2025年6月3日

エンゲートが提案するスポーツ業界に特化した “ギフティング” サービスが世界へ。ファンの応援がつなぐ、アスリートの未来とは

アスリートとファンの絆を強め、選手やチームの活動資金にもなっているギフティング。日本発のこのサービスは昨年末に海を渡り、スポーツ業界が大きな盛り上がりを見せるアメリカでも熱狂を生み出しつつあります。どのような仕掛けでファンやアスリートの喜びを生み出しているのか――。その理由に迫ります。


私たちに勇気と感動を与えてくれるスポーツの世界。好きなチームや選手をいっそう盛り立てたてる方法として、「ギフティング」があります。これは、運営者から購入したポイントをギフトとしてチームや選手個人に直接贈れる仕組み。チームに新たな収益をもたらしたり、選手のキャリア支援につながったりしています。

今回のin.LIVEは、日本最大級のスポーツギフティングサービスを手がける、エンゲート株式会社 代表取締役 城戸幸一郎氏、同 執行役員グローバル本部長 山田 晋三氏をお迎えし、サービス誕生の経緯と概要、アメリカ進出の背景や感触など、さまざまな話を聞かせていただきました。

エンゲート株式会社 代表取締役 城戸幸一郎さん(写真・右)

九州大学法学部卒業後、楽天株式会社に入社。同社にて執行役員を歴任。
2018年、エンゲート株式会社を創業し、代表取締役に就任。日本初となるスポーツギフティングサービス「Engate(エンゲート)」を展開し、ファンとアスリートを繋ぐ新たな応援の形を構築。「誰もがアスリートを目指せる世界、スポーツ界の資金課題解決」を目標に掲げ、近年は、米国市場への事業展開を加速している。

エンゲート株式会社 執行役員グローバル本部長 山田 晋三さん(写真・左)

関西学院大学アメリカンフットボール部「FIGHTERS」で1993年に日本一を達成。その後、NTTに入社し、1999年には日本代表として第1回ワールドカップ優勝。2001年からはXFLやNFLヨーロッパでプレー。
引退後は筑波大学大学院で学び、IBM BIG BLUEのヘッドコーチを務め、その後、筑波大学体育スポーツ局次長として大学スポーツ改革に取り組む。現在、同時にエンゲート株式会社で執行役員兼グローバル本部本部長として米国展開を牽引。

スポーツチームとアスリートを支える新たな基盤として

まずは、エンゲートのサービス立ち上げの背景を聞かせてください。
かつて、高校時代の友人がオリンピックに出場することになったものの、資金集めにすごく苦労する姿を目の当たりにしたことがありました。彼は数千万円という資金をなんとか集めて夢を実現したのですが、このとき世界トップレベルのアスリートになるには、資金的な環境が大きな影響を及ぼすことを課題に感じたんです。

それからしばらくして、2014年のソチオリンピックで、フィギュアスケートの羽生結弦選手のファンが、選手の演技終了後にぬいぐるみや花束をアイスリンクに投げ入れるシーンを観ました。それをヒントに、アスリートの資金調達を支援できるプラットフォームビジネスをつくれないかと考え始めるようになり、2018年にエンゲートを設立しました。

スポーツ選手やチームに特化したギフティングという点で、類似サービスはあるのでしょうか?
すでに各社から選手個人を応援するサービスは出ていましたね。ただ、スポーツチームや協会単位でご契約いただいているのは、私たちが初めてだと思います。

そもそもスポーツチームにとって一般的な収益は「スポンサー収益」やチケットやグッズの売上、さらに競技によっては「放映権収益」が見込めますが、そこまで大きな市場がないマイナーなスポーツもありますし、日本のスポーツ界全体として、お金がうまく回っていないことへの課題感はずっとあると思います。

