2023年3月29日

日本円ステーブルコインJPYC生みの親が目指す地方創生「青ヶ島DAO化計画」とは?【前編】

有人島としては伊豆諸島最南端の島・東京都の青ヶ島を「DAO化」!? そんなユニークな地方創生の取り組みについて、プロジェクト発起人であるJPYC代表の岡部氏に突撃インタビュー。記事前編では、「青ヶ島DAO化計画」の全貌や、プロジェクト立ち上げのきっかけ、その進捗などについて伺っています。


前払式支払手段型日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行する、JPYC株式会社 代表取締役の岡部典孝氏が、有人島としては伊豆諸島最南端である東京都の「青ヶ島(あおがしま)」に移住したといいます。伊豆諸島に属する火山島である青ヶ島は、人口減少が続いており、現在日本一人口の少ない村だそう。そんな青ヶ島で、JPYCの生みの親である岡部氏が試みるのが、DAO(分散型自律組織)を使った島おこし

業界の人からは「DAOヶ島プロジェクト」とも呼ばれている青ヶ島のDAO化計画の全貌や取り組みのねらいについて、岡部さんご本人に直接伺いました。インタビュー前編では、「青ヶ島DAO化計画」の全貌や、プロジェクト立ち上げのきっかけ、その進捗などについて伺っています。

JPYC株式会社 代表取締役|岡部 典孝(おかべ・のりたか)氏

2001年、一橋大学在学中に有限会社(現株式会社)リアルアンリアルを創業し、代表取締役、取締役CTO等を務める。2017年、リアルワールドゲームス株式会社を共同創業。取締役CTO/CFOを経て、取締役ARUK(暗号資産)担当。2019年JPYC株式会社を創業し、代表取締役を務める。

聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男

島のDAO化で地方創生を目指す「青ヶ島DAO化計画」とは

岡部さん、また面白そうなプロジェクトを始められていますねえ。まずは、プロジェクトが立ち上がったきっかけについて教えていただけますか。
このプロジェクト、元々は空想上の産物でした。 2021年の末ぐらいに、ブロックチェーン関係の仲のいい人たちと「自治体がDAOになったら面白いのではないか」とか、「地方創生とDAOは相性がいいのではないか」というような話題で盛り上がっていまして。そうして話している中で、どこかの島の村自体がDAOで運営されたら面白いのでは、というようなアイデアが生まれたんです。

よくよく考えてみたら、東京都には青ヶ島という島があったと。調べると人口が160人ぐらい。島をまるごとDAOというのは理論的に可能かもしれないと思い、まずは一度、青ヶ島に行ってみようと思い立ったのが2022年の2月ですね。
そもそも「DAO」というのは、自律分散型組織などと言われるものですが、中央に意思決定者が存在しない自律的に機能する組織を、青ヶ島で目指していらっしゃるということなんでしょうか。
国は地方自治体に対して地方交付税や交付金でお金を回していたりしますよね。補助金みたいな形ですとか。それをどう使うかについては、自治体が議会などで決めているわけですね。

ですが、自治体は最近、ふるさと納税などで関係人口を増やすことにも力を入れており、必ずしもそこの自治体に住んでいる人だけではなく、ふるさと納税で寄付してくれた人や、そこに旅行で遊びに行きたい人など、住人ではない外の人たちが関わることができるような自治の姿も考えられるのではないかと考えました。そういった視点で、自治体がDAOを目指すというのは現実的にありえるのではないかと。
ということは、青ヶ島の自治の方向性を決める投票か何かを、例えばトークンを持っている方々の投票により決めていくというような仕組みそのものを、DAOと指しているわけですね。
人によって意味合いは少し違いますが、私がもともと考えていたのはそういうことです。

例えば、過疎化の著しい新潟県の旧山古志村では、地元で有名な「錦鯉」のアートをNFTで販売するような取り組みも始まっています。これまでは、住民が1人1票で誰か議員を選んで、その人たちの決議に従って予算を分けあうという自治の方法でしたが、NFTを買ってもらったり、ふるさと納税をした人にNFTを配布したりできるなら、そのNFTを持った人たちが、村の課題に関する決議に投票したり、それによって決議されたものに予算を付けるようなことも実現できるのではないかと。

DAO的な仕組みと、地方自治の融合。これって今までの自治より効率的で、かつ透明性もあって、進化しているなと感じたんですよね。
そうしたことをまずは小さい規模で実験的にやれないかということで、スタートしたプロジェクトなんですね。
はい、そういうことです。
厳密にいうと、DAOというのは代表者がいないイメージがありますが、村となると村長さんがいらっしゃるわけです。しかし、実質的には村長さんがすべて決めるわけではなく、その下にある議会や、あるいは委任されている町村総会などが決議するので、そこで何か面白いことができるのではないかと。

ある意味、国に頼らずに、地方自治として新たな取り組みができるのではないかと期待しているところです。

DAO関係者が続々と移住、プロジェクトの進捗状況は?

