2019年6月10日

『IoTビジネスがまるごとわかる本』著者に聞いてみた!IoTの未来が巻き起こす、ビジネスのパラダイムシフトとは?

「IoTで社会が変わる」とは言うけれど、一体何が変わるのか? ここ数年で格段に進歩したIoTの技術やそれを取り巻くビジネスの変遷、これから先に起こるであろう未来について『最新 図解で早わかり IoTビジネスがまるごとわかる本』を出版された神谷雅史さんにお話を伺いました。


モノのインターネット化を意味する「IoT(Internet of Things)」という言葉。「スマート家電」や「電気自動車」などをはじめ、数年前よりもずいぶん身近なものになったと感じる読者の方も多いのではないでしょうか。

その背景にあるのは、IoTに係る技術の進歩だけではなく、IoTを取り巻くビジネスそのものの変化や、「デジタルトランスフォーメーション」というIoTやAI、RPAなどの新たな技術を包含した考え方が進んだこと。その変遷や、これから先に起こるであろう未来、さらなる技術躍進のカギを握る5Gの実態について、2019年3月に『最新 図解で早わかり IoTビジネスがまるごとわかる本』を出版された神谷雅史さんにお話を伺いました。

株式会社CAMI&Co. 代表取締役CEO
神谷 雅史(かみや・まさふみ)さん

デジタルトランスフォーメーションプロデューサー兼コンサルタント。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、同大学院修了(國領二郎研究室)。日本ユニシス株式会社総合技術研究所でロボット・IT・観光を研究後、アクセンチュア株式会社、経営戦略部門を経て、株式会社CAMI&Co.を設立。ほかに、KDDI∞ラボ社外アドバイザー、都立産業技術研究センターIoT支援委員会委員、大阪市アクセラレーションプログラム専門家メンター、企業顧問なども務める。

IoTは普及しているのか? 技術的と社会の両軸で考える

本日はよろしくお願いします!
神谷さんの著書を読んで、そもそも「IoT」という概念が20年も前からあったということに驚きました。
当時は「ユビキタス」と呼んでいましたが、言っていることは「IoT」と変わらないんですよ。『すべてのものがインターネットに繋がる』という意味で。一番変わったのは技術が進歩したということですね。
具体的にはどういった技術が進歩したのでしょうか?
端的に言うと「繋がり方」です。今まではモノとインターネットの繋がり方が、Wi-Fiとか、Bluetoothとか… とにかく決められた環境下でしか繋がらなかったんですよ。それがスマートフォンが出てきたことによって、スマホ経由で繋ぐことができるようになった。Wi-Fiが不要になり、さらに最近ではスマホも要らない、という風になってきています。

これらの変化は、LPWA(Low-Power Wide-Area Network)や、Wi-SUN(Wireless Smart Utility Network)と呼ばれる技術のおかげですね。
まさに先日、Wi-SUNの技術について取材をさせてもらっていたところです。それぞれに通信距離や速度などの特徴があるんですよね!利用する目的に応じて、インフラを使い分けることもできるようになったということなんでしょうか?
そうですね。こんな風にインフラが最小限になることで、価格が安くなったりと色々なメリットがあります。令和元年は「LPWA元年」になるのでは?とも言われていますよ。

でも… 残念ながらそういった話はすべて技術論で。実はビジネス的な面では、あまり昔と変化していないのが現状です。日本の場合は「プロダクトアウト」、とりあえず作って好きに使ってくださいねというやり方が多いんです。技術とビジネスを両輪で回していく必要があるにも関わらず、そこが置きざりになっていることが多い。
とりあえず便利になる!という雰囲気は感じますが…(笑)
それって、私自身が大学の研究室にいたときから変わっていないんですよ。 ネットワーク家電の考え方だって、パソコンからエアコンのスイッチをつけよう、冷蔵庫の温度管理をしようということはやっていたのですが、「それによってどう社会が変革されるのか?」「ビジネスにどうインパクトを与えるのか?」という点まではあまり考えられていなかったわけです。

IoTを本当に普及させるには技術の進歩だけではダメで、技術的な観点と、社会的な観点、両方から考えられる思考が大事だと考えていますね。
なるほど…。でも、そもそもいまの日本の普及状況って客観的に見るとどうなのでしょうか?この業界にいると、IoTがどんどん普及しているな〜と肌で感じることも多いのですが…
何をもって普及なのか?と見る観点にもよりますね。 例えば、2020年にIoTの接続デバイス台数は500億台になるだろう、と言われています。これは一人あたり6〜7台のデバイスを所有するということです。数字的には爆発的な広がりといえますが、すでに持っている人はそれぐらい持っているんですよ。私からしてみると、それではまだ普及しているとは言えないですね。

今この会議室を見渡してみてください。何がインターネットに繋がってます?
うーん… スマホと、テレビと…
意外とそんなものなんですよ。撮影しているカメラはインターネットには繋がっていないし、机も椅子もまだ大半のものが繋がらず、物理的にそこにあるだけ。

技術論だけで普及させようと思っても無理があるんですね。利用者のベネフィットがなければ、そもそもインターネットに繋げてみようと思いませんから。

技術の普及に欠かせないのは、資本力とカリスマ!?

