2026年11月2日

AIが「どう作るか」を担う時代だからこそ、人間には「何を、なぜ作るのか」を考える力が求められる。Bakusoku.AI 開発者・中利弘氏インタビュー

AIがコードを書き、アプリまで生成する時代、人間にはどんなスキルが求められるのでしょうか?「Bakusoku. AI」の開発を手掛ける中氏は、その答えは『対人スキル』だと語ります。単なるコミュニケーション能力ではなく、相手も気づいていない課題を発見し、言語化する力——AI時代の設計やインプットの重要性、教育現場で起きている変化、これからのエンジニアに求められる役割について聞きました。

アステリアキャンバス_中利弘

先日、in.LIVEでは、令和8年熊本地震を受けて公開された「熊本県 避難所&現地情報マップ」開発の舞台裏を紹介しました。本アプリは、AIネイティブ業務プラットフォーム「Bakusoku.AI」を使って開発されており、作成を始めてから公開可能な状態になるまで、わずか50分足らずだったそう……!

これまでエンジニアやデザイナーが多くの時間を使って行ってきた作業を、AIが担う場面は急速に増えています。しかし、そんな技術の進歩に驚く一方で、ふと一つの疑問が浮かびました。それは、AIがゼロからアプリ開発を担えるようになったとき、人間には何が残るのか? ということ。

その問いに対して、Bakusoku.AIの開発を手掛けるアステリアキャンバスCTOの中氏が最初に挙げたのは、意外にも「対人スキル」でした。

AI時代に求められる「対人スキル」とは、具体的にどんな力なのか。ビジネスパーソンとしてのスキルアップはもちろん、新人教育や子どもの学びにも通じる「これから必要とされるスキル」について、中氏に改めて聞きました。

中 利弘(なか・としひろ)氏|アステリアキャンバス株式会社 CTO
MikoSea株式会社を共同創業し、CTOとしてプロダクト開発・技術戦略を牽引。ノーコード開発プラットフォーム「Click」をはじめ、テクノロジーを活用したプロダクト開発に取り組む。アステリア株式会社へのグループイン後は、生成AIネイティブのアプリ開発プラットフォーム「Bakusoku.AI」の開発・普及を推進。生成AIによってソフトウェア開発のあり方を変革し、誰もがアイデアを形にできる世界の実現を目指している。

AI時代の「対人スキル」とは、相手も気づいていない課題を見つける力

前編では、AIを使ってアプリを作るプロセスについてかなり詳しく伺いました。AIとチャットで会話するだけで欲しいものが実現できるのを見ると、「ここまでAIができるなら、人が介在する意味はどこにあるんだろう?」とも感じます。

よく聞かれる質問かもしれませんが、これから人間に求められるスキルについて、中さんはどう考えていますか?
僕の考えでは、「対人スキル」に尽きると思っています。
これまでのシステム開発では、要件を定義して、それを正確に実装することに大きな価値がありました。でも、AIによって実装のハードルが劇的に下がった今、「どう作るか」以上に「何を作るか」「なぜ作るか」が重要になっていると感じています。
相手の要望だけでなく、その背景にある目的や課題を理解するスキルということでしょうか。
そうですね。それって実は難しくて、ヒアリング力、課題発見力、言語化力、提案力など……。それぞれ別々のスキルというより、一連のプロセスだと思っています。

僕が特に重要だと思っているのは、相手も気づいていない課題を発見して、それを言語化する力です。例えば現場の方に「どんなシステムが欲しいですか?」と聞いても、本当に必要なものがそのまま出てくるとは限りません。普段の業務の中で当たり前になってしまっている非効率だったり、言葉にされていない暗黙のルールだったり。そういうところにこそ、改善のヒントが隠れていると思っています。
相手が言った要望を、そのまま仕様書にするわけではないんですね。
はい。例えば田中さんが、インタビュー中の気づきや発見を音声で残していけるアプリを作りたいとします。その業務や、自分が欲しいものについて一番よく知っているのは田中さんです。でも「こんなアプリが欲しい」と最初から完璧な仕様を言語化できるとは限らないですよね。

