2024年10月22日

すべての移動の裏側に “スマートドライブ” を。データが切り拓く移動革命について、北川社長に聞いてきた!

車両の走行データを取得し、フリートオペレーターの車両管理効率化や、事故防止を支援する株式会社スマートドライブ。保険会社などのアセットオーナー向けにも高精度なデータ分析を提供し、移動の変革を後押ししています。本記事では同社を大学院在学中に創業した北川烈氏にインタビューを実施。同社の強みや目指している世界、海外での事業展開についてお話を伺いました。


AI、自動運転、電動化 ーー 海外企業を含めたさまざまなモビリティメーカーが、最先端のテクノロジーで移動革命を起こそうとしています。そんな中、来たるべき次世代を見据えて、モビリティの移動にまつわる膨大なデータを利活用しようとしている企業があるのをご存知でしょうか。

その中心に立つのが、モビリティデータを活用して多様なサービスを提供している 株式会社スマートドライブ。車両に取り付けるデバイスを通じて走行データを取得し、リアルタイム管理や運転挙動の分析を行い、配送会社や営業車など複数の車両を持つ企業(フリートオペレーター)の車両管理を効率化し、コスト削減や事故防止を実現しているのだそう。

一方で、こうして集めた膨大なデータを高い精度で分析し、保険会社やリース会社など、移動にまつわるサービスを提供するアセットオーナー(AO)向けにもサービスを提供しているというのが、スマートドライブの強みでもあります。

設立当初から「移動の進化」を見据えて着実にソリューションを提供してきたのは、同社を大学院在学中に創業した北川 烈氏。事業立ち上げのきっかけや、サービスの強み、海外での展開、さらに今後サービスの成長によって私たちの日常がどのように変わるのか? という将来的なビジョンに至るまで、幅広くお話を伺いました。

株式会社スマートドライブ 代表取締役(CEO)
北川 烈(きたがわ・れつ)さん

慶応大学在籍時から国内ベンチャーでインターンを経験し、複数の新規事業立ち上げを経験。その後、1年間米国に留学しエンジニアリングを学んだ後、東京大学大学院に進学し移動体のデータ分析を研究。その中で今後自動車のデータ活用、EV、自動運転技術が今後の移動を大きく変えていくことに感銘を受け、在学中にSmartDriveを創業し代表取締役に就任。


もともと北川社長がスマートドライブの事業を始めたのは、大学院で研究していた際に『移動の世界に革命が起きることを実感した』ということがきっかけだったそうですが、具体的にどういった革命が起こると感じられたのか。詳しく教えていただけますか?
はい。大学院ではデータ分析の研究をしていたんですが、今いる場所から別の場所へ人が移動する「人流」や、飛行機の発着、ほかにも農業などにもデータ分析の技術が活用できないか? と、広い分野で学んでいたんですね。

また大学院に入る前にボストンに1年間だけ留学したことがあるのですが、大学院に進学した後に、当時の友人はエンジニアが多く、優秀な人材がテスラのような自動車メーカーに就職していたり、別の友人を訪ねて遊びに行ってみると、Googleの自動運転カーがGoogleのキャンパスの中を走っていたりしていて。そういった景色を当たり前に見ている中で、これから「移動」というものが、これまで以上に大きなスケールで変化するのではないかと強く感じました。
その変化は、遠からず日本にも入ってくると。
そうですね。電気で動いたり自動運転になったりと、 ”未来の車” が登場するんだと身を持って感じました。とはいえ、起業して十年経ちますが、未だに自動運転の車は国内で走っていないですし、たとえ今すべての車が電気自動車の自動運転になったとしても、自動車の買い替えサイクルは7年と言われてますので、普及するのに最低7年はかかります。

正直まだまだ時間が必要な分野ではあるんですが、来たるべき未来を見据えて「いま走っている車に使えるサービス」が開発できれば、これから先、未来のモビリティにもスムーズに移行できるんじゃないかと。そんな思いで、日本帰国後に会社を立ち上げました。

未来のモビリティが走っている世界から逆算して、現在の事業をスタートされたんですね。現在展開されている2つのサービスについて、改めて教えてください。
はい。1つ目は、FO(フリートオペレーター)向けのサービスとして「SmartDrive Fleet」というサービスを展開しています。これは運送業者や営業車を多く使う事業者など、商用車を利用している会社向けのSaaSサービスで、車両の管理や事故を減らすデータ分析までを行うクラウド型の車両管理サービスです

走行している車やバイクなどの運転データを自動で収集し、リアルタイム位置情報や走行履歴、安全運転診断、運転日報や月報などの管理など、企業の車両管理を効率化しています。

