2025年4月17日
急成長を遂げている「AIエージェント」。そもそも従来の生成AIとの違いはなんなのか? という基本と、ビジネスで活用するためのヒントをやさしく解説します。AIエージェントは今後どのように発展していくのか? ぜひこの機会に学んでみてください。
アステリアでエバンジェリストを担当している森一弥です。
毎週のように生成AIに関するニュースが世間を賑わせている今日この頃。先日は「DeepSeek を専門家が技術解説! 生成AI開発における2つの大きな可能性」といった記事も公開していましたが、皆さん、こうした最新のニュースをどれぐらい追いかけられているでしょうか?
実はアステリアでは、話題の「AIエージェント」を活用して、 “AIに関するニュースを自動で集めて社内のSlackに毎朝投稿する” という仕組みを導入しています。わりと簡単な仕組みで実現できるものですが、社内からはとても好評です。
2025年以降、よくメディアなどでも取り上げられるようになった「AIエージェント」。
さまざまな場面で聞こえるようになった反面、用語の使い方にはブレがあるようで、チャットサービスにキャラクター性を付与したようなものを「エージェント」と呼んでいるものもあれば、自動処理を行う機能を「エージェント」と呼んでいるものもあります。
本記事では、そもそも「AIエージェント」とは何なのか? という基本と、実際にビジネスなどで活用するためのヒントをやさしくご紹介していきます。AIエージェントが今後どのように発展していくのか? 課題なども含めて解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
森 一弥(もり・かずや)氏|アステリア株式会社 ノーコード変革推進室 エバンジェリスト
2012年よりインフォテリア勤務。2017年3月までは主力製品「ASTERIA WARP」のシニアプロダクトマネージャーとしてデータ連携製品の普及に務め、特に新技術との連携に力を入れる。 ブロックチェーン技術推進の一環として実証実験やコンサルティングなどを実施。ブロックチェーンを活用した株主投票では特許を取得。またブロックチェーン推進協会(BCCC)では技術応用部会を立ち上げ、技術者へブロックチェーンアプリケーションの作り方を啓発している。現在はAIやIoTなど先端技術の調査、普及啓発に努めている。
ここでは、ChatGPTをはじめとした複数のサービスの説明を元に、改めてAIエージェントの定義を考えてみました。私が行き着いた答えは「特定の目的のため必要なシステムと連携しながら自律的に処理してくれるAIシステム」という表現です。以下、詳しく解説していきます。
まず、AIエージェントは ”具体的な目的” を持っています。2025年4月時点のAIエージェントは、業務の一部、いわゆる「タスク」と呼ばれるような、細々とした仕事を任せられるものが多そうです。
技術調査や会社の調査、ちょっとしたスケジュールの調整や、メールの送付など、事務的な仕事の一部を手伝ってもらうイメージに近いかもしれません。
そして、AIエージェントは、AI単体でAIモデルに学習された内容のみでタスクをこなすわけではなく、何らかのAI以外の情報と連携することでタスクをこなします。
代表的なのはウェブ検索です。ChatGPTが出始めた頃の生成AIは、AIに学習済みの内容しか回答してくれなかったため、今日の株価や天気のような情報は答えてくれませんでした。しかし現在は、ウェブ検索のオプションが一般的になっており、AIエージェントがウェブ検索を利用することは日常ですし、クラウドサービスとの連携や、またタスクの内容によってはデータベースや社内システム、メールなどにも連携も行うことができます。
先ほど、ウェブ検索の話が出ましたが、実際にどんな検索キーワードで検索するのか? は、タスクの内容からAIエージェントが自分で考えて検索することになります。一度の検索で全て欲しい情報が手に入るとも限らないので、キーワードを変えて再度検索するかもしれませんし、タスクの内容によってはウェブ検索をせずに、あらかじめ定義されている別のシステムから情報を取ってくるかもしれません。
こういった判断を ”自律的に” 行うのがAIエージェントと呼ばれるものです。
より理解を深めるため、従来の生成AIと比較してみましょう。
そもそも、従来の生成AIでは単純なタスクの実行がメインになります。
チャットをして即時回答したり、文書の要約を頼んだり、翻訳を頼んだり、相談に乗ってもらったりと様々な用途で利用されます。
さらに、2024年の中盤ぐらいから「Deep Research」と呼ばれるオプションが従来の生成AIに追加されています。これは、主に調査に関して、ネットの検索を複数回繰り返し、レポートとしてまとめてくれるものです。
