2023年12月25日

「誰にでも人生には三度チャンスが巡ってくる」KDDI共同創業者・千本倖生氏が語る、ベンチャー企業が成功する条件

アステリアの軽井沢リゾートオフィスにて開催された「信州でのイノベーティブな働き方を考える」トップミーティングでは、ゲストにDDI(現 KDDI)創業者でもあるゲストの千本倖生さんをお招きしました。日本の連続起業家の元祖とも言える千本さんに聞いたのは、DDI創業の裏話や人生に訪れるチャンスの活かし方、またベンチャー企業が成功するための条件について。イベントで語られた千本さんのお話をダイジェストでお届けします。


2023年10月、長野県軽井沢町に新設したアステリア株式会社の軽井沢リゾートオフィスにて「信州でのイノベーティブな働き方を考える」トップミーティングが開催されました。そこでお招きしたのが、DDI(現 KDDI)創業者でもある千本倖生(せんもと・さちお)さん

千本さんは、1984年にDDI(第二電電、現KDDI)を稲盛和夫氏らと共同創業し、その後はイー・アクセス株式会社(現ワイモバイル株式会社)、続いてイー・モバイル株式会社を創業してきた、まさに日本の連続起業家の元祖とも言える方です。

本トップミーティングでは、DDI創業の裏話や人生に訪れるチャンスの活かし方、またベンチャー企業が成功するための条件についてお話しいただきました。本記事では、イベントで語られた千本倖生さんのお話をダイジェストでお届けします。

千本 倖生(せんもと・さちお)さん(アステリア軽井沢リゾートオフィスにて)

日本電信電話公社(現・NTT)に入社後、フロリダ大学にて修士・博士(Ph.D)の学位を取得。84年に第二電電株式会社(現・KDDI)を稲盛和夫氏らと共同創業し、専務取締役、取締役副社長を歴任する。96年に慶應義塾大学大学院教授に就任、その後カリフォルニア大学バークレー校、カーネギーメロン大学の客員教授などを務める。99年イー・アクセス株式会社を創業、代表取締役社長、代表取締役会長などを歴任。2005年イー・モバイル株式会社(現・ワイモバイル)を設立し、代表取締役会長兼CEOを務める。14年に株式会社レノバ社外取締役に就任、代表取締役会長を経て、20年より取締役会長

通信業界に革命を起こす、稲盛さんとの出会い

私は今から40年前の1984年、NTTの前身となる電電公社で働いていました。当時の社員数は30万人、私はその中の部長の1人という立場でした。

電電公社には競合企業は全くありませんでした。しかし、その頃の電話料金は東京と大阪の間で3分間400円。30分話すと4000円、1時間話すと8000円。当時の初任給が2万3000円でしたから、1時間も話せば月給の3分の1は飛んでしまいます。世界の電気通信に比べると、距離あたりの料金が100倍という状態です。これは電電公社に対抗する新しい通信会社ができて、健全な競争状況を作らないと日本が世界に伍することはできない、このままでは20年後、30年後の社会がおかしくなってしまうと強く感じていました。

そうした危機感から、絶対に新しい通信会社を作って日本の状況を革命的に良くしたいと決意しました。

しかし、当時の私にはお金と経営力がありませんでした。そこで出会ったのが京セラ株式会社創業社長の稲盛和夫さんです。京セラは、当時年商3000億の会社で京都では五番目くらいの企業規模でしたが、稲盛さんは京都で一番になるのを目標にしていました。

きっかけは、私が講演会をしたとき、聴衆の一人にいた稲盛さんが「面白かった。何か一緒にやらないか」と講演後に声をかけてきたんです。

私は稲盛さんに対して、「あなたは京都で一番の経営者になりたいっておっしゃっているけど、目指すスケールが小さい。電電公社という巨大な30万人の通信コングロマリットに対して新しい通信会社を作ったら、日本一の経営者になりますよ」と言ったんです。私にはそのコンセプト、ビジネスプランはあるけど、お金と経営力がないということも伝えました。

当時、稲盛さんの会社は3000億の売上に対して、内部留保が2000億円もあったんです。そこで「投資することがないなら、私に預けてくれたら日本で一位にする」と伝えました。さすがに稲盛さんもバカなことを言う人だと思ったのでしょうが、一ヶ月考えてくれることになりました。すると一ヶ月後に稲盛さんから電話がかかってきて、「役員には大反対されたけど、腹を決めた。だからあなたも今すぐ電電公社をやめろ」と。そんな流れで、二人で現在のKDDIの前身企業の1つとなる、DDI(第二電電)を創業するに至りました。

そのときは社員が3人。稲盛さんが京都からしょっちゅう電話を掛けてきて、夜中の2時くらいに「お前まだ寝てるのか」って。今思えば、本当に強烈な人でした。

誰にでも人生には三度チャンスが巡ってくる

私は稲盛さんに出会い、一緒に日本の情報通信の世界を抜本的に変えようと創業したわけですが、この出会いはまさに化学反応だったと感じています。小さな5人の会社からのスタートでしたが、40年後には10兆円規模、NTT(電電公社)の3分の2になる規模の巨大な会社ができました。これはまさにゼロイチなんですよね。

ゼロイチが起こる条件は、僕がよく言うのは「クオンタムリープ」。
量子力学で使われる言葉ですが、非連続的な飛躍現象、量子的飛躍のことを意味しています。実はこの量子的飛躍というのは、人間の人生や経営と似通っているんです。私の場合はそれが、DDIを創業した時に起こりました。

ではどういう条件の時に飛躍が起こるのかと言うと、例えば、生死をさまようような苦難とか、大変な難しい問題、状況、極端なときに量子的飛躍が起こるんです。もう一つ、量子的飛躍が起こる条件は、全く新しい環境や状況になったとき。人生で言うと、全く新しい職に就くとか新しい局面になったときに飛躍が起こるんですね。

