2019年1月15日

アンチがいない!?話題のサービス「Voicy」を支えるボイステックと音声メディアがつくる未来

いま話題のボイスメディア「Voicy」に取材!Voicyの魅力やサービスの肝となっている「Voice Tech」の考え方について、共同創業者であるCTOの窪田さん、そしてVoicyのVUI/VUX(ボイスユーザーインターフェイス/ボイスユーザーエクスペリエンス)デザインに携わっている京谷さんのお二人にお話を伺いました。


マスメディア、ソーシャルメディア、オンライン、オフライン…
私たちが日常で触れているメディアは、その形も伝え方も様々。そんな中でここ最近、幅広い年齢の方から支持を集めている音声メディア「Voicy(ボイシー)」をご存知でしょうか?

サービスがリリースされたのは2016年9月。
2019年の今では、多くのリスナーが登録し、約200人以上のパーソナリティが自身の番組の中で日々音声放送を行っています。その内容はとてもユニークなもので、時事ネタから生活のハウツー、お悩み相談や他愛もないお喋りなど…。こうしたコンテンツに、なぜ今たくさんのリスナーが惹きつけられているのか?

Voicyの魅力やサービスの肝となっている「Voice Tech」の考え方、さらに音声メディアの可能性について、株式会社Voicyの共同創業者であるCTOの窪田さん、そしてVoicyのVUI/VUX(ボイスユーザーインターフェイス/ボイスユーザーエクスペリエンス)デザインに携わっている京谷さんのお二人にお話を伺いました。

窪田 雄司(くぼた・ゆうじ)さん
サービスリリース時は一人で開発を行い、現在はチームビルディングやサービスの企画・品質管理のほか、プロダクトの開発も引き続き手がける。創業以前は金融、流通、EC、広告などさまざまな業種においてシステムの開発・マネジメントやPMO業務にもに携わってきた。

京谷 実穂(きょうや・みほ)さん
美大を卒業後、大手国内メーカーのインハウスデザイナーとして、主に自社モバイル製品の企画からUI/UXのデザイン、デザイン思考を用いた新規事業開発のプロジェクトに従事。かねてより音声インタフェースに興味があり、2018年からVoicyに参画。現在は音声体験のデザインに主軸を置いて活動中。2018年12月に開催されたDesignshipという大規模なデザインカンファレンスにて、 VUXデザインのビジョンを発表。 https://note.mu/mi_ko120/n/n4d6fdb00540d

音で人の魅力を伝える「Voicy」、声を通じた ”コミュニケーションの場” に

本日は宜しくおねがいします!私もVoicyの一ユーザーなので、お話を伺えるのを楽しみにしてきました。まず早速ですが… ”音声を通じて情報を伝える” という点では、もともとウェブ上のPodcastなんかも主流でしたが、改めてそうしたサービスとはどういった点が違うのでしょうか?
分かりやすい例えだと、Podcastというのは音声のデータを溜めて置いておく「倉庫」みたいなものなんです。リスナーはPodcastという倉庫に入って欲しいものを自分で探しますよね。

一方で私たちは「Voicy」という一つの”メディア”を作っているという認識です。様々な発信者(パーソナリティ)による音声コンテンツはすべて私たちのキュレーションによって厳選されたもので、その放送数やコンテンツのバランスなども私たちがコントロールしています。
確かに、Voicyのコンセプトも「今日を彩るボイスメディア」ですもんね。パーソナリティの選考というのもかなり厳しくされていると聞いたことが…
今は毎月、数百人単位で応募があるんですが、実際にVoicy上でチャンネルとして開設されているのは1~2人ぐらいじゃないでしょうか。

え!そんなに!(実はパーソナリティとして台湾情報を発信するチャンネルを持っている私…!)なんだか恐れ多いです… (もっと頑張って更新しよ… 反省)。
あとサービスの違いという点では、Voicyがリスナーと発信者をつなぐ ”コミュニケーションの場” になっているのも一つですね。Voicyのリスナーは自分の好きな番組にコメントを残したり、お気に入りのパーソナリティをフォローしたりすることができます。
リスナー自身も能動的なアクションを起こせるようになっているんですね。共同創業者である窪田さんは、最初にこのアイデアを代表の緒方さんから聞かれたときはどんな印象でしたか?
そうですね。当時はそもそも「音声に注目しているサービス」というものがあまりなかったので、まずはそこに面白さを感じました。僕は昔からラジオもよく聴いていたし、音声の可能性や音声だからこそ伝えられる温度感みたいなものには共感しました。今までにないサービスだという点も惹かれましたね。