出典:YouTube「青ヶ島ちゃんねる

現在、岡部さんも月の半分ぐらいは青ヶ島にいらっしゃるんですよね。
東京との2拠点生活で進行されているプロジェクトですが、進捗としてはどのような感じなんでしょうか?
青ヶ島に住んでいる方と仲良くしていただいていて、今後どのような形で村おこしをするのがいいのか? という話を進めています。具体的な話としては、村に来た人にNFTを配ろうというプロジェクトが進行しつつあります。

また、青ヶ島に縁もゆかりもなかったような方たちが、今回のプロジェクトをきっかけに3〜4人移住しています。そもそも青ヶ島は167人ぐらいの村で、人口がなかなか増えないのが悩みでした。このままだと無人島になってしまう危機感がある中で、まずは人口が減っていくのをくい止めたという実感はあります。
DAOをきっかけに移住されたというのは、どういう人たちなんですか。
もともとアメリカ発のチャットサービスである「Discord」で、「DAOヶ島」というグループに入っていたメンバーです。
そもそも島民の方たちと何かプロジェクトを進めるには、まずNFTやDAOについて理解を得る必要があると思うのですが、おそらくものすごく時間がかかりますよね。それはどのように進められたのでしょうか?
おそらく最初は、青ヶ島の方たちもNFTだとかDAOだとか… 知らなかったと思います。ところが実は、青ヶ島って、光ファイバーが引かれていて、ネットが速くリモートワークの環境はかなり良いんです。

なので、まずは「デジタル青ヶ島」ということで、せっかく光ファイバーが通っているんだから、ここでみんなが仕事できるような環境にしたり、島に高校がなくても通信で行ったり、卒業後もリモートなら島に住み続けながら働くことができるんだと。住民の方とそういう話をするところからスタートしました。DAOやNFT、ブロックチェーンというキーワードは出さずに、まずデジタルでこの島をよくしたいんだということを訴えました。

正直、ネット環境は東京よりも速いぐらいです。超高速でインターネットができるので、その良さをいかして何かやりませんかと。かなりお金もかけた工事だったので、それで皆が使わなかったらもったいないじゃないですか。この工事をきっかけに何か始められないかと考えていた人も、もともといらっしゃったんですよね。

ポイントはふるさと納税と返礼品、青ヶ島の特産品が鍵

まずはデジタル化の普及・啓発から、とのことですが、最終的にDAO化を目指すなら、デジタル島民や関係人口を増やすというところにつながりますよね。

そういう人たちとのコネクションの印は、やはり「ガバナンストークン(※注釈1)」になると思いますが、その価値についても、ただ「島の決議事項について投票ができる」というだけではなかなか難しいのではないかと思います。そのあたりのデザインは、どうお考えですか。

(※1 編集部注釈)
ガバナンストークン:発行元のプロダクトもしくはサービスの運営に参加できる権利が付与されているトークン。例えば、サービスの方向性を決める投票に参加できる投票権など。
まさに、そこのデザインが肝で、私の強みを生かせるのではないかと思っています。今、私が注目しているのが ”ふるさと納税” です。

青ヶ島の特産品として「青酎」という焼酎と「ひんぎゃの塩」という天然塩があるのですが、現在はふるさと納税の返礼品を全然用意していないので、あまり寄付が集まってないんですよ。なので、ふるさと納税した人に、ただ単にその塩や焼酎を渡すのではなく、その引換券のNFTを渡そうということを考えています。

まずは実際にあるものを有効活用しようという話なんですけど、ゆくゆくは特産品をNFTで作り出していくような、逆の発想をやりたいんですよね。
なるほど、今ある制度をうまく活用しつつ、NFTを活用して新たな特産品も作っていくと。
はい。少し前に、農林水産省が「INACOME(イナカム)」というビジネスプランコンテストを開催していたのですが、私もひとつビジネスプランを提案しました(※注釈2)。

