2026年10月14日

「必要な情報を、必要な人へ」50分で生まれた「熊本県 避難所&現地情報マップ」開発の舞台裏

2026年7月に熊本で発生した地震を受けて、無料公開された「熊本県 避難所&現地情報マップ」。2,000カ所を超える避難所情報を地図上で確認できるだけでなく、現地から避難所の状況や不足している物資などを投稿できるこのアプリは「Bakusoku. AI」を活用し、わずか50分ほどで開発されました。開発を担当したアステリアキャンバスCTOの中氏に、今回のアプリ開発の舞台裏やAIとの開発プロセス、そして災害支援におけるAI活用の可能性について聞きました。


このたびの令和8年熊本地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。また、被災地域の皆さまの安全と、一日も早い復旧・復興を心よりお祈りいたします。

2026年7月28日に発生した「令和8年熊本地震」を受け、アステリアでは、被災された皆さまの救済や被災地の復旧・復興に役立てていただくため、義援金300万円の寄付に加え、被災地域の自治体や企業・団体を対象に、自社製品「Platio」「Handbook X」「Bakusoku. AI」の無償提供を行うなど、テクノロジーを活用した支援に取り組んできました。

そうした取り組みの一つとして、地震発生直後に無料公開されたのが「熊本県 避難所&現地情報マップ」です。

災害が起きたとき、被災者に必要になのは「どこへ避難すればいいのか」という情報だけではありません。その避難所はいま開いているのか。水や食料は足りているのか。トイレは使えるのか。そして近隣では、いま何が起きているのかーー。

「熊本県 避難所&現地情報マップ」では、熊本県内2,000カ所以上の避難所情報を地図上に集約し、現在地から近い避難所を探せるほか、現地の状況をユーザー自身が投稿できる仕組みも備えています。

驚いたのは、その開発スピード。本アプリは「Bakusoku. AI」を使って作成されていますが、実際に作成を始めてから公開可能な状態になるまで、なんと50分足らずだったといいます。

その舞台裏では、どんなことが起きていたのでしょうか?
地震発生後からアプリ公開までのタイムライン、Bakusoku.AI との開発プロセス、さらに災害支援におけるAI活用の可能性について、開発を担当したアステリアキャンバスCTOの中氏に聞きました。

中 利弘(なか・としひろ)氏|アステリアキャンバス株式会社 CTO
MikoSea株式会社を共同創業し、CTOとしてプロダクト開発・技術戦略を牽引。ノーコード開発プラットフォーム「Click」をはじめ、テクノロジーを活用したプロダクト開発に取り組む。アステリア株式会社へのグループイン後は、生成AIネイティブのアプリ開発プラットフォーム「Bakusoku.AI」の開発・普及に邁進。生成AIによってソフトウェア開発のあり方を変革し、誰もがアイデアを形にできる世界の実現を目指している。

原点は能登半島地震。「必要な情報を、必要な人へ」

今回開発された「熊本県 避難所&現地情報マップ」について、改めてどんなアプリなのか教えていただけますか?
こちらは、熊本県内の避難所情報を一つの地図に集約して、分かりやすく共有できるようにしたアプリです。ただ避難所の場所を表示するだけではなくて、「いま現地がどういう状況なのか」「何が足りているのか、足りていないのか」といった情報を、現地から投稿して補足できるようにしています。

アステリア代表取締役社長の平野から「こういうものを作れないか」という話があったことがきっかけだったそうですね。
はい。平野自身が熊本出身ということもあって「自社製品を通じてできることをすぐにでも」という思いが強かったんです。

ちょうど Bakusoku.AI のリリースも8月に控えていたこともあり、これを使って被災地にいる方が今すぐに必要としているものを作ってみようと。実は僕自身、令和6年能登半島地震が発生した際にも、同じようなアプリを作った経験があったんです。
中さんのお父様が、石川県に住んでいらっしゃると聞きました! まさに実体験から生まれたアプリだったのですね。
はい。震災が起きた当時、父へ連絡したら、家だけではなく道路もかなり大変な状態だという話を聞いて、僕も現地へ行きました。そこで感じたのが「現地の情報がまったくない」ということだったんです。

