2017年5月25日

飛騨で始まるブロックチェーンを活用した地域通貨、実用化されるとどうなる?今後の可能性を聞いてみた

日本各地で地方創生などを目的とした「地域通貨」の導入が増えているのをご存知でしょうか? 今年5月に実証実験が始まった「さるぼぼコイン(仮称)」について、 導入の背景や活用の可能性を聞いてきました!


こんにちは!in.LIVE編集長の田中です。

現在、日本各地で地方創生を目的とした「地域通貨」の運用が始まっているのはご存知でしょうか? その地域での消費や購買体験を変えるだけでなく、地域の流通にも豊かさをもたらす地域通貨の活用。様々な地域でのトライ・アンド・エラーや実用化が進んでいます。

というわけで今回は、今年5月より岐阜県飛騨地域にて、ブロックチェーンを活用した地域通貨「さるぼぼコイン(仮称)」の実証実験を開始したばかりの株式会社アイリッジさんにお邪魔して、その導入背景や活用の可能性についてお話を聞いてきました。

インタビューにご対応いただいたのは、株式会社アイリッジの川田修平さんです。

川田修平(かわた・しゅうへい)さん
株式会社アイリッジ
新規ソリューション&テクノロジー開発 兼 セールス&マーケティンググループ
シニアマネジャー FinTech担当

慶應義塾大学総合政策学部を卒業し、プライスウォーターハウスコンサルタントでERPシステムのコンサルタント、ボストンコンサルティンググループで戦略コンサルタントとしてプロジェクトを推進。GEコンシュマーファイナンスで保険事業を担当した後、エス・エム・エスで看護師などの医療従事者向けコミュニティサイトの運営、看護師向け雑誌、通販事業の買収・PMIから運営・推進を担当。現在は、株式会社アイリッジにて、営業と新規事業開発を担当し、FinTech、決済領域でのプロジェクトを推進中。


アイリッジと飛騨信用組合の協業により実現した
「さるぼぼコイン(仮称)」

まず、今回はどのような背景で地域通貨の取り組みに至ったのでしょうか?
弊社ではこれまで、「popinfo」などの主力製品を通じて、企業のO2Oマーケティング支援を行ってきました。見込みとなるお客様の集客や販促などを中心としたサービスを提供してきたのですが、集めてきたお客様の購買体験をより洗練させていくにあたって、その購買フローの一つである「決済」の分野にも取り組んでいきたいという想いがありました。
なるほど!地域通貨の取り組みを始められる前から、この「決済」の仕組みを支えるサービスを提供されていたのですね。
そうなんです。具体的には、「シーレス」という飲食店で使える決済サービスや、「BUS PAY」というバス運賃をスマホ決済できるサービスなどを提供してきました。

「BUS PAY」は、バス予約・支払い・乗車がスマホアプリで完結するという業界初のサービスです。


路線バスだけでなく、高速バスなどでも運用を進めていて、現在も埼玉や徳島でサービスを拡大していますよ。
なるほど… 様々な業界や企業とのコラボで「決済」の可能性も広げていらっしゃるのですね。今回の地域通貨については、飛騨信用組合さんとの協業により実現したとのことですが、こちらはどういった背景があったのでしょうか?
飛騨信用組合さんはこれまでも、地域に特化したクラウドファンディングサービスである「FAAVO」を通じて、飛騨高山にコワーキングスペースを作るプロジェクトに取り組まれたりと、チャレンジングな企画をされてきた金融機関でもあります。

そんな前衛的な取り組みを積極的にされている飛騨信用組合さんの方から、今回の地域通貨の話が挙がり、ぜひ私たちの技術を使ってサポートできないかというお話になったんです。

今年5月から始まった、実証実験の具体的な内容について教えてください。
今回の実証実験では、まず飛騨信用組合の約200名の職員の方を対象に、一定額の地域通貨「さるぼぼコイン(仮称)」を付与して、3ヶ月間かけて実際に使って頂く予定です。
飛騨信用組合の職員さんに、地域通貨が付与されるのですね!
ちなみにこれらは、どこで使えるのでしょうか?
現在このさるぼぼコイン(仮称)は、飛騨高山にある屋台村で使えるようになっているので、実際にこの地域通貨で、食事などを楽しんでもらえるようになっています。

まずは職員の皆さんに、この地域通貨が広まることで、どういった購買体験が生まれるのか?ということを、体験してもらうのが目的ですね。

加盟店の運用しやすさがカギ?
導入コスト0でスタートできる「QR決済」

地域通貨って、すでに別の地域でも導入がスタートしている所もあると思うのですが、大規模なシステム導入など加盟店の負担が大きく、それが壁になって広がらないイメージもあります…。
そうなんですよ。
加盟店が増えなければ利用者も増えませんし、そこは大きな課題ですね。
そういった背景も踏まえて、私たちは今回、中国などでも広く活用されている「QR決済」という方法で導入を開始することにしました。
「QR決済」…? 具体的にどんな方法なんでしょうか?
システム自体はとってもシンプルで、加盟店は、自分たちの店に付与されたQRコードを紙に印刷して置いておくだけです。利用者は自分の持っているスマホなどのデバイスで、そのQRコードを読み取ると、店舗宛に支払いができる画面が表示されます。

