2019年7月25日
アステリア株式会社の新たな社外取締役に就任したシリアルアントレプレナー・時岡真理子氏。緊急来日イベントとして開催された濃厚な講演内容を、ベアーズ取締役副社長の高橋ゆき氏との特別対談も含めてレポートいたします。
こんにちは!in.LIVE編集長の田中です。
米・ニューヨークを舞台に活動するシリアルアントレプレナー、時岡真理子氏による緊急来日講演『グローバルで活躍する女性経営者と学ぶ、世界にインパクトを与えるビジネスのつくりかた』を2019年6月にアステリア株式会社にて開催いたしました。
当日は、時岡真理子氏のほか、家事代行サービスのパイオニア・株式会社ベアーズ取締役副社長の高橋ゆき氏にもゲストにお越しいただき(豪華!)、ビジネスへの想いや大切にされていることなど… お二人の情熱あふれるクロストークを楽しんでいただきました。
女性経営者の方や起業を目指す方など多くの方にご参加いただいた本イベントを、今回はレポート形式でお届けします!
今回お話を伺ったのは…
EastMeetEast 創業者兼CEO
時岡真理子(ときおか・まりこ)さん
テクノロジービジネスを構想段階から成熟期まで成長させた実績を有する連続起業家。共同創業者として立ち上げたモバイルeラーニングアプリ会社Quipperは、2015年に4千万ドルで買収される。2016年にはForbes JAPANにより「世界で闘う日本の女性55」の一人として脚光を浴びた。現在はアジア人向けマッチングサービスEastMeetEast社の創業者兼CEOを務め、500 Startupsを含む有名VCから資金調達に成功。
起業家としての活動以外にもベンチャー・コミュニティでの交流を大切にしており、オックスフォード大学テクノロジーネットワーク組織委員の他、国際VC投資コンペティション(VCIC: International Venture Capital Investment Competition)の審査員を務める。 米国の大学にて情報工学の学位、オックスフォード大学にてMBAを取得。
参加者の前に登場した時岡さんから、まず最初に語られたのは時岡さんご自身について。
もともとはオラクルに勤めていた時岡さんは、大企業に対して何十億円というソフトウェアのライセンスやコンサルティングなどの案件に携わっていました。しかし営業活動をしているとき、ふと「私は社会のために何をやっているんだろう?」「会社の中で表彰されたり評価される以上に、自分が社会に何か貢献しているのだろうか?」と考えることも多かったそう。
そうした悩みに答えを出すため、会社を辞め、社会起業に強いと言われるオックスフォードのMBA大学に留学することに。自身の経験を活かして社会貢献したいという気持ちが高まっていた折、「教育で社会を変える」というミッションを掲げていたモバイルeラーニングアプリの「Quipper」社を、COO・共同創業者としてロンドンで立ち上げることとなります。
同サービスを運営する中、あまりの仕事の忙しさになかなかご自身のプライベートな生活を振り返ることができなかったという時岡さん。
そんな中、海外での婚活はマッチングサービスを使うのが主流ということもあり、早速自分も登録。しかし「アジア人」というだけで一括りにされてしまい、なかなかしっくり来る出会いに至らないという問題にぶつかりました。現在アメリカでは結婚する夫婦のおよそ1/3はマッチングサービスから誕生しているとも言われるほど市場規模が大きな業界。
インド人だけのマッチングに特化したサービスがIPOで時価総額250億円となったことも話題となっており、周りで婚活に苦労しているアジア出身の友人たちを助けたいという気持ちから、アジア人に特化したマッチングサービス「East Meet East」をニューヨークで立ち上げました。
サービス立ち上げ時は、現地のアジア系のインフルエンサーなどと提携して、アジア人向けに面白いインタビュー番組を作ったりしながらユーザーを獲得してきたそう。
サービスが誕生したニューヨークを起点に、現在は同じ英語圏である、カナダ、イギリス、オーストラリアでもサービスを展開。日本人、韓国人、中国人、フィリイピン人、ベトナム人などのユーザーが登録し、月額のサブスクリプションやライブ配信のバーチャルグッズなどでマネタイズをしているそうです。
