2022年9月2日

カーボンニュートラルは「見える化とカイゼン」で推進。老舗自動車部品メーカー 旭鉄工発のIoT活用方法とは【後編】

IoTを活用したカイゼン活動で、年間4億円もの労務費削減を実現した旭鉄工株式会社。2021年11月からは、一連の活動にカーボンニュートラルの取り組みを加えながら事業を推進しています。現場の社員を巻き込んだ具体的な施策について、アステリアの松浦が話を伺いました。


IoTを活用したカイゼン活動で、年間4億円もの労務費削減を実現した 旭鉄工株式会社 。2021年11月からは、一連の活動にカーボンニュートラルの取り組みを加えながら事業を推進しています。

前編記事では、旭鉄工での改革の変遷を詳細にわたりお伺いしましたが、後半はいよいよ今回のテーマ、カーボンニュートラルの取り組みについて迫ります。

前編記事はこちらからお読みいただけます。

カーボンニュートラルは「見える化とカイゼン」で推進。老舗自動車部品メーカー 旭鉄工発のIoT活用方法とは【後編】

https://www.asteria.com/jp/inlive/sdgs/5400/

(聞き手・アステリア株式会社 ノーコード変革推進室副室長兼エバンジェリスト 松浦真弓)

設備投資や再エネ購入の前にカーボンニュートラルはやることがある

前半で伺ったきた「労務費の削減活動」が、CO2排出量の削減にも密接にかかわっているんですよね。まずは、カーボンニュートラルの取り組みを始めたきっかけから聞かせていただけますか。
当社の主要取引先であるトヨタ自動車は、『環境チャレンジ2050』を掲げています。ここでは、2030年にはCO2排出量を2013年比35%減にします、という宣言がなされています。当然、仕入れ先である我々も低減が求められることになります。この目標の達成に向け、カーボンニュートラルの取り組みを進めているというのが、大きな流れです。

当社はこの目標に対し、現在、3分の2の22%を達成しています。また、当電力購入は4億円くらいかかっています。ただ、現在、電気購入単価が1年で約45%上がっているので1.8億円にもなります。年間売上高は150億円前後ですから営業利益率を1ポイント以上も引き下げる要因になります。これはカーボンニュートラルの推進に待ったなしの状況ということです。

ただ、普通なら電力消費量を下げるために高効率の設備を導入したり再エネを購入したりとお金がかかるのですが、うちはお金をかけるどころか、カイゼン活動により儲けながらカーボンニュートラルを推進しています。
これがなかなか他社にはできないところですよね。
結果として、我々は労務費を年間4億円、また電力料金を年間1.2億円削減しています。コストを下げ、カーボンニュートラルに寄与し、さらには人手不足対応にもつなげています。これは一粒で3回おいしい状況です。


具体的に行っていることは、カイゼン活動による電力とガスの使用量を削減です。前半でお話ししたカイゼン活動で削減できている部分はあくまでも副次効果です。もっと推進しようと思ったら排出量の数値化は外せません。

たとえば、「昼休みは蛍光灯を消しましょう」というのは、いろいろな企業で行われていますが、実は大して効きません。なぜなら蛍光灯って一個40Wくらいですから。一方、工場では昼休みに1600Wもある製造設備の電源が入りっぱなしだったりします。
蛍光灯40本分ですから、かなり大きいですね。
加えて、省エネ設備の導入を進める企業もありますが、そもそも該当の設備に問題はあるのか、仮に導入したけれども効果はあったのか、という検証は、皆さんあまりしていないように思います。

こうした的外れなことをしないためにも、数値で問題を見える化して、対策する。そして、その効果も数値で確認する。そのうえで、次に取るアクションを考える必要があります
徹底した数値の見える化。前半でもずっと強調されていたポイントでもありますね。

CO2排出量を徹底数値化 見つけた課題に対するカイゼン活動を展開

旭鉄工さんでは、CO2排出量をどのようにして見える化しているんですか?
iXacsでCO2の排出量(電力・ガスの消費量)をリアルタイムで24時間モニタリングしています。さらには、これを細かく把握するため、レベルを四つに分けています。

