2023年4月3日

日本円ステーブルコインJPYC生みの親が目指す地方創生「青ヶ島DAO化計画」とは?【後編】

有人島としては伊豆諸島最南端の島・東京都の青ヶ島を「DAO化」!? そんなユニークな地方創生の取り組みについて、プロジェクト発起人であるJPYC代表の岡部氏に突撃インタビュー。<後編>では、青ヶ島がDAO化するまでのロードマップや、本プロジェクトを通して実現したい未来について迫ります。


前払式支払手段型日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行する、JPYC株式会社 代表取締役の岡部典孝氏が、有人島としては伊豆諸島最南端である東京都の「青ヶ島(あおがしま)」に移住したといいます。伊豆諸島に属する火山島である青ヶ島は、人口減少が続いており、現在日本一人口の少ない村だそう。そんな青ヶ島で、JPYCの生みの親である岡部氏が試みるのが、地方創生の一環として DAO(分散型自律組織)を使った島おこし。

業界の人からは「DAOヶ島プロジェクト」とも呼ばれている青ヶ島のDAO化計画の全貌や取り組みのねらいについて、岡部さんご本人に直接伺いました。インタビュー後編では、青ヶ島がDAO化するまでのロードマップや、本プロジェクトを通して実現したい未来について迫ります。

<インタビュー前編はこちら>

JPYC株式会社 代表取締役岡部典孝

JPYC株式会社 代表取締役|岡部 典孝(おかべ・のりたか)氏

2001年、一橋大学在学中に有限会社(現株式会社)リアルアンリアルを創業し、代表取締役、取締役CTO等を務める。2017年、リアルワールドゲームス株式会社を共同創業。取締役CTO/CFOを経て、取締役ARUK(暗号資産)担当。2019年JPYC株式会社を創業し、代表取締役を務める。

聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男

青ヶ島がDAO化するまでのロードマップは?

インタビュー前編から「青ヶ島のDAO化のプロジェクト」について色々と聞いていましたが、今後どのようなロードマップを考えていらっしゃいますか。
岡部典孝
まずは、ふるさと納税の返礼品NFTをやっていきたいと思っています。2023年内に実現できればいいなと。現在「DAOヶ島」のDiscordには1000人以上のメンバーがいるのですが、そのうちのどれぐらいの人がふるさと納税でNFTを手にしてくれるのか、まずはここを可視化したいですね。

ふるさと納税で村に予算が集まれば、次はこの予算を使って何をするか? という話になってきます。村には、目的別に、ふるさと納税の寄付メニューを作っていただくようなことがあり得ると思います。焼酎や塩だけではなく、漁業コースとか農作物コースとか… いくつかのコースがあれば、どこを応援したい人が多いのか?ということも、ある程度可視化できますよね。

島の外の人たちからすると「旅行者が泊まりやすい宿泊施設をもっと作ってほしい」といったような、おそらく島の住民とは違ったニーズもあるなと思ったり…。そういう人たちの意見も反映されるような地方自治になれぱいいなと思っています。
なるほど、たしかにこれまでとは違ったアイデアが、島の外にいる人たちを巻き込みながら生まれそうですね。
岡部典孝
はい。さらに先の話では、「DAO法人」についても自民党Web3 PT内で審議されています。仮にDAO法人ができると、先ほどのふるさと納税の受け皿として、DAO法人が機能すると考えています

例えば村の農業コースに寄付した人がいたら、そのお金は基本的にDAO法人に入っていきます。さらに内部で、農業といってもいろいろな作物がありますから、何を作るかも含めてDAO的に決めることができれば、地方自治のかたちはどんどん変わるような気がするんですよ。予算の入り方も、その分配の仕方も変わっていきますから。

現在の島民は167人ですが、実際は島の外にも青ヶ島出身の方や、青ヶ島とゆかりのある方は沢山いらっしゃると思います。そういう方々の意見もDAOとして取り入れながら自治ができれば、大きな変化がありそうです。
少し話はそれるのですが、そもそもDAOという仕組みをどの分野に使うか? というのはいろいろと選択肢があると思います。それを今回、地方創生に活用してみようと決めたのは、岡部さんがもともと地方創生などに興味があったからなのでしょうか。
岡部典孝
よくDAOは、株式会社と対比されますよね。
株式会社は非常に効率の良い仕組みで、上場すると資本市場から資金調達できたりするんですけど、地方自治や地方創生の分野は、そこと相性が悪いので、途端にNPO法人とか一部公益法人とか、資金調達しにくい仕組みになってくるんですよね。

