2025年1月27日

『新NFTの教科書』執筆者2人に聞く、新たな局面を迎えたNFTの真の可能性

2024年11月に出版された書籍『新NFTの教科書 web3時代のビジネスモデルと法律・会計・税務』。法律や会計、事業など最前線の分野で活躍する46人によって執筆された本書は、web3全体における最新情報が網羅されており、「web3のバイブル」といっても過言ではありません。本記事では、本書の共同編集者である天羽健介さん、増田雅史さんにお話を伺いました。


2021年に世界的なブームとなったNFTですが、2024年以降、各業界でNFTを活用したさまざまなビジネスが誕生するなど、新たな局面を迎えています。このほど、そんなNFTの可能性や注目すべきユースケースなどについてまとめた『新NFTの教科書 web3時代のビジネスモデルと法律・会計・税務』が2024年11月に上梓されました。

法律や会計、事業など最前線の分野で活躍する46人によって執筆された本書は、web3全体における最新情報が網羅されており、「web3のバイブル」といっても過言ではありません。

今回は、本書の共同編集者である天羽健介さん、増田雅史さんに、本書に込めた想い、またNFTはこれまでどのような進化を遂げ、今後どのようなビジネスに活用できる可能性があるのか? についてインタビューさせていただきました。

天羽 健介(あもう・けんすけ)さん|Animoca Brands 株式会社 代表取締役CEO
2007年株式会社リクルート入社。複数の新規事業開発を経験後、2018年コインチェック株式会社入社。主に新規事業開発や暗号資産の新規取扱、業界団体などとの渉外を担当する部門を統括。2020年より執行役員として日本の暗号資産交換業者初のNFTマーケットプレイスや日本初のIEOなどの新規事業を創出。2021年コインチェックテクノロジーズ代表取締役、2022年6月にコインチェックの常務執行役員に就任。Web3領域の事業責任者としてNFT事業、メタバース事業などをリード。同社とAnimoca Brandsが2020年に締結したパートナーシップのもと、『The Sandbox』や『Otherside』などの日本展開にも携わる。2024年2月よりAnimoca Brands Japanの副社長COO、同年12月に代表取締役CEOに就任。著書に『新NFTの教科書』『ノンファンジブルミー』(朝日新聞出版)。

増田 雅史(ますだ・まさふみ)先生| 森・濱田松本法律事務所
弁護士(日本国・NY州)、一橋大学特任教授(Web3・メタバースと法)。IT全般の法務に広く精通。日本オンラインゲーム協会アドバイザー、ブロックチェーン推進協会アドバイザー、日本暗号資産ビジネス協会NFT部会法律顧問・ブロックチェーンゲーム部会顧問、自由民主党web3WGアドバイザー。『ゼロからわかる 生成AI法律入門』、『いまさら聞けないWeb3、NFT、メタバースについて増田雅史先生に聞いてみた』など著書多数。

<聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男>

「NFTは死んでいない」。3年でより本質的な価値に注目が集まるように

本作『新NFTの教科書』は、2021年に出版された『NFTの教科書』をアップデートする形で誕生したと聞きました。そもそも前作の執筆のきっかけは何だったのでしょうか。
NFTブームが始まったのが2021年の春先の頃ですが、その頃にちょうど出版社から執筆依頼がきたんですね。単純に法律の本だけにしてもよくないと思ったので、天羽さんに「ビジネス分野で関わる方々も集めて一緒に本にしませんか」とお声掛けしたんです。それが前作の『NFTの教科書』出版のきかっけでした。

前作の発売当時、NFTはビジネスとして急に盛り上がってきたものの、なかなかルール整備が進んでいない状況でした。そこから3年間でNFTの位置づけも使われ方も変わり、ルール整備も進んできました。そこで、そろそろこの内容もアップデートした方が良いのではということで今作が動き出しました。
そうですね。あとは、この間グローバル全体でNFTの使われ方が進化してきたという側面もあります。

日本は暗号資産とNFTの境目が明確に金融庁のパブリックコメントで示されており、事業者からすると、NFTに関するビジネスがしやすいというユニークな事情があります。事業者の利用をより促進する意味を込めて、再度アップデートしようと今回の執筆に着手しました。
なるほど。ちなみに本書は冒頭、天羽さんの「NFTは死んでいない」という言葉からスタートします。この言葉にどんな意味を込めたのでしょうか。
NFTを含むWeb3は動きが早く、盛り上がったり、盛り下がったりを繰り返しています。2021年当時はNFTの売買もたくさんありましたが、2022年後半から価格が下がってきたんです。それで、一部から「NFTは死んだ」と言われるようになりました。

