2020年5月27日

労働集約型になりがちな弁護士がたどり着いたAI契約書レビュー「AI-CON」誕生から大企業向けの「AI-CON Pro」開発まで

企業における法務の問題を解消しようとしているサービスとしてAI契約書レビュー支援サービス「AI-CON」シリーズを手がけるGVA TECH株式会社。IT技術を活用した、法務ノウハウの蓄積と効率化に挑戦している代表の山本俊さんに、サービス開発のきっかけや法務の未来についてお話を伺いました。

GVA TECH株式会社 代表取締役/GVA法律事務所 代表弁護士 山本俊

大企業ともなれば法務部門が必ずあり、契約書の作成から法務関係のトラブル解決までを自社内で行うことができます。しかし、そのノウハウは属人化していることが多く、ベテランの法務担当が異動や転職などをしてしまうと社内の法務関係のノウハウが一切なくなってしまう… ということが頻繁に起こっています。

そんな企業における法務の問題を解消しようとしているのが、AI契約書レビュー支援サービス「AI-CON Pro」を手掛けるGVA TECH株式会社。IT技術を活用した、法務ノウハウの蓄積と効率化に挑戦している代表の山本俊さんに、サービス開発のきっかけや法務の未来についてお話を伺いました。

GVA TECH株式会社 代表取締役/GVA法律事務所 代表弁護士 山本俊さん
鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。スタートアップ向けの法律事務所として、創業時のマネーフォワードやアカツキなどを顧問弁護士としてサポート。50名を超える法律事務所となり、全国法律事務所ランキングで62位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「AI-CON」シリーズの提供を通じ、企業理念である「法務格差を解消する」の実現を目指す。

法務格差はテクノロジーで埋められる! トラブルのきっかけになりやすい「契約書」に注目

日本ではまだあまり「リーガルテック」という言葉はメジャーではないかもしれませんが、アメリカではすでにそう呼ばれる企業も1000社以上あり、中には弁護士ではない人が立ち上げるケースもありますよね。日本ではまだ黎明期のようですが、山本さんがGVA TECH株式会社を立ち上げたきっかけはなんでしょうか?
僕はもともと弁護士として鳥飼総合法律事務所に勤めていたのですが、その時は大企業の法務部の方を相手に仕事していました。しかし次第にスタートアップからも相談されるようになりました。
そして2012年にスタートアップ向けの法律事務所としてGVA法律事務所を設立したのですが、その頃はスタートアップ黎明期だったので、マネーフォワードの創業の相談とかがきたりしていました。だけど実際に話してみると、社長といえども法律に関しては分かっていないことが多く、これまでの大企業の法務部との差を感じたんですよね。
創業時から法務担当を置いていることはあまりないでしょうし、会社に法務の知識やノウハウなんてないですもんね。
そうなんです。で、トラブルがあったりして相談に乗ると、とんでもない契約書が締結されていたりするわけですよ。契約をした時に開発したシステムの権利はどちらにいくとか、NDAを結んだけど知的財産の権利が相手になっていたとか…。トラブルになった時に契約書が出てくるんですよね。
契約書がトラブルのきっかけになっていることが多いんですね…。
最近は若い経営者でも弁護士の顧問契約を結ぶ文化ができてきましたが、昔は全然そんなことはありませんでした。痛い目にあった人がやっと顧問契約を結ぶ。トラブルになったら弁護士に頼めばいいと思っているんです。でも、トラブルの原因は契約書なんですよ。契約書さえちゃんとチェックできてれいればトラブルは起こらないんです。
そうした気付きが、AIを使った契約書レビュー支援サービスを立ち上げるきっかけになったんですね。
それまでは顧問弁護士という立場で複数の会社を支援していましたが、どうしても労働集約型で限界があるんですよね。株式会社だけでも国内で200万社あるのに… と行き詰まりを感じていました。
だから、テクノロジーを使ってコストを下げることで、法務に関するノウハウをもっと広く届けたいと思ったんです。そのあたりが重なって、2017年に現在のGVA TECH株式会社を設立しました。そして契約書を安価でチェックできるサービスとして生まれたのがAI-CONです。
弁護士からテック企業の創業…! 当時、AIなどのテクノロジーに関する知識はあったのでしょうか?
いえいえ、技術のバックグラウンドはまったくなかったので、本を読んだり大学の教授に話を聞いたりしながら、9ヶ月間ほどAIについて独学で学びました
(すごい…。)

