2025年2月4日

分散型組織「DAO」が社会に与える影響は? ガイアックス社 DAO事業責任者に聞く、日本におけるDAOの可能性と課題

DAO一元管理サービス「DAOX」を提供するほか、DAOの実務管理やコンサルティングなどを請け負っている株式会社ガイアックス。Chief web3 Officerであり、DAO事業の責任者でもある峯荒夢さんをゲストに招き、同社のDAO事業の近況や、DAOXのサービス詳細、さらに現場から見る注目のDAO事例などについてお話を伺いました。


web3の文脈で耳にする機会も増えた「DAO」という組織のかたち。
”自律分散型組織” とも呼ばれているとおり、一般的な会社や団体などの組織とは違って “中央に意思決定者が存在しない” ”自律的に機能する組織” のことを指します。

in.LIVE でも、過去にJPYC株式会社が展開する青ヶ島でのDAO化事例を取材していたとおり、地方創生を目的としたDAOの導入事例が増えている状態です。そんな中、株式会社ガイアックスでは、2024年3月より、国内の事業者に対して、DAOの組成から運用までを一元化するサービス「DAOX(ダオエックス)」の提供を2024年3月に開始しました。

■ ガイアックス、DAO組成・運用一元化「DAOX」のオープンベータ版提供を本日より開始!〜NFT決済からコミュニティ活性化機能まで実現、利便性を追求~
https://www.gaiax.co.jp/pr/press-03282024/

ガイアックスでは、DAOXの提供のほか、DAOの実務管理やコンサルティングなどを請け負っており、DAOを事業の柱として展開している国内企業の数少ない事例のひとつとも言えます。

今回は、同社のChief web3 Officerであり、本事業の責任者でもある峯荒夢さんをゲストに招き、同社のDAO事業の近況や、DAOXのサービス詳細、さらに現場から見る注目のDAO事例などについてお話を伺いました。

峯 荒夢(みね・あらむ)氏|株式会社ガイアックス 開発部責任者 Chief Web3 Officer
兼 一般社団法人日本ブロックチェーン協会理事、一般社団法人日本DAO協会Representative Holder、ブロックチェーンの国際標準を策定するISO / TC307国内審議委員会委員、芝浦工業大学SIT総合研究所 研究所客員研究員。2015年よりブロックチェーンの研究開発に着手し、情報サイトBlockchain Bizを運営し、3冊の書籍の出版にも携わる。2022年より企業や自治体に対してDAO組成の伴走サービスを開始。鳥取県智頭町・静岡県松崎町らとの「美しい村DAO」のシステム開発や、早稲田大学・芝浦工業大学などと連携し、スマートシティーへ向けたLiDARネットワークの開発も行う。

<聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男>

DAOの組成から運営までのサポートを行う「DAOX(ダオエックス)

今日は宜しくお願いします!
ガイアックスさんのDAO事業っていつ頃から始まったんでしょうか?
事業部として独立したのは2024年1月からですね。とはいえ、事業としては2022年の夏頃から、企業や自治体向けのDAOのコンサルティングサービスを始めていました。
2022年の段階では、まだ日本でDAOをビジネスとしてやっているところは少なかったように思います。まさに業界の第一人者と言っても過言ではないですよね。
そうですね。2022年といえば、DAOという言葉がだんだん広まってきたタイミングで「DAOに興味がある/作ってみたい」というような企業や自治体さんが、ちらほら出始めたぐらいのタイミングではないでしょうか。日本のDAO事例として有名な山古志(※1)での事例が出た直後ぐらいで、特に地方創生などの文脈で、感度の高い方々は注目し始めていました。

(※1)山古志でのDAO事例……
新潟県長岡市にある山古志村では、地域活性化の一環としてDAO(分散型自律組織)を活用した取り組みが注目されている。住民や外部支援者がブロックチェーン技術を通じて資金調達や意思決定に参加し、村の課題解決や新たなプロジェクト推進を実現。具体例として、地元で有名な「錦鯉」のアートをNFTで販売するような取り組みも行っている。



もちろん、私たちもいきなりDAO事業をやろうとしたわけではありません。
2015年にロンドンで開催されたイーサリアムの開発者向けカンファレンス「Devcon」に参加したときに、初めてDAOという言葉を知って。当時ガイアックスでは、シェアリングエコノミーに力を入れていたんですが、シェアリングエコノミーが将来進化していくと、DAOになるんじゃないか? という仮説を立てました

