2022年7月14日

アルコールチェックも社有車の管理もアプリで完結! ビルメンテの老舗企業が挑む、DXの裏側を徹底取材

プログラミング未経験の専務が3日で自社専用のアプリを作成! そのインパクトで多くのメディアにも取り上げられた、株式会社裕生のDXの軌跡。従業員の検温報告や自社の社有車の管理、さらに今年10月から義務化が予定されている車運転時のアルコールチェックまで。自社のニーズにマッチするアプリを続々と生み出す、その裏側を取材しました。

株式会社裕生専務取締役の根本さん

ビルの設備・清掃・警備などのメンテナンスやビル管理、不動産管理を生業とする、株式会社裕生。1952年創立という歴史ある企業ながら、社内のさまざまな課題を解決するための「DX」に積極的に取り組み、アナログな管理体制が多く残るビルメンテナンス業界において大きなアドバンテージを獲得しています。

従業員の体調(検温チェック)管理、地震など災害発生時の震災時報告、自社の社有車の管理、さらに2022年10月に義務化が予定されている、事業所の車を運転する際の「アルコール検知器を用いたアルコールチェック」も。紙やExcelで管理すると煩雑になりがちな報告や社内での共有を、ノーコードで作成できるアプリを活用することで、よりスピーディーで正確な管理体制を実現していると言います。

しかもそれらのアプリは、プログラミング未経験の専務が、モバイルアプリ作成ツールの「Platio」を活用して、3日ほどで作成しているのだとか。

「古い管理体制が残る企業において、DXと言っても何からすれば?」と思っている方に、ぜひ知っていただきたい、裕生が取り組んだDXの裏側について、専務取締役の根本さんにお話を伺いました。

株式会社裕生 専務取締役の根本さん

株式会社 裕生 専務取締役 根本 将(ねもと・すすむ)さん
1997年より大学卒業後流通業に従事したのち、1999年に機械専門商社へ転職。約22年にわたり、電子部品製造機器を中心とした輸出/輸入/国内販売の営業職として携わる。2002年~2006年は同機械専門商社のシカゴ支店にて勤務。2021年10月に株式会社裕生・管理本部入社。趣味はプロ野球観戦、アメリカンスポーツ観戦(MLB、NFL)。好きな言葉は「則天去私」。

最も重視したのはスピード感。ネット環境のない現場で使えるアプリができるまで

1952年創立という長い歴史のある裕生さんですが、会社として「DX」を意識され始めたのはいつ頃からなのでしょうか?
意識的にやっていこうと動いたのは、私が裕生に入社した2021年10月頃からですね。もともと前職の専門商社で「Platio」の存在は知っていたので、Platioを活用すれば、トップダウンでいち早く現場のデジタル化を進められるのでは? と思ったのがきっかけです。
スピード感をかなり大事にされていたのですね。もともとビルメンテナンスという業界は全体的にアナログな作業が多くあると聞きました。
そうですね。正直なところ、ビルメンテナンス業界全体がDXに立ち遅れている理由はいくつかあります。一つはやはり私たちが仕事をさせていただいている場所が、それぞれのビルオーナーさんの持ち物であるということ。例えばこういう機能を付加してデジタル化してみたい、IoTを含めた機器を置きたいと考えたとしても、オーナーさんの許可なしに設置することはできません。

そしてもう一つが、そういった設備がある場所、例えば商業ビルのボイラー室なんかは、地下の目立たないところに置かれていることが多いんですね。そうすると、そもそも各携帯キャリアの電波が届かず、ネット環境を構築できないところも多いんです。じゃあネット回線を引けば、と考えても、それもオーナーさんの許可が必要になります。

デジタル化に必須なIT、DXデバイスのほとんどが「ネットにつながるがあることを前提に作られている」ものが多いんですよ。

株式会社 裕生専務取締役

確かに…。ネット環境がないところでも入力ができる、というのが「Platio」を選んだ理由でもあったんですね。
そうですね。ネット環境がないところでも入力はできることと、電波をキャッチした段階で自動的にデータを送信してくれること。これは我々の業種と相性の良いポイントでした。

それからもう一つ、管理側の視点で重視していたのは「各社員から収集したデータが一覧表示できる」ということです。例えば検温だったら、社員がそれぞれ毎朝自分のスマホからPlatioを通じて検温結果を入れると、それが一覧でリスト表示されます。いかに必要な情報を分かりやすく入れられるか。Platioはその意図が伝わりやすく、管理者としては非常に助かっています。
絞り込みとか、検索もできますもんね。
現在は、検温報告や震災時の報告、社有車の管理など、社員からのさまざまな報告をアプリでできるようにされていますが、アプリの作成自体は根本さんがやられているのですか?
そうですね。私自身はプログラミング未経験ですが、直感的に操作できるので、「こういうアプリが欲しいな」と考えるところからたたき台の作成までは数時間でできてしまうことも多いです。Platioに入っているテンプレートを活用して作成することが多いですが、テンプレートなしで一から作ったものもあります。その場合でも大体1〜2日で土台となるアプリは作成できますね。
自社アプリを数時間で作成! そのスピード感は凄いですね。社員の方に実際にアプリを使ってもらうという啓発についてはどうでしょうか。
担当社員から「Platioでこういうことできませんか?」という意見が上がってきたときが担当社員としても一番ホットなはずなので、とにかくスピード重視で作っています。プロトタイプは数時間、遅くとも翌日には見せるようにしています。 また、Platioはそういったアジャイル感のある開発ができるツールだと思っています。