僕が開発を担当するなら、「いつ使うんですか?」「何を残したいんですか?」「あとでどう使いたいんですか?」と話を聞いて、必要なものを引き出しながら仕様に落とし込んでいくと思います。作るところはAIがやってくれるからこそ、そうやって大事な情報を引き出す力がより重要になると思います。
なるほど。そうした潜在的なニーズを引き出すためにも、クライアントとの関係を構築する対話力も必要になりそうですよね。
はい。そして、AIを使って開発する時代にもう一つ重要なことがあります。
それは、実際に作ったものを相手に見せて、一緒に考えることです。今はAIを使えば短時間で動くものを作れるので、言葉だけで議論するより、実物を見ながら対話する方が、相手の本当のニーズを引き出せると感じています。
確かに、言葉だけで話しているときには出てこなかった要望も、実物を見たことで具体化しそうですね。
そうですね。言葉だけで仕様を固めるのではなく、まず実物を見せながら対話することで、本当のニーズを引き出しやすくなっていると感じます。

「どう作る?」から「何を作る?」へ。プログラミング教育に起きた変化

そうした変化を、実際に強く感じた場面はありますか?
以前、富山情報ビジネス専門学校でBakusoku.AIを使った講義をしたのですが、そこで学生たちの反応を見て、気づいたことがありました。

実は数年前に、ノーコード開発プラットフォームの「Click」を使って、学生たちにアプリ開発を教えたことがあったのですが、そのとき学生から来ていた質問は「データベースから情報を表示するにはどうすればいいですか?」「メンバーを追加するにはどうしたらいいですか?」といった、技術的なものが中心でした。

ところが、今回の授業では、AIとの対話を中心にアプリを開発できるBakusoku. AIを使ったので、そういった質問が全くなかったんです。
「データベースから情報を表示したい」「メンバーを追加する機能をつけたい」とプロンプトを打てば、あとはAIが作ってくれますもんね。
はい。じゃあどんな変化が起きたかというと、学生たちが質問する相手が、僕ではなく先生に変わったんですよ。ちょうど学園祭で使うスタンプラリーのアプリを作っていたので、「スタンプはいくつ用意しますか?」「どういう条件でスタンプを獲得できるんですか?」と、学園祭を仕切っている先生にどんどん質問するようになりました。

富山情報ビジネス専門学校での講義の様子

「どう実装するのか」ではなく、「そもそもどういうサービスにするのか」をしっかりヒアリングするようになったんですね。
そうなんです。そうした質問には、先生も最初は答えられるんですけど、だんだんと質問が深くなってくると「そこまではまだ考えていなかった」ということも出てきます。すると今度は学園祭の委員会に聞いたり、「そこは学生から提案してほしい」と言われて、自分たちで考えたりするんです。

これまでの『作る』から、『考える』『設計する』へ変わったことを実感しました。これがこれからの開発の本質なんだろうな、と。
使う人の立場になって考えたり、実際に起こりそうなことを先回りして想像したり。技術以外のところに頭を使うようになったんですね。 この話、子どもの教育にもつながりそうですね……。実は、私の小学生の息子もプログラミング教室に通っているんですが、AIがここまでプログラムを書けるようになると、「これからプログラミングを学ぶ意味ってどうなるんだろう」と考えることがあります。
プログラミングで「作ること」自体は、AIができるようになっていくと思います。だからこそ、何を作りたいのかがすごく大事になる。

子どもの頭の中ってすごく広いですよね。大人のように誰かから要件をヒアリングするよりも、「こんなものがあったら面白そう」「こういうことをやってみたい」というアイデアをどんどん広げてあげることが大事なんじゃないかなと思います。
アイデアを広げ、それを形にしていく経験が大事なんですね。「プログラミングを学ぶ意味がゼロになる」ということではないんですね。少し安心しました(笑)。
AIによって「作る」ための技術的な壁が低くなれば、これまでなら技術力がなければ形にできなかったアイデアも、すぐ試せるようになります。自分なりのアイデアを持ち、それを試し、失敗し、また考えるスキルを身につけられると良いですよね。

AIのアウトプットは『インプットの二乗 × モデルの性能』で決まる

僕は最近、AIのアウトプットの質は「インプットの二乗 × モデルの性能」で決まると考えています。

AIモデルの性能がどれだけ高くても、業務の背景や目的が分からなければ、本当に使えるものは作れません。良いインプットとは、優れた設計そのものだと考えています。そして、優れた設計は、やっぱりヒアリングから始まります。

相手が何を求めているのかだけでなく、なぜそれが必要なのか、どのような背景や制約があるのか。そこまで理解することで、初めて本質的な課題を捉えられると思うんです。
なるほど。具体的に、どんな情報をAIに渡せると「良いインプット」になるのでしょうか?
良いインプットとして重要なのは、次のような情報です。

