2020年2月4日

鎌倉資本主義を掲げるカヤックだからできたコミュニティ通貨「まちのコイン」、浸透する地域通貨のつくり方とは?

近年「地域通貨ブーム」と言われるほど、全国のさまざまなエリアで続々と誕生している地域通貨。神奈川県鎌倉市では、1ヶ月間限定のコミュニティ通貨「まちのコイン」を使った神奈川県「SDGsつながりポイント」の実証実験がされました。数多くの面白コンテンツでバズを生みだしてきたカヤックならではのアイデアと工夫を伺いました。


近年「地域通貨ブーム」と言われるほど、全国のさまざまなエリアで続々と誕生している地域通貨。一方、そのほとんどが浸透せずに終わっているという現実があります。

2020年1月から東京都でも地域通貨「東京ユアコイン」の実証実験が開始されますが、それに先駆けて神奈川県鎌倉市では、1ヶ月間限定(11月18日から12月18日)のコミュニティ通貨「まちのコイン」を使った神奈川県「SDGsつながりポイント」の実証実験がされました。

これまでの地域通貨と同様、浸透せずに終わってしまうのでは…?と予想された開始当初の前評判を覆し、利用者から多数の延長希望の声があがった「まちのコイン」。一体、何が他の地域通貨と違ったのでしょうか?

そこには数多くの面白コンテンツでバズを生みだしてきたカヤックならではのアイデアと工夫がありました。鎌倉在住で実際に「まちのコイン」をつかったライターである成瀬が、企画開発した面白法人カヤックにお話を聞いてきました。

カヤックが提唱する ”鎌倉資本主義” をもとに誕生したコミュニティ通貨「まちのコイン」

株式会社カヤック 企画部 長谷川裕子(はせがわ・ゆうこ)さん
新卒でプロバイダに入りエンジニアとして働いていたが、20代半ばごろにサーフィンを始め、湘南移住を決意。2006年にカヤックに入社し、ディレクターに転向。自社サービスから、クライアントワークまで幅広く担当する。2018年よりまちのコインの企画・制作ディレクションを手がけ、鎌倉での実証実験ではコミュニティマネージャーとしても奔走。

まず、今回はどのような背景で地域通貨の取り組みに至ったのでしょうか?
カヤックが提唱している地域を中心とした新しい資本主義のかたちである ”鎌倉資本主義” という考え方のもと、街を活性化させる取り組みではじめました。
鎌倉資本主義とはどういう考え方ですか?
鎌倉に本社を置く当社は、地域固有の魅力を資本と捉えているんです。「地域経済資本」「地域社会資本」「地域環境資本」という3つから構成されていると考えていて、GDPのような経済的指標だけでなく社会資本や環境資本も評価し、より持続的な成長を目指しています。

鎌倉は海と山があって、歴史や文化がある街なので、この環境資本に惹かれて移住してくる人も多いですよね。私も環境資本に惹かれて鎌倉に移住してきた一人です。
鎌倉は人のつながりやコミュニティが活発なんです。当社は、つながり作りの観点からまちに関わることで、街をより面白くしていこうと数多くの取り組みを行なってきました。たとえば、待機児童や産休・育休からの職場復帰の問題を企業主導で取り組む「まちの保育園 かまくら」、鎌倉で働く人に向けて昼食、夕食を提供する「まちの社員食堂」など、まちの◯◯シリーズを展開しています。

まちのコインは、地域社会資本に着目した地域のつながりづくりのための通貨です。人と人とがつながることで、仲間ができ、仲良くなるうちにその地域をもっと好きになり、地域の社会課題の解決や地域経済の活性に貢献することを目指し開発しました。
私もまちの社員食堂に行くと、普通に暮らしてたらなかなか出会えない横のつながりが新たにできるので、友達づくりの場としても重宝しています!今回開発された「まちのコイン」は、一般的な地域通貨との違いはあるんでしょうか?

店舗に置かれたQRコードを介して、コインをやり取りすることや、地域活動をするとコインを獲得できる点などは、まちのコインも他の地域通貨と変わりません。

ただ、一般的な地域通貨は地域を閉じて消費を外に漏らさないという内需拡大を目的としたものが多いように感じます。もちろんこうして閉じた経済圏をつくることも大切ですが、地域のつながりを活かし、地域を開いていくことで、地域の経済も環境も良くなるはずと考えているので、「まちのコイン」は地域内外に開けた通貨だと捉えているんです。
ちなみにどういった地域活動でコインを獲得できるのでしょうか?
「人と人がつながること」「地域と人がつながること」「地域をよくしたい想いをつなげること」をテーマにいろいろな使い道をつくりました。初対面の人と知り合いになったら、とかイベント参加、などのつながりをつくるものから、お店の窓ふきや電球のお掃除といったお手伝い、加盟店に持ち帰り容器を持っていくようなエコへの取り組みなどで、コインを獲得できます。その獲得したコインで、飲食店でお得にドリンクを注文できたり、お店の職場体験などのスペシャルな体験ができます。

