2024年11月20日

スタートアップとの共創でプロジェクトを続々リリース。TISが挑むweb3の可能性

web3の技術が急速に成長する中、積極的にこの領域に参入し、プロジェクトを展開しているのが、大手SIerのTIS株式会社です。従来のITシステム構築で培った経験を活かし、どのような事例を手がけているのか。参入の背景や今後の展望をインタビューで詳しく伺いました。


近年、急速な成長を見せるweb3技術。特にブロックチェーンやNFTなどを活用した新たなビジネスモデルやサービスは、業界を問わず、さまざまなかたちで誕生しています。その中で、従来のITシステムを支えてきた大手SIerである TIS株式会社 が、web3領域でさまざまなプロジェクトを展開しているのをご存知でしょうか。

これまで幅広い業界の企業に向けたシステム構築や運用を行ってきた同社が、なぜいまweb3に注力しているのか? そして実際にどのようなプロジェクトを進めているのか。

今回のインタビューでは、同社がweb3 領域に参入するに至ったきっかけや背景、これまでに手がけた具体的な事例、さらには今後の展望についてお話を伺いました。

お話を聞いたのは……

TIS株式会社|ソーシャルイノベーション事業部 Web3ビジネス企画部 副部長
山崎 清貴(やまさき・きよたか)氏

2002年TIS入社。主に電力業界でのポータルサイトなどの情報基盤におけるアプリケーション開発、プロジェクトマネジメントの経験後、2019年よりWeb3ビジネス企画部の前身である、Blockchain推進室にて、トークン活用による環境価値取引や、ブロックチェーン活用による保険金自動請求など、企業向けのビジネス企画推進を担当。2023年より現職。

<聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥達男>

大手SIerがなぜ? web3領域に取り組み始めたきっかけ

TISさんといえば、大手SIerとして多くのお客様を抱えて事業を展開されていると思いますが、まずは web3 領域に参入したきっかけから教えていただけますか?
はい。もともとTISは、金融系のシステム開発に強みを持っていて、金融業界のクライアントさんが多くいらっしゃいます。今から8年ほど前に ”ブロックチェーン” というキーワードが話題になり始めましたが、当時ブロックチェーンといえば「未来の金融インフラ」とも言われていて、これはしっかりと勉強しておかなければということで、社内で技術者を育て始めたのです。

その後、2018年には社内で「ブロックチェーン推進室」を立ち上げました。
2018年といえば、ブロックチェーン専門のスタートアップもたくさん出てきた頃ですよね。技術的にも急成長していった時期かと思います。
そうですね。もともと我々はブロックチェーンを活用した BtoB 向けの事業を検討していたので、当時は「Corda」や「Hyperledger Fabric」などのエンタープライズブロックチェーン(※注釈1)を扱っていました。

※注釈1:エンタープライズブロックチェーン
企業や団体などの特定の管理者が存在するブロックチェーンのこと。「許可型ブロックチェーン」とも呼ばれる。一般的に知られるビットコインやイーサリアムといったブロックチェーンには管理者は存在しないため、それと区別する形でこのように呼ばれている。

ただ、2022年頃には「企業でのブロックチェーン活用は難しい」という風潮になり、少しずつ需要が減っていきました。それと代わるようなかたちで登場したのが「web3」というキーワードです。

TISとしてはもともと「金融包摂」や「都市への集中、地方の衰退」という課題に注力していましたし、「脱炭素」や「健康問題」も重要なテーマです。web3 が出てきたときに、我々が課題としているあらゆるテーマの解決につながるものだと感じまして。そこで、ブロックチェーンという技術にとらわれず、web3 という大きな概念を推進していこうと、2023年4月に「Web3ビジネス企画部」を立ち上げました。

もともとはエンタープライズブロックチェーンを扱うところから、パブリックブロックチェーンを主体とするWeb3ビジネス企画部に移行したということなのですね。扱うブロックチェーンの種類も変わってくるだろうし、いきなりがらっと方向転換するのは難しいですよね。
もちろんお客様もいたので、いきなりエンタープライズブロックチェーンはやりません、というのではなく、徐々に方向転換している感じですね。いまWeb3ビジネス企画部には17名のメンバーが在籍していて、それぞれ4つのテーマに分かれて、さまざまな取り組みを展開しています。

TISさんのプレスリリースなど見ていると、本当にさまざまなジャンルでのプロジェクトやニュースを発表されているようですが、「ヒト、モノ、カネ、情報」4つの領域に分かれて、事業をパラレルで動かしているのですね
そういうことになります。我々のミッションとして、将来的に web3 というものが社会空間に馴染むときは絶対に来るだろうと。