シェアリングエコノミーの仲介役が、管理者ではなくて、スマートコントラクトとして自動化されて、最終的には仲介者なしで回っていくような未来が来るんじゃないかと……。
なるほど。今すでに国内にもたくさんの事例があるシェアリングエコノミーというものが、最終的にはDAOになると。そんな未来を見据えて、2022年にはコンサルティングサービスを始めたんですね。
はい。2019年頃から暗号資産がだんだん使えるようになってきて、2021年頃にはNFTのトレンドもありました。

NFTの決済を暗号資産で行うというような体験もできるようになってきて、次のステップとしては、NFTを暗号資産で買って、集まった暗号資産で何か次の活動をする「DAO」こそが盛り上がるんじゃないかと考えたんです。
その後、2024年3月に企業や自治体向けのDAO一元管理サービス「DAOX(ダオエックス)」をリリースされたんですね。
はい。これまでは「DAOをつくりたい!」と思い立っても、DAOに最適化したツールやサービスは存在していませんでした。なので、DAOの参加者との会話(チャット)は「Discord」を使ったり、組織内での投票は「Snapshot」を活用したり、参加者にNFTを発行するには「Opensea」、NFTを受け取るためのウォレットには「MetaMask」……。

どのDAO組織でも、あらゆるツールを組み合わせて使うのが一般的だったかと思います。
単純に使うサービスが多くて煩わしいのはもちろん、DAOに入ること自体にハードルの高さを感じてしまいますね。それを一つのツールで全部まかなえるようにしたのが「DAOX」ということなんでしょうか。
まさにそうです。
ウォレットについても、GoogleやLINEの認証だけでそのまま使えるものがありますし、NFTを購入するとメンバーシップとして入れたり、チャットや投票機能、なんらかのタスクを消化したらポイントが付与されるような機能、そのポイントをなにか違うものに交換するということまで、全部ワンストップでできるようになっています。
おお。それはすごい。実際にDAOXを利用されているクライアントさんの反応はいかがですか?
「DAOの導入から立ち上がりまでがすごく速い」という評価はいただいていますね。ただ実際に使える機能が多いので「DAOを活性化させるために、これらのツールをどういう手順で使っていけばいいのかがわからない」という声があるのは事実です。

DAOを立ち上げたいと考えるクライアントさんと伴走しながら、こうした課題を解決して、より素晴らしいツールに磨き上げていきたいと思っているところです。

DAOが社会やビジネスに与える影響は? 海外での成功事例

多くのDAO活用事例を知っているガイアックスさんにサポートしてもらうからこそ、運用面で色々とアドバイスしてもらえたら心強いですよね。
はい。DAOは一般的な団体や企業とは少し違って、参加者には明確に「こんなことを達成したい」という共通の目的やビジョンがあります。

どうすればその目的が達成できるのか? ということをルール化して、それを実施したらインセンティブがもらえる、というのがDAOという組織の特徴なので、いかに盛り上げるか? 活発に活用してもらうか? というのは、このルールメイキング次第とも言えるんです。
なるほど。ちなみにDAOが目的を達成したあとは、基本的には解散になるんですか?
解散というよりは「その目的を達成している状態を継続する」という感じですかね。
例えば、そのDAOの目的が「どこかに建物を建てる」だとすれば、無事に完成すれば解散という形になるかもしれません。ただ、地方創生などを目的としたDAOでは、その地方の発信を継続する必要がありますよね。

そうした活動をDAO内でタスク化して、そのタスクを消化したらポイントが分配されるような仕組み。ここに新しい人も自由に入れるし、抜けるのも自由。そうやって人が出入りしながら、共通のミッションを元に組織が続いていくことが、DAOの特徴だと思っています。
新陳代謝があるということが、DAOの大きな特徴とも言えそうですね。
峯さんは、DAOがビジネスや社会に対してどんなメリットを与えると思いますか?
一言でいうと、会社とコミュニティを変えていくと思っています
会社というのは最初に出資を受けて、取締役の人たちがそのお金の使いどころを考えて、最終的にそのお金を増やせるように運営していくというかたちになるのでで、いわゆる「中央集権型」だと思うのですが、DAOの場合は、お金を集める場合はみんなで出し合うし、出し合ったお金の使い道もみんなで決めていきます。

もちろん最初に何らかの資金を集める必要がないので、単純に「やりたい人いませんか?」と手を挙げてもらって、ちゃんと人が集まればすぐできるっていうところ。DAOが増えることで、世の中にあるプロジェクトが継続しやすいかたちになっていくのかなと。