株式会社は、儲かるからという資本の論理で資金調達できるんですけど、村を良くしたいみたいなことではなかなか資金調達できませんでした。

そこでNFTや地方地域通貨みたいなものをうまく組み合わせたDAOを導入することで、先にそれを売るなどしてお金が入ってくるという流れができるんですね。あるいは寄付を先に集めて、それに対してあとから返礼品を送るという流れができるので、非常にスピードアップするだろうというのは、もともと考えていたことです。
確かにそうですね。とはいえ、理論的にはそうなんだけど、それを地方自治体がやり始めるには時間がかかるんじゃないかという推測もあります。
岡部典孝
それがですね、青ヶ島の島民(=村民)の平均年齢は40歳。全国の自治体より圧倒的に若い自治体でして、高齢化とは無縁なんですね。島の中に病院がないので、ご高齢になると島を出ていく方が多いんです。それで若返っていく、と。

そして実際に島に行ってみて分かったことは、青ヶ島は、たった1人の意見が自治に反映されやすい場所なんですよ。青ヶ島は全体で167人、そこに村長さんと議会に6人議員さんがいるので、規模でいえば生徒会ぐらいの人数なんです。だからこそ、議員さんは考え方が違っても、話をしっかり聞いてくれるような背景があります。
確かにそれだけの規模感だと、一人ひとりの意見が大事というのがよくわかります。
岡部典孝
若い住民の方々の意見で「いいね!」となったら、割とスムーズに話が進むので、方向性が決まるのは意外と早いかもしれないと期待しています。結果的に良い事例が生み出せれば、他の自治体もすぐに真似するので、日本では意外と早く広まるかなと思っていますね。

青ヶ島がスタートアップにとっての実証実験の場になる未来

お話を聞いていると、このプロジェクトは岡部さんのライフワーク的なものに感じたのですけど、これはJPYCの事業とは関係ないところで進められているのでしょうか。
岡部典孝
そうですね。discordで盛り上がっている「DAOヶ島プロジェクト」はJPYCとは直接的には関係ないです(笑)。ただ、JPYCの社長である私が住んでいるのが、たまたま青ヶ島という人口約160人の自治体である、という意味ではとても関係があります。

JPYCでは「ブルーエコノミー推進室」という部署を2022年9月に新設しました。これは青ヶ島に限らず、ブルーエコノミーといわれる海の経済圏について、ステーブルコインを使って何かできないか? ということを模索する新規事業です。今考えているのは、グリーンカーボンクレジットの海版。ブルーカーボンクレジットをJPYCで取引できるようにならないか、など…。

また、ステーブルコインは将来的に、銀行のような預貯金取扱機関が発行するようになる可能性があるのですが、さすがに新規で預貯金取扱金融機関を作るのは難しいので、例えば青ヶ島の漁業協同組合や水産加工業協同組合を預貯金取扱金融機関にして、そこでステーブルコインを発行したりできれば面白いんじゃないかとも考えています。JPYCとしては、なにか事業に直結しているわけではありませんが、そういった未来の可能性の調査をしているところですね。
これから青ヶ島が、さまざまなスタートアップ企業にとっての実証実験の場として、今までにない盛り上がりを見せるかもしれませんね。
岡部典孝
そうですね。実際に、自治体向けにサービスを提供していきたいスタートアップ企業はたくさんあります。しかし、なにか新しい試みをする際には、すぐに反応できる自治体とそうではない自治体に分かれているのが現状です。

青ヶ島の場合は、人が少ない分、スピード感を持って物事を進めたり、そのプロジェクトに寄って人口が増えるなら大歓迎、というふうになる可能性はあると思っています。そういう状態になると「実証実験をするなら青ヶ島」という新たなブランドにもなりますから。

