2021年9月28日

日本の金融市場に風穴をあける日本円ステーブルコイン「JPYC」。立ち上げの背景から展望まで、CEOに聞きました【後編】

2021年1月に誕生し、瞬く間に話題となった前払式支払手段型日本円ステーブルコイン「JPYC」。CEOの岡部典孝氏に、その立ち上げ背景やJPYCの仕組み、会社の体制、今後のビジョンを聞きました。


2021年1月に誕生し、瞬く間に話題となった前払式支払手段型日本円ステーブルコイン「JPYC」について、CEOの岡部典孝氏を徹底取材。後編記事では、JPYCの現在の使われ方や会社の収益モデル、さらにチームメンバーの現状などについて迫ります。

前編記事はこちらからお読みいただけます。

日本の金融市場に風穴をあける日本円ステーブルコイン「JPYC」。立ち上げの背景から展望まで、CEOに聞きました【前編】

https://www.asteria.com/jp/inlive/finance/4861/

JPYC株式会社CEO|岡部 典孝(おかべ・のりたか)氏
2001年、一橋大学在学中に有限会社(現株式会社)リアルアンリアルを創業し、代表取締役、取締役CTO等を務める。2017年、リアルワールドゲームス株式会社を共同創業。取締役CTO/CFOを経て、取締役ARUK(暗号資産)担当。2019年JPYC株式会社を創業し、CEOを務める。

聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男

NFTや投げ銭型のクラウドファンディングにも。JPYCは今どのように使われている?

JPYCを発行する事業で想定外だったうれしい出来事やアクシデントはありましたか?
想定外の出来事としては、ブリッジを勝手にやる人が出てきたことですね。JPYCはイーサリアムのチェーンなので、イーサリアムチェーン上のトークンをほかのチェーンに持って行くということが運営者の許可なしにできるんです。

その結果、最初はイーサリアムのメインネットというメジャーなチェーンで始めましたが、 「Polygon」など他の複数のチェーンに勝手に価値を持っていく人が出始めて、そこで使われるようになりました。そうした使われ方は想定していましたが、想像以上のスピードでしたね。「公式でも対応してほしい」という声が多くなり、公式でもPolygonに対応したら、今となってはほとんどの取引がPolygon上で行われるようになりました。
こちらから仕掛ける前にユーザーが自分から活用法を開拓し、サービスの可能性を高めてくれているのが嬉しいですね。イーサリアムよりも、Polygonなど別のブロックチェーンの方が使いやすかったのでしょうか?
そうですね。イーサリアム自体は人気があるブロックチェーンなのですが、一番の問題はブロックチェーンを利用する上で手数料が高額なことでした。これを解決するためにイーサリアム自身も「イーサリアム2.0」というプロジェクトを進めていますが、Polygon を始めとする手数料が安くて処理が早いブロックチェーンもたくさん出てきています。現在はさまざまなDeFiのプロダクトが稼働していたり、色々なNFTが発行されている現状です。

こういった状況になると、イーサリアムにある資産をPolygonに移動する需要が生まれます。それはイーサリアムで資産を運用するより、Polygonで運用した方が、手数料は安いし処理も早いからです。そこで、ブリッジという機能がでてきました。

ブリッジを使うと、イーサリアムで流通している資産を他のブロックチェーンに移動することができます。JPYCもこういった理由から、ブリッジにより、イーサリアムからPolygonに勝手にユーザが移動するような事象が起きたんだと推測されます。

Polygon上でNFTを取引するブロックチェーンゲームがかなり増えたことが影響しているのかもしれません。価値が変動しないJPYCでNFTを取引するほうが、税金等の計算をするのが楽だし、皆さんもイメージしやすいじゃないですか。たとえば、イーサリアムでこのカードを売っていますといっても「実際にいくらになるんだっけ?」という計算が必要になりますが、JPYCなら「このカードを1万円で売っています」というような表現ができるので買いやすいですよね。
確かにそうですね。
JPYCが実際にどういう使われ方をしているのかわかるものなんですか?
ある程度は把握しています。USDC(※1)のような使われ方を一部しているのかなと思っています。DeFi(※2)の取引所で、ほかのトークンとのスワップ(交換)で使われているケースもありますし、NFTのようなユーザー間の取引で使われているケースもあります。ちょっと面白いのは、分散型のブログがあるんですが、そこで投げ銭やクラウドファンディングに使われています。投げ銭は、手数料がほとんどかからないですし、分散型のクラウドファンディングを使えば、0%~5%程度の手数料で資金の調達ができますので。