それが、青ヶ島にある未利用魚(捕獲はしたものの、手間がかかりすぎて出荷できないような高級魚)を活用したものです。今までの発想だったら、未利用魚を干物や塩漬けにして販売するだけだったのですが、逆転の発想で、まずは「干物詰め合わせNFT」を先に販売して、売れた分だけの量の干物を作れば、売れ残りがないじゃないですか。

これまでは、捕獲しても出荷できないかもしれないから漁に出ない、というような悪循環が生まれていたんですけど、先に入金もあって売れ残りもなくなるので、注文にあわせた漁ができるようになると思っているんです。

こういった具体的な取り組みを通じて、その村の産業をNFTで興すことができたら、メディアでも取り上げられやすいですし、地方創生の成功事例になると期待しています。

(※2 編集部注釈)
岡部さんが提案したビジネスプラン「青ヶ島の水産資源×NFT+WEB3=ブルーエコノミー3.0」は、本ビジネスプランコンテスト「INACOME」にて特別賞を受賞! https://inacome.jp/images/contestresult.pdf

出典:YouTube「青ヶ島ちゃんねる

あえて小さな規模で実践して、成功事例を作っていくという戦略ですね。
そうです。これが仮に、北海道など毎年すごい量の魚を出荷しているところで、ちょこっとやってもあまりインパクトがないかもしれません。

青ヶ島のように年間の魚の出荷額が数百万円、みたいな地域で、何千万円もの売上げがあればかなりインパクトがありますよね。そういう成功例を、まずは青ヶ島から作りたいですね。

DAO化の狙いは青ヶ島にまつわる関係人口の可視化

青ヶ島のDAO化プロジェクトについて、具体的にどのような効果を目指していらっしゃいますか。
一言でいうと、関係人口の可視化が大きなポイントだと思っています。現在、国は地方創生プロジェクトに対して、かなり予算を付けています。しかし予算を付けたものの、はたしてどのぐらい効果があったのかは、具体的な数字にならないんですよね。

「旅行客が何%増えた」ということは報告できますが、正直あまりインパクトはありません。青ヶ島のように「実際に移住者が増えた」というような実績につながるまでには、かなりハードルがあるわけです。
確かに、その場所に旅行したというところから、その場所を気に入って移住した、というところまでは相当ハードルがありますね。国が助成した予算に意味があったのか? と考えると、なかなか判断が難しいかもしれません。
ですよね。ところが、例えば島に来た人にNFTを発行したりすると、NFTに価値がしっかりとついて取引されるようになったり、NFTの保有者が何人いて価値がいくらということがすべて可視化できるようになると思うんですよ。

そうすると、例えばこの予算を付けたことによって、そのNFTを持っている人がこれだけ増えて価値がこれぐらい上がりましたと数字で話すことができる。仮に予算を使ったけれども、NFTの価値がまったく動いていないとなれば、その施策はあまり効果がなかったとも判断できます。
なるほど。予算を出す側にとっても、予算を取る側にとっても、その結果をどうやって可視化するかというのは最優先の課題ですよね。ブロックチェーンのように、誰にも改ざんされない形で記録に残すのは、今後ポイントになってくるように感じます。
可視化と偽造防止ですよね。
今までだったら、例えばこういう支援をした結果、関係人口が1000人増えましたといわれても、その1000人が誰なのか、本当にいるのかということは検証できなかったわけですから。でも、NFTを保有している人が1000人いて、その人たちが投票していて、という動きを見ることができたら、信頼性はぐっと高くなると考えています。

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日本円ステーブルコインJPYC生みの親が目指す地方創生「青ヶ島DAO化計画」とは? <前編> はここまで。
次回、青ヶ島がDAO化するまでのロードマップや、本プロジェクトを通して実現したい未来について迫ったインタビュー <後編> はこちらからお読みいただけます。

https://www.asteria.com/jp/inlive/local/5924/

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この記事を書いた人
高橋ピョン太 ゲーム開発者から、アスキー(現・アスキードワンゴ)のパソコンゲーム総合雑誌『LOGiN(ログイン)』編集者・ライターに転向。『ログイン』6代目編集長を経て、ネットワークコンテンツ事業を立ち上げ、以来、PC、コンシューマ向けのネットワークコンテンツ開発、運営に携わる。ドワンゴに転職後、モバイル中心のコミュニケーションサービス、Webメデイア事業に従事。現在は、フリーライターとして、ゲーム、VR、IT系分野、近年は暗号資産メディアを中心にブロックチェーン・仮想通貨関連のライターとして執筆活動中。