2022年7月4日

アステリア社が試す、 “人生の主導権を取り戻す” 3泊4日の熊本ワーケーション

柔軟な働き方が広がる中で、IT企業のアステリアがいま注目しているのが「ワーケーション」という新たなワークスタイル。自宅やオフィスとはまったく違う環境で仕事をすることで得られる体験、その価値とは? アステリア社員が実際に体験したプログラムに沿って、ワーケーションの実態をご紹介します。


2011年の東日本大震災発生をきっかけに、”一人ひとりが働きやすい柔軟なワークスタイル” に積極的に取り組んできた、東京・渋谷区のIT企業 アステリア株式会社。コロナ禍となった2020年には全社的なテレワークにいち早く切り替え、ニューノーマルな時代に対応するスマートオフィス化など、新しい働き方を推進してきました。2022年6月の今でも、全社員が場所にとらわれずに仕事ができるスタイルを追求しています。

そうした多様な働き方の導入を進めるなかで、特に注目しているのが「ワーケーション」。「ワーク」と「バケーション」の造語である言葉ですが、普段のオフィスや自宅とは全く違う環境で仕事をするという新しいワークスタイルを指します。

これまでアステリアでは、秋田県(2017年)、シンガポール(2019年)、軽井沢(2020年)でのワーケーションの試行にも取り組んできましたが、2021年、観光庁が公募した「新たな旅のスタイル促進事業」に熊本県人吉市や球磨郡水上村でワーケーションを実施するプログラムを「くまもとDMC」と共同で提案。その結果、なんとモデル事業として採択(※)されることになったのです!(スゴイ!)

※2021年10月21日にアステリア株式会社から発表されたプレスリリース くまもとDMCとアステリアの共同提案が観光庁モデル事業に採択。熊本県人吉・球磨地区で3回の ワーケーション を実施し新しい働き方の提案へ
https://www.asteria.com/jp/news/press/2021/10/21_01.php



そして驚きなのが、このワーケーションのコンセプトとして掲げられた “人生の主導権を取り戻す” という壮大なテーマ…! 3泊4日という時間の中で、参加した社員はどのように過ごし、新しい発見を持ち帰ったのか? また通常の業務との兼ね合いなど、企業主催のワーケーションの気になるところを、根掘り葉掘り聞いてみました!

本プログラムにおいて、実際に企画やコーディネートをアステリアの代表窓口として行った地方創生エバンジェリスト・松浦真弓さんにお話を伺います。

松浦真弓(まつうら・まゆみ)
アステリア株式会社|ノーコード変革推進室|副室長/エバンジェリスト

半導体商社でのフィールドエンジニアを経て、IT企業にて、製品企画、マーケティング、ビジネスコミュティ構築などに携わる。2018年9月よりアステリア株式会社に入社し、マーケティングに従事。現在は、ノーコード変革推進室に所属し、地方創生エバンジェリストとして、DX、ノーコード、モバイル・クラウド活用、地域創生、働き方改革などの分野を中心に講演活動を行うと同時に、働き方改革の一環として、ワーケーション推進にも携わる。 

渋谷から熊本へ! 日常を離れるワーケーションで目指したこと

そもそもワーケーションは自分で場所を選んで行くこともできますが、会社として3泊4日分のプログラムを用意してくれて、そこに社員たちが自由に参加できるのは気軽で良いですね。
そうですね。自分で遠方へ行くとなると見知らぬ土地で車を運転しなければいけなかったり、社員にとって仕事以外での負担が増えてしまいます。

現在アステリアが実施しているワーケーションのプログラムは、熊本県で地域と共同した観光地域づくりを手がける企業「くまもとDMC」さんが一緒にコーディネートしてくれているので、地元の事業者の方たちとのワークショップや、森の中に入り、個人が思い思いの時間を過ごす “森のリトリート” など、自分たちではなかなか実現できないプログラムが目白押しになりました。
普段の業務とは完全に別世界! 社会科見学のようなプログラムもあり、とても楽しそうですね。ワーケーションのプログラム全体を通して、どういうことを目指していたのでしょうか?
いつもと違う場所で仕事をすることでリフレッシュしてほしい、新しい学びを持ち帰ってほしいというのがメインテーマですが、もう一つ、地方創生エバンジェリストとして、「地方創生って何なの?」ということをアステリアの社員に知ってほしいというのが、裏テーマとしてありました。