先ほど、日本は「プロダクトアウト」で社会的な観点が足りていないという話がありましたが、海外の普及の仕方はやはり日本とは違うのでしょうか?
欧米でも大きな団体が「IoTをどう進めていくか?」という制度などを策定していますね。ただ一つ違うのは、GAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)のような大企業が巨大な資本力を持ってデファクトスタンダードを取りに行くということです。
うーん、なるほど。
確かにスマートフォンなんかもAppleのiPhoneがなければここまで普及しなかったのかも、と思っちゃいますね。ただ技術を開発しただけじゃなくて、そのブランドやライフスタイルまで、世界を一気に塗り替えたような気がします。
これはIoTに限らず、どの技術でも近いことが起こっているんですよ。 例えば、最近話題の「キャッシュレス」も、一社がどーんと100億円とか200億円ばらまいてキャンペーンを行ったことで一気に認知度が上がったり。過去に、Yahoo!BBが、ADSLのモデムを街なかで戦略的に無料配布して、一気に家庭内のインターネットが広まったのも同じ話ですよね。

新しい技術をスタンダードにするには企業の資本力も欠かせなくて、これぞ ”リアル資本主義” という感じがします。団体を作ってみんなで進めましょう、とか政府が制度をつくりましょうというのは、もはや昔の話。企業が資本力で戦うと、もうそのスピードに政府や団体はついていけないわけですよ。
技術の普及に、企業の資本力こそが大きな力になるとは!
普及を後押しするのは「コストの変化」「技術の変化」「社会の変化」だと考えています。社会の変化には、資金調達のしやすさといった制度の変化も含まれるわけですが、例えばスティーブ・ジョブズみたいなビジョナリーな人が登場するというのも、市場を大きく変える一要因になりますね。
コスト、技術、社会の変化ですが… ちなみにこの中で一番むずかしいのってどれなんでしょう?
どれが難しいというか、これらが起こるタイミングですよね。歯車のように色々な要因のタイミングが合わさった瞬間に、一気に普及が後押しされます。

たとえば先ほどのキャッシュレスの話も、これから先の「増税」もフックとしてありましたよね。キャッシュレスであればポイントがキャッシュバックされる、という制度ができたからこそ、企業が思いきってキャンペーンに投資できたわけです。社会との歯車って、こんなふうに合わさっていくんですよ。技術の進歩だけで語れないのは、そういう理由です。

5Gの誕生で変わる私たちの日常は?

神谷さんのお話を聞いて、新しい技術の普及についての考え方がみるみる変わりました…。一方で、技術の大きな後押しになる可能性もある「5G」はどうでしょうか?登場することで、私たちの日常が明らかに変わるということはありますか?
変わる可能性は十分に秘めていると思います。そもそも5Gは、低遅延で、大量のデータを大量のデバイスに一気に通信できるというものです。
日頃の生活の中で考えると、スマホでのダウンロードがめちゃくちゃ早くなるとか、動画がスムーズに再生できるとかそういうことですか?
分かりやすいところでは、そういうことです。
ただ「スピードが速い」ということでは5Gは語れないです、一番重要なのは「低遅延」ということですね。
低遅延であるメリットを一番受けられるのは…
たとえば「自動運転」です。人が突然パッと飛び出してきて、急ブレーキをしないといけないとか、コンマ1秒で事故が起こるかどうか変わるようなシーンで、低遅延ということが力を発揮します。これは4Gでは解決できなかったことなんです。

それと同じ意味で考えると、「遠隔治療」なんかにも可能性があります。一瞬の判断で遅延なく一気に指示を出すことは、5Gの利点である低遅延が活かされますよね。そういった意味で私たちの日常が大きく変わる可能性は秘めていますよ。
一方で、5Gのデメリットは遠くまで飛ばないということですよね。
そうですね。ただ、まさにそこを「IoT」が補完してくれると思っています。例えば5Gがつながらない地方では、低電力で遠く飛ぶLPWAの技術が補完してくれたり。そこでまたIoTの需要が高まればいいなと。

今実際に僕たちの会社では、LPWAを実装した基板をプロトタイプで作成しているところなんです。「IoT Digital Transformation Kit」と呼んでいるのですが、ゼロからIoTを導入できない企業にもビジネスとセットで提案することで、IoTをさらに「使える」ものとして普及させていきたいですね。

