2026年6月16日

暗号資産の取引に「物理的な砦」を。暗号技術のエキスパートが挑む、国内開発ハードウェアウォレットの全貌

暗号資産の安全な管理から、金融・クラウド・AIサービスのパスキーログインまでを網羅したハードウェアウォレット「Openloop」を開発するハウディ・クリプトの浅田一憲氏にお話を伺いました。1997年のネット黎明期から暗号セキュリティに携わってきた浅田氏の新たな挑戦 ーー ステーブルコインの普及を見据えた、Web3時代の新たなセキュリティインフラに迫ります。


ステーブルコインをはじめとする暗号資産の普及、そしてWeb3ビジネスへの企業の本格参入が叫ばれる昨今。その利便性の裏側で、度々挙がるのが「いかにしてデジタル資産を守るか」というセキュリティの課題ではないでしょうか。

パソコンやスマートフォンで動作するソフトウェアウォレットは、常にインターネットに接続されているため、OSの脆弱性やマルウェアの感染、巧妙なフィッシング詐欺など、ネット経由のサイバー攻撃によって資産の「秘密鍵」が盗み取られるリスクを常に抱えています。そうした中で重要性が高まっているのが、インターネットから物理的に鍵を隔離した、“どこにも繋がらない”ハードウェアウォレット です。

しかし現状、市場のシェアを独占しているのはいずれも海外製のデバイス。そんな中、ついに国産ハードウェアウォレット「Openloop(オープンループ)」が誕生しました。

本記事では、本製品を開発した暗号技術のエキスパート、ハウディ・クリプト社の浅田一憲代表に単独インタビュー。1997年のインターネット黎明期に暗号セキュリティ会社を立ち上げた浅田氏の波乱万丈の歩みから、ハードウェアウォレット開発の舞台裏、そして日本のインフラ基盤の未来まで、余すことなく語っていただきました。

浅田 一憲(あさだ かずのり)氏
ハウディ・クリプト代表。日本のインターネット普及のきっかけとなった通信機器「MN-128」シリーズ(NTT発売)の開発や、日本初のデジタル認証サービス企業の立ち上げなどに携わる。1997年に暗号・セキュリティ技術企業「株式会社オープンループ」を創業し、2001年に上場。IT、暗号学、医学、数学、メディアデザイン学、色彩学など複数分野にまたがる知見を持ち、現在は独立系研究者として活動。色弱の人に向けた「色のめがね」「色のシミュレータ」、視覚支援アプリ「明るく大きく」などのアプリを開発し、すべて無償で公開。世界200以上の国・地域で利用されている。

※本記事は2026年5月に実施したインタビューをもとに構成しています。ハウディ・クリプトのハードウェアウォレット「Openloop」は現在量産準備中。クラウドファンディング も展開中です。

また、アステリアの提供する『JPYC Gateway』を契約する先着100社に「Openloop」を無償提供するキャンペーンについては、こちら をご確認ください。

1997年のネット黎明期からの挑戦 ー 上場と挫折、再起動

浅田さん、本日はよろしくお願いいたします。
日本のインターネット普及にも大きく貢献された浅田さんにお話をうかがえること、とても楽しみにしてきました!

現在、「Openloop」という名前のハードウェアウォレットを開発されていますが、もともとは1997年に創業された情報セキュリティ技術企業の名前が「株式会社オープンループ」だったんですよね。
そうなんです。当時はインターネットが日本にようやく普及し始めたばかりの時期で、今では当たり前のネットショッピングですら「ネット上でお金をやり取りするなんて危ない」と言われていたような時代でした。暗号化通信(SSL/HTTPS)すら、まだ一般的ではなかったですね。

そんなインターネットを、誰でも安全に使えるようにするための暗号技術・セキュリティ技術の専門会社として立ち上げたのが、株式会社オープンループでした。そこから必死に走って、2001年に、創業から3年7ヶ月で上場しました

3年7ヶ月で上場は凄まじいスピードですね! 当時のITバブルの熱気を感じます。
そうですね。ですが、その後はITバブルの崩壊があり、結果的に会社を売却することになりました。

ですが、当時(2004年頃)の感覚だと「創業者が会社を売却して退き、次のステップへ行く」というカルチャーはまだ理解されず、大手メディアからも痛烈な言葉で批判されましたね。精神的にもかなりダメージを受けてしまい、以来、すっかり家に引きこもってしまいました。
そこからどのようにして社会復帰を果たされたのですか?
きっかけは二つありました。一つは、当時ちょうど流行り始めていた Twitter(現X)です。ネット上では利害関係がなく、尖った面白い人が集まっていたので、気楽にやり取りができたんです。リアルな人間関係が絶たれていた中で、そこだけが社会との細い繋がりになりました。

そしてもう一つは、予期せぬご縁で、慶應義塾大学の大学院の第一期生として入学することになったことです。
50歳手前での大学院進学、大きな環境の変化ですね。
そうですね。でも周りの若い学生たちは私の過去なんて知らないですし、自分のことを悪く言う人もいない。若いエネルギーをもらいながら研究に没頭するのが、楽しくてしかたがなかったですね。