ファンも嬉しい! ギフティングの楽しさと魅力

お金がうまく回っていないというのは、日本ならではの課題なんでしょうか? グローバルではどんな傾向なのか気になります。
私たちも色々とリサーチしたのですが、コレクション目的の「NFT」や、「ドネーション(寄付)」のサービスはあるものの、海外は合法化された健全な「ベッティング(賭博)」が多くて。私たちがやっているチームや選手をファンが純粋に応援する「ギフティング」サービスは、実はグローバルで見てもかなりユニークなんですよ
そうなんですね! ちょっと意外でした。今日本でも盛り上がっている「推し活」的な文脈は、スポーツの分野でも相性が良さそうですよね。
そうですね。サービスをローンチしてから7年が経つのですが、まさに「スポーツの推し活といえば、エンゲート」といった認知をいただいています。ご利用になるチーム数、アスリート数ともに、この事業領域ではおかげさまで日本No.1になりつつあります。
選手の皆さんにとっては、応援されていることがリアルに分かる点が大きなモチベーションになっていると思うのですが、ファンの方はいかがですか?
エンゲートでギフティングをするメリットについて教えてください。
一つは、「ギフティングタイム」があります。
これは試合中にギフティングをすると、会場の大型ビジョンにデジタル花火が浮かび上がって、ギフティングをした人のニックネームが表示されたりするものです。ギフティング上位の方は、選手と交流ができたりと、ファンにとっても嬉しい取り組みとつながっています。
私も動画を視聴しましたが、すごく盛り上がっていて楽しい気持ちになりました!
ついたくさんギフティングしたくなりますし、現地で観戦する楽しみにもなりそうですね。
他にも色々な業種とのコラボレーションをしていて、なかでも花キューピット様の『花束企画』は、鉄板ですね。これは選手の誕生月に一定以上のギフティングをした方のもとへ、選手が選んだ花束とメッセージカードが届くものです。プロ野球をはじめ、多くのチーム様がこの企画に参加されています。
なんと! それは推し活心をくすぐりますよね……! ユーザーさんの満足度も高そうです。

そうですね。エンゲートには、選手が「応援ありがとうございます!」といったお礼のメッセージをファンに送信できる機能もあり、受け取ったユーザー様の満足度は非常に高い傾向にあります。普段はSNSに投稿しない選手でも、「エンゲートだから」と積極的に使われるケースも見られています。

エンゲートのアカウントをチームが公認している点が、炎上リスクも低く、選手の安心材料になっているようです。
チームオフィシャルの交流サービスとして使われている側面もあるということですね。ファンにとっては、選手に応えてもらえると、ますます応援しようという気持ちになりますよね。
ちなみに、エンゲートからお礼の返信をする選手ほど、ギフティング額が増える傾向がデータに表れています。試合などのパフォーマンス以外で、ファンエンゲージメントを高められる点は、なかなか興味深いです

他にも、ギフティングサービスの一環として、NFTを受け取れる『エンゲートコレクション』を展開されていますが、こちらはどういうものでしょうか。
『リプライコレクション』といって、選手とのコメントのやり取りそのものをNFTにするサービスです。「スポーツのNFT」と聞くと、アメリカなどで盛り上がっている選手の動画や写真のコレクションをイメージされると思うのですが、こちらは選手とファンの交流にフォーカスした、私たちらしいプロダクトといえます。
その選手が大成すればするほどNFTも大きな価値をはらむでしょうし、面白いサービスですね! ただNFT自体はまだ一般的には浸透していない状況にも見えます。実際のユーザーさんの反応はいかがですか。
おっしゃるとおり、盛り上がりはこれからに期待ですね。ただチーム様からすると、多くの手間を必要とせず、“お礼の形”として発行できる点が喜ばれていると感じます。いまはファンの方がコレクションをするに留まっていますが、今後は売買できるようになったりと、流通させる可能性も模索していきたいです。