「消費の仕方」が変わる!? IoTビジネスが巻き起こすパラダイムシフト

最後にお聞きしたいのは、IoTビジネスが巻き起こす世の中の変化についてです。
そもそも当社のビジョンは「IoTによって社会を変える」ということなんです。 私は「すべてのものがインターネットにつながることで、本当に何もかも変わる」ということを強く発信していきたいですね。
何もかもが変わる!ですか…!
なぜそうなるかというと「消費の仕方」が変わるからなんです。
消費の仕方?
はい。今までって、お金という対価を払うことでモノを所有してきましたよね。だけど最近になって「シェア」という考え方も当たり前になってきました。車や洋服、空間まで…。モノの価値が下がって、どんどんサービス化されているのが現状です。
確かに、私の周りでも洋服のシェアサービスなんかは使っていますね。あとはクローゼットのシェアサービスとか。使った分だけ払えば良かったりするので、便利だなあと思います。
究極的にはモノの価値はゼロになって、サービスの価値しかなくなるのでは? 今後すべてのものがそうなるのでは?ということを思っているんです。

例えば、このペンも所有することにお金を払うんじゃなくて、利用に対してお金を払う。ただ持っているだけなら無料で、使った分だけお金を払うという仕組み。実際に使われたかどうかがわかる小さなIoTセンサーがペンについていれば、そうしたことも簡単にできるわけです。
そうなると消費の仕方も、そもそも商品の選び方も変わりますね。
洋服だって「一回着たら100円払ってください」となるのではないかと。
そうなると業界が全部やり方を変えなきゃいけないフェーズになりますよね。すぐには難しいかもしれませんが、洋服に違和感なくつけられる基板ができてインターネットにつながりはじめれば、ちょっとずつでも変わっていくと思います。
う〜ん、確かに!そう思うと、IoTの普及って本当にすべての業界に関係のあることなんですね。
そうなんです。一見、あまり関係なさそうな飲食業とかにもかなり可能性はありますよ。たとえば飲食店って、ものすごく初期投資がかかりますよね。店舗、お皿、テーブルに調理機器… オーナーさんはそれらを全部負担して店をオープンさせるわけです。それでも売上げが思うようにいかなければ、一年で店を潰すなんてこともザラにあります。

だけどそれが「使った分だけ払う」ということにできたら?と思うわけです。固定費ではなくてランニングコストとして計上できるようになれば、利用された分だけ払う、お客さんが多ければその分たくさん払うというモデルになります。お客さんが多くても少なくても一定の固定費がかかるというのはとても重いですが、それを変動費に変えてしまえるなら、もっと気軽に挑戦できる人も増えるはずなんです。
そうか…。そう考えると、飲食業だけじゃなく、不動産や固定費がかかりがちなビジネスには何でも活かせそうですね。神谷さんが「すべてのビジネスが変わる」とおっしゃる意味がよくわかりました。
いま世の中で言われているような「IoTで繋がる」って、だから何?と思われがちなんですよ。そうではなくて、コスト・技術・社会を変えることで、産業全体をまるっとひっくり返そうっていうのが自分たちのビジョンでもあります。最近それを含めて弊社では「デジタルトランスフォーメーションの実装」と呼んでいるのですが、IoTはそのためのほんの一部のツールでしかありません。デジタルトランスフォーメーションを社会実装するとなるとIoTだけでは解決できないことが多いのです。

なので、弊社としてはIoT/5Gはもちろん、AIやRPAやロボティクスやブロックチェーンなどの先端技術を掛け合わせてデジタルトランスフォーメーションをすべての産業で実現していこうと思っています。

そうした背景の中で、IoTの普及によってビジネスのパラダイムシフトが起こるということが今回出版したこの本で一番伝えたかったことですね。IoTに関わる仕事をしている人に限らず、むしろそういった話題とは無縁の業界にいる人こそ、知っておいて欲しいんです。その情報の交差点をつくっていくことを目指さないといけないですね。

編集後記

以上、いかがでしたか? 「IoTが社会を変える」という声も聞こえますが、具体的に何がどんな風に変わるのか?ということを、今回神谷さんに分かりやすく解説していただきました。

消費者にとっての利益は「ただ便利になる」ということではない。これはIT技術に携わる身としては忘れてはいけないポイントだなと思わず納得。一方で、なんとなく自分からは遠い存在だと感じていた技術が、気がつけばすぐそこまで来て自分を取り巻く業界や環境をがらりと変えてしまうことも十分にありえること。社会と密接に関わることが期待される、IoTやAI、RPA、ブロックチェーン… これらの情報をしっかりキャッチアップしておくことこそが、自社のビジネスチャンスやリスクを見逃さないための第一歩になるのかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。