サービスとしても伸びるぞ!と…?
正直どこまで皆が使うサービスになるかイメージが湧かないところはあったんですけど(笑)、でもだからこそチャレンジしてみる価値があるなと思いましたね。

もともと大企業でシステム開発をしていたのでベンチャーでの働き方には興味があったし、音声に限らず、自分のサービスやシステムを持ってみたいという想いもありました。

アンチが生まれない!?音声メディアの可能性と魅力

今となっては「Voicyみたいなサービス」というと皆ピンときますよね。
そうですね。少し前に新聞社さんなんかもニュース音声を放送するWebサービスを展開されていたりしましたが、僕たちが作りたかったのはもっと雑談よりでカジュアルな音声発信の場だったんです。
Voicyを見ていると特定のパーソナリティのファン、という方もいるんですが「Voicyのファン」も一定数いますよね。ユーザーイベントを積極的に開催されていたり、有料のVoicyコミュニティがあったり。
そうなんですよ、コミュニティでは「Voicyをより良くするにはどうしたらいいか」と、社員ではないメンバーたちが議論したりもしてます(笑)。

<オフィスの壁に飾られたVoicyファンフェスタ参加者たちの写真>

熱心な方はVoicyの番組の内容を3行まとめにしてTwitterで発信してくださっていたり。良いものを広めたい、パーソナリティさんを世に広めるお手伝いをしたいという想いを持ってくださっている温かい方が多いんですよね。
えええ!愛されすぎ!羨ましい…!
実際にサービスを始めてから気づいたことや思いがけない反響などはありますか?
以前、Voicyのようなサービスを始めると言うと「動画でいいんじゃないの?」と言われることもあったんですよ。でも実際やってみて ”音声を使って発信したい人” というのが一定層いるということが分かりました。
音声での発信だからこそ活躍できる人」もいるんですよ。
声ってその人の温度感がとてもよく伝わるし、クローズドな雰囲気だから話せることもあったりして。他のSNSやメディアで有名ではないけれど、Voicyでは超有名、みたいなこともあります。例えば匿名で活動するパーソナリティが活躍できるのも音声ならではです。
確かに実際にVoicyを見ていて「こんな有名な人いたんだ!?今まで接点がなくて全然知らなかった!」ってこと、よくあります。YouTubeみたいに編集し尽くした動画よりも、ゆったりとお話される間(ま)があったり、言い間違いを言い直しているのも残っていたりして、人柄が伝わるんですよね。

そうそう。あと面白いのは、声だとアンチが出ないということですね
アンチがいない!?
ブログや記事だと、そのテキストを適当にかいつまんで読んで、軽い気持ちで叩くような人も出てくるじゃないですか。でも音声は最初から最後まで聞かないとその人が何を言おうとしているのか分からない。でも、嫌いな人の話って最初から最後まで聞けないですよね。

だから結局Voicyのリスナーさんってその人のことが好きな人や興味のある人が自然と集まってくるんです。最初は大好き!という感情でなくても、聴いているうちにファンになったり。「聴く世界ってやさしいな」と思っちゃいます(笑)。
や…やさしいいいい…
日々ネット上の炎上や批判に触れてうんざりしている人は、ぜひともVoicyの世界に避難してきてほしいですね…。
そうした新たな活躍の場としても、Voicyが個人を応援できるメディアになっていけばいいなと思います。

Voicyが提唱する ”ボイステック” という考え方

京谷さんの肩書きは「VUI/VUXデザイナー」とのことなのですが、具体的にどういったお仕事になるのですか?
VUIとは「ボイス・ユーザーインターフェース」、VUXとは「ボイス・ユーザーエクスペリエンス」のことを指しています。通常のUI/UXの考え方と同じく、ユーザー体験を最大化するためのデザインを行うのですが、その対象はスマホの画面をベースにしたデザインではなく、音声というインターフェースでの会話やコミュニケーションの設計を想定しているんです。

リスナーさんがどこで離脱しているのか?どういうテーマは視聴が多くなるのか?といったデータをひたすら分析したり、Twitterや他のSNSでの反響チェックも欠かせません。
目に見えない声のUIやUX、初めて聴きました。業界的には従来からあった考え方なんですか?
VUI/VUXという言葉が出始めたのは最近なんですが、もともと業界的には今後様々な対象とコミュニケーションしていく未来を想定しているので、ロボットとどんな風に会話するのか?みたいなことも含めて「会話設計」のような概念はあったんですよ。

