2022年5月18日

ビットコインが法定通貨! 駐日エルサルバドル大使ダルトン氏による特別講演【BCCC Collaborative Day】

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)により開催される年に一度のイベント。エルサルバドルの駐日大使であるディエゴ・アレハンドロ・ダルトン 氏が「第6回BCCC Collaborative Day」にて講演した内容をダイジェストでお届けします。


中南米に位置するエルサルバドル共和国(Republic of El Salvador)。 ユニークな地域経済振興策として注目を集めている「ビットコインビーチ」など、暗号資産を採り入れた同国独自の経済政策を行っています。そんなエルサルバドルの駐日大使であるディエゴ・アレハンドロ・ダルトン 氏が、2022年4月8日(金)に行われた「第6回BCCC Collaborative Day(※)」にて講演した内容をダイジェストでお届けします。

※「BCCC Collaborative Day」とは?
一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)により開催される年に一度のイベント。2022年で第6回を迎えた本イベントでは、駐日エルサルバドル大使ダルトン氏による特別講演のほか、暗号資産に関するパネルディスカッションや、BCCCメンバーによるNFTやブロックチェーンの最新動向をキャッチアップするセッションが行われました。

ディエゴ・アレハンドロ・ダルトン氏|駐日エルサルバドル大使
経営学を学び、国際貿易および国際経済問題において学位を取得、2003年にエルサルバドル外務省に入省。 2011年より駐日エルサルバドル大使館で公使参事官として2年間派遣されたのち、2016年にイスラエルのエルサルバドル大使館で公使参事官に任命される。2018年8月よりカタールにて公使参事官、後に臨時代理大使を務め、2020年12月にはシンガポールやフィリピンを共に管轄する駐日エルサルバドル大使館の特命全権大使に就任。
これまでの外交官としてのキャリアにおいては、国家間の外交関係の強化や政治、経済、商業、投資、観光といった幅広い分野の促進に尽力。加えて、多国籍間フォーラム、要人出席の国際会議の開催にも貢献した。
日本では、経済、商業、そして観光のためのプロジェクトの促進に注力。ビットコイン法定通貨に関するエルサルバドルの経験の共有、「ビットコインビーチ」としても国際的に知られているエルソンテをはじめとする有数のビーチがあるエルサルバドル沿岸地域における持続可能な観光開発プロジェクトSurfCityなどを中心となって進めている。

すべての始まりは “ビットコインビーチ” から

皆さんご存じかと思いますが、エルサルバドルというのは法定通貨としてビットコインを世界初で導入した国です。本日は一番最初の“ビットコインネーション”であるこのエルサルバドルについて一歩踏み込んでご紹介したいと思います。

どうして突然ビットコインを法定通貨に? と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はエルサルバドルのビットコインのイニシアチブは3年前、小さな村から始まっていました。

きっかけは、エルサルバドルのビーチ(エル・ソンテビーチ)にアメリカの起業家がやってきたこと
その方はテック関係の方で、エル・ソンテビーチに暮らす人々の多くが銀行口座を持たず、クレジットカードを持っていない/金融サービスにアクセスすることができないという状況を見て、このコミュニティでビットコインを使うことでさまざまな不便を解消できるのではないか? と考えたのです。

そこで彼はこのコミュニティのリーダーたちと話をしました。ビットコインのコミュニティ、エコシステムの始まりはまさにここからとなりました。例えばビーチのゴミを拾って綺麗にしようとする若者たちに「ゴミを集める代わりにビットコインをあげるよ」という提案をしたのです。すると次第に誰もが「ビットコインって何なの?」「どうやったら手に入るの?」と興味を持ち始めました。彼らは「ビットコインビーチ」というアプリを開発し、若い人たちを率先して巻き込んでいきます。この戦略が功を奏したと思います。

その後、ビットコインが小さなエルサルバドルの村で使われているということがニュースで伝わると、エル・ソンテビーチには多くの人々が訪れ、突如として観光立国のようになりました。今では “ビットコインコミュニティの原点” として、世界的にも有名になっています。

「ビットコインビーチ」のアプリが中心となり、国内にはさまざまなネットワークが作られました。そこにはビジネス用途で活用する人から一般の人まで、さまざまな背景を持つ人々が集まり、日常でビットコインを使うようになったのです。

このプロジェクトをきっかけに、コミュニティの約90%の人々がビットコインを使うようになりました。一人ひとりが経済的に裕福というわけではありませんが、コミュニティ人口の90%というのは大変な数ですよね。彼らが日々、ビットコインを使ってスーパーで買い物をしたり、水道局に水道代を払ったりすることは、国内での良い実証実験にもなったとも言えます。

なぜビットコインだったのか? 3つの重要なポイント

さて、暗号資産の中でもなぜビットコインだったのか? ということをよく聞かれます。
ここには3つの重要な点があるのですが、まず一つ目は、ビットコインというのが金融の包摂性を実行するための一つのツールであったということです。

エルサルバドルでは70%の人口が銀行口座を持っていません。口座を持っていないということは、融資も受けられないし、金融のアクセスがないということ。将来的な蓄えがないため、何かのビジネスに対して投資を行うようなこともできません。そういった中で、ビットコインが金融包摂性を実現する上での一つのツールになりえた。これが1番目の理由です。

そして2つ目の理由として、より効率の良い送金ができるということ
エルサルバドルにおいては約300万人の人たちがアメリカなどの海外に住んでいるのですが、彼らは国内に住む家族などに対して、年間約75億ドルの送金をしています。この金額はなんと、エルサルバドル共和国のGDPの20%を占めているのです

