoBの貿易におけるデジタルシフトの遅さを痛感すると共に、本分野のDXの可能性を強く確信し、2017年に当時伊藤忠の先輩だった足立彰紀氏(現STANDAGE CEO)と共に株式会社STANDAGEを共同創業。 現在はSales/MarketingのTOPとして、ユーザー並びに協業パートナーの開拓、事業化を日々推し進めている。

目指すのは貿易のDX化。製品登録からマッチング、決済、輸送 までを支援

まずは、STANDAGEさんが提供されている貿易プラットフォーム DIGITRAD(デジトラッド) について教えていただけますか?
はい。DIGITRADは「Traditional な Trade を Digital に」という想いを込めて名付けたサービスで、主に日本の中小企業の貿易ビジネスをサポートするプラットフォームです。現在はアフリカのナイジェリアを主な市場としているのですが、ナイジェリアに向けて商品を売りたい日本企業の方がDIGITRAD上に商品登録をすると、現地のバイヤーとマッチングされます。

マッチング後に取り交わす契約書や、決済のやり取り、さらに商品の輸送などの一連の貿易に関わるタスクがプラットフォーム上で完結できるというものなんです。
創業時から ”貿易のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化” を謳っているそうですが、そもそも貿易業界においてデジタル化ってどれぐらい進んでいるものなんでしょうか?
正直、全然進んでいないですね。完全にアナログな世界で、契約書の作成や決済、物流なんかも、基本はすべてFAXや電話、良くてもeメールという世界なんですよ…。
進んでいたとしてもメールですか! そこまでアナログでも成立してしまっているのは、商社の存在があるからなんですかね?
まさにそうですね。貿易の煩雑な処理や通関業務などを含めた業務をまるっと代行するのが商社の役割です。ただ、今はAmazonなどを通じて、誰でも簡単に海外向けに商品を販売できる時代ですよね。

僕は商社出身ですが、最新のテクノロジーを利用して、もっと手軽に日本の製品を海外向けに販売できるようになれば世の中が変わるかもしれないという想いはずっと描いていました。
確かに、最新技術を使って解決できることはたくさんありそうです。一件一件漏れがないようにFAXや電話でやり取りするって、現場の人たちは疲弊しているんじゃないですか?
そうなんですよ(笑)。新卒時代は「一ヶ月で何件の契約が処理できるか?」というところを競い合っていましたから。でもその経験があったからこそ、貿易のDX化にも可能性を感じましたね。特に課題を感じていたのは、貿易における「決済」です。海外送金の遅さと高い手数料は、大手の商社ですらどうにもできない問題でした。

例えば、日本からフィリピンに送金すると中継の銀行をいくつも挟むのですが、「こちらの銀行はもう送金したと言ってるが、あちらの銀行にはまだ届いていない」みたいなことが多発して、いつ届くかも分からない上に、手数料も余分にかかるという問題がありました。

株式会社STANDAGE 取締役副社長/COO大森さんが話している様子

中継銀行を挟むたびに手数料がかかる上に、やり取りが透明化されていないんですね。
そうなんです。L/C(信用状)取引やインボイス、輸出申告書、荷為替手形など、貿易特有の煩雑な作業や書類があまりに多く、とにかく非効率だなと感じていました。全部手書きで、一文字でも間違えればすべてやり直しということもあります。

あとは、僕自身も個人で貿易取引をしようとしたときに、4,5ヶ月かけて交渉した相手に日本の商品を送ったけれど、お金は振り込まれず… と泣き寝入りした経験もあります。大手企業であれば、間に銀行が入って保証するようなこともありますが、中小企業の貿易においては8割以上が信用取引なので、そうした持ち逃げが発生することも普通にあるんですよ。
お金を払ったのに商品が届かない、物を送ったのにお金が振り込まれないという問題があったのですね。そうした課題に直面する中で、ブロックチェーン技術に白羽の矢が立ったのでしょうか?
そうですね。ただ、創業時はまだブロックチェーンでどうにかしようとか、具体的には考えていませんでした。貿易の決済まわりをサポートするサービスを検討するうち、創業したばかりの自分たちが「決済」を扱うにはまだなかなか信用はないけれど、ブロックチェーンという世界で認められつつある技術を使えば、国内外問わず、信頼を持ってサービスを利用してもらえるのでは? と考えたのがきっかけです。2017年頃のことでした。
2017年ですか! ブロックチェーンって、まだその頃はどの企業もビジネスに活用という段階まではいっていなかったですよね。実用化するにはなかなかハードルが高そうですが…
そうですね。でもどの企業も検証段階だったからこそ、大手企業との実証実験にも柔軟にトライしていけるのではないかと考えていました。また日本と違ってナイジェリアでは、暗号通貨の取引高が世界トップ10に入っています。価値がゆらぎやすい自国の通貨以上に信頼されていたりとテクノロジーの信用度は高いんですよ。

2017年末から開発しはじめて、正規版のプラットフォームサービスをリリースしたのは2019年末です。約2年間のうちにかなり仕様も変わりましたが、現在は貿易における「決済」のみならず、製品登録・バイヤーとのマッチング・契約・決済・輸送 まで、一連の貿易業務が DIGITRAD 上で完結できるようになっています。

貿易プラットフォームにおける、ブロックチェーンの使い所は?

