2026年7月23日

【アステリア代表平野 × JPYC岡部代表インタビュー】なぜ、アステリアは10億JPYCを保有するのか――。ステーブルコインによって変わる金融インフラの常識とビジネスのスタンダード

金融インフラの常識を刷新し、日本の経済成長を加速させるべくタッグを組んだ両社。日本円ステーブルコイン「JPYC」は、果たしてビジネスの現場をどう変えていくのか。日本におけるデジタルマネーとweb3エコシステムの新たな局面に迫ります。


今回のin.LIVEは、今年1月に業務資本提携を発表したJPYC株式会社代表取締役の岡部典孝氏と、アステリア代表・平野洋一郎が登場。

他では聞けない資金移動業者登録の舞台裏から、この技術が企業活動にもたらす実利、そしてその先に見据える日本の未来図まで、従来の金融インフラに鋭く切り込もうとしている二人が熱く深く語ります。

前例なき挑戦。JPYC・岡部氏が語る、ステーブルコイン許認可獲得までの道のり

――岡部さんがデジタル通貨に興味を持ち始めたのはいつからですか。ビジネスにしようと思ったきっかけを聞かせてください。

高校生のときには興味を持っていました。ただ、2000年よりも前の、技術もない時代でしたので、「こういうビジネスはいいな」に留まっていました。本格的に動き出したのは、2017年です。

――特別なきっかけがあったのでしょうか。

前の会社が、平野さんが代表理事を務めるブロックチェーン推進協会(BCCC)に入っていたんです。当時はゲームをつくっていたのですが、そのなかで貯めた仮想通貨を実社会での決済に使ってもらおうと試みたものの、どの企業からも受け入れてもらえなくて。現場の人は面白がってくださるのですが、管理部門や監査でストップがかかるんです。このとき、法定通貨と連動したコインじゃないと社会実装が難しいことを痛感し、ステーブルコインの構想を描くようになりました。

――平野さんがデジタル通貨に着目したのは、いつの頃ですか。

2016年にBCCCを設立したときです。当時は、ビットコインをはじめ暗号資産の値動きが激しく、企業が使おうにもそこが最大のネックになっていました。これを解消できないかと、ステーブルコインの社会実装実験をスタートさせたのが始まりです。

――2025年8月には岡部さん率いるJPYC社が、ステーブルコインの発行が可能な資金移動業者として、金融庁に登録されました。これは国内第一号とのことですが、ここまでの苦労は多かったのではないでしょうか。

そうですね、めちゃくちゃ大変でしたね。日銀の仕事を民間が行うみたいな話なので、法改正に2年を費やしましたし、改正後もものすごく厳しい許認可の条件をスタートアップである私たちが乗り越えていく行程は、まさに苦労の連続でした。

ただ、それでもクリアできたのは、私たちがステーブルコインに特化していたからだと思います。現在、メガバンクさんをはじめ、多くの企業がステーブルコインの発行を検討されていますが、いまだにどこも許認可が下りていません。それは、各企業がステーブルコインを数多くある新規事業の一つに位置づけているからだと言われています。一方で、私たちはステーブルコイン一筋に事業を営み、資金調達もしていますから、途中で止めるわけにはいきません。この不退転の決意が、当局に評価されたのだと考えています。

もう一つ、これは意外に思われるのですが、社内に金融経験者がほとんどいなかったことが、プラスに働きました。もし経験者がいれば、提出資料を完璧に仕上げようと腐心したり、些細なことでも金融庁に伺いを立てたりと、当局の意図に沿うことを最優先にしたはずです。けれども、それでは一つを進めるにも相当の時間がかかってしまいます。

ステーブルコインは新しい分野なので、金融庁も探り探りなんですね。ですから、私たちは“お作法”にとらわれることなく、「審査項目に沿ってここまで整えました。だから、合格をください」と、自分たちのロジックで堂々と主張することができました。この主体性がスピードを生み、許認可獲得につながったのだと思っています。

「金融インフラは違う次元に」。ステーブルコインが秘める大きなポテンシャル

――ステーブルコインへの注目が高まってはいるものの、日本企業の金融インフラを担っているのは「銀行」です。こうした商慣習のなか、ステーブルコインを活用するメリットを聞かせてください。

まず前提として、企業財務の中で「銀行」だけ切り離されているのが、現在の状態です。ERPも会計もキャッシュ管理も自動化が進んでいますが、銀行はCSVファイルをアップロードしたり、APIをつないだりと昭和の時代から変わっていません。これは銀行では、非常に高いレベルの正確性や堅牢性が求められるため、システムがガチガチにつくられていて、いまでもメンテナンスやアップデートのたびに業務を止めて対応しています。こうした過去からの制約がDXに待ったをかけています。