参加する社員は、営業や経理、システム担当など… 普段の業務はさまざまですが、「自分たちの製品や会社の存在を通じて、地域や社会に対してどのように貢献できるのか?」ということに想いを巡らせて欲しかったんです。
日常を離れるからこそ見えるものもたくさんありそうです。
3泊4日のプログラムの中で、みんなで語らったり、普段のオフィスでの会話では生まれないコミュニケーションをしたりと、かなり濃厚な時間になりそうですね。
実際、参加したメンバー同士でかなり仲良くなっていたように思います。 現在は、コロナ禍の影響もあって、リアルで会ったことのない社員メンバーも多くいます。初めての土地で同じ時間を過ごすことで、お互いを理解し、心と心の距離がぐっと縮まりましたね。

また、アステリアの場合は熊本県に「熊本R&Dセンター」を構えているので、そこで働くメンバーと過ごせたことも貴重な機会になりました。オンラインでは日々顔を合わせている仲間ですが、リアルに会うのは初めてだったんですよ!
別の拠点で働くメンバーと会えるのは嬉しいですね。
企業主催のワーケーションとなると、日常の業務とのバランスが気になりますが、そのあたりはどのように設計されていたのでしょうか?
アステリアではこれまでに2回、熊本県での3泊4日ワーケーションを実施していますが、日常の業務を止めないためにも、各回とも「各部署から一名ずつ」という条件で社員を募集、各回ともに5名の社員が参加しています。アンケートなどを見ていると「ワーケーションに興味があった」「社員間の交流が図れる」というのが参加理由としては大半でしたね。「熊本県に行ってみたかった(これまで行ったことがなかった)」という声も多かったので、場所選びは重要だと思います。

一般的な研修旅行と明らかに違うのは、参加理由として「スキルを身に着けたい」というのを挙げた人はゼロだったということ! 良い意味で意気込まず、気軽に、自然体で参加するからこそ得られる経験や、チームメンバーの人柄もあったのではないかなと思います。

自然との出会いや、地元の事業者の方とのワークショップも

3泊4日のワーケーション、具体的にどのようなプログラムがあったのか教えてほしいです!
まず一日目は、午後に熊本空港に集合し、現地の特産品である球磨焼酎の酒蔵見学へ。蒸留工程について学んだり試飲をしたりとお酒好きには好評のプログラムなのです(笑)。

美味しい水に豊かな大自然、酒蔵の方の温かいお人柄と、その土地の特性や文化に触れることができ、「これから4日間を過ごす水上村の魅力を到着早々に知れて良かった」という声が多かったです。

そのあとは宿へ行き、夜は熊本県の地域事業者の方との食事会です。
これは3日目に行う予定のワークショップに向けて親睦を深める場でもあります。参加されていたのは、地元の事業者さん、宿やレストランの経営者、ワーケーションの企画をしてくれたくまもとDMCの皆さん、自治体の方や議員さんもいらっしゃいましたね。

※写真撮影時のみマスクを外しています

普段の仕事ではなかなか接点もない方で、お話を聞くだけでも色々と学びがありそうですね。車座になって話し込んで、盛り上がっているのが分かります。
地域の特性や文化を理解したり、地元の方たちの日常に触れたりすることで、あとに行うワークショップでもより具体的な提案や積極的なコミュニケーションができるようになるんです。

あとは、なんせ、熊本の名産がこれでもか! というほどに詰まった食事会で…。
鹿肉などのジビエや、名前を聞いたこともないような山菜 (「あ、それは宿の外のそのへんに生えてますよ!」なんてお話も!笑)。

美味しい食事とお酒に、初対面のみんなも大盛りあがり。ここで出会った水上村のお米があまりにおいしくて、東京へ戻ったあとも何度も取り寄せているという社員がいるほどなんですよ…! 水上村のお米は、寒暖差があり、水がとてもきれいなので、美味しいのだそうです。

熊本県でいただく美味しいお米にお野菜、お肉、海鮮、そして美酒…
ああ、すでに参加したい!!!(笑)

※写真撮影時のみマスクを外しています

この美味しい食事は、このあともお弁当などを含めて4日間続きます!(笑)

そして2日目は、午前中から「森林セラピー」として地元の市房山をトレッキング。森林セラピストの方に市房山の原生林や参道にある樹齢1000年近くの市房杉などについてゆっくり解説をしてもらいながら、皆で目的地まで山歩きです。

7人の大人が手を広げても一周できないほどの大きな杉、日本でも貴重な原生林に圧倒されます。ただ美しいだけではなく、災害の爪痕があったりと、地域が抱えているさまざまな問題についても考えさせられる場です。

