2019年9月30日

日本は世界で一番ブロックチェーンが入りにくい国?『WHY BLOCKCHAIN?』著者の坪井大輔さんに訊く、ブロックチェーンが本当に活かされるビジネス分野とは【前編】

初の刊行本『WHY BLOCKCHEAN なぜブロックチェーンなのか?』(翔泳社)がブロックチェーンの入門書として大ヒット中の坪井大輔さんに、ブロックチェーンが持つ真の価値、可能性をとくと語っていただきました。


これまでin.LIVEでは、基本から応用まで、さまざまな角度からブロックチェーンを掘り下げてきました。今回は、ブロックチェーンを具体的な事業に活用する分野において先駆者的存在として知られる、株式会社INDETAIL 代表取締役CEO 坪井大輔さんに話を伺います。

坪井さんといえば、著書『 WHY BLOCKCHAIN? なぜ、ブロックチェーンなのか? 』(翔泳社)が、テクノロジー業界はもとより、ブロックチェーンを理解する入門書として大ヒット中。お笑いコンビ・オリエンタルラジオの中田敦彦さんが自身のYouTubeチャンネルなどで絶賛していたこともあり、現在多くの人がこの本を手にブロックチェーンについて学んでいます。

今回の記事では、ブロックチェーン技術の国内・海外の活用事例をはじめ、変化するコミュニティの在りかた、ブロックチェーンがもたらす未来についてなど、”ブロックチェーン思想家”の先進的な考えに迫ります。

今回お話を伺ったのは…

株式会社 INDETAIL 代表取締役CEO
坪井大輔(つぼい・だいすけ)さん

小樽商科大学大学院アントレプレナーシップ専攻MBA取得。札幌にてスマホアプリ開発のITベンチャー設立。1億円の資本調達、C2Cコマース・システム開発・ソーシャルゲーム運営の3事業への参入とEXITを経て、現在はブロックチェーン事業に集中。シリアルアントレプレナーとして躍進する。啓蒙活動にも積極的で講演実績は年20件以上。著書『WHY BLOCKCHAIN』は、発売2ヶ月で続々重版、1万部突破を達成する。

日本はブロックチェーンが世界で一番入りにくい国!?

本日は宜しくお願いします。
ここ最近、人々のブロックチェーンへの関心が広がりつつあるように感じますが、まずは日本におけるブロックチェーンの認知度、普及率からお聞かせください。海外と比べてどうなんでしょうか?
ユースケースとして最も知られているのが、ビットコインに代表される仮想通貨(暗号資産)ではないでしょうか。この分野は海外に先駆けて法整備が行われており、日本は一歩先を進んでいます。ブロックチェーンをテクノロジーの視点から捉えても世界から評価を受けているんですよ。ただ、事業としての導入自体はあまり進んでいません。
技術力はあるのにそれを持て余しているとは……何か導入を阻む要因があるとか?
ブロックチェーンって、端的に言うと“管理を分散させて仲介を無くす仕組み” なのですが、日本は仲介を立てる中央集権の仕組みで国や組織が作られ、法も整備されています。いわば、ブロックチェーンは利用することは、従来の方法を否定することになるので、既得権益やら法律やら障壁が多くあるんです。ここをクリアしないことには……と二の足を踏んでいる状態です。

そんな事情があるんですね。
技術以外のところが障壁になっていたとは…。
ただ、日本が特殊なだけで、ブロックチェーン技術を国づくりに積極的に活かそうとする国も多くあります。
それらの国は、つまり法律や既得権益が無いということでしょうか?
ディスラプト、ゼロリセットされた国は、その傾向にあります。たとえば、EU圏は共通通貨である「ユーロ」をビットコインのように国をまたいで使っていますよね。

ヨーロッパは侵略を繰り返すなか、国境が変わったり、人種が交ざったりしながら歴史を重ねています。こういう土地柄は、中央集権的な考えがなじまないので、ブロックチェーンはフィットしやすいんですよ。それから、アフリカやASEANといった発展途上国はインフラ整備もこれからなので、せっかくだから最新のテクノロジーを用いて政府や企業組織を形成しようという意欲が高いんです。

