2024年3月18日

日本の自治体は生成AIの活用で変わるのか? 秋田県仙北市で行われた、DXを推進する「AI 活用セミナー」まとめ

OpenAIのChatGPTが世界中で注目を集める中、アステリアは2024年1月、秋田県仙北市で「AI活用セミナー」を開催。同社CXOの中山五輪男が生成AIの基礎知識や自治体業務への活用法を解説しました。本記事では、セミナーの内容をダイジェストでまとめてお届けします。


OpenAI 社が 2022年11月に公開した生成AIツール「ChatGPT」は、ビジネスや生活シーンの中でイノベーションを巻き起こしながら世界中に広がっています。最近では日本の自治体でも、人手不足や業務の効率化を支援するツールとして期待され、東京都や神奈川県などで本格導入に向けた取り組みが進められています。

アステリアでは、生成AIツールを日本の地方自治体でもより有効に活用してもらおうと、2024年1月に「AI 活用セミナー」を秋田県仙北市で開催。

アステリア CXO(最高変革責任者)の中山五輪男が、仙北市の田口市長を含めた DX 担当職員約 30 名に対して、生成 AI の基礎知識や業務での活用法や AI への指示(命令文)となるプロンプトの使い方などを解説し、実際の自治体業務に当てはめたデモンストレーションを行いました。

本記事では、イベントにてお話しした内容をダイジェストでお届けします。
地方自治体での活用方法について検討されている方はぜひ参考にしてみてください。

中山五輪男(なかやま・いわお)アステリア株式会社 CXO|ノーコード推進協会 代表理事

長野県生まれ。法政大学工学部卒業。複数の外資系ITベンダーおよびソフトバンクを経て、富士通の理事/首席エバンジェリストとして幅広く活動。2022年5月よりアステリアCXOに就任。ソフトバンク在籍時には、iPhone/iPadのエバンジェリストとして主にビジネスユーザへの訴求活動に邁進し、日本におけるスマートフォンの普及に大きく貢献した。スマートデバイス、クラウド、ロボット、AI、IoTの5分野を得意分野とし、年間約300回の全国各地での講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。様々な書籍の執筆や複数のTV番組出演での訴求など日本を代表するエバンジェリストとしての活動をしつつ、国内30以上の大学での特別講師も務めている。

世界デジタル競争ランキングからみる日本の現在

地方自治体でのデジタル化について語る前に、世界における日本のポジションはどんな状況にあるのか振り返ってみましょう。2023年にIMD (国際経営開発研究所)から発表された「世界デジタル競争力ランキング」では、世界主要64カ国の中で日本は32位。これが今の日本の実力です。

そんな中で、日本がランキングの上位10カ国に入った指標があります。それは「市民の行政の電子参加」でした。意外に思われた方も多いのではないでしょうか?

それに続いて「世界での産業ロボット供給」と「ソフトウェア著作権の侵害」の指標については2位に入っていました。反対にランキングの下位10カ国に入った指標は「上級管理職の国際試験」と「企業の俊敏性」、「ビッグデータとアナリティクスの活用」です。皆さんにも思うところがあるでしょうか?

また、すでに一般化したかのように思われるキャッシュレスですが、日本は他国に比べるといまだ普及しているとは言えない状況です。世界主要国におけるキャッシュレスの決済率について、お隣の韓国は2021年には95.3%と普及している一方で、日本は32.5%。

さらに国連経済社会局(UNDESA)が発表する「世界電子政府ランキング」では、2022年の時点でトップとなったのはデンマーク。2位はフィンランド、3位が韓国です。日本は第14位という結果でした。

1位のデンマークでは、個人番号の配布率が100%となっていて、社会保障や税金などを一括に管理しています。電子私書箱の利用率は84%ということで、政府、自治体、警察、医療機関から各地域に情報が送られています。金融口座での電子署名の利用率も100%です。

デンマークはCPRナンバーと言って、日本でいうマイナンバーカードが、50年以上前から導入されていました。これにより一つのデジタル窓口から、全ての行政サービスにアクセスできます。このシステムのすごいところは、医療情報とも紐づいていること。情報が各病院で管理されている日本とは違って、個人のクラウド上で管理しているので、病院ではカードを提出することで、医者が情報をスキャンして患者の状態を把握しています。