時岡さんによると、最近は日本でもベンチャーキャピタルによる起業家への投資が盛り上がっていると言われているが、米国市場と比べるとやはり規模は全然違う。2016年だけでも日本とアメリカを比較すると、アメリカでは日本の約28倍(およそ7兆円)もの資金調達が行われているとのこと。またアメリカは起業家をサポートするエコシステムがしっかりできていることもあり、資金面でも環境面でも起業家にとって良い条件が揃っていると話していました。
注目すべきデータは、『女性経営者(Woman Entrepreneur)にとって世界のどの都市が最も最適か?』というアンケートの結果。一位となっているのはNYで、働く母親のためのベビーシッター制度の充実や、女性キャピタリストや女性向けのコワーキングスペースの充実などがその理由として挙げられていました(ちなみに東京は39位!)。
ここからは、これまでの「Quipper」社での体験や「East Meet East」を運営する中で時岡さんが学んだこと、グローバルでサービス展開をする上で大事にしてきたことを5つのLessonに分けて紹介。一つずつ、時岡さんの言葉でまとめていきます。
私の好きな格言に、“No matter how small you start, always dream big.” というStephen Richardsの言葉があります。「どんなに小さく始めるにしても、夢を大きく持つこと」「もしその夢自体が小さければ、それ以上の結果を出すことはできない」という言葉に続きます。
女性経営者の方なら経験されたことがあるかもしれませんが、「女性向けのサービスはマーケットが小さい」「資金を出すには厳しい」ということはよく言われがちです。これが事実かどうかはさておき、そういった偏見や考えを持たれることが非常に多いということは女性として認識しておきたい重要なことの一つ。
誰かを採用するときも、資金調達をするときも、共同パートナーを探すときも、常に自分のビジネスがいかにビッグであるか、どれだけ大きなインパクトを社会に与えられるかは意識して説明するようにしています。
WeWorkが日本で資金調達をしたときの興味深いエピソードがあります。
WeWorkの創業者であるアダム・ヌーマンが、孫正義さんのビジョンファンドから約4000億円の資金調達をした際に、孫さんからは「今のプランより、もっともっと大きなビジネスを考えてくれ」「君はまだ全然クレイジーじゃない」ということを言われたのだとか。周りから見れば4000億円の資金調達なんてとても大きな話に思えますが、世界にインパクトを与えるにはもっともっと、さらに上を目指さなければいけないということを教えてくれる裏話です。
もちろん、そうしたビッグな夢を語る上で、どのように相手に伝えるか?は重要です。客観的な市場規模、エビデンスとしての数値データ、これぐらいスケールするビジネスなんだ、ということははっきりと伝えられるように準備しておきたいですね。
これは最初の起業の失敗でもあるのですが、一社目のCOOという立場から、二社目のCEOになったときに、自分でサービスへの想いを投資家や周りの人に伝えていくシーンが格段に増えました。そこで気がついたのは「アメリカで婚活サービスをしている」「○万人のユーザーがいる」と事実を話しても相手に響かないことが多かったこと。
常にストーリーを伝えるということの重要性に気がついてからは、そうした事実よりも「自分が婚活していたときにこんな苦労があった、それを解決したくてこのサービスを始めた」「こういうユーザーさんが自分のサービスを通じてこんな風に人生が変わった」ということを話すようにしています。ビジネスなので数字も大事なのは当たり前ですが、エモーションをつかむ、ということはストーリーを伝えることでしか実現できないからです。
これは投資家に対してはもちろんですが、例えばサービスのピボットをしなければならないときには、社員に対してビジョンやミッション、そのストーリーを何度も伝えるということを心がけています。
IDEOというデザイン会社の創業者の言葉でもありますが、失敗をできるだけ早くすることが成功につながる、ということ。これに関しては、実は特に女性が不得意なことかもしれません。ペンシルバニア大学経営学教授の調査では、「女性は男性に比べて失敗に弱い」というリサーチ結果が出ているんです。例えばクラウドファンディングで資金を募るというようなシチュエーションでも、実際にやってみて成功しなかった場合、積極的に再挑戦する男性に対して、女性がもう一度同じチャレンジをすることは圧倒的に少ないのだとか。