例えばトイレ一つとっても、どこのトイレが使えるのか分からない。使えたとしても、男女で分かれているのか、障害のある方が使えるトイレがあるのかといった情報までは分かりません。現地の方に聞くと、高齢の方から「夜は怖くてトイレに行けない」といった声もありました。 とにかく「今必要な情報が、必要な場所に届いていない」ということを強く感じて、Clickのコミュニティで有志を募り、5人ほどのメンバーにアプリを開発してもらいました。

僕は現地にいたので、被災地で必要な情報をメンバーに伝えて、「僕はこれをやります」「私はこっちをやります」と分担しながら開発したのが「みんなでつくる能登半島地震避難所情報共有アプリ」です。

現地で使えるトイレ情報……! まさに現場で今すぐ必要な情報にアクセスできるアプリですね。
はい。5人のメンバーと一日かけて作ったアプリですが、被災された多くの方に使っていただき、DMAT(災害派遣医療チーム)から連絡をいただくこともありました。

能登では僕自身が現地にいて、一番状況を分かっていたので、「現地ではこういう情報が必要だ」というイメージがかなり明確にあったんです。 そのときの経験が、今回の熊本地震の避難所マップでも生かされています。平野から依頼を受けた時点で、頭の中にはだいたい完成形のイメージがありましたから。

人が一日かけた開発を、今度はAIと50分で

前回アプリを作成したときと今回で、一番大きく違ったのは、やはり「Bakusoku.AI」を使ったところでしょうか。
そうですね。やっぱり人が作るのか、AIが作るのかで、開発にかかる時間は大きく変わります。前回は一日がかりでした。それでも十分早いと思いますが、今回のアプリの作成にかかった時間はわずか50分ほどです。
約50分…! アプリを作り始めてから公開できる状態になるまでの時間なんですか?
そうです。16時10分くらいから作り始めて、17時には公開できる状態になっていました。

とんでもないスピード感ですよね。Bakusoku.AI は、作りたいアプリのイメージをチャットで伝えることで、AIが要件整理からアプリの生成まで進めてくれるサービスですが、最初からものすごく細かいプロンプトを書いたのでしょうか?
いえ、一番最初はそこまで複雑ではなかったです。
シンプルに「避難所マップのアプリを作りたい」「地図上にピンを表示したい」「現在地から近い順に表示したい」といったことを Bakusoku.AI のチャットで伝えていきました。

そうすると、AIが要件を整理して、要件定義書の形にしてくれるんです。その仕様をベースに、アプリケーションが作られていきます。
最初にアプリを生成した後、手作業でコードを書き直したりするんですか?
いえ、修正も基本的に全部AIです。例えば、アプリ上の「現地の声をもう少し目立たせたい」というのも、その内容を入力していくつかAIにデザイン案を出してもらいます。「濃いブルーとオレンジなら、オレンジの方で」といった感じで、Bakusoku.AIと対話しながら修正していきました。

一番悩んだのは「作ること」ではなくて、仕様を決めることでしたね。能登半島地震での経験はあったものの、今回の状況において「誰が使うのか」「何の情報が必要なのか」を考えて、必要な情報を分かりやすく整理しています。

現場の声で進化するアプリと、AI開発の可能性

ちなみに今回のマップは「防災情報くまもと」の避難所情報をもとに作成されていますよね。既存の情報との違いはどこにあるのでしょうか?
僕たちが開発したマップでは、既存の情報をもとに、各地の避難所が開設されているか、現地がどういう状況なのか、何が必要なのか、という具体的な情報も見える化しました。

さらに現在地から近い順で避難所を表示したり、市町村ごとの検索や、「福祉避難所」などの条件で絞り込めるようにもしています。

さらにマップ公開後、現地の人が状況を投稿できる機能も搭載されていますよね。
はい。まずは正確な避難所情報を見せるところに特化していたのですが、リリース直後に平野から「現地の声も入れられるようにしてほしい」と言われて、機能を追加しました。