自治体でのDXの突破口となる “ノーコード”

世界全体から見た日本の位置を知ったうえで、今度は日本の各自治体のDX推進状況を見てみましょう。現在の第1位は神奈川県、第2位は東京都、第3位が広島県となっています。市区町村でみると、仙台市が全国でも1位、続いて新潟市、愛知県岡崎市、東京都練馬区が2位となっています。

各自治体でのDXの突破口となるのが、やはり「ノーコード」。自分たちで必要だと感じるアプリケーションを、ノーコードツールを使って、自分たち自身で作っていくことがひとつの解決策になっています。

そもそも ”ノーコード” という言葉ですが、IT業界ではプログラムを書くことを「コードを書く」といいます。なので、ノーコードとは「ノンプログラミング」、つまりプログラムを書かずにアプリやWebサイトを作ったり、システムを連携させたりすることを意味しています。

日本では150を超えるノーコードツールが各メーカーから販売されています。有名なのは、業務アプリがノーコードで作成できるサイボウズ社の「kintone(キントーン)」や、自社アプリを手軽に作成できる「yapli(ヤプリ)」。さらにアステリアでも、現場で活用できるアプリがスマホで気軽に作成できる「Platio(プラティオ)」を販売しているところです。

ノーコードツールを活用した、地方自治体でのDXの成功例

具体的に、自治体での導入・活用例を見てみましょう。
鹿児島県奄美市デジタル推進課の取り組みを紹介します。奄美市が抱えていた課題は、デジタル商品券のweb予約でした。当初は先着順販売のため長蛇の列ができた上に、販売店が店頭で行う本人確認では確認ミスも頻発。店内で発生する混乱が問題になっていました。

そこでデジタル商品券を事前予約制度に切り替え、紙とwebで申請できるようにしました。紙の申請書はAI-OCRを活用してデジタル化し、web申請データと合わせて「kintone」の予約情報管理アプリで一元管理。本人確認作業は、RPA(※1)を活用して、住民基本台帳と照合することで自動化し、同時に重複申請のチェックもできるようになりました。

(注釈※1)RPA=ロボティックプロセスオートメーション。これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を、人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用して代行・代替する取り組み。

続いては、当社の「Platio」を活用した事例ですが、熊本県小国町では災害が発生時した際に「どこでどのような被害が出ているのか」「どの道路が寸断されているのか?」といった情報を職員がリアルタイムで報告できる「被災状況報告アプリ」を作成しました。

電話や来庁者から報告される被災状況を大判の紙に手書きで書き込んでいた従来の方法から、現場の職員がスマホやタブレットを通じて、写真や位置情報とともにアプリで報告するスタイルへ。本部のモニターで町全体の被災状況を地図で素早く確認し、状況把握ができるようになりました。

こうしてお話をすると、アプリの作成に一体どのくらいのコストがかかったのか気になりますよね。小国町では現在100名の職員がアプリを活用していますが、これにかかっているのは月額約5万円のみ。仮にこのシステムを外部に委託して作成していたら数百万円はかかるでしょう。

ノーコードツールなら、既存のテンプレートなどを活用することで、素早く、そして金額も安価でアプリを作成、利用することができます。

AIツールを活用した、地方自治体でのDXの成功例

一方で、今回のテーマでもある「AI」に着目してみましょう。
日本で開発されたAIツールを導入している大阪市役所での事例をご紹介します。もともと大阪市役所は、窓口が非常に混んでおり、特に申請審査に時間がかかっていたのですが、AIを活用することで職員の方の負担が軽減。同時に市民の満足度も向上しました。

さらに福岡県糸島市での事例を紹介します。糸島市は移住希望が非常に多い場所なのですが、移住希望者が望む物件情報など、地域に密着した情報を、的確かつ迅速に提供できないことが課題になっていました。AIを導入したことで過去のノウハウから予測モデルを構築でき、条件に合う物件が出てくるようになっています。市役所担当者の相談対応の負荷軽減にも繋がっているそうです。

話題の「ChatGPT」、自治体でどう活用してみる?