DeFiでは、ステーブルコインが重宝されます。理由は、価値が固定されているトークンの方が運用している資金の利益の確定や資金の逃避先として最適だからです。USDCなどのステーブルコインの主な利用方法は、利確や投資先ともう1つ、決済手段です。上記の通りNFTをユーザ間で取引する時、価値が固定されているトークンの方が、双方で扱いやすいという利点があります。その他、裁定取引に利用されていることも多くあります。

(※)編集部注釈
(※1)USDC(ユーエスディーシー):USDCはアメリカのCircle社(サークル)とCoinbase社(コインベース)が共同で設立した Centre Consortium が管理しているステーブルコインおよび暗号資産。USDCの価値はアメリカドルと連動している。アメリカドルを預けるとその分のUSDCが発行される仕組み。元々はイーサリアムで発行・流通していたが今では他の様々なブロックチェーンで発行・流通している。

(※2)DeFi(ディーファイ):​​Decentralized Financeの略で、ブロックチェーン上で稼働する金融サービスの総称を指す。提供されている金融サービスは様々で、暗号資産の貸し借り、運用ができる。DeFiに預けられている暗号資産の合計は増え続けており、世界各国の金融機関などからも注目を集めている。

JPYCは、かなり価値が認められているということですね。
はい。ユーザーさんが勝手に使い道を考えて、JPYCはこんなことに使えますねといったアイデアをいただくこともあります。弊社は、違法なものでなければどうぞご自由にお使いくださいというスタンスです。

「今年はお年玉をJPYCで渡します」という人もいましたよ。図書券がデジタルになってブロックチェーンになり、さらに便利になったというようなイメージなんでしょうね。
ちなみにDeFiでUSDCのような使われ方をするのは元々想定していなかったんでしょうか?
多少は取引される可能性はあると思っていましたが、想定していたのは図書券のようなものなので、たとえば金券ショップのように、JPYCが95%の価格で取引されるようになると5%引きで物が買えるようになるんですね。そうすると仮想通貨を持っているユーザーは実質5%引きで物が買えたり、VISAで決済できたりするので、これは需要があるだろうと思っていました。

ただ、今のところJPYCの価格が1円に近いところで安定しているので、想定していたほど使われていませんね。
さらに、ふるさと納税もJPYCでできるようになるんですよね?
そうですね。すでに徳島県海陽町と業務提携(※3)しておりますので、他の自治体との取り組みについても近々発表できると思っています。ふるさと納税に関しては、弊社サイト経由でJPYCで申し込んでいただいたら、弊社が町に日本円で納税する収納代行のモデルで進めていきます。ふるさと納税だけでしたら今でも他社のふるさと納税サイトとVプリカさん経由でできますが、今後はJPYCで直接可能になります。JPYCを使うと、前述したように収納代行手数料が格安になりますので、納税金額も増えることになり、自治体側にもメリットが生じます。

それともう一つ、今、税金を払える納税のルートも開拓中です。国税、地方税を直接JPYCで支払えるようにしたいですね。ダイレクトにできなくても、ワンクッション間に仕組みを加えることででもできるようになるといいですね。

(※)編集部注釈
(※3)【国内初】日本円ステーブルコインJPYC決済でのふるさと納税が実現|JPYCが一般社団法人Disportと業務提携し徳島県海陽町で地方創生推進 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000054018.html

地方税がJPYCで払えるようになるのですか! それができたらかなりのスケーリングが期待できそうですね。ちなみにJPYCを一番簡単に購入する方法はどんな方法になりますか?
銀行振り込みで弊社にご入金いただいた方に、指定のイーサリアム対応ウォレットに送金しています。またイーサリアムでも購入が可能です。