リリースしてみると、実際に現地から投稿もあり、避難所になっている学校から「生徒さんたちがトイレや食材、水などについて手伝ってくれている」といった現地情報が投稿されることもありました。


現地の方の情報共有の場にもなっている…! これはありがたい機能ですね。実際にアプリが使われているという実感も湧きます。
投稿が入ったのは、アプリを公開してから2時間くらいだったと思います。その後も、熊本県内の2,127カ所の避難所情報を扱っていましたが、大きなトラブルもなく動いていました。

実際に作ってみて感じたのは、こうしたアプリは一度作ってしまえば横展開もできるということです。アプリをコピーして、参照するデータを変え、「大阪版にしてください」「東京版にしてください」と指示するだけで、それぞれのエリアに特化したアプリが作成できます。
災害が起きるたびにゼロから開発チームを集めるのではなく、必要な地域へすぐ展開できる可能性があるわけですね。
実はアプリを作る際、最初に熊本市の情報を調べて、そのまま作り始めてしまったんですよ。でも改めて被害状況を確認すると、熊本市よりも、もっと南の地域の方が影響が大きいことに気づきました。

「熊本市じゃなくて、熊本県全域で」とアプリを作り直すことになったのですが、こうした方向転換を短い時間でできたのも、AIを活用した開発ならではだなと。
確かに、刻一刻と状況が変わる中で、そのたびに「これを直してください」と開発者の方に依頼するのは少し遠慮してしまうかもしれないです……。
能登半島地震のときは、ボランティアで集まった人たちとのつながりが生まれたという意味ではすごく良かったですが、やっぱり皆さんそれぞれに本来の仕事があります。限られた時間の中で、「ここを修正してください」とお願いすることに、少しだけ申し訳なさもありました。

正直なところ、持続性という意味では、ボランティアの方だけに頼るのは難しい局面もあります。災害は夜中に起きることだってありますし、「誰かに負担をかけずに開発や修正を続けられる」というのは、AI開発の大きなメリットだなと改めて実感しましたね。
なるほど。今回のケースでは、中さんがコードを書く作業よりも、何を作るかを考え、AIへ指示することに時間を使えていますよね。

さらに面白いなと思ったのが、このアプリを作った経験が、Bakusoku.AIそのものの改善にもつながったということです。詳しく教えていただけますか?
はい。実際に避難所&現地情報マップを作りながら、例えば文字のサイズを少し変えたいだけなのに、それを毎回AIに伝えて生成し直してもらうのは、面倒だなと感じたんです。

「これは画面上で直接編集した方が早いな」と感じて、Bakusoku.AI 上に編集機能を作りました。これを使うと、わざわざAIを通さなくても、自分の画面上で直接デザインが調整できるんです。
現場に役立つアプリを作りながら、同時にBakusoku.AIも改善されていったんですね。自分で作ってみることで新たに見えた課題が、製品の進化にもつながっていたということがよく分かりました。

非常に興味深いお話をどうもありがとうございました!

編集後記

「50分でアプリを作った」と聞くと、最初はどうしても“AIの速さ”に目が向きます。
しかし中さんのお話を聞いて印象に残ったのは、そのスピード以上に「何を作るべきか」を判断することの重要性でした。

実装する役割をAIが担うようになったことで、人はより「誰のために、何を作るのか」を考えることに時間を使えるようになる。取材の後半では、話題はさらに「AIがここまで作ってくれる時代、人間にはどんなスキルが必要なのか?」というテーマへと広がっていきました。

その全容は、後編の記事でじっくりご紹介します。どうぞお楽しみに!

関連リンク

・「熊本県 避難所&現地情報マップ」 https://app.bakusoku.ai/apps/451d4f21-eaa0-4341-8c6b-f8f89801dce5
・Bakusoku.AI https://bakusoku.ai/
・アステリアキャンバス株式会社 https://corporate.mikosea.io/

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。