自主的に、自律的に動いていくことで、プロジェクトが始めやすく、続けることも容易になると。
はい。例えば「自分たちのお気に入りのカフェを作りたい」というような場合にも、DAOは活用できます。やりたい人たちで集まって、物件を決めて、売上が立ったらみんなで分配していく。会社を立ち上げてアルバイトを募集して給与を払う、となるとハードルが高いですが「何かの仕事をしたらこれだけのインセンティブを払います」ということをDAO内でルール化すれば、参加メンバーが店員の役割を担うこともできます。
基本的には ”やりたい人の集まり” だからこそ、それが実現できるわけですよね。

海外ではいくつものDAO事例があるかと思いますが、峯さんが、これは最も成功している! と感じるDAOはなんですか?
個人的に面白いなと思っているのは、2021年頃からスタートした「リンクスDAO(LinksDAO)」ですね。ゴルフ愛好家たちが集まって、みんなでお金を出し合ってゴルフ場を買い取り、その会員権をNFTとしてメンバーに配布しているDAOです。非常にわかりやすくて、良いDAO事例だなと。

あとは、あまりにも有名な事例ですが、DAOとして一番うまく成立しているのはビットコインでしょうね。中央集権が一切ない状態で成立していますし、一部の機能は、マイナーたちによる投票で決められています。具体的には、ソフトウェアにフラグを立てておいて「このフラグを立てている人は賛成/立てていない人は反対」みたいなかたちで自動化されているんです。
ビットコインがDAOとして成功した要因は何だと思いますか?
まずはやっぱり、世界観に同意する人たちがたくさんいたっていうところですよね。国や権力に影響されないお金の流通ができるというところ。さらに実際にお金としての価値を表現できたことで、飛躍的に信者が増えていく流れがありました。
正直「ビットコインがDAOだとは知らなかった」という方も多いような気がします。実際、どういうものをDAOと呼ぶのか? ということについては、統一見解があるんでしょうか。
色々なところで議論はされていますが、すべてがスマートコントラクトで動いているということでしょうか。組織内のルールもすべてスマートコントラクトで決まっていて、完全自動化されているようなイメージです。だけどこれってかなり理想論なんですよね。なぜかというと、スマートコントラクトを動かすためにはトランザクション手数料がかかるからです。1票投票するのにいちいちお金がかかるとなると、さすがに現実的ではないですね。

なので、そのDAOでは何ができて何ができないのか、というところでDAOとしてのレベルが何段階かで分かれているのが実情です。まだまだ議論の余地があるとも言えますね。

DAOを運営/参加する注意点。日本のDAOはどこへ向かうのか?

ここからは少し実用的なお話を聞いていきたいのですが、DAOに興味を持った個人や企業の方に向けて、こういうことから始めてみれば、というアドバイスがあれば教えてください!
そうですね。個人に関しては、まずは自分自身が興味のあるDAOに参加してみるというのが良いと思います。例えばペットが好きだったら、その分野でなにか面白そうなDAOがないかを調べてみたり、その分野で自分のできることや貢献できることを探してみたり。

企業の場合は、新規事業を立ち上げようとしているタイミングが狙い目ですね
事業を立ち上げるために、責任者を決めてお金を投じるのではなく、最初からユーザーになる人を集めてきて、一人あたりの負担が大きくない形でお金を出し合う。そうやってプロジェクトに賛同した人たちと一緒に事業をつくって進めていくというかたちです。

一番のメリットは、事業のファンが最初からいるということです。その事業の成果物としてなにかアウトプットが出てくれば、参加メンバーたちが最初の顧客になり、情報を拡散してくれます。参加メンバーたちが宣伝の機能も担ってくれるので、マーケティング調査や広告出稿などをしているよりも、圧倒的に早いスピード感で事業が進んでいくのではないかと思います。

なるほど。一方で、運営や参加において、注意すべき点はありますか?
みんなが運営に参加できるのがDAOの良さなので、中央集権的に、誰かの意見に従う状況が起こらないようにする必要があります。一部の人たちが「解散します」と突然言って解散させられることがないよう、DAO内のルールで明確にしておいたほうが良いですね。もちろん自分がDAOに参加する際にも、そのようなルールが敷かれているか、しっかりと確認することが重要です。

ブロックチェーンや暗号資産の分野では「Don’t Trust. Verify.(信じるな、検証せよ)」という有名なフレーズがありますよね。誰かに信用を置くのではなく、参加する人が自分で責任を持って確認する必要があるし、主要メンバーの人たちに任せておけば万事うまくいくというような状態は、DAOとして機能しているとは言えません。それよりも、参加者たちがみんなでチェックしあえる、チェック機構ができていることが重要です。
なんらかの情報がブラックボックスになっているようなDAOは危ないかもしれない、という認識を、参加者側が持つことが求められますね。