そこで支払額を入力して、ボタンを押すだけで支払い完了です。



加盟店側でなにかシステムを導入する必要もなく、ただQRコードを印刷して店頭に置いておくだけなので、負担はほぼ0ではないでしょうか。
初期費用や決済手数料なども、かなり低く抑えることができます。
わー!こんな簡単に!
クレジットカードの決済サービスも手軽なものがどんどん開発されていますが、こうしたWEB決済も同様なんですね…

そうなると、今後「さるぼぼコイン(仮称)」が使える加盟店がどれだけ増えるか?ということもカギですね。
そうですね。
ただその点は、飛騨信用組合さんと協業する一つのポイントだとも考えています。これまで地域密着でやってこられた信用組合さんのネットワークという強みが活きてくるところですから。

導入よりも、どうやって活用を促進するか?
地域通貨の落とし穴に挑む


地域通貨の取り組みを発表されたのは昨年末でしたが、発表後の各業界からの反応はいかがでしたか?
やはり、反響はかなりありましたね。
プレスリリース発表後に、飛騨高山へ行って地域通貨を体験するツアーを企画したのですが、地方の金融機関などを中心に多くの方にご参加いただきました。
やはりこの地域通貨に、ひとつのビジネスチャンスを見出す自治体などもあるんでしょうね。一方で、実際にこの地域通貨を使う、ユーザー側での利用促進の工夫はありますか?
さるぼぼ倶楽部コイン(仮称)には、コインを眠らせないための施策として、あらかじめ有効期限が設定されています。そうした仕組みで、一定頻度での利用を促すのはひとつですね。

しかしそれ以上に、私たちが従来の事業で得意としてきた「来店ポイント」や「スタンプラリー」をアプリを使ってできるシステムと、非常に親和性が高いと思っています。こうしたシステムと絡めて、利用者の方には楽しみながら使ってもらえるのが理想ですね。
実際にこうした地域通貨って、利用者が使うメリットをあまり感じられずに、自然消滅していくようなケースもあったように感じます…。
「そこまでしてくれるなら、私も地域通貨を使う!」と思えるようなサプライズを、利用者としては、つい求めたくなってしまいますね(笑)。
そうですよね。
財布を持たずに外出ができる、といった利便性を訴求するメリット以上に、それを使う「楽しみ」のようなものを、あらゆる角度から考えていきたいです。

さるぼぼコイン(仮称)が実用化されたあとの利用者といえば、地元の住人の方以外にも、観光客の方も多そうですよね。
そうですね。実際、飛騨高山を訪れる観光客の数は年々増えていて、12万人の地元住人に対して、日本人も入れると年間450万人、外国人観光客で年間42万人とも言われているんです。外貨はもちろん、クレジットカードが使えない店も未だに多い昔ながらのエリアですから、この地域通貨が担える役割も大きいと思います。

例えば、外国人観光客向けのツアーにこの地域通貨を組み込むようなことも今後やっていくと思います。
外国人観光客が地元住人の4倍弱!
地域通貨をツアーに組み込む、とは具体的にどういうことでしょうか?
飛騨高山を訪れるツアーに参加した人に「さるぼぼコイン(仮称)」をあらかじめ付与するといったことです。遊びに来てもらって、地域内での買い物にこのコインを活用してもらうかたちですね。

また自転車でのツーリングなどを目的に訪れる外国人観光客に対しては、指定されたチェックポイントを通過するとコインが付与されたり。ゲーム的に楽しんでもらうことも目指していきたいですね。
なるほど!そうなると、その地域で買い物体験をすることはもちろん、散策・観光をする楽しみも増えていきそうですね!

ちなみに今回は「ブロックチェーンを使った地域通貨」ということですが、ブロックチェーン技術にこだわったところにも何か狙いはあるのでしょうか?
ブロックチェーン技術を活用することで、高価なセキュリティ対応を施さずとも、取引情報をデータとして安全かつ正確に残すことが可能になります。そうした技術が、安価な決済基盤の実現につながっているんです。

また、そうした記録をビッグデータ化して活用することで、地域通貨を使って購買を行ったお客さんだけに対して、限定のクーポンが発行できたりと、継続的、かつ横断的なキャンペーンに繋げられます。

また購買情報を飛驒信用組合の口座情報と紐付けることで、飛騨信用組合さんにとってのマーケティング施策のひとつとなって、過去の取引情報を踏まえた新しい提案をお客様にできるという狙いもありますね。

飛騨で始まる地域通貨、今後の可能性を聞いてみた!まとめ


今回は「地域通貨」に関わる実証実験を2017年5月に開始、そして今夏からの実用化を目指す、株式会社アイリッジさんにお話を伺いました。

地方創生のひとつの手段として重宝される「地域通貨」。ただ今回実際にアイリッジさんのお話を聞いて、その導入以上に実用化したあとの販促や、積極的な運用を継続をしていくための施策の重要性を感じました。

その地域が元気になるだけではなく、観光客がその土地を訪れるキッカケにもなり得る地域通貨。実証実験の結果や、実用化がもたらすライフスタイルの変化についても、これから継続的に追いかけていきたいと思います!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


《関連リンク》

・株式会社アイリッジ https://iridge.jp/
・プレスリリース「金融業界初、ブロックチェーン技術を活用した電子地域通貨
地域創生の取り組みとして岐阜県飛騨地域で商用化」  https://iridge.jp/news/201611/13509/

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。