そうなった時に自分たちは何ができるのだろうか? と考えると、TISインテックグループの約15,000社のお客様が各企業で独自経済圏を作っていく世界が実現したときに、その独自経済圏をプロデュースできることが、自分たちの一番の価値になるのではないかと考えているのです

独自経済圏を構築する際に、web2とweb3の融合だったり、そこをシームレスにプロデュースしたりできることが我々の価値になると。

「企業の独自経済圏」というのは、つまるところ、企業が経済圏を構築するためにトークンを活用するようになるということですよね。
そうですね、自分たちでポイントを作ったりして、そのポイントに交換できるトークンを発行するとか……。

これまでは企業がそういうことをやる際には、SIerやベンダーのような会社が間に入っていましたが、これからは誰もが気軽に活用できるプラットフォームのようなものができれば良いと思っています。
現在は法規制が厳しい日本ですが、近い将来は、日本でもそういった未来が描けるようになると。
はい。そんな未来を見据えて「ヒト、モノ、カネ、情報」の四象限の中でそれぞれに責任者をつけて活動しています。ヒトでいうとDAOなどのコミュニティ、モノでいうとRWA(リアルワールドアセット)と呼ばれる、実際に現実世界の資産と結びついたトークンやサプライチェーン、カネでいうと暗号資産や決済、ステーブルコイン、そして情報でいうとNFTやDID/VC(※注釈2)という分類です。

(編集部注釈※2)DID/VC
DID((Decentralized Identifier|分散型識別子)とVC(Verifiable Credential|検証可能な証明書)は個人や組織が中央の管理者を介さずにデジタルIDを自己管理できる技術を指す。DIDは分散型台帳を活用し、信頼性とプライバシーを確保しながらIDを認証・共有でき、またVCはデジタル証明書として、所有者や発行者の正当性を検証することができる。両技術により、中央集権型から個人主権型のデータ管理が実現される。

私はこの中の「ヒト」の部分の責任者をしていて、今、力を入れているプロジェクトは DAO で、DAO 関連のプロジェクトのコンサルティングや、最近だとガイアックス社と連携した DAO のツールの販売ですね。
TISさんとして、このweb3分野に参入する強みというのは、やっぱりもともと15,000社という多くの企業様との取引があることと、あとはシステムを作っている会社であるというところ、その2点なのでしょうか。

そうですね、我々も事業を通して、日本の社会基盤を支えていると自負しています。web3 というものがこれから社会基盤になっていく以上、ここを支えるのは我々がやっていくべきところなんじゃないかなと。
すでに、この15,000社に対しての営業活動もされているのでしょうか?
全社に対してということはありませんが、例えば金融業界だったらこういう活用方法があるよ、インフラ企業だったらこういうことができるよ、と。具体的な利用イメージを提示しながら、興味のある企業様には紹介しているような感じですね。

実際、web3 の引き合いは確かに増えています。先方からの協業を提案されるケースも多いですね。

web3スタートアップ企業との共創で誕生したプロジェクト

web3 のプロジェクトに関しては、すでにさまざまなプレスリリースを発表していますよね。例えば2023年7月に発表された、フィナンシェ(FiNANCiE)社との資本業務提携

フィナンシェといえば、主にトークンエコノミーを活用したクラウドファンディングやコミュニティ形成のプラットフォームを提供しているスタートアップ企業ですが、この資本業務提携のねらいについて教えていただけますか?
もともと我々は web3 に関して実績があるわけではなかったので、すでにお客様を持っているスタートアップ企業とは積極的に共創していこうと考えていました。フィナンシェは当時すでにマーケットを持っていたこともあり、我々が関わることで、よりビジネスが広がっていくという可能性を感じたのです。

我々としても、もともと地方創生などの文脈で活動をしていたので、当時のフィナンシェは地方創生を目的としたトークンの発行をしていたりもしていたので、非常に事業シナジーがあるなと。

スタートアップ企業からすると、TISさんのような大手企業と連携することで、より心強いというか、安心感が増しますよね。
そうですね。システム的にもまだ少し不安定な部分もあったりするところを我々がフォローしたりとか、さらにビジネス展開していくなかで、どういった展開や企画をしていくか、というところを一緒に考えたり。