AIエージェントは、この「Deep Research」の上位版といったニュアンスもあり、連携先はWebだけではなく、さまざまなサービスやデータベース、社内システムまで拡大されています。また、必ずしも人間がプロンプトを入力する必要はなく、自動的に実行される場合もあります。例えば、オンライン会議のツールを閉じたことをきっかけに、議事録の作成が行われるようなAIエージェントもあるでしょう。
比較表の最後にはAGI(汎用人工知能)の項目を入れました。
AGIは汎用とあるので、なんでも自己判断でやってくれるAIということになるでしょうか。プロンプトとして正確に明言しなくても、「昨日のアレ、続きやっといて〜」くらいの仕事を、しばらく一緒にやってきた人間でしか理解しがたい要求にも答えてくれる、人と区別が難しいレベルのAIです。現時点では夢物語に思えるような技術です。ただ、現在の生成AIが目指している姿でもあります。
こうしてみると、AIエージェントは生成AIの発展途中段階にいるようにも見えますし、日々進化しているのも必然的なことだと思えてきませんか? 来週にでもあっと驚く進化があるかもしれません。
ここまでも多少の例を挙げてきましたが、改めてAIエージェントの活用例を挙げてみます。
1つ目は「会議の議事録作成エージェント」です。
オンライン会議も当たり前になった現在では、会議の録音、録画も比較的簡単に行うことができます。多くのオンライン会議ツールの中に自動的に文字起こしや会議の要約を作ってくれる機能や、次回までのTODOリストを作ってくれる機能も搭載され始めています。これもAIエージェントと呼べる機能です。企業での利用を考えると、会議の参加者たちに、議事録の内容の確認を求めるワークフローにしてくれると嬉しいかもしれませんね。
2つ目は「出張処理の自動化エージェント」です。出張の日程と行き先を告げると、スケジュール作成やチケットの手配をしてくれるものを想定しています。
3つ目は「Deep Research に+αくらいの機能を持たせたエージェント」です。調査結果のレポートを共有ストレージに貯めてくれるものを想定しています。過去に似たような調査をしているのであれば、改めて調査しなくても、過去のレポートを出してくれると良いかもしれませんね。
一方、AIエージェントにも、問題点や課題も当然潜んでいます。ここでは3つほど挙げてみました。
AIエージェントに限らず、AIを利用すると避けては通れない問題が、出力結果の精度やハルシネーションと呼ばれる「誤情報」に関する問題です。
コンピュータに対して、プログラムのような明確な指示ではなく、プロンプトという人間の言葉で指示するので、誤解や曖昧さ、出力の揺れなどが起こってきます。そうした中、AIはできるだけプロンプトに対して回答しようと、存在しない情報を捏造してしまうことがあります。
チャットボットでは、ユーザーへの回答に即応が求められることが多いため、誤情報を出してしまうこともあるのですが、Deep Research や AIエージェントであれば、一度作成した出力を、再度検証してからユーザーに返すことで誤情報を減らすことも可能です。
ただ、完璧なものができるわけではありません。そこは人間に頼んだ場合も同じはずです。向き不向きを考えて適切にアサインすることが必要になってきます。
現在の生成AI関連のサービスの多くは、インターネット上で展開されるサービスです。AIの処理にはそれなりに高価なハードウェアが必要となってくるのですが、業務の内容によっては、インターネット上で展開されていること自体が問題になる場合もあります。
例えば、機密情報を扱うようなものであれば、ネット上のサービスにむやみに連携させるのは避けたいところでしょう。また、プロンプトを自由に打ち込めるサービスであれば、機密情報を添付されたりしないよう、従業員のリテラシー向上も求められます。
社内で利用しているサービスをAIエージェントと連携すると便利になりそう! と考えた場合でも、そもそもどのように連携させるべきなのか? 技術的な知識や、作業時間の確保などが必要です。生成AIに関する情報は日々新しくアップデートされているので、片手間に対応するのも難しいものです。
セキュリティやガバナンスを気にしながら、生成AI環境やAIエージェントを整備するべきと考えるのであれば、環境構築に関する知識も必要になります。
こうした課題も踏まえた上で、AIエージェントをビジネス活用する際のポイントを考えていきましょう。
プロンプトを従業員が自由に書くことができると、大きなリスクにつながる可能性があります。予め仕込んでおいた処理を、ユーザーにAIエージェントを使っていることすら意識させずに実行するのが理想かもしれません。
先の例だと「会議が終わったら10分後に出席者全員に議事録が自動的に配布される」とか「会議で出たキーワードを調査して用語集を作ってくれる」などがあると嬉しいですよね。