契約書の有利・不利をAIで判断する「AI-CON」

さっそくですが、AI-CONではどのように契約書の内容についてレビューするのでしょうか?
たとえば、一般的な秘密保持契約書(NDA)をAI-CON上にアップロードすると、AIが契約書を項目ごとに確認して”第二条の一項は「中間」である” 、”第6項は「不利」である” といった具合に判断してくれます。なぜ不利なのかという理由や、受け入れた場合のリスク、過去のトラブル事例なども見れるようになっています。

AI契約書レビューAI-CONの操作画面

有利か不利かというジャッジだけではなく、その理由やその先に起こりうるトラブルまで具体的に分かると、ぐっとイメージが湧きますね。
そうなんです。どう修正すれば良いのかを知りたい時は「修正例」をクリックすると、有利にしたい場合、中間にしたい場合はこういう書き方をしましょう、という修正ポイントまで表示されるようになっています。
「中間」という選択肢もあるのですね! ちなみにAIの精度が気になるところなのですが…。
AI-CONのNDAは90%以上の正確性があります。正直、弁護士よりも良い判断ができると思いますよ。
そう聞くと、多くの企業がAI-CONを使うようになることで、弁護士の仕事が取られて困るなんて可能性も出てきますか?
日常によく出てくる簡単な契約書はAI-CONでチェック、複雑なものや、特に重要な契約書は顧問弁護士によるチェック、とうまく使い分けている企業さんがほとんどなので、弁護士の仕事が完全になくなるということはないですね。実際どの企業でも、すべての契約書のチェックを弁護士に依頼するのではなく、特に大事な契約書だけ頼んでいるということも多いと思いますから。

優先すべきはリーガル視点か? AI視点か?

サービス開発で苦労されたことはありますか?
そもそも僕はWEB開発をしたことがなかったので、ユーザーファーストで進めるのが原則ですが、技術的な実現可能性や運用の容易性というエンジニアファーストの視点も大事なってきます…。そのバランスをとるシステム開発の難しさには苦労しましたね。そこにさらに、リーガルの視点と、AIの視点が入るんですよ。リーガル的に価値が高いことをシステムに搭載しつつ、AIとしての実現可能性も考慮する。全部を融合してバランスを取っていくので、難易度が指数関数的に上がっていきましたね(笑)。
AIの正確性を優先しようとすると、法律の判定として難しくなることがあるのですか?
そうなんです。たとえば、損害賠償の条項には色々なパターンがあります。リーガル的には10種類判定できた方が良くても、AI的には有利か不利かの2種類で判断できた方が実現可能性が高いんです。そうすると今度は「2段階の判断なんて不正確だ!」と法律に詳しい人の中では議論が起こったりするんですよね。なので、AI-CONでは、有利・中間・不利と3段階で判定しています。
どの機能にしても、ユーザーファーストとエンジニアファーストに加えて、リーガルの視点とAIの視点の両方を踏まえながらバランスを取っているんですね。

”自社だけの事情” をAIに学習させる「AI-CON Pro」

2019年11月には、大手企業での契約書レビュー業務を効率化できる「AI-CON Pro」もリリースされたんですよね。
はい。「AI-CON」はもともとスタートアップ企業向けに、と思って始めたサービスだったのですが、実際の問い合わせのうち、7割は大手企業からの問い合わせでした。
ただ、大手企業ではその会社ごとに契約書のレビュー基準を持っていて、AI-CONで自動判断しても、結局自社のレビュー基準と異なるので、法務担当の方が見直してレビューしなくてはならず、業務の効率化にはつながらなかったんです。

そこで、そうした大手企業にあった業務効率化のサービスとして「AI-CON Pro」の提供を始めました。「AI-CON Pro」は一言でいうと、契約書のフォーマット、法務の知識、ノウハウをAIにセットすることで、自社基準の契約書レビューをWord上でできるサービスです。
その会社の基準での契約書レビューをサポートしてくれるんですね! すごい。Word上でチェックできるというのも新しいですよね。
そうなんです。ただ契約書の修正って、8割~9割くらいはWordで行うんですよ。なので AI-CON ProはMicrosoftのストアから配信して、インストールすると実装されるようになっています。
Word上で、どんな風に修正していくのでしょうか?
たとえば、相手から契約書をもらってレビューする時に、自分たちがひな形にしている契約書との比較を実行します。すると右側に審査結果が出てきます。