他方、デジタル化やDXは企業の業務範囲を広げ、業務スピードも加速させていますが、報酬のやり取りは変わらず「お金」であり、月末締めの翌月末銀行払いと旧態依然としたままです。その結果、お金が回らない、与信が通らない。だから、仕事ができないといった壁に阻まれています。その点、ステーブルコインは即時決済が可能なので、事業を高速に回すことができます。すると、生産性が上がり、業績を上げることへとつなげられます。
銀行からの海外送金は土日にできないなど制約がありますが、ステーブルコインは、たとえ日曜の夜中でもすぐに送れることもメリットの一つです。いまの世の中は、国家間の対立などの地政学リスクが急に始まったりと予測不能です。そんな混とんとした社会を生きているのに、“土日に動かせないアセット”だけでは、非常に不安です。預金の一定額をステーブルコインにシフトすることには合理性があると思っています。

加えて、ステーブルコインを活用している会社は、「先進性がある」「新しいことに取り組む姿勢がある」とイメージもいいですし、AIが出金を手配できる、あるいはAI同士で取引できるという面からも非常に期待されています。
このAIですが、今年中にエージェント化すると考えています。要は、一人の社員に数人の部下が付くような状態になるということです。AIエージェントは24時間働くことができますし、「これは100円」「これは2,000円」のような少額決済を自律的にこなせます。そうなると、もはや銀行には及びません。

ステーブルコインを活用して他社よりも圧倒的に早い仕事がしたいと考える企業はどんどん進み、そうじゃない企業はビジネスのスピードに取り残されるリスクがある。その差がこの数年で現れると考えています。

――とはいえ、決済で万が一のことが起きた場合、AIでは責任の所在を明らかにできないため、二の足を踏む企業も出てきそうですが……。

そうですね。どこまで人が関与するのかは、議論の余地が残ります。その一方で、100円、200円の支払いに銀行決済を利用するかというと、しませんよね。なぜなら、振込手数料が高く、ワークフローを回す人件費も上がってしまうからです。こうしたあらゆることを踏まえながら、ヒューマン・イン・ザ・ループの考え方で、どこに線を引くのか。そのルールを決めていく機運はこれから高まっていくでしょう。

――このほかにメリットとして考えられることはありますか。

たとえば、お店をはじめとする小規模事業者さんは明らかにキャッシュフローが良くなります。コード決済を利用している場合、決済金額の3~5%を手数料として提供元に支払う必要がありますが、そのコストをグッと下げられる可能性もあります。すると、粗利率が良くなり、浮いたコストを顧客サービスに回すこともできる。これはお店の利用客にとってもプラスです。
たしかにそうですね。JPYCは現金に換える手数料が0円ですし、送金手数料もアステリアのサービスを使えば1件8円と極めて低コストに送金フローが自動化できます。
実際、JPYCで決済できるお店や、支払いに使えるクレジットカードが登場するなど、つなぎ込みが進んでいます。たとえば、ローソンのポイントサービス『Ponta』もJPYCに交換できるようになりました。日本にはありとあらゆるポイントがあふれていますが、今後は相互運用性のなかったもの同士がステーブルコインによってつながることも起こりうるでしょう。

――普及自体は、BtoCのほうが先に火がつくかもしれませんね。『〇〇Pay』のようなコード決済サービスも個人利用がメインですし。

むしろ、BtoB取引は、やっと手形が廃止されたような状態で、クレジットカード決済すら普及しているとはいえません。ステーブルコインが分け入るには道のりが険しい気もしています。

最初に導入が進むのは、料金がほぼ固定化されていて価格競争が起こらない業態だと思っています。こうしたところは、決済手数料が低い方が正義なんですね。たとえば、金券ショップさんは手数料がかかるのでコード決済サービスを導入せず、支払いは現金のみのところが多いのですが、最近になってJPYCの取り扱いを始めたケースも見られています。

BtoC向けでいうと、大型のECモールが導入してくださるといいですね。『JPYC決済割』なんてやってもらえると、最高です! ポイント還元で差を付けるような使われ方も期待したいです。

ブロックチェーンがもたらす、金融資産の新たなパラダイム

――続いて、技術面に話題を移すと、「資産のトークン化」の話もチラホラと出てきています。ビジネスの観点での影響をどのように見ていますか。

トークン化することによって、少ないロスでいち早く現金化できるようになる点は、大きなメリットです。それから、たとえば金を現物で持っていても利息はつきませんが、トークン化して市場に貸し出せば収益を生み出せます。これもまた、企業にとってプラスです。この流れは徐々に進むと思っています。

――技術の発達が加速するにつれ、企業のデジタル資産に対する考え方も少しずつ変わっていきそうですね。

そうですね。ただ、そのためには同じ規格でトークン化されていることが重要です。金融資産には株式や債券、不動産などさまざまにありますが、これまでこれらの取引システムをつなぐことは現実的ではありませんでした。