こうした自動処理を実現するためには、予めプロンプトを仕込んでおくことが必要です。このように管理者が事前に入れておくプロンプトのことを「システムプロンプト」と呼びます。システムプロンプトは一度決めれば確定ではなく、利用状況や出力結果を見直して試行錯誤する必要がありますが、この試行錯誤をプログラムで行おうとすると、毎回開発者に依頼する必要もありますし、何かと非効率です。
そんなとき、画面操作でAIのアプリケーションを作成できるノーコードツールを導入しておくと効率の良い試行錯誤が可能となります。また、利用しているLLMの変更も簡単に行うことができるので、新しいLLMのリリースに合わせて変更し、性能向上につなげるような変更も簡単に行うことができます。
必ずしも自社で高価なサーバーマシンを購入する必要はないのですが、ビジネスで利用するなら「プライベートクラウド」など、セキュリティやガバナンスを鑑みた自社用の環境の用意は検討すべきでしょう。
実際にビジネス活用を行おうとすると、課題や乗り越えなければならないハードルがいくつもありますがAIエージェント自体が発展途上で、今後さらに応用範囲が広がっていくことが予想されます。
現在、世の中に出始めているAIエージェントは、比較的単純なタスクをこなすものです。
ざっくりとした指示をプロンプトに書き込んでも、結果が想定と大きくぶれてしまうこともあります。しかし、今後はAI同士が会話しながら、全体を指揮するAIエージェントが、小さなタスクをこなすエージェントに対して指示を出す、というようなかたちになってくることが予想されます。
AI同士が会話するようなフレームワークはすでに出てきていますし、直近で実現されるのではないでしょうか。
LLMとはその名の通り、大規模な言語モデルです。これらを利用するためにはこれまた大規模なハードウェアが必要となり、大手のサービス提供会社のものを利用するのが現実的でした。しかし、セキュリティやコンプライアンスを鑑みて当然のように「自社でも導入できるレベルのサーバーでも使いたい」「モバイルでも使えるようにしたい」といった要望はあります。性能はできるだけ落とさず、小型化するという技術も発展してきています。
一部では「スモールランゲージモデル(SLM)」と呼ばれていますが、この技術がより進んでくることで、各社にひとつずつAIがある、もしくはひとつのシステムに対して1つの専属AIがいる、ひとりひとりにアシスタントAIがいる、という世界に近づくのではないでしょうか。
ビジネスには、さまざまなシステムが関与しています。これらがすべて消えることは直近ではなさそうですし、システム開発の規模感は色々かもしれませんが、新しいシステム開発やリプレース、機能追加などの案件は企業であればどこかのタイミングで行われます。
こうした企業内システムは、今後、人間ではなくAIが使う、という場面も多くなるかもしれません。AIによるチャットボットを導入する企業が増えつつありますが、企業内のシステムについて使い方を聞けるようにする取り組みは説明書や仕様書を取り込んだりする方法で進められています。使い方を聞けたりするようになれば、入力データを作ってもらったり、徐々に発展していきます。それが進めば「入力しておいて」と依頼するだけで処理が終わってほしいものですよね。
それには企業内システム側もAIから入力できる方法を用意しておく必要があります。つまり開発の必須要件として「AI連携できること」と、要求仕様に書かれることが容易に想像できます。
何かのシステムがAIに対応するようになれば、「このシステムはAIに聞いても使い方がわからないのはなぜ?」「こっちのシステムはなぜAI連携できないの?」となってきます。AI連携できないツールは誰にも使われないシステムとして淘汰されるという未来も、すぐそこまで迫っています。
AIが正確に情報を学習・活用しやすいよう、人間側があらかじめ整理されたデータやわかりやすい構造を意識して設計する―― そんな “AIにとっても扱いやすい「AIフレンドリー」” という視点が、これからシステムを作る際には求められるのではないでしょうか。
「AIエージェント」は業務の自動化、効率化に貢献し、人材不足を補ってくれる、大きな可能性を秘めた技術です。企業などで使いこなすためには、導入して終わりではなく、試行錯誤が必須。外部のIT業者などに任せきりにならず、自社である程度の内容を把握し、必要があれば修正できる知識とリソースが必要です。
次々と更新される情報を日々キャッチアップし、いつでも最新の状態に切り替えられる柔軟なものづくりが必要となってきます。時代に合わせた柔軟な考えを受け入れられるようにしておくこと、また ”今までと違うもの” を拒絶しない企業文化をあらかじめ作っておくことが重要になるはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!