株式会社STANDAGE 取締役副社長/COO大森さんとアステリア株式会社ブロックチェーンエバンジェリストの奥が話している様子

現在は決済においてブロックチェーンが使われているとのことですが、実際の利用者はどのようなフローでブロックチェーンに触れることになるのでしょうか?
交渉と契約がまとまったあとの取引の際に、いわゆる エスクロー(※)の裏の技術として、ブロックチェーンが使われています。僕らがブロックチェーン上に金庫を作り、売り手と買い手、そして STANDAGE の3社間で鍵を共有しています。売り手の「お金が金庫に支払われた」、買い手の「商品を受け取った」という2社の承認があって初めて金庫が開いてお金を受け取れる仕組みです(※)。



※エスクロー:ものとお金の交換を正しく行うために、売り手と買い手の間にはいる第三者取引のこと ※マルチシグの2/3の署名が必要

貿易当事者の買い手には、事前にデポジットとして DIGITRAD上で発行されるブロックチェーンベースの金庫へ商品代金を送金してもらうため、売り手が商品を送ったのにお金が支払われない、ということがないよう担保しています。1社だけではお金を引き出せないという理論的な仕組みですが、金融庁にも正式に確認を取り、半年ぐらいかけて実現しました。
なるほど。でも、ブロックチェーンという言葉やブロックチェーン技術を活用したエスクロー、アナログな商慣習が当たり前の貿易業界にいらっしゃる方からすると「それ何?」「本当に信用できるの?」というような疑問が出てきてしまいそうな気もするのですが…
その問題は、正直あります。担当者の方が仮に改ざんできないブロックチェーンの仕組みなどを理解できたとしても、それを社内の他の方に説明したりとなるとハードルも高いです。DIGITRADは、東京海上日動さんと損害保険ジャパンさんのサイバー保険に今年秋頃から加入する事が決まっているので、仮に何かトラブルがあっても保険が効きます、と説明することが多いですね。

一番の目的は「ユーザーの皆さんに安心して使ってもらう」ことです。現時点では、ブロックチェーンの原理を説明して理解してもらうことよりも、その方が分かりやすくユーザーフレンドリーなのかなと思っています。
確かにそれは納得感があります。
ブロックチェーン業界の人たちからすると、ブロックチェーン技術を使ってエスクローを実現してユーザーに使われているって、特に日本においては非常に革新的で評価されるようなことだと思うんですけどね。ただ一方で、そういったシステムの内容を説明しても、逆にユーザーを混乱させてしまうことになるのも想像がつきます(笑)。

ちなみに、ユーザーである企業さんが金庫にデポジットしている通貨ってなんなんでしょうか?

アステリア株式会社ブロックチェーンエバンジェリストの奥

DIGITRAD のブロックチェーンにイーサリアム(※)を使っているので、イーサリアム内で流通している暗号通貨であれば、どの通貨でも良いということになっています。ただ、企業間の取引で使ってもらうので、今一番使ってもらっているのは「USドルコイン(=USDC)」ですね。

※ Ethereum(イーサリアム):ヴィタリック・ブテリン氏によって考案されたブロックチェーンの名称。スマートコントラクトというブロックチェーン内にプログラムを組めることが特徴。ビットコインに次ぐ時価総額第2位のイーサ(英: Ether、単位: ETH )という暗号資産がイーサリアム内で流通している。


ビットコインとかだと価格も上下するので、やはり比較的価格の変動が少ない「ステーブルコイン」を使うのですね。USDCを推奨する理由は他にあるのでしょうか?
ステーブルコインであるUSDCは法定通貨であるUSドルと「 1:1 」の価値であることがきちんと裏付けられている透明性の高さが一番の理由ですね。国際取引だとドルを使うのは定番ですし、現時点では、ユーザーの企業の皆さんにとって一番抵抗なく使ってもらえる暗号通貨かなと考えています。僕らはあくまで金庫の部分を運用しているので、どこの暗号通貨を使ってもらっても構わないんですが。
USDCって、今は誰でも気軽に買えるものなんでしょうか?
今は自国の暗号通貨取引所で口座を登録してもらって、現地通貨でUSDCを購入してもらっています。もっと便利にUSDCを購入できる仕組みを実用化する準備もしていますよ。まだ詳しくは言えないんですが… 楽しみにしていてください。
自分で取引所で口座を作って暗号資産を購入するって、最初はなかなかハードルも高そうですよね。
そうですね。なので、ユーザーフレンドリーのサービスを作る上でも、暗号通貨の売買や交換などの取引については、僕達がしっかりサポートしています。そして現在、大手暗号通貨取引所と協議しており、彼らとの連携を通じて、ユーザーさんは暗号通貨に触らず、指定した銀行口座へ日本円で着金を受ける事も出来るようになります。