私はもともと音声の専門家ではなく、画面設計を中心としたUI/UXデザイナーだったので、そうした時流を見ながら勉強していました。
なるほどなあ〜。音声体験というのも技術の進歩とともにこれからもっと変化していくんですもんね。
そうですね。どうやって話しかけて、どんなふうに返事があって、どういうコミュニケーションになれば心地良いのか?という会話設計の重要性は、今後様々なシーンで問われると思います。
なのでVoicyでは、そうした音声にまつわる体験をつくる技術を総称して「ボイステック」と呼んで社内での共通認識にしているんですよ。
具体的にどういった技術を検証されているんですか?
分かりやすいところだと音声のノイズを減らしたり、声の温かみを調整したりですね。パーソナリティによって声の音量も声質も違うので、アプリやウェブ上で統一させるのは結構難しいんです。どうしても環境の問題で収録ができないパーソナリティさんもいるので、オフィスの中に収録用のミニスタジオも作りました。

<実際に体験してみたVoicy社内の収録スタジオ>

実際にここで収録してみると、なんだか緊張感が…! 声の温度感が伝わるサービス、という話をさっきしていましたが、その裏には皆さんの努力があるんですね…。
以前パーソナリティの方で、SNSなどに顔を出していないのに、街を歩いていたときに「◎◎さんですよね!?」と声で気づかれることがあったそうです

毎日声に触れていると勝手に親近感が湧いてきて、その人のことをすごく深く知っているような気分になるんですよね。声ってそういう不思議な力があると思います。その力を最大限に引き出すための技術に日々向き合っています。

音声メディアを待つ未来、IoT連携の可能性は?

こんなことを聴くのもアレですが… 今後Voicyさんが音声以外の分野に進出するなんてことはあったりするのでしょうか?
そうですね。僕たちも声だけですべてができるとは思ってはいないので、何かの技術+声、というのはありえるかなと思います。
ふむふむ。具体的にどんな技術に注目されていますか?
分かりやすいものだと、IoT機器との連携ですね。いまのIoT機器ってどんどん小型化して液晶画面がなくなったりしていますが、”音を出す” というのは小さな穴さえあればできることなので、音声を届けられる場所は今以上に広がってくると思います。

あとはいわゆるスマートスピーカーの進化にも注目しています。液晶画面が大きくなってテレビのような形になっていたりとか、スマートスピーカーよりもスマートテレビが主流になるのかも、とか。

私も、スマートスピーカーの中に入っている音声アシスタントには面白い未来が待っているんじゃないかなと思います。そもそも音声アシスタントはスマートスピーカー本体とは別のもので、今後、車や家電などにもどんどん埋め込まれていく想定なので、スマホだけにとらわれず、家ではスマートスピーカーやソファなどの家電、どこからでも好きなパーソナリティの人の声が聞こえて、外出したときにイヤホンをしたら家で聴いていた続きを視聴できる、とか。

音声というのは生活のあらゆるところに届けられるものだと思うので、一日の流れの中で色々なプロダクトから音声を発信できれば面白いなと感じますね。

面白い!IoTが広がっていけば、今音が出ていないところからも当たり前のように音が聞こえる日も近いのかもしれないですね。
極端な話、流れている音声がVoicyのメディアだとユーザーが気づかなくても良いのかなと思います。裏で動いているのがVoicyだった、というぐらいの感覚で。

Voicyを沢山の方に使ってもらうのもそうですが、そもそも日本はラジオを聴く人の割合も海外などと比べると少ないので、まずは「声を聴く」という文化や価値観を広めていきたいですね。

編集後記

以上、今回はいま話題のボイスメディア「Voicy」の皆さんにお話を伺いました。 「声」を題材にしたサービスの魅力や面白さはもちろん、音声という目に見えないものをデザインする奥深さにも気付かされ、愛されるサービスを支える技術の進化を感じさせられました。

こうした最新の技術が駆使されるサービスですが、アプリ上でメニューを切り替えたり選択するときには「カチャッ」「シャカシャカ」といったラジカセのような、少しアナログな音が使われているのもどこか懐かしい雰囲気があって素敵。リスナーやパーソナリティにとっての音声体験を様々な角度からブラッシュアップされているVoicy。これからのIoT機器との連携やコンテンツの広がりも楽しみです。

まだサービス未体験という方は、是非こうした小さな楽しみにも注目していただきつつ、声が生み出す面白いコンテンツをチェックしてみてくださいね。最後まで読んでいただきありがとうございました!

今日を彩るボイスメディア「Voicy」

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。