2017年5月11日

教育現場での著作権利用はどこまで許される?許諾が不要になる、改正著作権法を解説【前編】

著作権法が改正されたのをご存知でしょうか。この改正により、授業で著作権の切れていない小説や絵画、音楽を電子送信等で利用する際の許諾手続きが不要になるようです!実際の現場はどう変わっているのか、お話を聞いてきました。


著作権法が改正され、授業で著作権の切れていない小説や絵画、音楽を電子送信等で利用する際の許諾手続きが不要になるのをご存知でしょうか?

実際の現場はどう変わるのか、特許商標や著作権に詳しい、JAZY国際特許事務所の弁理士、永沼よう子さんにお聞きしました。

永沼よう子(ながぬま・ようこ)さん
弁理士/知的財産アナリスト

世界最大手ストックフォト企業でデジタルコンテンツのコンサルテーションに従事。
現場に即した著作権や肖像権・種々の知的財産権の知見を幅広く蓄積し、2016年よりJAZY国際特許事務所に参画。 国内、外資など様々な企業や法律事務所で培ったビジネス経験と商標・著作権関係の専門知識を活かし著作権にも明るい商標専門弁理士として、企業や個人事業主のブランド戦略をサポートしている。
講演活動、TV取材などを通じ「知的財産権についてわかりやすく伝える」ことに定評がある。
趣味:銭湯(温泉)めぐり、図書館めぐり、水泳、フットサル、ダンス

ややこしかった!学校現場の著作権利用手続き

―そもそも著作権法って、どんなものなのでしょうか?


著作権とは、絵画や音楽、文章など様々な著作物の権利を、作者の死後50年までにわたって保護するというものです。よく「使う側」の論理で語られがちなんですが、人間の創作活動を守るというところがスタートなんですね。

ただ、あまりに著作者の権利を重視しすぎてしまうと、優れた作品に触れる機会が損なわれてしまいます。そこで、例えば個人利用の場合や、報道で使用する場合など、いくつか例外規定が設けられているんです。その一つが、教育現場での使用です。

授業の課程では、新聞記事や著作権の切れていない小説、音楽など様々な著作物が複製され、使用されています。こうした著作物を教材として使えないと、子どもたちが優れた日本語や音楽に触れる機会が損なわれ、次世代のクリエイターも育ちませんよね。


―今回の改正法の焦点になっている部分ですね。授業で著作物を使う場合のルールって、現在はどのようになっているんですか?


ちょっと細かい話になりますが、紙媒体での使用であれば、先ほどの例外規定がありますから、現在でも許諾は不要です。 問題は電子配信です。ここ最近のインターネット化の流れで増えた新しい媒体なので、実はまだ、著作権法の整備が追いついていません。ではどうするかというと、電子の場合には授業での例外規定は適用せず、従来通りのルールで対応するしかないんですね。

 

例えば、先生が授業である小説を生徒に電子配信して使いたい場合、著者の連絡先はさすがに分からないと思うので、まずは出版社にあたりますよね。そこで使用の許可を取り、使用の期間や用途などに応じて使用料を支払う契約を結びます。実は、これまで明確な相場価格というものがなかったので、著作者の「言い値」になる場合もありました。

学校現場の手続きがラクに

―え、相場価格がなかったんですか?


全くないわけではなくて、例えば音楽の場合、主にJASRACが著作権を集中的に管理していて、そこには目安となる価格があります。小説も同様の管理団体があり、「1枚○円」といったように、使用料の目安がサイト上で公開されています。

ただ、もちろんその団体に作品の著作権を預けている作者だけが対象になりますし、利用の内容や目的もそれぞれ異なりますから、どうしても個別判断ということになります。


―なるほど……。作る側としたら、2時間でぱっと制作したものと、2年間かけてじっくり作ったものが同じ値段になってしまったらショックかも……。


文学や音楽は、発明品などと違って、第三者から客観的に価値が評価されるというものではないので、どうしても価格はケースによって個別の判断になりますよね。創作物というものは人間の思想感情に直結しているので、著作権法も「人格権保護」という色合いが強いんです。この法律では、著作者本人の思いが重要視されているんですね。

―これまでの著作権手続きがなくなると、先生の事務負担は減りそうですね!
先生のお仕事って、激務だって聞きますし……。


 そうですね!
早ければ2018年にも施行される見通しで、授業でぐっと著作物が使いやすくなると思います。これまでなら著作権者と連絡が取れなかったり、何十万円という使用料を提示されたりした場合、授業で使うことを諦めてしまうこともありますよね。

今後は簡単な手続きで、さらに電子著作物の場合は少額の補償金を支払うだけで使用が可能なるということは、学校現場にとっては意味があることだと思います。

―学校側の負担額はどの程度になりそうなんですか?