「まちのコイン」のことを地域通貨と言わず、コミュニティ通貨と呼んでいるのも興味深いです。
これには、住んでいる人だけではなく、時々訪れる人も、仕事で来る人も、その場所に関わるみんなに開かれたものでありたいという想いが込められているんです。
まちのコインが関係人口の創出にもつながるということですね。 鎌倉での実証実験は、神奈川県の「SDGsつながりポイント事業」の一環として行われていますが、これは具体的にどういうことですか?
※SDGsとは… SDGs(持続可能な開発目標)とは、“2030年までに達成すべき17の目標” 「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。

株式会社カヤック 広報 梶陽子(かじ・ようこ)さん
大学卒業後、株式会社ファーストリテイリングに入社。店長を経験した後に、約15年に渡りユニクロやGUのファッションプレスや商品・企業広報など担当。2019年5月に株式会社カヤックに転職後、「まちのコイン」のほか、起業家支援拠点「HATSU鎌倉」や移住マッチングサービス「SMOUT」の広報をメインに行なっている。

実はいま、神奈川県が都道府県の中で唯一、SDGs未来都市および自治体SDGsモデル事業に選定されているんです。SDGsの達成に向けての啓蒙活動は積極的に行なっていますが、もっとアクションにつなげたい。そのために、ポイントを活用することで、SDGsの活動に触れる機会をつくり、SDGsを自分ごと化として捉える取り組みです。この事業を実現するための仕組みとして、まちのコインが採用されました。

だから、活動によってSDGsのマークが付いていたのですね。廃棄になってしまうパンをコインで買えるものがあったりと、店と購入者側がSDGsを意識できる仕組みになっているのが面白いです! 地域通貨を浸透させるための工夫を、いたる所に感じます。

「まちのコイン(300ポイント)」で廃棄予定のパンを購入でき、フードロス対策(SDGsの目標12)につなげることができる。

ブロックチェーン技術を諦めたことが「まちのコイン」の転換点

開発される上で、苦労した点はなんでしょうか。
当初使う予定だったブロックチェーン技術を諦めたことですね。

株式会社カヤック 技術部 藤田昌春(ふじた・まさはる)さん
大学卒業後、ECサイト向けASPサービスを提供する企業に入社し、新規サービスの企画・開発を担当。2011年に株式会社カヤックに転職し、テクニカルディレクター兼エンジニアとしてクライアントワークに従事。2015年頃から自社・グループ会社のプロダクト開発を横断的にサポートし、現在は「まちのコイン」を中心に開発を担当している。

企画時点では、デジタル通貨といえばブロックチェーンという風潮があったのですが、ブロックチェーンという技術はそれぞれに得意な用途と制約があり、開発を進めていくなかで、カヤックが培ってきたゲーミフィケーション要素を取り込もうとすると、実はブロックチェーンとは相性が良くないことに気づいたんですよ。

たとえば、コインは使えば使うほど、レベルアップする仕様にしています。チャレンジ課題に挑戦するとポイントがもらえたり、レベルアップすることで追加ポイントがもらえたり…。こうしたことを実現しようとすると、ブロックチェーンの用途と制約の中では設計が困難になっていました。最終的には他の分散台帳技術を採用しています。
ゲーム性があることでアプリに接触する機会が増えますよね。実際に私も使ってみたんですが、3日連続でログインするとポイントがもらえる、加盟店にいけば来店ポイントがもらえるなどゲーム性があったので、楽しんで取り組めました。

ブロックチェーンを活用するかどうかについて悩んでいたのは、どれくらいの期間なんですか?ブロックチェーンをやめようとなった時は全員一致の決断だったんでしょうか。
3ヶ月くらい悩んでいましたね。
誰が最初にブロックチェーンをやめようと言い出すかな?と思っていました(笑)。

あと、代表の柳澤が出版した『鎌倉資本主義』のなかで「ブロックチェーン技術を使って、地域通貨を作りたい」と書かれていたんです。「まちのコイン」の企画が立ち上がる前でしたが、すでに書かれているから覆していいものか…という悩みはありましたね。
印刷されちゃっているので後戻りしちゃいけない感ありましたね(笑)。
とはいえ、もともとの目的は人と人のつながりを地域通貨を通じて見える化することが大切だったので、実際はブロックチェーンでなくても実現できるとわかり、他の分散台帳技術を使うことにしました。
技術ではなく、企画を優先させたからこそできたものだったんですね。ブロックチェーン技術を諦めたことによって、プロジェクトは理想的なものになりましたか。
そうですね、いろんな制約が外れたので実現したい仕様にすることができました。

地域通貨を通じて、人と人とのつながりは増えたのか? 実証実験の手応え

ゲーム性があることでハードル低くアプリに接触することはできますが、人と人とのつながりを増やすためには、具体的にどういう施策をしたのでしょうか?