<Smart Drive Fleet 実際のサービス画面>

そして2つ目のサービスが、私たちが「SmartDrive Fleet」で収集した約1600社分の車やバイクの走行データを、自社のサービスや製品開発に活用できる AO(アセットオーナー)向けのサービスです。具体的には、保険会社やリース会社、自動車メーカーなどがクライアントで、うちのデータサイエンティストのチームが解析した事故リスクのデータなどを活用して、安全運転をしていたら保険料が安くなるといった保険プランを作ったりしているんですよ。
FO向けのサービスで収集したデータを、AO向けの事業として有効に活用しているんですね。
はい。例えばウェブ業界だと「ユーザー」の行動データをもとに「ユーザー向けにサービス展開する会社」がより良いサービスを提案することが当たり前にありますよね。だけどモビリティ業界って、そういったつながりが全くないんです。車を売った人はお客さんがその車でどこへ行っているのかも知らないし、保険会社は事故が起きるまで、利用者が日々どんな運転をしているのかも知らない。
言われてみると、確かに……。
”ユーザーの行動履歴を見た上で適切なレコメンドを出す” というのは、他の業界では当たり前にやられていることだし、特にモビリティの自動化が進む未来では、この業界でもきっと必要になることだと思います。

それが最終的には「誰でも自由に走行データを活用できるプラットフォーム」のようなものになるのかもしれませんが、現段階でできることに置き換えると、まずは個人車両の管理と、そのデータを活用するサービス。とにかくモビリティを使う人と、それをサポートする人を繋げていくことが必要だと考えているんです

最終的にはこうなっていくという未来を描きながら、そのために今やるべきことや、現段階でできるサービスに落とし込んでいるんですね。

モビリティの未来を支えるプラットフォームを作りたい。他社が真似できない強みとは

大量のデータを集めて高い精度で解析する仕組みと、そのデータを別の企業に提供する仕組み。この両軸があることが、スマートドライブ社の強みなんでしょうか。

弊社は、僕に続く一人目の社員がデザイナー、二人目がデータサイエンティスト、三人目が人事というかたちでメンバーを増やしていったのですが、創業時から「モビリティの未来を支えるプラットフォームを作ろう」と強く意識していました。

もしこれが仮に、特定の自動車メーカーが作ったプラットフォームだとすると、そのメーカーの車しか使えないサービスになると思うんですよ。特定のデバイスメーカーが作るサービスからしてみれば、当然、自社のデバイス “だけ” に繋げたい。だけどこれから先、テスラなどの海外企業も含め、さまざまな自動車メーカーが増えていくはずです。もちろん法人が管理する車両も、特定のメーカーだけということはなく、例えば100台の車両を管理していたら、A社20台、B社30台… みたいな感じで分散させることも多いし、それに伴う保険やリース会社も場合によっては使い分けていたりするんです。

そう考えると、あらゆるメーカーの車のデータを一同に集められて、そしてそのデータを業種やサービスを横断して展開できるものであること。僕らは ”N対N” と呼んでいるんですが、この考えこそが、弊社の強みになると考えました。
なるほど……! 業界構造的に、既存のプレイヤーが参入できなかったり、N対Nのサービスにはできない部分があったんですね。そこに切り込んでいけることが、御社の強みになると。
はい。もちろんデータサイエンスなど技術的な優位性もあるんですが、そもそもそういう業界構造があるというのはチャンスだなと感じていました。

例えば現在、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社さんと一緒にデータを活用した保険の開発を検討をしているのですが、他の保険会社と取り組みをしてはいけないという独占的な契約は一切ありません。当然その会社様との個別のノウハウを他社に提供することはありえませんが、あくまでオープンに、Non-exclusive(ノンエクスクルーシブ)で色々なパートナーさんと組む前提です。
オープンなサービスであることにスタートアップの勝ち筋があったんですね。とはいえ、お話に出てきたような大手の保険会社さんと何か取り組むというのは、最初はかなり大きな壁があったのではないかと思うのですが……。
まさに、最初はすごく大変でした(笑)。
そもそもの元になるデータがないと作れない、だけど、モノが作れないからプレイヤーが集まらない「鶏が先か、卵が先か」の世界ですね。弊社の場合は、1人目の社員がデザイナーだったという点が大きいです。

収集したデータをわかりやすくビジュアライズして、こういうことができるからこんな風に役に立ちますよ、ということを自信を持ってプレゼンして、実証実験を始めて……。そうすることでまた次のデータが取れるようになり、それを活用した次の取り組みを始めて、と繰り返していた感じですね。

先ほどおっしゃっていた ”N対N” であることや、同じデータを他社も活用するというのは、クライアントの企業側はあまり気にならなかったのでしょうか?
クライアントからすると、AWS(Amazon Web Service)の構造に近いかもしれません。そもそもAWSって、業界内での競合企業が同じように使っていても問題ないじゃないですか。むしろ、みんなのインフラだからこそ、安くて、使い勝手がいい。