しかし、オンチェーン化された世界では、たとえば不動産と金をそのまま交換することができます。現金に替える手間や時間は一切かかりません。それは債券や株でも同様ですし、取引手数料も今までの100分の1で済むようなインパクトがあります。それがたとえ1%であっても、0.01%になるのであれば、積もり積もって大きな差が生まれます。この点は見過ごせないと思います。

JPYCの流通拡大で、国際デジタル金融市場でも日本の存在感を

――平野さんはJPYC社に出資を決めた当初から、今のような未来を想定していたのでしょうか。

企業がステーブルコインで商取引を高速に回す未来は想定していましたが、違ったのはAIエージェントの存在です。ステーブルコインのやり取りに介入できるようになることは嬉しい誤算であり、明らかな加速要因です。

企業にとってAI活用は当たり前になりつつあるのに、現行の銀行決済を使い続けることは、事業スピードにブレーキをかけるようなものです。この先はどの企業も自然とステーブルコインの波に乗るようになるでしょう。

――すると、5年後、10年後はどのような世界になっていると予想されますか。

ステーブルコインに限らず、ブロックチェーン上のトークンでいろいろなアセットのやり取りが普通に行われるようになっていると考えています。かつ、そのやり取りをAIが行っていることが普通に想像できます。ただ、そうなるにしたがって「人間は何をやるのか?」が、毎年問われるようになるのかもしれませんね。

というのは、ロボットも同時に進化しますから。来年の新入社員のうち一人は、ヒューマノイドになっていることもあり得ます。さらに5年10年と時代が進むと、「一昔前は財布っていうものを使っていたんだね」なんて会話が飛び交う世界になっているかもしれないですね。

――岡部さんはどのように予想されていますか。

ステーブルコインが3年以内に使われていなかったら、日本は国際競争で相当遅れると思っています。まさに、ここ2、3年が勝負であり、勝ち筋はどの企業もAIエージェントを導入することです。たとえば、ホテルの予約電話をAIエージェントが対応することは、いまの技術であれば十分可能です。ただ、予約者から対価を受け取るプロセスにはまだ対応できていません。

これがステーブルコインになって企業の基幹システムとつながれば、価値移転は一気に楽になります。2、3年でこの段階まで進んでほしいですね。ちなみに、これを実現できた企業は、そのあとの時代でも選ばれる企業になれると思います。いずれホテルの予約を電話と現金ですることを面倒がられる時代になるはずですから。

――最後に、ステーブルコインの領域で連携強化を図ったことへの抱負を聞かせてください。

連携を機に、私たちはステーブルコインの普及にいっそう拍車をかけていきます。これは日本企業のため、日本国のためになると考えています。ドルのステーブルコインは相当発行されていますから、時間が経つほど日本は劣勢になってしまいます。

そうならないようJPYCをどんどん増やして日本円のポジションをしっかり獲得していくことが目標です。そのためには、周辺サービスの発展が不可欠です。当社は技術面で先頭に立っていくつもりですが、関係各社・団体にも働きかけ、一緒に盛り立てていきたいですね。
JPYC発行額が伸びればそれだけ企業価値は上がっていくと考えていますが、その鍵を握っているのは、まさに当事者である法人の方々です。『ASTERIA Warp』を導入されている企業さんを筆頭に、いかにステーブルコインを持って、使っていただけるのか――。

その点、アステリアさんは、「10億JPYCを保有する」と表明されただけでなく、「扱うなかで問題が起きれば、自ら解消していく」という姿勢も示してくださっているので、本当にありがたいパートナーだと思っています。資本的にもお互いの株を保有していますので、ともに企業価値の向上を目指し、大きなシナジーを生み出していきたいです。

ちなみにこの10億JPYCは、当社の現預金相当の約3分の1にあたります。当社に限らず多くの上場企業がこの規模の金額をJPYCで持つとなると、ものすごく大きなインパクトがあります。

ですから、私たちが会計的にも監査的にも内部統制的にもJPYCが安心安全な通貨であることを証明し、生産性の向上、キャッシュフローのスピードアップも実現させることでロールモデルをつくっていきたいですね。これまでASTERIA Warpで推進してきた『データの連携』が、JPYCとの提携で『価値(お金)の連携』へと進化させていきたいと考えています。
平野社長は先見の明のある、尊敬すべきエンジニア経営者です。エンジニア経営者は、未来に対する感度の高さが大事だと思っていますが、平野社長はとにかく鋭い。私もエンジニア出身ですが、時機を見通す難しさをいつも感じています。

ステーブルコインやAIエージェントが来る時代を精度高く予測して事前にベットしておく。チャンスが来たらガっと掴みに行く。そのタイミングは非常に大事ですが、今回の協業はまさにベストでした。これから一緒にJPYCを伸ばしていけたらと思っています。
そうですね。ぜひ一緒に伸ばしていきましょう。

この記事がよかったら「いいね!」
この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。