現在、JPYCの送金はウォレットのみですが、将来的にはスマートフォンが1台あれば、アプリと6桁程度の暗証番号のみで簡単にJPYCを持てるようにしたいと考えているところです。

JPYCの収益モデルと組織体制について

これはよく聞かれると思うのですが、現在のJPYCによる収益モデルについて教えていただけますか?
はい。現在はJPYCの普及のためにユーザーを集めている段階ですが、今後の収益源としては、金融機関保証というのが大きくなると思います。これが収入源としては一番大きいです
”金融機関保証” が一番の収益源、、、詳しく教えていただけますか?
はい。JPYCはお客様から預かった法定通貨(この場合は日本円)の分だけ、JPYCをJPYC株式会社から発行します。そして、前払式支払手段のルールとして、JPYCの未使用残高(発行額−回収額:回収額とはこの場合、JPYC株式会社が保有するJPYCの合計)の50%以上に当たる金額を法務局に供託する必要があります。

お客様から預かった法定通貨を運用してなるべく多くの運用益を受け取るために、本来預ける必要がある未使用残高の50%以上の金額を金融機関に保証を受けます。そうすることにより、50%以上の金額を法務局に預けることなく、全預かり金を運用にまわすことができるんです(※金融機関に保証を受ける代わりに保証料として年間何億円かの金額を金融機関に支払う必要があります)。こうすることで、弊社が増やした運用益から金融機関の保証料を引いた額が利益になります。

それからこれはまだやっていませんが、金券って実はボリュームディスカウントで安く仕入れることができるんです。たとえば数千万円単位で購入したらディスカウントされるような金券を買って、それをJPYCで交換するようにしたら、ディスカウントされた分が利益になります。

今はまだまだ準備段階ですが、このふたつが将来は収入源になると思います。
なるほど、面白いですね! 今後のお話もありましたが、会社としてはどのような未来を目指しているのでしょうか? 最近だとブロックチェーン関連企業がDAO(※4)化を目指していたりしますが、JPYC株式会社のDAO化を考えられていたりしますか?
まず、弊社はIPOを目指していますね。出資者に投資家さんも入っていただいているので、まずIPOするまでの間のDAO化は正直なところ難しいお話ですね。ただし、開発コミュニティについてはDAOで良いのではと思っています。弊社の開発コミュニティは、すでにそのように動いているような印象ですね。私個人も、DAOや非中央集権的な考え方が好きなので興味はあります。

会社の経営は後継者問題等も絡んできますが、DAOになる可能性はあると思います。大株主がDAOという可能性もあるかも知れませんね(笑)。

編集部注釈(※4)
DAO(ダオ):Decentralized Autonomous Organizationの略で、経営陣や特定の管理者がいない組織体のこと。経営陣・管理者の代わりにガバナンストークンをいうものを配布して、そのトークンを持っている人たちで、該当の組織の方向性を決めていく形。新しい組織の形として、注目されており、最終的にこのDAOの形になることを目指すブロックチェーン企業が複数おり、今後もっと多くなると予測される。アメリカのワイオミング州では、DAOを法人として認める法案が承認されている。

15歳の正社員や16歳のCTOも!? Z世代が活躍するJPYC株式会社のメンバーについて

話は変わりますが、JPYCのチームは若い方が多く活躍されていますよね。16歳のCTOも話題になっていました。若い世代を積極的に採用するのは、岡部さんの方針なんでしょうか?
いえ、方針というよりは偶然が大きいと思います。最初は私一人で起業しました。その後に自分と同じ40代の世代を集めていたら普通の会社になっていたと思いますが、人材募集して最初に集まったメンバーが当時21歳と16歳だったんです。その時点で若い人が多数派の会社になりました。
16歳のメンバーはどういうきっかけで採用に至ったのでしょうか?
知り合いの紹介ですね。彼女がTwitterで「16歳だけどコードがかけるので仕事探しています」というような内容をツイートしていたんですね。そのツイートがバズっていたのを知り合いが教えてくれて、面白い人がいるから会ってみないかというので、会ってみたら素晴らしい方でした。中学を卒業したあと高校に行かずにコードを書いていたという人材だったので、インターンを経由して即採用、2021年4月からはCTOとして活躍してくれています。