ただ、私を含む今回の執筆陣は、第一線でビジネスに取り組み、ルール整備にも取り組んできています。NFTを使う本質的な価値に向き合ってきた中で、NFTは磨かれてきたという印象を持っているんです。

2021年当初は、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーのツイートが3億円で落札されたりとニュース性のある話題も多かった一方で、画像にブロックチェーンを付けただけのものが販売されたりと迷走したこともありました。しかし、この3年間では唯一無二性などよりNFTの本質的な価値が実装されるなりました。

これでまでは画像やイラストにNFTが紐づけられるようなシンプルなものでしたが暗号資産やDID、ポイントなどと並列にNFTを複合的に組み込んでトークンエコノミクスが創られており、NFTの特性がうまく活かされています。本書のタイトルはNFTという文言を利用していますがNFTはあくまで手段でありここ数年のweb3全体の進化とともにNFTが融合していく過程にあるとみれています。これを一過性のトレンドだと誤解をしている人たちにも正しく伝わってほしいという意味を込めて、そういう表現をしています。
確かにメディアでも「NFTは死んだ」という表現をよく見かけたように思います。改めて、この本に込めたメッセージをお聞かせいただけますか。
NFTを含むweb3は、日本が世界で戦っていく上で、残された数少ない手段だと思うんです。事業者がこうした状況を正しく理解し、web3の業界に参入することで良質な選択肢が増えていきますし、それによってユーザーも増え、さらに事業者が増えていくという好循環を作っていきたいと思っています。アニメや漫画など世界で戦えるコンテンツ、知財を持っているというのは、日本ならではの強みだと思います。ファンやコミュニティが形成されるような領域とNFTは相性が良いので、マーケティングやロイヤリティプログラムの領域でも有効活用できる可能性が高いと考えています。

今回デジタル大臣も地方創生の文脈の中でのNFTの活用に言及されています。様々な有効活用の仕方を模索していきたいですね。
そうですね。経済のデジタル化と言われて久しいですが、今は我々が普段暮らしているフィジカルな空間とデジタルな経済圏が融合し始めている状況だと理解していいます。そして、デジタル経済圏の中で様々なものをやり取りする手段として、ブロックチェーン上のトークンが有用であるという認識が広がってきました。それはもはや、NFTやWeb3の文脈だけではなく、AIやメタバースなとも結びつき、大きな経済圏になっていくと考えています。そうなったときに、NFTはリアルワールドの様々な資産や権利をバーチャルに横展開していくための、極めて重要なインフラになるはずです

そうなると、法律的な意味でも、例えば権利をトークンを通じて譲渡する場合、どこまで有効なのか、また譲渡の過程で暗号資産を使っているのであれば金融規制はどうなるのか、といったさまざまな疑問が湧いてくると思います。本書では、そのあたりのマッピングをしっかりしていただけるよう心掛けました。

NFTの最前線を知る40人による網羅的な内容に

まさに「教科書」なんですね!昨今web3関連の本はたくさん出版されていますが、本書ならではの特徴とはなんでしょうか。
ビジネスや会計、法律において第一線で活躍している現場の方々をバランスよく執筆者としてお迎えしている点でしょうか。さらに、最終章の「NFTの未来」では、過去のインターネットビジネスなど時代の移り変わりに立ち会ってきた方々が執筆しています。

この領域はスピードが早いので、関わっている事業者の心が折れそうになることもあると思うんです。ただ、過去を振り返ったときに今が時代の変わり目だと捉えられれば、踏ん張りにも繋がると思います。
事業者に向けての応援の意味も込められているんですね。前作からアップデートされた点は具体的にどのような点ですか?
今回は「インフラ」に関するパートを新設しています。最近はウォレット、コミュニティなど、アプリケーションを使う上での基礎的なインフラの部分が整ってきました。

NFTだけを語るというよりは、NFTを取り巻くweb3の状況を語ることこそ、NFTの教科書足りえるのではないかと考えています。NFTの事例ユースケースはしっかり伝えながらも、周辺領域の情報も加え、全体像を俯瞰で理解していただくことに重きを置いています
そうですね。デジタル経済圏とフィジカルな経済圏の融合がこれから進んでくるだろうというのは、10年近く前から我が国が「Society 5.0」を新しい社会観として標榜してやってきていることでもあります。

2023年になってからEUも「Web 4.0」と言い始めたんですが、その内容を見ると、日本のSociety 5.0とほぼ同じ話なんです。もはやこれはグローバルのトレンドだと理解しています。そうなったときに、デジタルエコノミーを回していく上での重要なインフラとしてNFTが再定義されていくのかなと思います。

NFTの唯一無二性を活用すると社会はどう変わるのか?