レベル1が「工場全体」。総量管理といわれるもので、トヨタ自動車に提出する数値になります。レベル2が「建屋やエリア(工場)」単位です。これは工場のマネジメントに使っています。レベル3が「製造ライン」、レベル4が「製品単位」です。

そのうえで、たとえば、レベル2なら工場ごとに色分けをして、排出量を積み上げグラフで可視化しています。すると、1日のうち、どの時間にどの建屋の排出量が多いのかが分かります。
可視化することでどこに問題が生じているのか把握できるわけですね。
そうですね。例えばあるエリアではモニタリングの結果、昼休みの排出量があまり下がっていないことが分かったのでカイゼン活動を行いました。

そのエリアにある152台の設備のうち、40台は非常停止ボタンを押しても問題のないことが分かったので、昼休みに電源を落とすことにしたんです。すそれだけで排出量が0.7%下がりました。
1日で0.7%となると結構大きいですよね。
同じように1日の推移を見たとき、夜中は設備のほとんどが停止しているはずなのに、排出量が下がっていないことに気づきました。これも調べたら、補給ラインの一つが動いており、その一つのラインのためだけに37kwもあるコンプレッサー(圧縮空気をつくる装置)2機がずっと動いていたんです。

これは建屋全体をカバーできるボリュームなので非常にもったいない、ということで、1.5kwのベビーコンプレッサーと交換しました。すると、グラフからここの数値がきれいになくなり、排出量は1日で2.7%減、電力購入費も年間150万円の削減につながりました。

高い設備を買わずともCO2排出量は削減できる、ということですね。
どこの会社でもできることなのですが、やはり問題が見えないと直すことができません。 ただ、こうしたカイゼンが難しいのが、レベル3(製造ライン)とレベル4(製品単位)です。たとえば、トヨタ自動車からは、「一つの製品を作るためにCO2を何グラム排出しているのか算出してほしい」と言われています。

一般的には、すべての電力を電力計で計って算出することになると思うのですが、電力計は1台数万円もします。当社なら約1,000台が必要になるので、それだけで数千万円かかるし、計測したデータを集計するためのシステムも必要です。

あまりにも時間とお金がかかる話になりそうなので、当社は稼働状況ベースで推定値を出すことにしました。iXacsの内部に独自の排出量計算モデルをつくり、一定期間だけ電力消費量を実測し稼働状況と突き合わせてパラメーターを修正し、以後は稼働状況を測定するだけで排出量を推定できるようにしたんです。
誤差は出ないんですか?
それが2~5%の範囲に収まるんですよ。
そうなんですか! それはすごいですね。

消費電力×稼働で「ロス」を見つければ、対策の優先順位が立てられる

もう一つ付加価値を出しているのが、CO2排出量の正味とロスを算出できるようにした点です。これはもともとトヨタ生産方式の考え方です。

作業には、「正味作業」と「付帯作業」の二つがあります。正味作業は、付加価値のあるものをいいます。たとえば、物に穴が空くなど形を変える瞬間がそれです。一方、付帯作業は、物の形を変えるために必要とされる作業です。ドリルで穴を空けるために製品を固定する、とかですね。この二つ以外に「ロス」があります。なんらかのトラブルで設備が停止した、などのケースです。

iXacsは、CO2排出量にも正味とロスがあるという考えに立って稼働の情報からこれらを計算しています。全排出量のうち、正常に生産されている時に排出された部分は「正味」、停止しているときに排出された分は「ロス」という見方です。停止が多ければ、もちろんロスは大きくなります。

そして、「正味」を青、「ロス」を赤とオレンジで表示させた排出量をラインごとに並べると、どのラインで多くロスが発生しているのかが分かります。すると、どこからカイゼンすればよいのか見当を付けられるんですね。電力消費量のデータだけではこのようなことはできません。電力と稼働の両方を併せて考えて初めてできることです。

たとえば、Aのラインの赤が多ければ、まずはここのロスを優先して下げよう、と判断できます。そして、正味も大きいのなら、ここで初めて高性能な設備に変えましょうとなります。