そこから、またいろいろと知り合いを紹介してもらうなどして、今、最年少は15歳です。雇用契約は15歳から可能なので、今年4月から弊社で働いてくれています。今はJPYCでコミュニティマネージメントを担当していますが、その方も13歳ぐらいから他の会社で取締役をやっているような人材だったので、即戦力でした。
10代のメンバーも活躍するチームなのですね! 実際、ブロックチェーン業界では10〜20代の方々が活躍されている場面を多くみます。DeFiで有名なプロダクトを20代のエンジニアだけで開発・ローンチしていたり、10代で講師をされている方もいますよね。
そうですね。今JPYC全体だと40人ぐらいの規模ですが、そのうち10代は10人ぐらい。20、21歳ぐらいのメンバーが一番多いとは思います。

もちろん、IPO(新規上場公開株式)を目指しているので、バックオフィス、上場準備の仕事などもあります。記事の前編でも紹介いただいたとおり、JPYCは今後「第三者型前払式支払手段」のものを発行していきたいので、金融庁のライセンスを取ったりする専門の業務を行う中堅メンバーもいますよ。
そういえば、御社は社員向けにTwitter手当というものがあると聞きました。ユニークな取組みですが、こちらは実際にどう活用されているんでしょうか?
先ほどもお伝えしたとおり、弊社の採用の大半がTwitter経由です。社員たちが自らJPYCでの取り組みを発信してくれると、それを見た方がどんどん入社してくれるような流れができていたんです。プレスリリースをTwitterで拡散してくれたり、広報的な目的でも非常にありがたいんです。そこで、JPYCで働いていることを隠すよりも、どんどん発信してほしいという想いから「Twitter手当」を始めました。業務時間外にもTwitterをしていることはあるので、そこに対して手当を出すのは当然ではないかと。

最初は少額だったのですが、実際にやってみるとかなり効果があると感じたので、金額を増やしました。週の労働時間とフォロワー数によるテーブルが就業規則にあって、それで決まります。今は月に最高で2万8000円ぐらい出るんですが、社員たちからもかなり好評ですよ。
毎月の給与がフォロワー数によってアップすると思ったら、たしかに「どう影響力を増やすか?」と戦略的に考えることに繋がりそうです。色々とお話を聞かせていただきありがとうございます。

では最後に、JPYCの今後の展望として考えていることを教えてください。
まずは、第三者型前払式支払手段の登録を目指します
登録できたら、加盟店の手数料がほぼゼロで買い物ができる世界を実現していきたいですね。現在の決済システムではカード手数料やキャッシュレス手数料で3%~5%取られてしまうので、それをゼロにするとインパクトがあると思っています。まさにブロックチェーン技術を使わないと実現できないので、我々がやる意味があると思っています。

加盟店を募集して、加盟店で100万JPYC分の商品が売れて、JPYCを送金いただいたら我々が100万円を加盟店に振り込むということをやっていきたいです。こうした方法でJPYCも普及させていきたいと思っています。日本円ステーブルコインは我々が切り開いていく、という気持ちでやっていきます!
JPYC誕生の背景から具体的な活用法、チームでの取り組み、今後の展望まで、幅広くお話を聞かせていただきありがとうございました! 今後 JPYC がつくっていく未来が楽しみです。

本インタビューはオンラインで行われました

※ 前編記事「日本の金融市場に風穴をあける日本円ステーブルコイン「JPYC」。立ち上げの背景から展望まで、CEOに聞きました【前編】」も是非あわせてご覧ください。

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この記事を書いた人
高橋ピョン太 ゲーム開発者から、アスキー(現・アスキードワンゴ)のパソコンゲーム総合雑誌『LOGiN(ログイン)』編集者・ライターに転向。『ログイン』6代目編集長を経て、ネットワークコンテンツ事業を立ち上げ、以来、PC、コンシューマ向けのネットワークコンテンツ開発、運営に携わる。ドワンゴに転職後、モバイル中心のコミュニケーションサービス、Webメデイア事業に従事。現在は、フリーライターとして、ゲーム、VR、IT系分野、近年は暗号資産メディアを中心にブロックチェーン・仮想通貨関連のライターとして執筆活動中。