2020年6月22日
医療や教育など、さまざまな分野で活用が期待されるブロックチェーン。今回は「不動産」というテーマにフォーカスを当てて、活用のポイントや可能性、国内での事例をご紹介します。
in.LIVE 読者の皆さんこんにちは!
アステリア株式会社で、ブロックチェーンエバンジェリストとして活動している奥です。
ブロックチェーンの有識者の中では、かねてより不動産業界とブロックチェーン技術の相性の良さについて多く示唆されてきました。海外ではすでに不動産の売買などにもブロックチェーンの技術が適用されていたり、さらに日本でもあちこちで実証実験が行われています。
ブロックチェーンが不動産のどういったところに使われているのか? 具体的な事例をご紹介しながら、将来的にブロックチェーン技術が不動産業界にどのような影響を与える可能性があるのかを一般の方にも分かりやすく解説します。
筆者プロフィール
奥 達男(おく・たつお)
アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト・コンサルタント
ブロックチェーン技術の啓蒙及び技術適用された事業モデルの創生・推進、コンサルティング、提案、POC、技術の講義、サービス構築や他社主催セミナーへの登壇などを担う。一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)にて、トークンエコノミー部会 部会長、ブロックチェーンエバンジェリストを務める。
具体的にどういった点において、ブロックチェーンと「相性が良い」とされるのか? 特に注目されているのは、不動産ビジネスにおける3つのポイント。それが ① 権利の管理、② 契約処理の自律化、③ 情報の透明化 です。ひとつずつ解説していきます。
① 権利の管理 というのは、不動産の売買や賃貸契約、不動産証券など、人と人との間で起こるさまざまな権利のやり取りをブロックチェーンを通じて管理するというもの。権利やそのやり取りの履歴を改ざんできない、不正ができないといったブロックチェーンの特徴を生かして、さまざまに変化する権利の状態を正しく管理します。
さらに、② 契約処理の自律化 というのは、こうした権利のやり取りの際に発生する煩雑な契約行為を、ブロックチェーンを活用した P2P(売買における売り手と買い手が直接つながる取引き)のプラットフォーム上で自動的に行うというもの。仲介人が不要なため、これまで高額だった手数料を極端に低くして、利用者に還元するといったこともできます。
ポイント3つ目の ③ 情報の透明化 というのは、その名のとおり、現在の不動産における課題の一つである情報の不均衡を解決できるということ。物件が建てられてからこれまでにどういった人が賃貸契約をしたのか、どういったトラブルがあったのか、さらには物件のメンテナンスの状況などを、すべてブロックチェーン上に記録し、誰もが見れるかたちで共有することにより、物件に関わるすべての人が情報を平等に受け取ることができます。
実は日本でもさまざまな企業が実証実験を行っているのをご存知でしょうか? いまだにFAXや文書を使ったやり取りが多く存在している不動産業界では、ブロックチェーンによって今までにできなかったことが実現できるといった場面も多く、日本の大手企業でもその可能性が探られています。具体的な事例をご紹介します。
◆ 積水ハウス株式会社
複数企業と協業し、ブロックチェーンを適用して不動産賃貸業務を簡略化、ワンストップサービスと企業間情報連携基盤の実現を進めています。例えば、引越しの際に、引越しの手配や電気・ガス・保険などの生活インフラサービスの手続きをワンストップで終えるためにさまざまな企業における情報連携を実現しています。https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/datail/__icsFiles/afieldfile/2020/06/10/20200608.pdf
◆三井住友信託銀行株式会社
複数企業と協業し、情報を一元的に蓄積、関係者合意の元で有効活用できるプラットフォームを構築する実証実験を進めています。
https://www.smtb.jp/corporate/release/pdf/190813.pdf
◆株式会社Lifull
散らばっている不動産情報をひとまとめに管理して、不均衡な不動産情報を平準化するためにブロックチェーンを適用しています。さらに空き家・所有者不明不動産問題の解決に向け、ブロックチェーンを用いた権利移転記録の実証実験を開始しています。https://lifull.com/news/15396/
