2026年3月23日

物流の2024年問題のその後は? 元トラックドライバー橋本愛喜さんに訊く、変わり始めた業界の現在地

「物流の2024年問題」から約2年。法改正によって、物流業界の課題は乗り越えられたのでしょうか? 荷主側の責任を明確にする法改正や、新たな制度設計が進むなか、日本の物流はどこへ向かおうとしているのか。業界の現在地と、その先にある構造変化を探ります。


2024年4月、トラックドライバーの時間外労働に上限を設ける「働き方改革関連法」が施行されました。労働時間が短くなることで、これまでドライバーたちが運べていた荷物が運べなくなるのではないか――。いわゆる「物流の2024年問題」は、社会的な関心を集めました。

in. LIVEでは2024年2月、この問題について、元トラックドライバーであり、現在は物流・運送業界の課題を発信するライターとして活動する橋本愛喜さんにインタビューを実施しました。

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◆ 運送会社だけでは解決できない! 元トラックドライバー橋本愛喜さんに訊く “物流の2024年問題” の真実 https://www.asteria.com/jp/inlive/working/6600/
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あれから約2年ーー。
規制は施行されましたが、私たちの生活の中で大きな混乱が起きたと感じた人は、決して多くはなかったかもしれません。物流は止まらず、日常は続いています。

では、2024年問題は本当に乗り越えられたのでしょうか?
前回の取材から時間が経ったいま、改めて橋本さんに話を聞きました。荷主側の責任を明確にする法改正や、新たな制度設計が進むなか、日本の物流はどこへ向かおうとしているのか。業界の現在地と、その先にある構造変化を探ります。

橋本 愛喜(はしもと・あいき)さん
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで二百社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。 著書『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

騒がれた ”2024年問題” のその後は?

前回のインタビューから2年が経ちました。人手不足や「荷物が届かないかも」と騒がれたこともありましたが、実際の影響はどうだったのでしょうか。
施行前は、世間もメディアも「物流が止まるのでは」と構えていましたよね。4月1日からどうなってしまうんだろう? と不安視されていましたが、コンビニやスーパーに行ってみると、いつもどおり商品はビシッと揃っていたはずです。世間も、荷主も「なんだ、動いてるじゃん」と。体感として ”物流が止まった” と感じるようなことはありませんでした。

実は、この制度が施行された2024年は、経済の落ち込みや海外物資の流入減の影響もあり、業界的に物量が減った年だとも言われているんです。人手不足の問題はありながらも「運べてるなら問題ない」と世間が安心した空気がありました。

編集部注釈(※)|荷主:商品や資材の輸送を運送会社に依頼する企業
なるほど。確かに「2024年問題」という言葉も、すっかり過去のものになってしまっているような印象があります。物流業界を取り巻く近況はどうなっているのでしょうか?
Googleトレンドなどを見ても「2024年問題」という言葉自体への注目度は下がっています。とはいえ、メディアなどで大きく話題になったこともあり「物流業界が緊急事態である」という認識を今までよりも国全体が持ったのは事実です。実際、業界では、ドライバー不足による倒産も起きています。

以前から、私は著書などで「運送会社がどれだけ一生懸命努力しても、結局「荷物を運ばせる」荷主が協力してくれないと意味がない」ということを強調していましたが、最近になってようやく、運送事業者ではなく荷主に対しての規制を国が強める動きが出てきたんですよ。

物流のプロ=CLO、「特定荷主」に課された新たなポジション

荷主に対しての規制! それはこれまでになかったものですよね。具体的にどういった変化があるのでしょうか?
特定荷主に対して、「物流効率化法」という規制が課されることになりました。様々な取り組みが講じられる内容になっていますが、なかでも大きいのが「CLOの選任」。一定規模以上の特定荷主に対してCLO(物流統括管理者)の選任が義務づけられることになったんです。

そもそも “特定荷主” というのは、例えば年間9万トン以上を扱う、または150台以上のトラックを保有しているなど一定規模の会社を差すのですが、こうした特定荷主には、他の中小企業よりも強い規制がかかります。

CLO(物流統括責任者)ですか! 初めて聞きました。
そうですよね。日本ではあまり聞き慣れないですが、実は海外において「CLO」というのは非常に重要なポジションで、CEOの登竜門だと言われることもあるぐらいなんですよ。 具体的な役割としては、荷待ち(※2)時間の削減や、荷役(※3)作業の適正化など、物流効率化計画の策定・実行管理などがあります。もちろん、ドライバーの働く環境の改善なども求められます。