有名な話だと、自動運転とか… 基準や法律的にはクリアしているけれど、実証実験ができる場所がなくてプロジェクトが進まないようなこともあります。もしも青ヶ島が、そういった実証実験の場所になれば、スタートアップが多く集まるシンガポール的な場所になる可能性もあるのではないかと思いますし、そうなればいいなというのを夢見ているところです。

青ヶ島を、次の世代に残すために。島民の未来を賭けた、一大プロジェクト

そういう未来を目指す、そして、その未来を歓迎できる島民の方たちのマインドも、今一緒に作り上げているところなのでしょうか。
岡部典孝
そうですね。もちろんさまざまな考えの方がいらっしゃるのですが、ただやはり皆さんに共通して言えることは、青ヶ島に対して愛着がすごくあるということです。

ある意味すごく不便なところで、高校もないので、みんな高校進学のときに一度島から出るのですが、また島に戻ってくる人も多いんです。愛着があるからこそ、無人島にはしたくないという思いもある。青ヶ島を、次の世代に残したいと思われているので、だからこそ、新しいチャレンジが必要だろうと。そんなふうに考えてくれる島民の方は多いですね。
なるほど。インタビューの前半で、最初に島に入っていったときは「デジタル青ヶ島」という訴求をしたとお話しされていましたが、今は「DAO」などのキーワードもお話に出てきたりしているんですか。
岡部典孝
そうですね。やはりビジネスをされている方も多いので、そういう方々には少しずつお話しして理解していただいています。よく飲み会では「本当は何やりたいの!?」という話になるんですよ(笑)。そこで、最終的に「DAO」みたいなものが面白いと思っているんですということを伝えると、興味を持ってくれているような実感もあります。

少し前に、都内でweb3のイベントがあったんですけど、そこに私も含めて、青ヶ島の島民が3人参加していて。人口比率で考えると、いま青ヶ島の島民の中で業種として一番多いのが、役場で働く関係者、その次が学校の先生、次に建設関係。さらに農業や農業をこれから始めようという方が続き、その次ぐらいが「web3に携わる業種の人たち」です。
人口比率でいうと、web3がトップ6番目ぐらいの産業になっているんですね。十分にインパクトのある話ですね!(笑)
岡部典孝
まだまだこれから、私の頑張り次第ではありますが、農水省のビジネスコンテスト「INACOME」で賞を受賞して、その結果を受けて、住民の方々の機運が高まれば、青ヶ島に、今までなかった水産加工業組合ができる可能性があるんですよ。

ここまでくれば、新しい動きとしても話題になると思いますし、時期を見計らって、実際のNFTも発行していきたいと思っています。これがふるさと納税の返礼品として配布される、というニュースも出していきたいですね。

私は青ヶ島の住人なので、青ヶ島がもっと発展してくれるといいなと思っています。ただ、こういうプロジェクトは横展開してこそ価値があるのも事実です。

いま複数の自治体が「web3×地方創生」といったことに取り組んでいるので、お互いの良いところを取り入れて、これから日本全体の動きとして盛り上げていければ理想的ですね。
面白いお話をありがとうございました。
これから青ヶ島から発信されるさまざまなニュース、とっても楽しみにしています!

関連リンク

JPYC | エンをつなげる日本円ステーブルコイン
日本の金融市場に風穴をあける日本円ステーブルコイン「JPYC」。立ち上げの背景から展望まで、CEOに聞きました【前編】
日本の金融市場に風穴をあける日本円ステーブルコイン「JPYC」。立ち上げの背景から展望まで、CEOに聞きました【後編】

この記事がよかったら「いいね!」
この記事を書いた人
高橋ピョン太 ゲーム開発者から、アスキー(現・アスキードワンゴ)のパソコンゲーム総合雑誌『LOGiN(ログイン)』編集者・ライターに転向。『ログイン』6代目編集長を経て、ネットワークコンテンツ事業を立ち上げ、以来、PC、コンシューマ向けのネットワークコンテンツ開発、運営に携わる。ドワンゴに転職後、モバイル中心のコミュニケーションサービス、Webメデイア事業に従事。現在は、フリーライターとして、ゲーム、VR、IT系分野、近年は暗号資産メディアを中心にブロックチェーン・仮想通貨関連のライターとして執筆活動中。