改めて、NFTはこれまでどのように進化してきたのでしょうか。
これでまでは画像やイラストにNFTが紐づけられるようなシンプルなものでしたが暗号資産やDID,ポイントなどと並列にNFTを複合的に組み込んでトークンエコノミクスが創られており、NFTの特性がうまく活かされるようになってきています。

現在は私たち一人一人がwebサービス毎にアカウントを作成して利用していますが、web3が社会に浸透すると免許証のような分散型IDが紐づいたウォレットを一人一人が保有しそこからさまざまなアプリケーションに接続していくという世界に変わっていきます。そういった際にNFTの唯一無二性の価値が最大限に発揮されるのではないかと考えています。

本書では、NTTデータの遠藤さんにNFTの唯一無二性をうまく活用したときに社会がどう変わるのか? について執筆いただいているので、ぜひ読んでいただきたいです。

それは今までのデジタルでは表現できなかった世界観ですね。一方で、現状「NFTの課題点」というとどういうことが挙げられるでしょうか。
現状のNFTの課題は「流動性」にあるのかなと思います。より利用を促進するためには、NFT自体は譲渡可能なので、売りやすいときにちゃんと売りたい価格で売れる、といった点を担保する必要があります。

免許証のような証明書は動いてはもちろん譲渡不可能でないといけないですが、例えばポイントカードや会員権のようなものは売りたいときに誰かに売ってもいいですよね。そういう流動性があると、より社会の中で使われやすいのかなと思っているところです。
最近のNFTのユースケースで特に注目しているものはありますか。
一番はロイヤリティプログラムだと思います。日本はポイント経済圏が発達してきたユニークな国です。企業がユーザーとコミュニケーションしながら、エンゲージメントを高めていく中で、マーケティング領域での利用が伸びてくるんじゃないかなと思います。ポイントやインセンティブがもらえるコミュニティに参加できる権利として、メンバーシップNFTのような使われ方は相性がいいんじゃないかなと思います。

web3自体はトークンホルダーコミュニティと共創していくというのが基本的な考え方です。そのコミュニティに入るためのチケットやロイヤリティプログラムとしての使われ方は伸びていくのかと思います。

NFTを使って何をするかによってかかる法規制は異なる

ありがとうございます。増田先生に伺いたいのですが、NFTに関して法規制上の課題は何でしょうか。
現行法上、典型的なNFTは暗号資産に該当しないので、金融規制は直接はかからないんですね。ただ、何でもできるかといえばそうではなく、NFTだと思っていたら暗号資産だったとか、NFTなんだけれども実は金融商品取引法上の有価証券として規制される、というものがあったりします。実際、NFTというツールを使って何をするかによって、かかる規制が変わってくるという点は常に課題としてあります

その他には、例えばアセットや権利をトークン化して持ち運ぼうとしたときに、果たしてそのトークンの移転とともに権利が確定的に移転するのだろうかという点は、民法上の古典的な論点ですね。“第三者対抗要件の具備”と呼ぶのですが、これをどういうやり方で実務的にワークする形で実現できるかは、近年の大きな課題の一つです。現在、経済産業省の実証事業の中では、民間のガイドラインベースでの検討が進んでいます。
NFTに関しての法制度に関して、ビジネスパーソンが知っておくべきポイントとは何でしょうか。
本来は、NFTだからというより、トークンを使って実際に何がしたいのかを虚心坦懐に見て、どういう法規制がかかるのかをつぶさに検討しなければいけないはずなんです。ただ、どうしても「NFTはこうだ」という上っ面だけで判断してしまう場面があります。これは結構危険なことなので、一旦振り返って法規制について思い出していただきたいというのが一つです。

もう一つはトークンの取引といっても多種多様なので、売り上げが立った時に、本当に会計上も売り上げが立ったと評価できるのか、税金の関係はどうなるのかというあたりは、実はとりわけ上場企業を中心に大きな課題になっています。
なので、例えば話を進める前に経理部門に確認するとか、場合によっては会計士や税理士に一度確認するといった慎重な進め方をしないと、後で処理に困ることにもなりかねません。そういった点をよく理解していただく必要があると思います。