(※2)荷待ち:現場で積み下ろしの順番を待つ待機時間
(※3)荷役:荷物の積み込み・積み下ろし作業全般のこと
企業内において、物流の責任の所在を明らかにする動きとも言えそうですね。
まさにそうなんです。日本はもともと「ものづくり」においては世界トップクラスと言われていますが、作ったものを消費者などに届ける物流はコストでしかなく、 ”ない方が良いもの” だと扱われてきました。CLOの選任は、ただ単純に肩書が増えるということではなく、 “現場の物流問題を経営課題に格上げする” ことでもあります。

とはいえ、通常であれば物流に詳しいプロフェッショナルを就任させるべきですが、実際の現場では「誰がなるの?」とーー。任命された本人ですら「何をすればいいの?」と、その役割を掴めていないケースが多いんですよね……。

個人的な感覚としては、CLOを役員として置くことの効果については、施行して2~3年経たなければ見えてこないかなと思います。逆に、2年ほど待てば、組織におけるCLOの真価が明らかになるとも言えます。
確かに! 凄腕のCLOが企業の業績や運送業者の満足度を大幅に上げる、なんてこともあるかもしれないんですね。想像するとワクワクしてきます!(笑)
まさにそうなんです。日本はもともと「ものづくり」においては世界トップクラスと言われていますが、作ったものを消費者などに届ける物流はコストでしかなく、 ”ない方が良いもの” だと扱われてきました。CLOの選任は、ただ単純に肩書が増えるということではなく、 “現場の物流問題を経営課題に格上げする” ことでもあります

とはいえ、通常であれば物流に詳しいプロフェッショナルを就任させるべきですが、実際の現場では「誰がなるの?」とーー。任命された本人ですら「何をすればいいの?」と、その役割を掴めていないケースが多いんですよね……。

個人的な感覚としては、CLOを役員として置くことの効果については、施行して2~3年経たなければ見えてこないかなと思います。逆に、2年ほど待てば、組織におけるCLOの真価が明らかになるとも言えます。
確かに! 凄腕のCLOが企業の業績や運送業者の満足度を大幅に上げる、なんてこともあるかもしれないんですね。想像するとワクワクしてきます!(笑)
これまでドライバー不足や長時間労働は運送会社の問題、とされてきたことが、荷主の経営責任の領域に移るという大きな変化の最中にあります。CLO選任の義務化が、それを象徴することになりそうですね。

ドライバーの無償労働にメス。公正取引委員会からの動きも

業界全体としては大きな動きがある状況ですが、現場で働くドライバーの皆さんの労働環境は、2024年の働き方改革以降、改善されているのでしょうか?
「良くなった」「悪くなった」と一言では言いづらいのですが、ドライバーの働く環境を守るという点については、公正取引委員会が、いわゆる「取適法(旧下請法)」の視点から改善しようとする動きも増えていますね。

その背景にあったのが、物流大手のセンコー株式会社が、長時間の荷待ちや荷役、付帯作業(ラベル貼り、検品など)をドライバーに無償でやらせていた件で取り締まられた、というニュースです。

◆ 物流大手「センコー」に下請法違反で初の再発防止勧告…下請け業者に無償で積み下ろしさせる
https://www.yomiuri.co.jp/national/20251212-GYT1T00259/

センコーさんはかなりの大手企業なので、正直なところ、これが他社への警告になると感じています。業界では荷主や元請がドライバーに付帯作業をさせることが常態化しているので。
そういったことがあったのですね! 国交省などだけではなく、複数の省庁から同時に圧力がかかるというのは大きいですね。
はい。今後はこれがスタンダードになっていくのかな、と期待が持てました。
また、先日には27年春から着荷主がトラックドライバーに無償で待機や荷役を強いることを独占禁止法の対象にするという報道もありました。これらにより、早速「これまでドライバーにやらせていたけど、これからは自社の社員たちがやらなければ」と動きはじめている荷主も見られます。

一方でドライバーからは、必ずしもポジティブな反響ばかりではないのが難しいところで……。慣れない自社社員が荷役をやることで、現場の品質が安定せず、逆にドライバーの荷待ちが増えたという声もあるんですよ。荷主や倉庫側が、荷役専門の作業員を正社員として雇用するなど、より良い解決策に向かうと良いですね。
ジレンマですね……。ベテランのドライバーさんなら「自分でやったほうが早い!」と感じてしまいこともありそうです。
まさに、熟練のドライバーたちの中には「フォークリフトなどの機械を使わずに積み下ろしをする ”手荷役” が武器!」という方や「体力が誇り」という意識を持つ方も少なくないんです。でも、日本のドライバーの平均年齢は高く、50代以上が過半数。長期的にはとても危険なことです。

ドライバーたちが「もっと働いて稼ぐ」方向ではなく、もらうべき付帯作業料や単価を上げる方向に関心を向けられれば理想的かなと思います。持続可能な働き方を考えてもらえたらな、と。

物流におけるDXの有望分野は、ドライバーの健康・安全管理!?