昨今話題になっているChatGPTに関しては、福島県、栃木県、東京都が正式に導入している一方で、試験導入や検討中という自治体も多いようです。具体的に生成AIがどのように活用できるのか? というイメージが湧かないと、なかなかとっつきづらいイメージがありますよね。

ここで、生成AIツール「ChatGPT」を使ったデモをしてみましょう。
今回は「仙北市の教育委員会定例会」の会議事録を例に挙げてみます。仙北市教育委員会の公式サイトでも一般公開されている議事録ですが、この文章をChatGPTに入れたうえで「500文字に要約してください。箇条書きで」と指示を入れてみます。

すると…

もともと1700字あった長い文章の議事録を、こうしてスッキリとまとめてくれました。
ここからさらに「決定事項があればそれも教えてください。300文字以内で」と指示をしてみましょう。すると…

このように重要な決定事項だけが抽出されてまとまりました。
議事録を全部読まなくても、会議の中で何が決まったのかがよく分かりますよね。

ただし、このChatGPTの回答は、ネットから学習した膨大なデータの中から基づいて作成された文章にすぎません。価値観や考えを持って発言してるわけではないので、ChatGPTの回答が必ずしも正しいとは限りません。ときには存在しない人物や名称を回答してくる場合もあるので、事実確認は必ず人の手で行う必要があります。

ChatGPTで、こんなこともやってみよう!

議事録のまとめ以外にも、ChatGPTはアイデア次第でさまざまに活用することができます。 例えば、こんな活用はどうでしょうか?

「次のことを考慮して、秋田県仙北市の未来像をアピールする国際会議でのスピーチ原稿を作ってください。
・仙北市の未来が明るいこと、子どもたちが希望を持って仙北市で活躍できることを表明できるように
・最近の具体的な仙北市の施策をいくつか盛り込んでください」

このように条件を多く指定することで、より的確な回答に近づけることができます。

このようにChatGPTに対して質問や指示をするための文章のことを「プロンプト」といいます。より高い精度の回答を得るために必要なプロンプトの肝は「ヒト、モノ、カネ、5W2H」です。これらを意識しながら生成AIツールを活用しつつ、さらに最初に紹介したノーコードツールと組み合わせることで、アプリ開発の効率も劇的にアップさせることができます。

例えば、自社(自団体)で独自のアプリを作りたいときにこんな質問をしてみましょう。

「客室の清掃点検ができるスマホアプリを作りたいのですが、アプリの中でどのような項目があればいいか10個項目で考えてください。」

すると…

このように、一般的に考えられる項目をざっと挙げてくれました。まずは基本の形をChatGPTで作成し、さらに現場の従業員とすり合わせをしながら項目をブラッシュアップしていけば、より精度の高いアプリを完成させることができるでしょう。

同じように「道路の安全点検アプリ」「商品券の事前予約アプリ」など、自分たちのニーズにあわせたアプリを作成する際も便利に活用できるはずです。

一点、ChatGPTを利用する際に最も重要な注意点があります。多くの方が注意喚起されていることですが、ChatGPTに個人情報や会社の機密情報などを入力してはいけません。AIが自身の回答の精度を上げるために、入力された情報を使う(学習する)ことがあるからです。また、一度入力した情報は削除できないということも覚えておいてください。

ですが、このリスクを回避する方法はあります。
ChatGPTを利用する際に入力した情報は、OpenAI社のChatGPTの学習に使われないようにするために以下の設定を必ず行ってください

「設定」<「データ抑制」<「チャット履歴とトレーニング」をオフ

また、ChatGPTの有料プランに加入すれば、テキストだけではなく、画像などのファイルをアップロードすることもできます。ChatGPTを仕事の補佐としてより有効に活用してみたい方はぜひこちらも試してみてくださいね。

生成 AI の誕生によって、業務の効率化やいろいろな可能性を探る取り組みが進められています。AI 技術の進化がもたらす未来への期待が高まっていること、そしてデジタル行財政改革を推進していくことが、より良い暮らしを実現できる一助になりそうですね。

実際のセミナーの様子

業務のさまざまなシーンで試してみることで、新たな活路が見出せる生成AI。
是非一度、身近にできることから試してみてはいかがでしょうか?

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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この記事を書いた人
in.LIVE 編集部 アステリア株式会社が運営するオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」の編集部です。”人を感じるテクノロジー”をテーマに、最新の技術の裏側を様々な切り口でご紹介します。