そこで研究開発して作ったのが、色弱の方が判別しにくい色を分かるための『色のめがね』や、一般の人が色弱の方の見え方を疑似体験できる『色のシミュレータ』というスマホアプリでした。
今や世界中で使われている非常に有名なプロダクトですよね!
ありがたいことに、世界200カ国以上で使われていて、累計で300万ダウンロードを超えています。AppStore やPlay Storeを通じて、世界中から「このアプリのおかげで人生が変わった」と温かいメッセージが届くようになり、心から救われました。

その前後では、北海道大学の医学部にも行って医学博士号も取得し、シリコンバレーでバイオベンチャーの手伝いをしたりしながら、独立研究者やエンジェル投資家として活動するようになります。

コロナ禍での新たな挑戦、AIを使ってたった一人で開発した『Openloop』

起業から上場、医学博士の取得まで、浅田さんのバックグラウンドの多様さに驚かされます。そこから、現在のハウディ・クリプト、そして直近のハードウェアウォレット「Openloop」の開発はどのように繋がっていったのでしょうか。
数年前のコロナ禍で、みんなが会社に行けずに家から出られなくなりましたよね。才能のあるエンジニアやクリエイターが自宅に隔離されて、本来の力を発揮できずにいる現状を見て「これはもったいない、自分も何かやらなきゃダメだ」と一念発起しまして。コロナ禍の最中に会社を二社立ち上げました。

自動でピントが合うアイウェアの「ViXion(ヴィクシオン)」と、フィジカルAI・IoTを扱った「ハウディ(Haudi)」です。その後、順調にこの二社が成長したこともあり、私も第一線を退いて、改めて自分が得意なこと、やりたかったことをやろうと思うようになりました。

そうして始まったのが、現在のハードウェアウォレット「Openloop」のプロジェクトなんです。

そんな経緯だったのですね……! 最近は堀江貴文さんの「ホリエモンチャンネル」でも絶賛されて話題となっていましたが、なんと企画から開発まで、浅田さんほぼお一人で、驚異的な短期間で進められたとか。
はい。2025年10月から開発をスタートして、2〜3ヶ月でプロトタイプを作成、5月には金属金型を使った最初のサンプルが出来上がり、現在は量産直前の最終調整をしているところです。

2026年7月の出荷・発売を目指しているので、開発スタートから数えれば、実質9ヶ月という期間ですね

通常なら何十人ものエンジニアチームが何年もかけて行うハードウェアとソフトウェアの新規開発を、たった一人で、しかも9ヶ月……!? 常識外れのスピードですが、一体どうやったのですか?
シンプルに「生成AI」の力です。生成AIと対話しながら開発をする、バイブコーディング(Vibe Coding)を実践しました。

Openloopの開発にはCとC++の言語を使っていますが、この製品を世に出すためには、本体のプログラムだけでなく、筐体の物理的な設計、基板の構造、そしてそれらを動かすための5つのプラットフォーム向けソフトウェア(Windows、Mac、Linux、iOS、Android)のすべてを同時に開発しなければなりません。

ソースコードは何万行にも及びますから、とても一人ではやりきれません。そこで、AIに暗号技術のことも少しずつ学習させながら「どうすればできるか」「次はこうしてみて」と具体的な指示を出しながら開発を進めていきました。
通常なら何十人ものエンジニアチームが何年もかけて行うハードウェアとソフトウェアの新規開発を、そうして生成したコードや設計データが、この小さな筐体の中に詰まっているんですね……!

鍵となったのは「ステーブルコイン」の登場による、Web3の転換点

通常なら何十人ものエンジニアチームが何年もかけて行うハードウェアとソフトウェアの新規開発を、しかし、なぜ今このタイミングで「暗号資産のハードウェアウォレット」だったのでしょうか? 浅田さんがピンときたポイントを教えていただきたいです。
最大の動機は、やはり「ステーブルコイン」の登場ですね。 ご存知の通り、アメリカではすでに米ドル連動の「USDT」や「USDC」が、オンラインカジノやゲーム、決済などで莫大な発行額を誇っています。

そして日本でも「JPYC」をはじめとするステーブルコインが登場し、さらに法改正によって、本格的な流通の兆しが見えてきました。
確かに、これまでのWeb3やクリプトの変遷を見ると、2017年のICOバブル、2020年のDeFiサマー、2021年のNFTブームと、すべて本質は「投機」でした。
みんな「ブロックチェーンは世の中を便利にする技術だ」と言いながら、本音はお金儲けをしたいだけだった(笑)。ですが、ステーブルコインは違いますよね。1万円の価値を持つJPYCは、10年後も1万円。投機と実用が、初めて明確に切り離されたと感じたんです。

では、決済の「インフラ」として暗号資産が普及すると、何が起きるのか?
個人が日常の買い物で使うレベルであれば、スマホの中のソフトウェアウォレットで十分です。しかし上場企業間で、1,000万円、1億円といった大金をステーブルコインで送金する場合、ネットに接続されたスマホやパソコンの中にその資産を置いておけますか? とーー。
クラウドやOSの脆弱性、フィッシングやマルウェアの脅威を考えると、企業の財務担当者は不安かもしれません。
そうでしょう。ネットに繋がっている以上、ハッキングのリスクはゼロにできません。だからこそ、通信機能を一切持たず、物理的に完全に隔離された環境で秘密鍵を保管する「ハードウェアウォレット」が不可欠になると確信したんです。