レベルごとに並べて何が原因で排出量が多いのかを見つけ、ロスの多いところをカイゼンする。そのうえで、お金をかけて正味を削減するかどうか判断する、という順ですね。

これは一見、あたりまえのようですが、実践出来ている企業は少ないですよね。それに気づいて、誰もが簡単に利用できるようにしたところが木村さんのすごいところです。稼働率とCO2排出量がどのように関係するのかが、やっと分かりました。
このようにしてCO2排出量を見える化したことで、この半年のあいだに昨年比6%もの削減効果が見られています。これは、従来通りのカイゼン活動による低減に加え、排出量に着目したカイゼンによる効果が上乗せされています。

できない理由よりも、デジタルで楽ができる方法を考えてほしい

前半で伺った社内改革を含め、一連のカイゼン活動にあたり念頭に置いていたのは、どういう考えでしょうか。
一番は、人には付加価値の高い仕事をしてもらうということです。つまり、余分なことをやらせない。カイゼンってのはカイゼン、作業している人を楽にするものでなければいけません。

当社の事例をお話しすると、「これはやりにくそう」のようなキーワードがいっぱい出てくるのですが、皆さん、DXを難しく考えすぎていると思います。大切なのは、“デジタルで楽をする”ことです。
とはいえ、なかなか一歩目を踏み出しづらいという企業もありそうです。
「こういう人がいるから、うちではできない」というのも、よく聞きますが、トータルで見て必要なら、やっぱり腹をくくってやるべきなんですよね。できない人に合わせてみんなで沈没することはありません。できる人ができない人を引っ張って底上げするべきです。そして、DXは変革ですから、既存のルールややり方とバッティングして当然です。

さらには、「他の会社はやっているの?」と聞かれることも多いですが、他がやっていないからこそ、先んじて行うことが競争力になります。できないことを考えるのではなく、できるように考えることが大切だと思います。

カーボンニュートラルは何かしらの取り組みを行わなければならず、カイゼン活動のようにできない理由を並べておしまいにはできません。その点、取り組む手段として見える化を行えば、ロスが分かりますし、分かってしまえば何とかするしかないので、カイゼン活動につながります。すると、結果的に生産性も上がるので、我々も「カイゼン活動をしましょう」というよりも、「カーボンニュートラルを進めましょう」と伝えていこうと思っています。

ここまでお話を伺って思ったのは、iXacsは“みんなを幸せにする技術”ということです。いわば、木村さんの体験から見つけ出したカイゼン策が、進化を遂げ、会社を前進させる力になっていて、さらにはその視点を皆に分けて広げていく世界が出来上がっていますよね。

これは、DX の世界で描かれている理想そのもの、と感じています。
デジタルによって仕事の仕方自体が変わってきていますし、いままでの枠組みでは考えられなかった新しい仕事ができるようにもなりました。現在、コンサルタントをしている当社メンバーも、もとは製造現場の管理を担っていましたが、iXacsが生まれたことで外部へ指導に行けるまでの付加価値を得ていますし、働き方も大きく変化しています。

現地に毎回、足を運ばなくとも、リモートでお客様の支援ができる点もまた、デジタルによる大きな恩恵ですよね。毎回、1日かけてお客様のもとを訪ねなくてもよいですし、お客様にとっても低コストで活用できる、という利点が生まれています。
DXを推進すれば、本当にたくさんの得られるものがありますよね。旭鉄工さんが10年で、これまでの製造業だけでなく、ソリューションの開発・販売からコンサルまで手がけられるようになったこと自体がイノベーションであり、真のDXを体現していらっしゃる。その素晴らしさが、たくさんの企業に広がり、明るい未来につながることを願っています。

ここまで、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

この記事がよかったら「いいね!」
この記事を書いた人
松浦真弓 アステリア株式会社 社長付 地域共創エバンジェリスト。 半導体商社でのフィールドエンジニアを経て、IT企業にて、製品企画、マーケティング、ビジネスコミュティ構築などに携わる。2018年9月よりアステリア株式会社に入社し、マーケティングに従事。現在は、社長付 地域共創エバンジェリストとして、DX、ノーコード、モバイル・クラウド活用、地域創生、働き方改革などの分野で、各地での講演活動を行っている。