ギフティング金額は日本の10倍!? USにも進出、そのねらいと現地の反応

続いて、最近注力されているグローバル展開のお話を聞かせてください。メインで担当されているのが、執行役員の山田さんですよね。
はい。私は大学院時代通っていた筑波大学の体育スポーツ局の次長でもあるんですが、実は日本の大学スポーツもまた、資金面での課題を抱えています。

一方、アメリカの大学スポーツは別格で、驚くほどのお金を生み出しているんですよ。アメリカで最も盛り上がるスポーツといえばNFL(National Football League)ですが、実は次に盛り上がっているのが、大学スポーツ。つまり、MLB(Major League Baseball)やNBA(National Basketball Association)以上に儲けが出ているということになります。

その理由や構造を知りたくて、僕は社会人になってから筑波大学大学院で学び、2018年には学内にアスレチックデパートメント(現:体育スポーツ局)を立ち上げて、エンゲートのクライアントになったんです。

最初はクライアントという関係だったんですね!
はい。それで、ギフティングサービスって、本当に最高なんだなと現場で感じました。ギフティングされるのを見た学生は喜ぶし、場も盛り上がるし、それを見たファンもまた喜んでくれる。なんて良いサービスなんだ! って純粋に思いました。その後、折しもコロナになり、試合のできない状態が続きましたが、この頃にはエンゲートの良さを十分実感していましたから、利用を続けていました。その折、城戸と食事する機会があり、アメリカ進出の話を聞いたんです。

先述のとおり、僕はアメリカの大学スポーツをずっと研究してきましたから、ポテンシャルの高さをよく知っていたんです。

ただ、かつてのアメリカ大学スポーツでは、“競技と関連して金銭を受け取る選手はプロ”とされていたため、大学生アスリートは原則としてスポーツに関わる報酬を得ることができなかった―― 学費全額免除の奨学金などはあったんですが、NCAAや大学が学生アスリートの権利を使って稼ぎすぎている、というような批判が高まって、選手が「NCAAや大学は自分たちの権利を使って稼いでいるのに、自分たちが自身の権利を使って稼ぐのを制限するのはおかしい」と裁判を起こしたんですよ。
おお、なんともアメリカらしい。
その結果、選手はNIL契約(The Name, Image, and Likeness:自分の名前やイメージ、肖像権を活用して利益を得られる契約)を交わせば、個人の知名度を活かしてスポンサー企業や個人からお金を受け取ってもよいとルールが変わったんです。これが2021年のことです。

城戸には「アメリカに行くのなら、大学スポーツに進出するといい。絶好のタイミングだ」と話しました。
まさに業界としても、大きな転機を迎えたところだったんですね。

ちなみに日本のプロ野球市場は全体で1200億円と言われているんですね。一方、メジャーリーグベースボールは約1.5兆円(1ドル=150円換算)です。アメリカの大学スポーツは、さらにそれよりも大きいということですから、概算でも2兆円くらい。これは大学生が多いこともあるんですが、それでも日本では考えられないほど市場は巨大です。

私たちは、「NIL契約が導入されたのならやるしかない」と、2024年12月から米国の大学スポーツでのサービス提供を開始しました。
さすがはスポーツ大国。市場規模が莫大すぎて、想像がつかないです(笑)。
でもルールが変わる節目なら、これはすごいビジネスチャンスだと、エンゲートのようなサービスが現地でもたちまち立ち上がりそうですが……。
そう思いますよね。ところが、そういう動きはなかったんですよ。
現地の企業からすると、他のカテゴリで生み出すお金が十分に大きいからではないかと推測しています。一番は放映権、続いてチケット収入です。アメリカの大学スポーツはOB/OGたちが多いので、観客はプロの試合よりも多いんですよ。