もちろん、TISグループのお客様の中には永続的なファンを増やしてブランディングをしたいと考える企業様もいるので、そういった分野ではフィナンシェのソリューションやトークンの仕組みが非常にマッチするんですよ。
なるほど! さらにその後は、TECHFUNDさんと組んで「web3のセキュリティ診断」というプロジェクトも、2024年8月にリリースされていますよね。非常に時代にマッチしたサービスだと感じました。

ありがとうございます。web3の中でよく注意喚起されているのが「スマートコントラクトを一度デプロイすると遡って修正できない(※注釈3)」ということで、非常にセキュリティが大事になってきます。しっかり大企業として「安心安全なシステム」をサポートするというのは今後重要になってくるのではないかと考えました。

(※編集部注釈3)
スマートコントラクト(ブロックチェーン上で実行されるプログラム)を一度ネットワークにアップロードすると、その内容を後から変更したり削除したりできないということ。ブロックチェーンのデータが不変であるという特徴に由来しており、デプロイ後はその契約内容が固定され、誰も過去の状態に戻したり改変することができない。

さらに web3 のスマートコントラクトのみに限らず、システムを作る上では必ず web2的な、フロントのシステムのセキュリティも重要です。TISとしてそのあたりをサポートしながら、オールインワンのセキュリティ診断サービスを提供しています。

web3に関しては、まだ企業として実証実験という段階が多いですが、その時期がすぎれば、おそらく来年か再来年ぐらいには利用する企業が一気に増えてきそうですね。

さらに最新の事例としては、2024年9月には「トークン活用型ブランディング支援サービス」に関するニュースも発表されていました。米鶴酒造の日本酒付きの特別な体験を販売するweb3の実証実験とのことですが……。
これは、先ほども挙げたRWA(実際に現実世界の資産と結びついたトークン)を販売するプロジェクトです。現実世界に存在する物理的な資産の権利をブロックチェーン上のデジタルトークンと紐づける、と表現するとわかりやすいでしょうか。

今回の場合でいうと日本酒。
トークンを購入すると、日本酒が送られてくるとともに、トークンをチケットとして山形県での米鶴酒蔵との特別ディナー参加できるチケットにもなり、さらにイベント参加後に米鶴酒造のファンを証明する別のNFTも送られてくることになっています。

日本酒を飲み終わったあとも、この日本酒を買ったという証明はずっと残り続けるので、またそこからさらに日本酒好きのコミュニティができたりするんですね。

面白い取り組みですね。こういう熱烈なファンを持つジャンルは色々ありますから、可能性もありそうです。ちなみに、こうしたスタートアップとの連携は、どのようにアプローチして誕生しているのでしょうか?
以前からお付き合いがあった企業も多いのですが、大体先方から「こういう連携ができませんか?」とお声がけいただくことも多いですね。それだけ我々が「web3に力を入れています」というメッセージが業界に伝わっているということなのかな、と思っています。

大手SIerという立場で見据える、web3の未来の可能性

web3に関連したさまざまなプロジェクトを発表されているTISさんですが、最後に改めて、これから可能性を感じている分野について教えていただけますか。
web3の分野では、まだまだ技術やツール自体の開発を優先するのではなく、まず解決すべき問題を定義して、そのために最適な技術を活用するユースケース先行型のアプローチが続くのかなと思っています

たとえば、先ほどのRWA(リアルワールドアセット)というのも、少しずつ日本の事例が増えてきたように感じていますね。モノ×人みたいなところでユースケースが増えていくんじゃないかと。あとは DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network)ですね。
DePIN、物理的なインフラを分散型のネットワークで構築・運営するための新しいコンセプトですね

従来の中央集権型のインフラ管理や運営モデルに対して、ブロックチェーンやトークンなどのweb3の技術を用いて、分散型のアプローチを導入すると……。

DePIN、特にインフラ企業はすごく注目している分野だと思います。
こうした分野で分かりやすいユースケースが先行するのかな、と。それらがどんどん進んで、広がっていって、それと同じタイミングで日本国内の法規制が進めば、よりweb3が一般化していくスピードも早くなるのではないかと期待しているところです。
TISさんがweb3のさまざまなプロジェクトに関するプレスリリースを、沢山出されていることがまさにユースケースを増やしていくということですよね。こういう事例を見て「こんな風に使えるんだ」って気づく企業様が増えていけば理想的ですよね。

web3の未来の可能性を感じるお話を沢山聞かせていただき、有難うございました!

関連リンク

・TIS株式会社 https://www.tis.co.jp/
・TIS株式会社 web3ブランドサイト https://www.tis.jp/branding/web3/

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。