今は貿易取引においても日本円で受け取るのが当たり前というイメージですが、今後時代が変わっていけば、暗号通貨で受け取って、またそれで仕入れをして… というような時代がくると思っていますよ。

目指すのはアフリカの帝国データバンク!? STANDAGEが考える、ブロックチェーンを使うよりも大事なこと

お話を聞いていると、ブロックチェーンという最新技術をあえて隠しているというか、もっと現場の方目線でサービスを展開されていることを感じます。
そうでしょう(笑)。僕らがお客様に DIGITRAD を説明するときはブロックチェーンという言葉も出さないですよ。あくまで「速く、安全に、比較的安く、決済も物流の手配も一元管理できる」サービスだと説明しています。
極端な話、ユーザー企業の方たちからすると、ブロックチェーンでなくてもいいんですよね。テック企業にいるとどうしても技術先行になってしまいがちですが…
そうなんです。僕たちがブロックチェーンを使っているかどうかというのは二の次で、重要なのは、サービスとして便利で使いやすいか? 自分たちが目指している海外貿易を確実に実現できるか? ということなんです。

まずは利用しやすいサービスをきちんと確立することでユーザーのトランザクションが増えていけば、これからもっとブロックチェーンの特性を活かすシーンが増えていくと思っています。可能性を探るのはこれからかな、と。

DIGITRAD を通じて実現したい未来の姿ってどんなものでしょうか?
そうですね。一言でいうと、DIGITRADが、アフリカの帝国データバンクみたいなものになっていけば面白いかなと思います。これまでの取引履歴が改ざんできないというのが一番のポイントなので、そうした情報をもとに企業を評価して、例えばこの企業は5段階評価でこれぐらい、とスコアリングするとか、評価が高い企業は良い条件で融資のサポートが受けられる、とか。保険や銀行などもそのスコアを参考に取引ができるようになれば面白いですね。
株式会社STANDAGE取締役副社長/COO大森さんが話している様子
なるほど、それは面白いですね! まだまだ日本企業にとっては未開拓のアフリカだからこそ、これからの可能性が溢れているように感じます。
そのための第一歩として、できるだけ多くの取引をDIGITRADを通じて作っていきたいですね。日本の中古車や日本製の楽器やエアコン、ウィッグなんかも現地ではとても人気です。こうした良い商品を持つ日本企業が、速く、安全に、アフリカとの貿易を確立できる環境を僕らがしっかりと整えていければと思います。

STANDAGEナイジェリアスタッフ、ナイジェリアオフィス前にて

取材後記

以上、今回は貿易プラットフォームサービス「DIGITRAD」を運営する STANDAGEの大森様にお話を伺いました。今回インタビューをさせていただいた私自身、初めてDIGITRADというサービスの内容を聞いたとき、理想的なブロックチェーンの使い方をされているなと感銘を受けたことをよく覚えています。

貿易プラットフォームは人と人とのやりとりのためトラブルが絶えませんが、STANDAGE社が中央集権的にトラブルに対処するのではなく、ブロックチェーンという分散型技術を活用したり、保険会社に加入したり、或いは大手物流企業とシステム連携したり… と、貿易でよく起こるトラブルを未然に防ぐためにも、貿易関連のソリューションを提供している企業が参画しやすい工夫がされているとのこと。なるべく多くの企業を巻き込んで、まさにブロックチェーンが目指す「自律分散型」を実現しているのだなと感じました。

STANDAGE社の実現しているユースケースは、さまざまな業種業態に応用ができるはず。こうした事例を今後もぜひご紹介していければと思います。最後まで読んでいただき有難うございました!

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この記事を書いた人
奥 達男
奥 達男 アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト、コンサルタント。ブロックチェーン技術の啓蒙及び技術適用された事業モデルの創生・推進、コンサルティング、提案、POC、技術の講義、サービス構築や他社主催セミナーへの登壇などを担う。一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)にて、トークンエコノミー部会 部会長、ブロックチェーンエバンジェリストを務める。