この75億ドルに対してさまざまな手数料を支払ったり、銀行などの機関に仲介手数料を支払うとなると最終的な手取りの金額が少なくなっていきますよね。仲介がいないことで、その分多くの収入がエルサルバドルの家族に、安全かつ、より短い時間でお金が届くようになります。ビットコインは本当に国際通貨なのか? と疑う人もいますが、私自身は間違いなく国際通貨だと思っています。ビットコインを使うことで、国際市場がエルサルバドルにも開放されるのです。

そしてまさにこれが3つ目の理由ですが、暗号資産の中でも比較的安定した通貨であるということ。世界規模で使うこともあり、エルサルバドル政府の選択としてビットコインが選ばれました。

もちろんビットコインを国で導入するにはさまざまな法的な枠組みが必要です。
そのため、我々の大統領は議会に対して法案を出し、翌日には多数決で通過。立法府だけではなくこの議会においてもビットコインを法定通貨として認めることができ、“ビットコイン法” というかたちで法的な枠組みも整備されることになりました。2021年6月9日に法案が通り、同年9月7日に発効。ビットコインがエルサルバドルで本格的に使われるようになりました

エルサルバドルの今後

ビットコインの本格的な使用に向けて、これからもっと多くのことを考慮しなければなりません。そのため政府では、ビットコインのマイニングに関する法律や、スタートアップ法についても整備しようと考えています。さらに国家機関が密接に連携できるよう、規制当局としての金融システムの管理が進められています。中央準備銀行や、金融改革室も設けられました。こういったステップを踏んでこそ、ビットコインやその周辺を健全に機能させることができるという考えです。

次に、政府としては他国が真似できないことをやろうと考え、政府のウォレット「Chivo Wallet」を実現しました。

「Chivo」は “かっこいい” “すごい” といった意味で、今では日常的にChivo Walletがエルサルバドルで使われています。Chivo Walletは、エルサルバドル全国民が使うことができるので、アメリカにいても日本にいても、エルサルバドル人であれば誰もが使うことができます

他のデジタルウォレットとの互換性があり、仲介人は不要。このウォレットを通じてビットコインを売買したり、ビットコインとドルとの交換も可能です。もちろん決済もできます。

現在、エルサルバドルでは人間の数よりも携帯電話の数のほうが多い状況です。その大半はスマートフォンですから、国民がウォレットを通じて、自由に金融サービスにアクセスできるようになりました。2021年末のデータでは、Chivo Walletのユーザーは400万人となっています

さらに私たちは、ATMの設置にも力を入れています。現在は国内に200、アメリカに50台のATMが整備されています。領事館や、エルサルバドル人が大勢住むコミュニティに設置されたATMがあることで、ビットコインの貯金から現金化したり、ビットコインの貯金を増やしたり、取引を行ったりすることができるのです。

キーとなるのは「火山」、エルサルバドルのデジタル国家プロジェクト

エルサルバドルというのはビットコインだけではありません。我々は「デジタル国家」を目指しているのです。 まず暗号資産のエコシステム、それからテクノロジーのアウトソーシング、そしてAI人工知能です。この三つの領域で成功するために6つの柱があります。

1番目には人材。2番目に、インセンティブとなるような規制・枠組み・投資あるいは商取引というものを促進するためのもの。 3番目に革新とテクノロジー、4番目に金融ソリューション、そして5番目にアクセスおよび各市場におけるポジション。最後、6番目に投資の促進誘致。

もちろんそれ以外にもいくつか重要なプロジェクトがあり、そのうちの1つが、エルサルバドルのブケレ大統領によって発表された大型プロジェクト「ビットコインシティ」です。イノベーションの街であり、住宅地や商業地、さまざまなエンタメやレストラン、空港や列車が集まるエリアで、本物のスマートシティとしての活動を行っていこうと考えています。

ここでキーになるのが、エルサルバドルに多くある「火山」なんです。地熱エネルギーを使うことができるので、CO2の排出なしで都市を運営することが可能になります。

政府としてはインフラを構築するための土地を確保して、外国からの投資を誘致します。特定経済特区として指定されるため、完全な自由が確保されます。所得税なし、キャピタルゲイン税なし、固定資産税なし、そして給料に対する支払いもなし。都市の課税もなく、最も重要なCO2排出量なしという夢のような条件が実現できるのです

ビットコインにおいては、2022年3月に「火山債」というものを発行しました。この火山債はビットコインの連動債券で10億ドルになります。この火山債を発行することで、ビットコインシティの建築、都市の開発につなげます。もちろん火山だけではなく、他にもさまざまな資源やツールが使えると考えています。

2022年2月時点で、エルサルバドルにおいては約1800ビットコインを保有していますが、将来的にはもっと上がっていくとも考えています。ビットコインの通貨の強さと可能性を私たちは信じているのです。

エルサルバドルは、日本の四国と同じぐらいの大きさの小さな国ですが、そこには大きなビジョンがあります。エルサルバドルを知っている方たち、そして知らない人たちにもぜひ我が国に来ていただき、このチャンスを掴んでいただきたい。

この講演を聞いてくださった企業の皆様、どうぞ私たちにコンタクトしてください。エルサルバドルを訪れてみてください。私たちはいつも、両手をあげて、皆さん方を歓迎します。

※本記事は、2022年4月8日(金)に行われた「第6回BCCC Collaborative Day(※)」にて講演した内容をダイジェストでまとめたものです

関連リンク

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC) https://bccc.global/

この記事がよかったら「いいね!」
この記事を書いた人
in.LIVE 編集部 アステリア株式会社が運営するオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」の編集部です。”人を感じるテクノロジー”をテーマに、最新の技術の裏側を様々な切り口でご紹介します。