 具体的な金額や徴収方法など、運用はまだ検討段階のようですね。
審議会では、徴収方法について大きく二つの案が検討されているようです。一つは、先生に対して、生徒が何人でどの資料を何通送信したか、というのをすべて報告してもらった上で金額を決める、というもの。ただこれはあまり現実的な案ではないと私は考えています。

―確かに、逆に先生の負担が増えてしまいそう……。


そうですね。もう一つは「生徒一人当たり○百円」と金額を決めて、学校単位で著作権料を収めるという案です。学校単位では大した案額にならないかもしれませんが、市場で動き出せば何十億と言うビジネスになるでしょね。

 ただ、文化庁としては、ICTの利活用を進めるという意味合いで、今回の著作権法の改正を進めていますので、基本的にはぐっとITの著作物の利用が進むんじゃないかと思います。

「著作者の経済的利益保護」がポイント

―なるほど。でも、なぜ紙は無償のままなのに、デジタルの場合だけ有償化されるんでしょうか?


そもそも紙が無償なのは、影響力の小ささによるものなんです。
教師が生徒に紙で資料を配布したとして、生徒がそれをどれだけ拡散しようとしても、コピーをして友人に渡すくらいしかできませんよね。でも、デジタルの時代では、その気になればボタン一つで世界中に拡散できてしまう。そうすると、著作権者の経済的な利益を損なう可能性が紙よりも高い、ということなんです。

―「著作者の経済的利益を損なうかどうか」が判断基準になっているわけですね。


その通りです。
日本では昭和40年代に現在の基礎となる著作権法が誕生していますが、そもそも著作権のはじまりというのは18世紀初頭の活版印刷の時代で、業者が印刷機を使って複製する、つまりコピーする権利を業者に独占させる権利、文字通り“コピーライト”だったんですね。

ただ、ITなど様々な技術が発達し、著作権は現状にそぐわなくなってきた。
そこで日本では、著作権法を立て直すのではなく、必要な条文を足していく、いわば増築することで対応してきたんです。通常、法律は整備の段階で様々な場面を想定して作られるものですが、著作権法に関しては、時代に合わせて後追いでつくっているイメージです。

先生の著作権侵害リスクが高まる?

―著作権って、時代に合わせて変わってきたんですね。ただ、先生方にとっては、どこからが著作権法に抵触するのか見極めるのが、どんどん難しくなっているような……。


残念ながら、そういうところはあると思います。先生方にとって、権利侵害のリスクは今まで以上に拡大する可能性があります。

―具体的にどのような点に注意すべきでしょうか?


今、あくまで焦点が当たっているのは授業における利用行為なんです。
先生が授業中に必要な著作物を複製して、クラスの生徒に配布するということを、例外的に認めている、ということ。しかし先生のみの行為に限定してしまうと、生徒が自主的に文章や絵画などを見つけてきて、それをクラスメイトに発表するという行為ができなくなってしまう。

そこで、生徒の場合も例外規定には含まれています。ただ、例えば、ある先生が授業中に何かの記事をコピーして、クラスに配布するとしますよね。ここまではOKなんですが、例えば隣のクラスの先生が「それいいね、ちょうだい」と言ってきたから、この先生に渡してしまうというのはNGなんですよ。

―うーん。結構、細かく決められているんですね。


そうですね。もっと言えば、授業参観で保護者が見に来ていて、「授業の内容を理解したいから、そのテキストをほしい」と言われたからといって、複製した資料を保護者に配布をする。これもNGです。あくまで著作権の例外が認められているのは、先生と生徒の間だけなんですね。

― なるほど。そしたら、生徒に直接URLなどを教えて、各自でそのURLにアクセスして見てもらうというのはアリなんでしょうか?


生徒に対してメールで「このURLに、こういう電子書籍がありますよ」と伝えて、生徒がダウンロードするのは抜け道でもなんでもなく、単に情報のありかを教えているだけなので、著作権法には抵触しません。

恐らく学校現場では、現在「教育現場だから著作権を自由に使って大丈夫」という風潮があるかと思います。ただ、実は、認められる部分というのは限られているんです。目を通す程度でいいと思うので、改正法はチェックしておいた方がいいでしょうね。



▶︎後編に続く



※本記事は、著作権についてわかりやすくお伝えすることを目的としており、例外にまでは言及していない場合があります。個別具体的な案件については、専門家にご相談ください。JAZY国際特許事務所では、無料相談を承っております。
0120-064-660(平日10:00~18:00)

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この記事を書いた人
in.LIVE 編集部 アステリア株式会社が運営するオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」の編集部です。”人を感じるテクノロジー”をテーマに、最新の技術の裏側を様々な切り口でご紹介します。