※写真撮影時のみマスクを外しています

思ったよりも本格的なトレッキングなんですね! 体力に自信がなくても大丈夫でしょうか…。
コーディネータの方がゆっくり説明しながら案内してくれるので大丈夫ですよ。 日頃は仕事のことで頭がいっぱいになりがちですが、きれいな空気を胸いっぱいに吸い込みながら美しい景色を見る。このように普段とはまったく異なる環境に置かれると、思考も変わります。

実はこのあと午後には「森のリトリート」という、森の中で完全に一人になって自己を振り返ったり、ひたすら ”無” になる、というプログラムを用意していたのですが、こちらも好評でしたね。これは、コーディネータの指導のもと、紙と鉛筆を持って山に入り、自然の中で、たった一人で自己とひたすら対話をする内省プログラムです。
「森のリトリート」、名前だけ見てなんだろうなあと思っていたのですが、そんな最高のプログラムだったのですか! 森の中で一人で無になって思考を巡らせるって… 結構憧れます(笑)。

これぞ ”人生の主導権を取り戻す” というコンセプトの醍醐味でしたね。



普段忙殺されていると、じっくり考えられないようなこと、自分のキャリアや人生、家族、周りの人々のこと。日常生活や慣れ親しんだデジタルツールとは一線を画した場所でじっと一人になることで見えてくる気づきもあり、完全なる非日常でした。これまで、見過ごしていた幸せや、気づけなかった家族や仲間の大切さに気づき、感謝の気持ちを語る方も多いですよ。

そして、森のリトリートの仕上げは、その日、森のリトリートに参加したメンバーたちとが焚き火を囲み、炎を見つめながら、コーディネータの導きで、参加者同士で気づきを共有を行う時間もあります。

参加者の中には「もっと長い時間一人になりたかった」という声もあるぐらい、さまざまな気づきを得ることができる好評のプログラムでした。この体験が、「人生の主導権を取り戻す」体験につながった方も。

わあ…。旅行でもなかなか体験できないことですね。たったひとりで大自然と対峙したとき、自分ならどんなことを考えるだろう? って、考えてみてもあまり想像がつかない。実際に体験してみないとその境地にはいけないんだろうなあ…。
ひたすら「無」になったという方もいましたよ。リトリートで過ごす時間と得るものは人それぞれ。そこもまた、このプログラムの醍醐味かもしれませんね。

こうして2日目が終わって、3日目はいよいよ地元事業者の方々とのワークショップです。今回のワーケーションのメインイベントでもあったのですが、地域事業者の仕事や地域の課題などのヒアリングを通して、アステリアという会社がどのように役立てるか、地域と長期的な関係を築くためにはどんなことができるか? といったことを考え、共有する場でした。

アステリアから参加していたのは製品の担当者ばかりではありませんが、地方の課題を知り、その上で自分たちの製品を通じてできることを考え、ディスカッションしながら意見をまとめていく。その過程で、自社製品の理解も深めることができたのではないかと思います。

さらに、地域の方々にも、メンバーとの取り組みを通じて、アステリアの魅力を知っていただき、アステリアのファンになっていただきたい。対話を通して、そういう信頼関係も少しずつ醸成されているなと感じます。
ワーケーションにおける裏テーマでもあった「地方創生とは何かを知る」ということが、このワークショップで一気にリアルなものになりそうですね。
そうですね。普段の業務とは異なる視点で、アステリアという会社のこと、訪問している地域のこと、そして社会との関わりなどを、コミュニケーション能力をフルに活用してヒアリングし、そしてチームメンバー全員で自分ごととして考えることは、多くの参加者にとって新鮮な体験です。この日の夜は、アステリアの地方拠点でもある熊本R&Dセンターのメンバーとの社員だけの水入らずの食事会も行ったりと、ぐっと地元に密着した一日になりました。

そして最終日の4日目は、宿の近くにあるコワーキングスペースを使って、各自の執務時間に充てました。雄大な球磨川の流れを眺めながらする、「いつもの仕事」。リフレッシュしながら仕事ができて素敵な体験になったという声もありました。

参加者たちはこのあと昼食を取りながら、ワーケーション全体の感想や課題を共有し、、熊本空港から帰路へとつきます。参加者同士で親睦も深まりましたし、終始、笑顔の絶えない濃密な3泊4日でした。