AI契約書レビューAI-CONPROの操作画面

「審査中の契約書に不足している条文・・1件」と出ていますね。
AI-CON Pro上で自分たちが普段使っている契約書のひな形を、AI-CON Proの画面上からアップロードすると、AIが第1条、第2条のように条ごとと分けて、各条にマッチする内容があるかを、日本語の類似度をもとにAIがチェックしているんです。

そして、この条文はどういう観点でチェックする必要があるのか? と困った場合は「解説」をみれば、どういう観点でレビューするべきか、自社の従来のルールはどうなっているのかを確認することができます。

AI契約書レビューAI-CONProの操作画面

「瑕疵を限定・責任期間を短期に」と具体的に改善ポイントが表示されていますね。なぜこうした解説が必要なんですか?
法務の仕事は、一部のベテランの法務にだけノウハウが溜まって属人化するんです。自分のローカルフォルダには業務効率化するための条文のストックがいっぱい溜まっていたりするのに、法務部員間で共有する文化がないんですよ。
ブラックボックスなわけですね。
すると、このベテラン社員が転職や部署異動、育休などでいなくなった場合、この契約書は誰がレビューできるのか? と問題が発生しやすいんです。
そうしたベテラン社員さんが持っているノウハウをAI-CON Proにセットすることができるんですね。
それによって、契約書レビュー業務の属人化を解消できます。また、法務知識のある人が中途で入社したとしても、自社の独特なルールをインプットして教育することにも時間がかかりがちなので、AI-CON Proを使うことで教育時間も短縮しています。
なるほど〜! 自社ならではの事情を踏まえた上でノウハウをセットできるから、使えば使うほどノウハウが貯まるし、レビューの時間も短縮されますね。

法律をもっとカンタンに。目指すのは、法務格差の解消

今後、AI-CON Proに搭載していきたい機能などありますか?
私たちは、根本には法務格差の解消をしたいんです。
最初のきっかけはスタートアップの経営者と大企業の法務部だったのですが、法務格差って色々なところに転がっているなと思っていて、最近は特に法務部と事業部の法務格差を解消したいと考えています。

事業部の法務格差が埋めるためには、法務部が分かりやすく整理して説明しない限り、事業部のメンバーは分かりません。簡単なNDAなどの定型な契約は事業部で一次チェックできるようにし、最終的には事業部だけで完結できるようになるのが理想です。そういったことから、実は6月には事業部で利用できる専用アカウントを実装する予定です。

あとは英語対応ですね。これからの時代、契約書を締結する相手が日本市場だけとは限らないので、英語の契約書に対応できる機能も追加していく予定です。

そして最終的には個人向けのサービスも考えています。訪問販売で契約したり、通信で契約したりする時は特商法の規制などもあるので、なんらかの形でチェックできるようにしたいですね。個人の方が大きな契約を結ぶことは限られているんですよね。だからこそ一般の人でも理解できるように、簡易に、リスクがある部分だけが明解になるようなサービスが出来ると良いですね。

編集後記

以上、いかがでしたか? 今回は AI契約書レビューサービス「AI-CON」「AI-CON Pro」を提供するGVA TECH株式会社 代表取締役の山本俊さんにお話を伺いました。取材の中で、山本さんがおっしゃっていた言葉で印象に残ったのは「法治国家なのに法律のことを知らない人が多い」ということ。確かに取材をした私自身も法律のことは深く知らないし、トラブルにならない限り法律のことを知ろうとはしないことに気がつきました。
今後もGVA TECH社のサービスを通じて、法律と企業と、そして私たちとの距離がより近くなることを期待しています。

最後まで読んでいただき、有難うございました!

関連リンク

AIによる契約書チェックサービスAI-CON
自社基準のAI契約書レビューサービスAI-CON Pro
GVA TECH株式会社

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この記事を書いた人
成瀬夏実 フリーランスのWEBライター。2014年に独立し、観光・店舗記事のほか、人物インタビュー、企業の採用サイトの社員インタビューも執筆。個人の活動では、縁側だけに特化したWEBメディア「縁側なび」を運営。