もちろんこうした企業以外にも、スタートアップ企業などでも多くの実証実験が行われています。筆者である私自身、これまで不動産関連の企業に向けてブロックチェーン適用の提案を多くしてきました。
しかし、日本の不動産におけるIT化は他の業種より遅れていると言われており、残念ながらなかなか実証実験から実用にまでいたるケースは多くありません。しかしこれまでも、事業改革の速度がにぶい業界に対して「Uber」や「Airbnb」のような黒船企業が海外やってきて、業界を席巻するようなことが多く起こっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)による改革を進めている企業と遅れている企業で業績の明暗が分かれているのは明らかです。
最後に、著者が思う日本における不動産×ブロックチェーンの将来像について。
日本の不動産においては、特に「賃貸」の分野に対して、ブロックチェーンがフィットすると感じています。賃貸に関わるさまざまな業務は、ブロックチェーンを適用したプラットフォームによって今までできなかったことを実現する可能性を秘めています。以下、活用の具体例を4つご紹介します。
⑴スマートロック
スマートロックの鍵の権利をトークン化し、ブロックチェーン上で管理することで、部屋を借りたい人と貸したい人を直接つなげるプラットフォームを実現することができます。
⑵契約
契約の仲介をブロックチェーン上のプログラムである「スマートコントラクト」が担うことで、契約手続きが迅速に進められ、改ざんされない形で手続きの記録を残すことができます。今までかかっていた契約手続きの手数料が削減でき、その分を貸し手と借り手に還元することができます。
⑶決済
家賃や光熱費などの費用の支払いを全てブロックチェーン上の通貨(トークン)で行うことができます。トークンで決済を行うことにより、プラットフォーム上の様々な機能と決済機能が連携できるようになります。
これは筆者のアイデアですが、家の鍵の権利が月ごとに発行される仕組みにして、家賃の支払いが済んでいる人に、次月の鍵の権利を自動で渡せるようなことも可能です(しかしながら、ブロックチェーン上でトークンを発行・決済することは日本のルール上、実現に多くのハードルがあります)。
⑷トレーサビリティ
賃貸に出されている部屋がどういった経緯を辿ってきたか(いつ建築され、どういった人が借りてきて、トラブルは無かったか、メンテナンスは行われてきたか、等)がブロックチェーンにより、誰でも確認できるようになります。
また、借りる人の信用情報を確認するためのトレーサビリティにも対応できます。貸し手は、借り手のトレーサビリティデータを確認することにより、より信頼をもって、部屋を貸すことができます。審査なども不要になるかもしれません。
これらを4つの要素を組み合わせたプラットフォームができると、例えば、家賃を延滞している人に対しては、スマートロックが解錠しないように設定したり、これまでにトラブルがなかった人には良い信用情報が紐付けられて、次も部屋が借りやすくなったり… といったプラットフォームを、管理者の存在なしで自律的に構築することが可能なのです。
さらに、このプラットフォームに蓄積されたデータは他プラットフォームと相互に使えるデータになりえると考えます。KYC(Know Your Customer)とは本人の身元を確認するプロセスのことですが、他のさまざまなプラットフォームでもKYC関連データが溜まることで、個人に紐づくさまざまなデータが組み合わさった「KYCプラットフォーム」の実現が可能であると考えています。
例えば、賃貸管理プラットフォームに蓄積されたデータを信用スコアに利用して保険会社と連携したり、賃貸管理で流通するトークンの利用用途を増やすことにより、トークンの経済圏を広げたり、さらには 賃貸管理プラットフォームをそのまま民泊プラットフォームとして転用したりすることも現実的なものになってくるのです。
以上、いかがでしたか?
ブロックチェーンという新技術が、いかに不動産業界と相性がよいのか? そして将来的にどのように発展させられるのか? をご紹介してきましたが、不動産という業界のみならず、他の業界にもかたちを変えてさまざまに活用することができるというのがポイント。
プライバシーの問題や不動産価値の透明化に抵抗がある人はいますが、すでに海外では似たような仕組みが動いています。こういった今までできなかったようなことが実現できる技術がブロックチェーンであり、その技術によってさらに世の中が便利になることは間違いありません。
次回の記事では「ブロックチェーン×不動産業界」における海外の事例などもご紹介していきます。どうぞお楽しみに!