※写真撮影時のみマスクを外しています

開催ごとに少しずつ内容は違ってきますが、大体このようなプログラムを取り込んだワーケーションなのですね。

チームの仕事は? 通常業務は? 企業主催のワーケーションの気になるギモン

すでに2度の熊本ワーケーションを実施し、2022年7月には3度目の開催を予定しているワーケーションですが、やはり反省点としてプログラムと通常の業務を行う時間のバランスは難しいなと感じています。全員で参加するプログラムが多かったので、通常業務の時間が十分に取れなかった、という参加者の声もありました。
3泊4日が「ワーケーションなのか研修旅行なのか?」は判断が難しいところですよね。その境目は、おそらく個人の感覚によっても違うのかなと感じます。
そうした声を踏まえて、3回目の開催では通常業務の時間をぐっと増やす予定です。それで「十分にあった」と思えるのか「それでもまだ足りない」なのか… 。
これは参加者の方の事前の期待値にも左右されることだと思うので、「ワーク」と「バケーション」のバランスはまだまだ研究のしがいがありますね。
あとは、3泊4日、すべて平日での開催ということで、どうしても参加できる人が限られてしまうのかなと…。 例えば、小さな子供がいるパパ&ママ社員だと参加しづらかったり、そういう不公平感は出てきませんか?
それは確かに課題だと思っています。なので、今後はさまざまなコンセプトでワーケーションを企画できたら面白いのかなと。

例えば、「週末は家族が合流して参加」「1泊だけ参加」など… せっかく自社で自由に企画してやっていることなので、社員たちのリクエストも聞きながら、場所やテーマも変えつつ、柔軟なプランニングをしていきたいですね!

(※松浦がワーケーション参加者に対して、事後に取ったアンケートより一部抜粋)

親子で参加できるワーケーションはぜひ企画してもらいたいです!
小さなお子さんがいる田中さんの意見もぜひ聞かせてくださいね!これまで、会社主催のワーケーションとして、工夫してきた点は次のような点ですが、まだまだ工夫できる点はあるかと。

・会社として通常の業務を止めないために「各部署から一名ずつの参加」
・社内コミュニケーションをより盛り上げるために「参加者の年代などダイバーシティを意識」
・現地でのワークショップで、より深い議論ができるように「ワーケーションを実施する前の事前のレクリエーションやアクティビティ」


などなど…。

なにより参加者の皆さんが「行ってよかった!」「また行きたい!」と思ってもらえる、他のメンバーにも「ぜひ行ったほうがいいよ!」と勧められるようなものにしていきたいなと考えています。
なるほど、そうですよね。しかしお話を聞いていて、正直、社員の意見をヒアリングしながらのプランニングも、関係各所とのコーディネートも、松浦さんかなり大変なのでは… と思ってしまったのですが(笑)。通常の業務もやりながらですし…。

そこまでして、会社主催のワーケーションを盛り上げていこうとするモチベーションってなんですか?
アステリアは地域創生に力を入れている企業ですが、社員全員が地域創生に携わっているわけではないのが実情です。だから私は、 ”地方創生エバンジェリスト” として、アステリアという会社が、どうやったら地域に貢献できるのか? ということに、まずは社内のメンバーたちに触れてもらい、興味を持ってほしいという想いがあります。

実は、私も今回のワーケーションをきっかけに、初めて熊本を訪問したのですが、実際に行ってみると本当に良いところなんです。その魅力も知ってほしいし、地元の方たちが持つ課題に触れて、自分たちが役に立てるかも、という道筋を立ててほしい。もちろん、その土地が好きになったら、今度は大切なひととプライベートで訪れてもいいですしね!参加するみなさんと、訪問する地域との「架け橋」になれたら嬉しいです。

「ワーク」と「バケーション」をかけ合わせた「ワーケーション」ですが、ただ通常と違う場所で業務を行うというだけでは、得られるものは限られます。さまざまなプログラムや、地元の方との交流、社内のメンバーと一緒に行くワーケーションだからこそできる体験を通じて、社員の皆さんにはさまざまな発見をしてもらいたいですね。

企業主催のワーケーションプログラム、まだまだ目指しているゴールまでは道半ばですが、まだまだできることはたくさんあって、期待をひしひしと感じるとともに、非常に手応えを感じているところです!

※写真撮影時のみマスクを外しています

素敵! こうしてお話を聞くのと、実際に参加するのとでは、全く見える景色が違うのだと思います。私もいつか絶対に参加してみたい〜〜!
百聞は一見にしかず、です。ぜひ、田中さんも参加して、一緒に笑顔で、ワーケーションを楽しみつつ、人生の学びを深めましょう!
松浦さんのこうした活動を通じて、「ワーケーション」という言葉のイメージもだんだんと変わってきそうですね。お話を聞かせていただき、有難うございました!
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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。