まさに「もうすぐ確実に必要になるインフラ」を、時代に先駆けて形にされたわけですね。企業で活用する上での ”物理的な砦” として、このタイミングでのハードウェアウォレットの登場は非常に腑に落ちます。

アステリア『JPYC Gateway』との提携で、企業に安全なステーブルコイン運用を

アステリアでは今年4月に、企業向けのJPYC入出金管理サービス「JPYC Gateway」を提供することを発表しました。その公式ハードウェアウォレットとしても「Openloop」を採用させていただいているんですよね。

◆日本初の企業向けJPYC入出金管理サービス 「JPYC Gateway」4月1日提供開始、送金手数料は1件8円 https://jp.asteria.com/news/2026022727936/

ありがたいですね。非常に理にかなった組み合わせだと思います。 企業のさまざまなシステムをつなぐアステリアのソフトウェアに、通信機能を一切持たない「Openloop」を組み合わせることで、完全なオフラインでの承認が可能になり、安全性が向上します。

これなら企業の財務担当者の方も、従来のオンラインバンキングと同じ感覚で、安心してステーブルコインの運用を行えるはずです。
企業がステーブルコインを安心・安全に運用できる環境を整えたいという想いから、現在アステリアでは「JPYC Gateway」をお申し込みいただいた先着100社を対象に、「Openloop」を無料で配布するキャンペーンも実施しています。

企業がWeb3ビジネスに一歩踏み出すための、最高のガバナンスツールとして役立てていただきたいですね。

< 約30年来の知人である、アステリア社長の平野と浅田氏>

“国防”としてのセキュリティインフラを。国内開発ハードウェアウォレットの必要性

ハードウェアウォレットの市場を見ると、現在はフランス製の「Ledger(レジャー)」をはじめとする海外製の製品がいくつかありますよね。しかし、やっぱり企業で利用するとなると、開発者の顔が見えて、日本語でサポートが受けられることは心強いなと感じます。

そう言ってもらえるとありがたいです。もちろん私たちは、単純に ”国内開発” というだけではなく、後発のメリットを活かして、先行製品のいいとこ取りをしています。

例えば「Ledger」にはない「エアギャップ(QRコード等を介した完全非接続通信)」機能を備えつつ、最高水準の暗号チップ「セキュアエレメント(高セキュリティIC)」を搭載。 さらに、世界最大シェアのパスキー(Passwordless認証)デバイスである、スウェーデンの「YubiKey(ユビキー)」と同等のパスキー機能や、個人認証規格「PIV」の機能まで、この1台にすべて詰め込んでいるんですよ。

暗号資産の安全な管理から、金融・クラウド・AIサービスのパスキーログインまでこれ一台で対応しているんですね。さらに浅田さんは、その先にある「日本のセキュリティインフラの危機」も見据えていらっしゃるとか。
はい。今、日本の多くの金融機関や証券会社がパスキーログインを導入していますが、その認証を行うための「パスキーサーバー」を提供している業者の多くは、サーバーを海外に持っています。

つまり、ユーザーがログインするとデータが一度海外のサーバーに渡り、その後、日本に戻ってくるという仕組みになっているんです。
それは……。もし国際情勢が緊迫化したり、サイバー戦争が起きたりして、その通信が遮断されたらどうなるのでしょうか?
まさにそこが国防上の大問題なんですよ。ホルムズ海峡が封鎖されたら日本の石油が途絶えるのと同じように、どこかの国と日本の関係が悪くなってサーバーが遮断された場合、私たちは、国内の証券会社や自分の資産にログインできなくなる、というシナリオが十分にあり得るんです。

これは安全保障の観点から極めて危険な状態だと思いませんか?

だからこそ、デバイスとしての「Openloop」を普及させるだけでなく「日本製のパスキーサーバー」を国内のデータセンターに構築することが必要だと考えています。将来的な話ではありますが、誰かがこれをやらないと、日本のデジタル社会の命綱を外国に握られたままになってしまう。ハウディ・クリプトとしては、こうした危機感を持ちながら、今後のビジョンを描いていきたいなと。

アステリアさんとも、これからの日本のWeb3インフラを安全に育てるために、ぜひ色々と共同で仕掛けていきたいですね!

90年代、インターネットの黎明期を切り拓いた浅田さんが、Web3時代に、日本の未来を守るためのインフラ作りに立ち上がった ーー お話を伺っていて、点と点がすべて繋がったような感動を覚えました。

本日はありがとうございました!

※本記事は2026年5月に実施したインタビューをもとに構成しています。
ハウディ・クリプトのハードウェアウォレット「Openloop」は現在量産準備中で、クラウドファンディング等を通じて展開しています(https://camp-fire.jp/projects/927639/ )。

また、アステリアの『JPYC Gateway』先着100社無料配布キャンペーンの詳細は、こちらをご確認ください。

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。