運営側としてDAOを成功させるには、参加メンバーのエンゲージメントが不可欠だと思うのですが、DAOに限らず、コミュニティを活発で持続可能なものにするために必要なことって何でしょうか?
現在はコミュニティーマネージャーを置いていることが多いですね。
メンバーたちの発言を促したり、イベントを開催したり、新規メンバーが入ってきたときに温かい言葉で迎え入れたりするのもコミュニティマネージャーの役割です。そういった役割に対して、インセンティブとしてポイントを配ってるようなDAOもあります。

それから、DAO自体はオンラインのコミュニティではあるんですが、やはりオフラインの方が強力なコミュニティ形成ができるというのは事実としてあります。定期的にオフ会を開催してつながっていくことも、コミュニティを盛り上げる上では重要です。
やはりそのコミュニティをマネジメントするという動きが必要なわけですが、”マネジメント” と聞くと、やや中央集権的な表現に聞こえる点もあるのですが……。
おっしゃるとおりです。なので、固定のマネージャーがマネジメントするというよりは、DAOのルールに則って、活動に対してのインセンティブが設定されていて、どんどんメンバーがスイッチしながら、ルールをベースにコミュニティを活性化できるのが理想ですね。

現時点ではまだみんなが試行錯誤してる段階で、そこまでたどり着いている人たちは少数派かもしれません。

峯さんが注目する最新のDAO成功事例

最後に、DAOはこれからどう盛り上がっていくか? という点について、峯さんの視点で教えてください。
DAOには段階があるということをお話しましたが、完全に自動化されたピュアなDAOが本当に達成できるのか? というのはまだ分からないなというのが正直なところです。ただ、ちょうどいい塩梅のDAOを目指して、世の中が調整していくのかなと今は考えています。

特に今国内では「地方創生のDAO」が一つ大きな可能性としてありますよね
ガイアックスとしても、今「美しい村DAO」という取り組みを、鳥取県智頭町、静岡県松崎町と一緒にやっているのですが、ここには色々な自治体があとから加入できるようにしていて、長野県の中川村、さらに北海道の中札内村も仲間に加わったところです。こういった ”複数の自治体があとから参加できるDAO” というのも一つの事例として、国内では地方創生のプロジェクトがどんどん増えてくるのかなと期待しています。

地域の課題として「空き家活用」という課題にもDAOがうまく機能すると考えています。空き家を活用したい人がお金を出し合って物件を買って、その利用権をNFTとして配布する、ゴルフの会員権と似たようなDAOですが、その地域の内にいる人と、地域の外にいる人をDAOを通じて連携させて新しいうねりを作っていく、というところが、まさに国内のDAOの成功事例になっていくんじゃないかと。

有名な事例だと、山古志の成功例がありますよね。
そうですね。あとは、ちょっと手前味噌なんですけど(笑)、私たちも空き家をシェアハウスにした「Roopt」というDAOをやっています。回り方がとても理想的で、シェアハウスの1ヶ月の居住権をNFTとして売って、それを買った人が実際にその空き家に住めるんですが、その居住権の売り上げの一部はプールされていて、そのお金を使ってシェアハウスをアップデートできるようにしているんです。

参加メンバーたちは自分たちの理想のシェアハウスを自分たちで作り、そこに住めると。さらにはそのシェアハウスの管理業務についても、これまで大家さんがやってたところを自分たちでやるようにしたら、これまでの大家さんの管理業務が30分の1ぐらいまで減って、ほとんど手間をかける必要がなくなり、”勝手に回っていくシェアハウス” のようなものができました。地方の空き家活用のソリューションとして、十分に広がっていく可能性があると思っています。
それはかなり面白いですね。ちなみにそこでも、御社のDAO管理ツールの「DAOX」が使われているんでしょうか?
やり始めたときはまだDAOXのサービス提供開始前だったので、Discordなどを使って運用していたんですが、現在(第二期)はDAOXで動かしています。
DAOXとしても、今後事業の可能性が広がる事例になりそうですね。少し気になったのですが、海外でも同じように ”地域課題を解決するDAO” というのが活発なんですか?
それが、地域課題を解決するDAOというのは日本が一番活発なんですよ。海外だと、お金を増やす、投資目的のDAOのほうが事例としては目立っているような状態です。みんなで何かを作って、できたものを売って、収益分配させる、みたいなほうが強いところがあります。

地方創生を目的としたDAOのことを「Local DAO」と呼ぶこともあるのですが、ここが活発な日本は独特だよね、という見方が海外にもあります。日本の事例を見て、海外の人たちが真似をするということがこれから起きるかもしれないですね。

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。