確かにNFTに新たに取り組んでみようと考える企業にとっては、理解が難しい点もあるかもしれません。
そうですね。今NFTに取り掛かろうと思うと、専門家に意見をもらうのが、どうしても避けられない状況です。我田引水的な言い方ですが、できるだけ早く相談してくださいとよくお話しています。

話が進んだところではじめて相談して、実は最初から法規制上ダメなことをやっていたことが判明するとなると大変です。ぜひこの本を読んでいただいて「これはもしかしたら専門家に聞いた方がいいのかもしれない」というアンテナを張っていただくといいと思います。

web3のマスアダプションは起きる? 使いたいコンテンツの出現がカギに

お二人にお伺いしたいのですが、web3のマスアダプション(社会への浸透)は起きるのでしょうか、もし起きるとしたら何かきっかけになるとお考えですか?
過去を振り返ったときに、インターネットが社会に根付くまでにはいろいろな段階がありましたが、web3においても同じようなことが起こると思っています。

web3だけではなく、様々なデバイスや通信環境、AIなどといったテクノロジーが合流することで、ユーザーの方々が気づくと当たり前のように使っているという状態になると思います。きっかけとしては、みんなが知っているIPコンテンツが入ってきたときに、今まで興味がなかったけどやってみようか、と始まっていくんじゃないかな、と思っています。
マーケティング理論である「キャズム理論」では、マジョリティー層に波及していくためのポイントが七つ指摘されているわけですが、私は主に二つだと思っています。一つは「使いやすいかどうか」、もう一つは「使いたいかどうか」

今はニワトリと卵のような状態で、使いたいものがコンテンツとして存在しないので、使いやすいサービスを作るインセンティブが湧かないという状況になっていると思うんです。ただ、web3の事業環境はだんだん整ってきていて、多くのユーザーがweb3との接点を持つ入口となるであろうウォレット部分については、携帯キャリアや金融機関といった大手企業が整備を進めてきています。

これに加えて、コンテンツなどの使いたい何かが出てきたところで、マスアダプションを迎える可能性が出てくるかなと私は思っています。
例えば大阪万博がありますが、そこでは「EXPO2025デジタルウォレット」というサービスが提供される予定です。このサービス、実は仮想通貨を扱うクリプトウォレットの機能付きなんです。なので、数百万から1000万の単位の人がいきなりweb3ウォレットを持つことになる可能性があります。インターネットと同様に多くの人が「いつの間にか使っている」というものになる可能性もあると思っています。
2025年は暗号資産を盛り上げるイベントもありますが、どんな年になると思いますか。
まず、これまでの周期を見る限り、ビットコインはここからさらに最高値を目指して動いていくと思います(※)。そこからまた様々なアプリケーションが出てくると思いますので、来年の春から秋口にかけては、良い相場環境になると思っています。

これに加えて、日米の規制の環境がよりポジティブに増えていくことで、大手企業のNFTを含むweb3を使った取り組みが表に出てきます。それによってweb3への見え方がポジティブになり、利用が促進されるのではと考えています。

(※編集部注釈)インタビューは2024年12月3日に実施されています

法的環境という意味では、今まではトークンが暗号資産に該当するかという資金決済法の世界で整理されてきたんですが、これを米国と同じように証券法制の中で捉え直そうという動きもあります。今後NFTに関しても、金融商品取引法で規制されるべきだという議論が進む可能性があります。

これに対しては、規制強化だという見方もあるかと思いますが、金商法に位置付けられれば、国民の資産形成に資する投資対象であると制度上正面から認められる可能性もあります。そうなれば税制上も、今は暗号資産取引は総合課税の対象で、最大税率が55%ですが、これが是正されていくことも考えられます。

そういった点でポジティブな変化と言える面も出てくるのかな、と。直近のダイナミックな法規制の動向には要注目です。

編集後記

昨今デジタル経済がさらなる盛り上がりを見せるなか、改めてNFTのインフラとしての価値に注目が集まっている現状がよく理解できるインタビューでした。web3やNFTはこれからもっと私たちの生活に身近なものになり、気が付いたら社会のあらゆる場面で当たり前に使われていた、という日も近いかもしれません。2025年以降の様々な動きにも注目したいですね。

なお、本インタビューは動画のダイジェスト版として、アステリア主催のオンラインイベント『2024年のweb3ニュースを総まとめ! トーク』でも放送されました。イベントのアーカイブも公開されていますので、興味のある方はぜひこちらもあわせてチェックしてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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この記事を書いた人
in.LIVE 編集部 アステリア株式会社が運営するオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」の編集部です。”人を感じるテクノロジー”をテーマに、最新の技術の裏側を様々な切り口でご紹介します。