まず、地域の「つながりづくり」になるように、利用者がコインをもらえるイベントをいくつか企画しました。仕事とボランティアの間になるような企画で、現金でやりとりすると気後れするけど、完全なボランティアにすると参加する人が限られてしまうようなものです。

たとえば、ビーチクリーンや、商店街のゴミ拾い、能舞台のお手入れのお手伝いなどです。そして、お手伝いをして獲得したコインは地域のお店でつかうことができます。コインをもらうのも使うのも、仲間やつながりを作る必要がある、というのが特長なんです。そうすることで、地域のいろいろな活動に参加し、新たな地域の魅力に気がついたり、仲間が増えて、暮らしが楽しく豊かなものになると考えています。

まちのコインがそうしたイベント参加の敷居を下げることで、より多くの人が活動に参加してくれると考えました。
実際、1ヶ月の実証実験では人と人とのつながりは増えたのでしょうか?

加盟店である湘南ビジョン大学が開催したビーチクリーンが、いつもは参加者が30人程であったのに対し、60人程に増えました。
すごい!「まちのコイン」をきっかけに、敷居が下がっているんですね。
カヤックの社員が、加盟店の常連で、そこで「コインはこうやって使ったらいいですよ」というのを積極的にお店の方と話して盛り上がってくれました。その結果、そのお店での利用が増えたり、つながりが増えて、お店でも活性化することができましたね。
使えば使うほど、つながりを作ることができるわけですね。たしかに私もまちの社員食堂で開催された働くパパママ交流会で、子どものご飯代とジュース代を「まちのコイン」で代用したくて、せっせとコインをもらう活動をしていました(笑)。
足りなくなったのをきっかけに、もらうために活動してほしいと思っていたので、あえて微妙に足りなくなる設計をしているんですよ(笑)。

ほかにも、一般的な地域通貨は現金に換金できることが多いのですが、「まちのコイン」は日本円には換金できません。
なるほど。換金できないなら、エリア内でしっかり使いきるしかないですよね。地域活性化への本気度を感じます。
アプリ内では、みんなの活動履歴がみれるようになっているので、こまめに使っているのがわかり手応えはありますね。
今後、鎌倉市につづいて小田原市でも実証実験が行われる予定ですが、今回の実験を踏まえて、新たに増やす機能などはありますか?
UI上の課題はあるので改善しているところです。次の実証実験にむけて、新機能も出したいと思っています。
「まちのコイン」は、今度どのように発展していくのでしょうか?
現在、福岡県八女市が導入を検討していただいています。 八女市は、伝統的建造物群保存地区があるので町の賑わいを作るために、つながりを増やしたいという要望があります。地域通貨はつながりを作る箱でしかありません。街に合わせてコンテンツを作っていけるので、各地域に広がりを見せられればと思います。

編集後記

インタビュアーである私も、鎌倉に住みながら実際に「まちのコイン」を利用してみた結果、その企画の面白さや設計の工夫などをリアルに体感することになりました。

人と出会ったり新しいことをするのは好きでも、見ず知らずの人に声をかけたり、新しいコミュニティに入っていくのはやっぱり躊躇してしまい、人とのつながりを増やすことに億劫さを感じることもあるもの。

ですが、コインをもらうゲーム感覚と、お互いが「まちのコイン」をきっかけに集まっているという共通項があることで、イベント参加への抵抗も感じづらかったように思います。そして同時に、今回の実証実験を通して、カヤックの鎌倉を盛り上げようとする本気度がうかがえました。今後の実用化にもぜひご注目ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

関連リンク

まちのコイン

まちのコインnote

株式会社カヤック

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この記事を書いた人
成瀬夏実
成瀬夏実 フリーランスのライター。2014年に独立し、観光・店舗記事のほか、人物インタビュー、企業の採用サイトの社員インタビューも執筆。個人の活動では、縁側だけに特化したWEBメディア「縁側なび」を運営し、全国の縁側を150軒みた。1歳と3歳の2児の母。