例えばの話ですが、もし仮に『シムシティ』でまっさらな土地に好きに街をつくっていいと言われたら、香川さんもそうしませんか?
確かに!(笑)
やはり最新技術を駆使して、スマートシティにするでしょうね。
そうでしょう。ブロックチェーンは、そのシナリオのもと普及していくイメージです。こんなふうに国の成り立ちを踏まえると、日本はブロックチェーンが世界で一番入りにくい国なんですよ。
それは他国に侵略されることなく、長く積み重ねてきた歴史が今もずっと続いている。このことに不都合を感じていないから新しくする必要がない。それがハードルを上げていると。
そうです。僕ら困っていないし、裕福だし、さらには、法規制や既得権益でがんじがらめの環境です。日本は今後、人口減少という問題に直面しますが、いまの暮らしに慣れてしまったこの状況では、危機に鈍感です。気付いたときには遅いという事態になりかねません。
坪井さんは、そこに危機感を持っているということなのでしょうか?
同時にチャンスだとも思っています。
こういった状況を踏まえ、僕の会社は、国内と国外で戦略を大きく変えています。国内は、法的な制約や既得権益がないもの、もしくはそれを取っ払ってでもどうにかしなければならないものに軸を置いているんです。たとえば、過疎地域などでの活用です。

過疎地域については、技術を使って儲けられるかどうかの世界ではなく、この地域をどうやって存続させるのか?という重要な命題がある。要はブロックチェーン技術を国のインフラとして活用することが求められています。一方、海外は、ブロックチェーンが入りやすい分散型組織やコミュニティに進出する戦略を選定しています。

一言でまとめるのは難しいのですが、ブロックチェーンはインターネットと同じで、インフラで上にアプリケーションやサービスがあって、これらでどの市場をねらうのかを決めるので、単体では議論がしにくい。そのぶん汎用性のある世界共通のテクノロジーだと思っています。

「オンラインサロン」が自律分散型のフラット組織のモデルに?

ブロックチェーンが従来の中央集権型から分散型に変えるテクノロジーであることは理解しました。つまりは、坪井さんも著書で説明されているDAO(自律分散型組織)という新しい組織ができるんですよね。これは具体的にどういうことなのでしょうか?
いま、オンラインサロンが流行っていますよね。利用者から毎月定額をもらって情報を提供する、というビジネスです。この組織は、サロン主というヒーローがいることで成り立っています。ヒーローがいないと、みんなあちこちに向いてしまいますが、いるとそこに視線が集まるからです。ここを踏まえると、オンラインサロンは成功するフラット組織の一つ、ブロックチェーンの成す分散型コミュニティの一個と言えるでしょう。

メンバーには、社長もフリーターもいる。ヒエラルキーの上下や所得格差は関係ありません。むしろコミュニティに貢献する気持ちがフリーターのほうが強ければ、このコミュニティにおいては社長よりもフリーターのほうが上なんです。

要は、いわゆるリアルな経済圏のなかでの地位の格差とは異なる格差をコミュニティの中でつくれるようになる。その格差を生むのは、コミュニティ内で流通する『トークン(代用通貨)』と呼ばれる価値です
お金では図れない新しい価値が誕生する、ということですね。
そうなると、何を持って格差とするのかがこれまでの価値観から変換されるので、生きるモチベーションの矛先が変わったり、ストレスや息苦しさがなくなったりするんです。

例えば、東京の暮らしがしんどい人、経済格差の社会で生きることが苦しい人が、地方にあるコミュニティに移って生きがいを見つけられるようにもなります。すると、人口が分散するので、いまの一極集中が緩和されたり、過疎地域の対策になったり、色々なことが起きますよね。
移住や二拠点生活は、昨今よく語られていますよね。
ええ。今後はさらに増えていくでしょう。そのヒントになるのが、先ほどのオンラインサロンです。今後は、著名人やタレントがテレビではなく、オンラインサロンでお金を稼ぐようになる。ある意味、YouTuberもファンがいて成り立つコミュニティですよね。
ブロックチェーンがコミュニティの在りかたを変えるから、人々の生き方も変わるということですね。

現在、ヒーローは個人に向いていますが、今後は趣味やし好、お店、さらには考え方などにシフトします。これにともない、トークンも成長していくでしょうね。

そのため今後はこのトークンを流通させる新しい世界が必要になるでしょう。円では交換できない価値をつくらなければならないんです。第一段階は、トークンを定義し、我々がそれに慣れることになるでしょう。そこから徐々に、トークンが流通する世界を創造していくことになると思います。

【後編(公開準備中)】に続く…

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。