前回のインタビューでは、物流の現場ではなかなかデジタル化が進まないという話がありました。ここ数年でさまざまなアプリやサービスは増えていますが、DXの状況に変化はありますか?
正直なところ、兆しはあるが全体では遅れているという状態でしょうか。いまだに「QRコードの読み方が分からない」という方は多いし、「FAXの利用は絶対」という企業がほとんどです。

「取引相手が紙やFAXを使っているので、自社だけがデジタル化してもメリットが少ない」というのも本音としてあると思います。これはネットワーク効果なので、大手企業が「うちはFAXをやめます」と宣言しないかぎり、変革の波は起きないでしょうね。
DXを進めるメリットが際立つ業界変革が必要になりそうですね。
そうですね。もちろん、デジタルの力で物流の業務自体を効率化する、という方向もありますが、私がより注目している領域があります。それが「ドライバーの健康問題」です。

ドライバーの健康問題! 意外なテーマでした。
現場では前々から課題になっていることなんですよ。ドライバーは睡眠が短く、喫煙率も高く、運動習慣も少ない。停められる場所の都合で、高カロリー・高塩分の食事になりやすく、高血圧に悩んでいる方も多いんです。実際のデータでも、過労死(脳・心臓疾患)の労災認定でも、トラックドライバーは長年最下位なんですよね。

こういった課題のソリューションにつながるサービスが出てくるといいな、と思っています。トラックドライバーに限らず、ブルーカラーの職業特有の課題を捉えたサービスであれば、マーケットも広いはずです。
面白いですね。AIやロボティクスも発達していますし、今後さらなるDXが進むことを期待しています。
そうですね。実際、ドライバーの飲酒対策では「アルコールインターロック」(呼気チェックをしないとエンジンがかからない仕組み)や、運転中の抜き打ち検査・ログ管理などの開発が進んでいます。これまでの「アルコールチェック」では足りなかったことを、デジタルで補完できるようになっているんですね。

また、1トンを超える紙パルプの積み下ろしなど、危険を伴う荷役については、機械化・ロボティクスで負担とリスクを下げる必要もあります。こうした点でもDXが貢献してくれることを期待したいですね。

物流を ”経営課題” にするということ ― 変わり始めた業界の現在地

こうして伺っていると、日本の物流をとりまく環境は、新たなフェーズに入ったという印象を受けますね。
そうですね。制度が少しずつ整い、国も動き出しました。荷主にも責任を求める仕組みが制度として明確になりつつありますし、2028年には運賃の基準となる『適正原価』の制度化も予定されています。

でも、これらの改革が本当に意味があるものなのか、明らかになるのはこれからです。守られなければ意味がないですし、逆に制度化されることで起きる新たな問題も……。制度と現場の間にあるギャップをどう埋めるかが鍵になりますね。
一方で、運送会社の女性ドライバーが増えたという明るい兆しもあると聞きました!
そうなんです! これは朗報だと思います。もちろん比率としてはまだ少ないですが、現場の人手不足に対する焦りもあり、女性の比率は 約3.5% → 4.7%に増えました

ただ、女性ドライバーを迎え入れる運送会社の方が準備不足という課題もあるんです。セミナーや現場で、女性用のトイレや更衣室、生理に対する知識などの有無を聞くと、返事がないというのが現状です。

もちろん最低限の設備だけではなく、会社に女性の相談相手がいないと働きづらさがあったりと、複数採用・女性役員の登用など、組織側の整備が重要です。こうした点にもしっかりと注目して、改革を進めてほしいなと思いますね。

橋本愛喜さんの著書

まさにそうですね。制度改革やDXなど、物流を取り巻く課題は多岐にわたりますが、その根底にあるのは「働く環境をどう変えるか」という問いなのかもしれないな、と感じました。本日はありがとうございました!
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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。