これまで人生81年生きてきて、経営者として生きてきたのは41歳から。
ちょうど40年経営者として生きているんですが、それは41歳のときに、会社を起こしたことが量子的飛躍そのものだと思っています。そして私の経験から言うと、そうしたチャンスは誰にでも巡ってくるんです。

「どんな人においても三度のチャンスはある」というのが私の経験則です
大部分の人は、その三度起こるチャンスを見逃してしまうんです。私は優れた人間ではなく、ただの凡人ですが、凡人であってもそういう量子的飛躍のチャンスをつかんだら何兆円の企業も作れるんです。だから、量子的飛躍とも言えるようなゼロイチのチャンスは、皆さんの人生の中に、見えてないかもしれないけれども、三度くらいは必ずある。そういうゼロイチのチャンスをきっちりつかんで飛んでもらいたいというのが今日伝えたいことのひとつです。

では、どうやったらチャンスを掴めるようになるのか?それは世界を見ることです。
世界を見ていればトレンドが見えてきます。当時は独占の通信から競争の通信に移るちょうど端境期だったんです。それがアメリカでは10年前に起こっていました。日本の場合は、1984年に電電公社がNTTとして民営化され、それと同時に、民営化されたNTTに対して通信会社を作ってもいいという新しい法律ができました。

ベンチャーというのは、時期が早ければいいものでもありません。あまりに早すぎると、集めた10億100億という資金も毎月の固定費でなくなってしまうんです。『opportunity of window』という、ハーバードのビジネス・スクールで教えている言葉がありますが、どんなベンチャーにでも『opportunity of window』はあります。つまり、参入してもいい機会の窓が開くんです。そしてその窓が開く期間は、どんなベンチャーでも6カ月しかない。遅かったら大企業に参入されてしまうし、早すぎたら食糧難で死んでしまいます。

だから、その微妙な6カ月間だけ開く窓の中にどのようにして参入するかがキーなんです。それが私の場合は1984年の6ヶ月で、日本の電気通信事業が自由化され、新規参入の機会が訪れた瞬間でした。その時期に決断して創業できたからこそ、今のKDDIがあると思っています。

ベンチャー企業が成功する条件とは

ベンチャーが大成功する一つの条件は、「そこに大義があるかどうか」です
私はNTTの安定した立場を捨てて創業を決めましたが、それは日本の情報通信を世界の波の素晴らしい状況に持っていかないとダメになってしまうという、ある意味、利他の心があったからです。

最近では、肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態を表す概念として「Well-being」という言葉が注目されていますが、「大義がある」ということもWell-beingにも通じるものだと思っています。結局は世の中のため、人のためになることが自分の心もいい状態になるということなんです。

つまり、意図的に無心になろうと思わなくていいんです。事業や自分の目標に対して120%で打ち込むと無心になるんです。その無心の状態を徹底して追求していったら、それはあとになって、100倍くらいのリターンで返ってくるんです。だから、GiveしてGiveしていたらいつの間にかTakeできているということになります。

「たらいの法則」をご存知ですか?
与えれば回り回って返ってくるし、自分だけが得をしようとすると逆に損をするといった法則です。水が欲しいと思って、水を取りに行ったら水は全部逃げるんです。あの水が欲しいと思ったら、みんなに与えることで、あっちからこっちに来るんです。 社会で困っている人に対して、虐げられている人に対して、矛盾に対して、自分がいかに与えることができるか? を一生懸命追求していったら、一番遠くに思っていたようなものが自分のところに転がってくるんです。

利他の心があればリターンとして自分に返ってくるので、利他の心で事業を押し進めてほしい。そうすれば必ず結果は出ると思います。

編集後記

本イベントは、2023年10月、長野県軽井沢町に新設したアステリア株式会社の軽井沢リゾートオフィスにて開催されました。イベントの最後にはアステリアCEOの平野洋一郎と、CWO(Chef Well-being Officer)の島田由香が千本氏に質問をぶつけながらクロストークを行いました。

かつては“アメリカでいま起きていること”というのが学びのひとつだったと思いますが、現在千本さんが世界を見ている中で、気になっているトレンドや、これからはこれがイノベーションの種になるんじゃないか? と感じられているものはありますか?
「ひとつのキーはアフリカだと思いますね。ちょうど来月またアフリカに行く予定があるのですが、やっぱり、人類の起源がアフリカにあるように、アフリカが世界の中で最も成長率が高いんですよ。そういう意味でも、アフリカこそが異質な新しいフェーズを生み出してくれる次の大きなプラットフォームになると思っています。
今日の千本さんのお話を聞いていると、イノベーションって、やっぱりウェルビーイングとすごく関係が深いんだなと感じました。お話のなかでも「大義」という言葉がありましたが、この大義というのがウェルビーイングに通じると感じました。結局自分の欲を追い求めると、そこ止まりになってしまう。だけど世の中のため、人のためって考えているうちに、自分の心もいい状態になってハッピーな方に進んでいくと。今聞いていて腑に落ちましたね。
リターンを求めたらリターンは来ないけれど、本当の利他には、リターンが来る、ということなのかもしれないですね。
そうですね。究極のウェルビーイングってそういうことだと思いますよ。

<左からCWO島田由香、ゲストの千本倖生さん、CEO平野洋一郎>

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この記事を書いた人
成瀬夏実 フリーランスのWEBライター。2014年に独立し、観光・店舗記事のほか、人物インタビュー、企業の採用サイトの社員インタビューも執筆。個人の活動では、縁側だけに特化したWEBメディア「縁側なび」を運営。