たとえば保険会社としては、もちろん自社のデータが他社に漏洩したりしたら大問題ですが、同じインフラを使っているということ自体は特に問題にはなりません。僕らが目指しているのは、自動車にも、自動車に乗る人向けのサービスにも、裏側では「スマートドライブが入っている」という世界です。“インテル入ってる” みたいな感じですね(笑)。

エンドユーザーから僕らが見えなくても良くて、例えばどこかの保険に入ってたら裏側では僕らがデータ分析していたり、自動車をリースしたらそのデータを僕らが分析していたり……。とにかく移動にまつわるさまざまなシーンに、実はスマートドライブがいる、という状態を目指したいと思ってるんです。

日本ではできないことを海外法人で試す、グローバルでの可能性

2020年にはマレーシアに海外法人を設立していますよね。同様のサービスは海外でも需要があるということなんでしょうか。
はい。創業時から日本発のグローバル企業を目指していましたし、移動というのは日本だけの課題ではないという点から、早めに海外進出したいという想いがありました。

ヨーロッパやアメリカなど十カ国以上視察しながら、マーケットとして狙うならどこが良いか? と考えていたのですが、例えばアメリカだと州ごとに法律がきっちりあるので、州をまたいで事故を起こすとトラブルになりやすかったり。
海外から参入するには少しハードルが高そうですね。
そうなんです。せっかくなら「日本で培ってきた保険会社や自動車メーカーとのネットワークを生かしたい」という想いから、既存のクライアントが優位性を持っている東南アジアにフォーカスすることになりました。実際、東南アジアは日本以上に事故や渋滞が多く、移動の課題も多いんです。

国の中で人々が活発に移動していて、かつ他の国にも展開しやすいマーケットと考えて、マレーシアに法人を立ち上げました。将来的にはタイやベトナム、インドネシアへの進出も考えています。

実際に東南アジアで事業を展開される中で、感じることはありますか?
なによりも日系メーカーに対するリスペクトが強いこと。これは日本の有名自動車メーカーの素晴らしい仕事のおかげですね。あとは平均年齢が若く、基本的に誰でもスマホを持っていること。日本だと従業員にスマホを持たせていないというケースもまだありますが、東南アジアではむしろスマホがメインです。

タイではEV車も日本よりずっと普及しているし、日本よりも先進的な事例を海外市場で作って、日本に逆輸入する、みたいな可能性もあるんじゃないかと思っています。
なるほど。日本の厳しい法律だとできない、というようなこともありそうですね。
はい。マレーシアは、法律まわりも日本ほど厳しくはないですね。現在はマレーシア法人で独自にサービスを提供できるような体制も整えているので、近い将来、マレーシアのお客様向けに作ったサービスを日本のお客様に提供する可能性もあると思います。

データで切り拓くモビリティの未来。私たちの日常はどう変わる?

最後にお聞きしたいのですが、御社の事業が成長することで、私たち消費者はどんな変化を感じられるでしょうか。わかりやすいところだと「事故が減る」とか……?
そうですね。例を挙げてお話すると、私たちのサービス(FO向けサービス/AO向けサービス)って、医療業界で言うと「病院」と「製薬会社」のような関係なんですよ

製薬会社が開発した薬が、どういう効果があってお客さんがどう思っているか? というデータが今までは取れていなかったけど、それができるようになったことで、薬の開発の改善サイクルが早くなったり、よりその人に合ったサービスが受けれるようになったり。日常においてはあまり実感はないけれど、これってものすごい変化ですよね。

僕たちは、それと同じようなことがモビリティ業界でも起きるような気がしています。
いきなりすべての移動が自動運転になる、みたいなドラスティックな変化ではないけれど、例えば「安全に運転していたら保険が安くなる」とか、「事故や渋滞が目に見えないところで減少する」とか
すごくわかりやすいです! 全く新しい世界を作るというよりも、こうした小さな変化をどんどん大きくして、移動の変化を後押しできるようにアプローチされているんですね。今日、北川社長のお話を伺って、本当に「先の先」まで明確に見据えていらっしゃるんだなと感じました。

そういうことは常々意識していますね。だけども実際、これはすごく真新しいことでもないというか、先ほどもお話ししたとおり医療業界ではすでに起きている話だったりします。

「移動の進化を後押しする」という会社のビジョンも、誰もが想像していなかった新しい未来を作りたいというよりは、 ”こういう未来になったらいいよね” ってみんながイメージしてるものを早く実現したいという、そんな感覚ですね。
さまざまな業界での変化をヒントに、モビリティの未来を描いているんですね。面白い話を聞かせていただき、ありがとうございました。これから起きるであろう移動革命、そこには ”スマートドライブが入ってる” !そんな世界を私も楽しみにしています!

関連リンク

・スマートドライブ株式会社 https://smartdrive.co.jp/

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。