そうした背景もあり、私もいま自身の会社では「失敗を祝福する」ということを文化にしようとしています。何か失敗といえる経験をした場合でも「失敗してよかったね、ここから何を学んだの?」と言えること。一年で何回失敗するかによって、事業のスピードが格段に変わると考えているからです。
かの有名なビジネス書「リーン・スタートアップ」でも言われていたことですが、いかに小さく、早く、プロジェクトを進めるかも大事なことです。できるだけプロジェクトを細分化して、1ヶ月〜3ヶ月のサイクルとして回し、その中で何度も失敗や成功を振り返ってゴールまでの道筋を調整していく。一年かけてプロジェクトを準備してみて失敗だった、と言うのではあまりに遅すぎるからです。
これをやるんだ!と決めると、つい実行の方に気を取られてしまって、仮にちょっと心に引っかかる点があっても「売上げだけ見ればうまくいっている」「これはこういう面ではとても成功している」などと自分に言い聞かせてしまうのはよくあることです。
私の実体験であり、反省点でもあるのですが、ユーザーから不満の声が少し出ていたも「この意見は一部のユーザーさんで、全体の声ではない」と自分の中で言い聞かせて、プロジェクトを推し進めてしまったことが過去にありました。プロダクトが本質的にマーケットにフィットしていないということを、客観的にジャッジできなかった。
ここについて改善策を考えるとするなら、やはりパートナーやメンターなど、正直に意見を聞くことができる人を周りに持つこと。「やっぱり実はダメなんじゃないか?と思っている」ということを打ち明けるのは勇気がいりますが、経営においてとても重要なスキルです。
これは女性が最も得意なことかもしれません。起業というのはたった一年で終わるようなことではないので、困難や心が折れることにぶつかった時にも、いかに自分の心に余裕を持って人に愛を伝えていくかは長期的に見て非常に重要なことです。
自分の想いにかけてくれた投資家さん、ついてきてくれた社員のメンバーも含めて、そういった人たちにはっきりと愛を伝え続けていきましょう。そういったことがいつか自分にも返ってくるものだと考えています。
時岡さんの講演に続いて、ここからは第二部のクロストーク。会社経営の上で大切にしていることや座右の銘、今後のチャレンジなどについて、お二人の対談形式でお話をしていただきました。
対談相手として、特別にご登壇いただいたのは…
株式会社ベアーズ取締役副社長
高橋 ゆき さん
家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニーである、株式会社ベアーズの取締役副社長。同社が創業以来、日本社会へ提唱している「利用者への新しい暮らし方」「従事者としての日本の新しい雇用創造」には、高橋ゆき自身の原体験が大きく影響している。家事代行サービス業界の成長と発展を目指し、2013年一般社団法人全国家事代行サービス協会設立以来副会長を務め、2019年4月より会長に就任。
経営者として、各種ビジネスコンテストの審査員や、ビジネススクールのコメンテーターを務めるほか、家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広働く活躍中。2015年 には世界初の家事大学設立、学長として新たな挑戦を開始。2016年のTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも家事監修を担当した。1男1女の母。
対談終了後も熱気はおさまることなく、和気あいあいとした楽しい雰囲気で、参加者の皆さんの質問に応じたり、参加者の皆さん同士のネットワーキングなどで盛り上がりました。
今回登壇した時岡真理子氏は今年6月よりアステリアの社外取締役に就任。それを記念して、イベントの中ではアステリア株式会社代表取締役社長の平野より、参加者の皆さんとワイン片手に乾杯する一幕もありました。
女性経営者の方や起業・独立を目指す方向けのイベントは当社も初めての取組みでしたが、今後ダイバーシティをさらに推し進めていくためにもぜひ積極的に開催できたらと考えています。
頼もしい社外取締役を迎えた今後のアステリア社の活動や展開にも、どうぞご注目ください。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!