例えば、アメフトのホームゲームだと、10万人が収容できるスタジアムで開催されるんです。ここに集まって、みんなで同じ色の服を着て、一緒に応援することで、エンゲージメントが高まるんですね。大学側もそれを見込んで、主催者として来場者をしっかりおもてなしします。
想像しただけでめちゃくちゃ盛り上がりそうですね……!
そうなんです。この大規模な試合で、先ほどお話ししたような大型モニタを活用した「エンゲート・ギフティング・タイム」ができたら最高だって思いました。
日本以上に盛り上がりそうですよね。すでに2024年12月、ハワイ大学のバスケットボールの試合でエンゲートを利用したギフティングが行われたとのことですが、ユーザーの反応や使い方に日本との違いはあるんですか。

ハワイ大学のバスケットボールの試合で実際にエンゲートが使用された様子

基本的には同じですが、ファンの方にとっても、好きな選手を直接応援できるようになったこともあって、いままで溜め込んでいた熱量を、一気に放出するかのような勢いがありました。

ギフティングの金額感としても、もしかしたら日本の10倍はあるかもしれませんね。というのも、1試合あたり、3,000ドル(約50万円)ものポイントを購入される方がいらっしゃるんです。日本でもたまに見かけますが、日本人の感覚からするとなかなかインパクトがありますよね。
僕も日本とは少し違う要素があるように感じています。半分は応援の意味を込めたドネーション、もう半分はリワードの欲しさがあるような。そのバランスが絶妙です。これは、『富める者は与えよ』という宗教的な訓えからくるものもあるように思います。

つくりたいのは、誰もがアスリートを目指せる世界

このメディアを運営しているアステリア株式会社は、テクノロジーで「つなぐ」を標榜したビジネスを展開しているのですが、御社が注目されている技術的なテーマがあれば、ぜひ聞かせてください。
そうですね。ギフティングサービスの多くはネイティブアプリというクローズドな空間で提供されていますが、私たちはオープン化することでギフティング市場のデファクトスタンダードをねらえる技術戦略を取っています。具体的にはAPIの充実に力を入れており、サービスの提供のみならず、プラットフォーマーとしてスポーツチームのファンクラブやアプリをはじめ、あらゆるコンテンツホルダーのウェブサイトに実装できるという点は、技術的な優位性があると考えています。

すでに国内ではいくつもの事例が出てきています。ゆくゆくは、「チケットを買う」「ファンクラブに入る」と並列して、「ギフティングで応援する」が、スポーツチームの収益モデルの基本になるような世界を目指せたらいいなと思っているところです

なるほど! APIとして提供することで、他社サービスやプラットフォーマーを巻き込むかたちでサービスを成長させることができるんですね。今後の展開については、やはり最注力はグローバルでの展開でしょうか。
はい。海外は現在、ハワイ大学との取り組みが先行していて、とても良いスタートを切れているので、しばらくはUSの大学スポーツに集中していくことになります。その後はアメリカのプロスポーツも視野に入れていきたいですし、アジア、ヨーロッパでの展開も目指していきたいです。

とはいえ、順調に進捗しているのは、日本でたくさんの方がご支持くださっているおかげですので、国内もますますのサービス拡充に努めていきます。
おそらく「日本でうまくいっているプロダクトなら、間違いない」という“お墨付き”があるからこそ、アメリカにも進出できたのだと思います。国内での積み上げを大切にしながら、今後グローバルでの取り組みを加速していきたいですね。

私たちの目指すところは、世界中の誰もがアスリートを目指せる世界です。これを平たく言うと、夢を持って頑張っている個人を、個人が少額から応援できる世界です。そのため、すでにご利用いただいているチーム様のみならず、人手不足や資金調達に苦労されているチーム様にもよりそい、一緒になって打開策を考えていきたいと思っています。

エンゲートというプラットフォームを使って、いまの10倍、100倍と収益を上げていくことで、チームと選手、そしてファンにも喜んでもらえる世界の実現に向け、引き続きギフティングサービスを介してスポーツを盛り上げ、その発展に貢献していきたいです。
世界のスポーツファンを熱狂させるサービスが日本から誕生するなんて、とってもワクワクするお話ですね! 貴重なお話をありがとうございました。これからもエンゲートの挑戦を楽しみにしています。

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。