目的・背景: なぜその業務が存在し、何を改善したいのか
業務の実態: 誰が、いつ、何をしているのか。実際の業務フロー
暗黙知・例外: 現場の人しか知らないルールや、イレギュラーな対応
データ: 過去の記録、帳票、既存システムのデータなど
制約条件: セキュリティ、権限、運用上のルール

特に重要だと感じているのが、現場の人にとっては当たり前すぎて、わざわざ説明されない情報です。例えば、「この処理は月末だけ違う」「このお客さまの場合は特別な承認が必要」といった例外は、一般的な業務説明だけでは出てこないことがあります。
システムを作るうえでは、むしろそういう「例外」の方が重要なんですね。
はい。ヒアリングメモでも、業務フロー図でも、過去のトラブルの記録でも構いません。まずは情報をできるだけ残すことが大切です。

以前だったら、人間がそういう大量の情報を整理して、仕様書に落とし込む必要がありました。でも今は、その整理自体をAIに手伝ってもらえます。つまり、人間が持っている業務知識や経験を、いかにAIが理解できる形にするかが重要になると思いますね。

実は、とあるアプリのプロトタイプを利用者に試してもらった際、ユーザーさんから改善点や要望をまとめた十数ページに及ぶ詳細なフィードバックが寄せられたんです。これは非常に質の高いインプットになると感じて、その内容をAIに読み込ませて改良版を作ったのですが、実際に、利用者の要望をかなり細かく反映したアプリが生成されました。
AIの技術力はもちろんですが、まず非常に質の高いインプットがあったのですね。
フィードバックの精度によって、同じAIを使っていてもアウトプットは大きく変わることを実感しています。まさにここが、AI開発時代に人間に求められるスキルだなと感じました。

コードを書く人から、「課題を解決する仕組み」を設計する人へ

最後に、これからエンジニアを目指す学生や、若手エンジニアに一つアドバイスするとしたら、どんなことを伝えたいですか?
僕なら「AIを使って、実際に誰かの課題を解決する経験を積んでほしい」と伝えます。プログラミング言語やフレームワークを学ぶことも大切です。でも、それ自体をゴールにはしてほしくありません。

例えば身近な人が困っていることを聞く。それをAIを使ってアプリにして、実際に使ってもらう。そして「ここが使いにくい」と言われたら、また改善する。この一連の経験には、ヒアリング、課題発見、設計、実装、運用、改善といった、エンジニアに必要な要素が全部詰まっています。
「誰かの課題を解決した」という経験をしてほしいということですね。
はい。僕自身、AIを使った開発を進める中で、ソフトウェアを「作ること」そのものの価値が大きく変わってきていると感じています。 3〜5年後には、AIがコードを書くことは今後数年でさらに当たり前になって、エンジニアの仕事は「コードを書くこと」から、「課題を解決する仕組みを設計して、継続的に改善すること」へ移っていくのではないでしょうか。

もちろん、技術的な知識が不要になるわけではありません。AIが作ったものが本当に正しいのか。安全なのか。実際に運用できるのか。それを判断するためには、技術への理解が必要です。

ただ、これからは技術力だけではなく、業務への理解や、人との対話を通じて課題を発見する力が、より重要になると思っています。AIが「どう作るか」を担う時代だからこそ、人間には「何を、なぜ作るのか」を考える力が求められる。

学生や若手エンジニアには、AIを単なる便利なツールとして使うだけではなく、AIと一緒に考え、作り、実際に使ってもらい、改善する経験を積んでほしいですね。
なるほど…。非常に面白いお話をありがとうございました!

編集後記

前編で紹介した「熊本県 避難所&現地情報マップ」は、Bakusoku. AIを使って約50分で作られました。そのスピードだけを見ると、「これまで人間が担ってきた仕事が、AIに置き換わった」と捉えてしまいそうになります。

しかし今回、中さんの話をさらに掘り下げていくと、見えてきたのは、それだけではない変化でした。「どう作るか」をAIが担うようになるほど、課題そのものを見つけ、解決の方向を決める人間の役割は、むしろ重要になるのかもしれません。AI時代のエンジニアには、コードの向こう側にいる人と向き合い、課題を解決する仕組みそのものを設計する力が、これまで以上に求められていきそうです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

関連リンク

・前編:「必要な情報を、必要な人へ」50分で生まれた「熊本県 避難所&現地情報マップ」開発の舞台裏 https://www.asteria.com/jp/inlive/working/8665/
・Bakusoku. AI https://bakusoku.ai/
・アステリアキャンバス株式会社 https://corporate.mikosea.io/

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。