もちろんスマホを持っていない社員もいますし、100%というのは正直難しいところもあります。ですが、入力すると色が変わるようにできないか? すべて選択形式にできないか? など、現場と意見を出し合って、社員がより入力しやすいように、管理者がより見やすいようにマイナーチェンジを重ねています。
UIまで考えて作成されているんですね…!
入力するときに微妙に指の位置を変えなきゃいけないとか、入力するのを見落としてしまうとか、日頃の業務で忙しい現場の方たちにとっては、そういうことが小さなストレスになるんですよ。

例えば検温の報告アプリは、“アプリを開いて入力して送信するまでを10秒で” ということをかなり意識しました。とにかく毎日使ってもらうことで習慣にすることが大事だと考えているんです。もちろんスマホを持っていない社員などはアプリを使わずにExcelなど別の方法で報告を行っていますが、本社と、つくば市ある営業所での検温報告アプリの利用率は、直近のデータだと社員全体の97〜98%ぐらいでしょうか。
97〜98%ですか! 思った以上に利用してくださっている! 嬉しいですね。

現在は、社員の中で37℃以上の発熱が認められた場合、全員にプッシュ通知が来るようになっています。そこで「PCR検査の陽性/陰性」や「ワクチンの副反応」という項目も選べるように改善しました。これがあることで、「この人は発熱しているけど、ワクチンの副反応である」ということが一覧でわかる。

今までは、こういうことも一人ひとりメールや電話で確認していたんですよ。これ一覧で全社員に共有できるようになって、かなり手間が省けましたね。
検温報告アプリに始まり、その後は、震災時報告アプリも社内で展開されたんですよね。
そうです。ルールとしては「震度5以上の地震が発生した際には報告する」としているのですが、今年3月に都心部で大きな地震があったとき、震度5には満たないものの、社員たちが自主的にアプリを活用して安否を報告してくれるということがありました。23時くらいの遅い時間帯、パソコンも持ち帰ってない人が多い状況で。

そうした中での報告がスムーズにできたのはすごく良かったですね。

これは、毎日アプリで検温結果の報告をしていたからこそですよね。震災時の安否報告専用のシステムを導入していたとしても、普段から触っていなければ、いざというときにどう操作したら良いのかわからない! ということもありそうです。
まさにそうなんです。 実はこの地震が発生したとき、管理を任されているビルの現場にいたメンバーから「ビルで停電があった」という報告もすぐさまアプリで来ました。その連携がとてもうまくいったので、事業部の部長から「昨日の震災時報告のようなものを日頃の業務報告でも単独で準備しておきたい」という声があって。

そこからPlatioを活用した業務報告アプリもできました。このアプリでは、停電の詳細情報などを写真で報告できるようなものにしています。
すごい! 一つのアプリから派生して、どんどん新しいアプリが誕生していますね。

法令で義務化されることが決まった「アルコール検知器を用いたアルコールチェック」と社有車の管理アプリを一日で作成!?

新しいアプリといえば、今社内で最も需要が高まっているのが、今年5月に作成して運用を開始している「社有車管理アプリ」ですね。

これは、Platioで作成した「社有車の管理アプリ」にアルコールチェックの項目を盛り込むかたちで作成しました。

今年10月から法令が厳しくなって、事業所の車を運転する際にアルコール検知器を用いたアルコールチェックが義務化されることになったんですよね。

社有車の管理、兼、アルコールチェックアプリ」というわけですね。
はい。東京にいる私と、主に社有車を使うつくば市の営業所の副責任者と安全運転管理者と三人で、こういう機能があると良いよねと意見交換をしながらプロトタイプを作成しました。

アプリ上でまずは車種を選択して、次に健康報告。さらに肝となるアルコールチェック。これはアルコール検知器で使って、検知した数値をスマホで撮影して、そのままアプリ上で添付して報告します。さらに社有車を管理する上で欠かせない「出発前時の走行距離メーター」の数値も写真で撮影したものを添付します。

最後に「遠隔第三者チェック」という項目があり、法令上、必要なすべてのエビデンスが残ります。これらのデータ・画像は申告当日のものであるという重要な誓約もワンタップでチェックできるようにしました。

実際にPlatioを使って作成したアプリのイメージ

かなり作り込まれているなあという感覚ですが、これは作成にどれくらいかかっているんですか?
作るの自体は、一日ぐらいですかね…。
そこから現場とさらに意見交換を重ねてブラッシュアップして、今はバージョン105です(笑)。
バージョン105…!? それだけ多くの意見が取り込まれているってことですよね。 今年10月の法令施行まで時間があまりない中で、体制をつくって、社員間でシミュレーションしなければならないと考えると、一日という最短期間で自社のニーズに合ったアプリの土台ができたのは素晴らしいですね。

というかそもそも、これだけ沢山の項目、もしアプリを利用しなかったらどうやって現場で管理するの…? と気が遠くなるんですが…。
そうなんですよ。スマホでの報告ができない人のためにExcelでのチェックシートや紙というのももちろん別で作成しているんですが、アルコールチェックの数値の写真をPCに取り込んでシートに添付して、さらに社有車まで行って、メーターを確認して、デスクに戻ってPCで… と。考えるだけで面倒くさいですよね。

このアプリができて、本当にラクになった、という声がつくば市の営業所からは沢山出てきています。これは本当に嬉しいですね。

実際にアルコールチェックが義務化となるのは10月ですが、裕生さんでは5月からシミュレーションされていたんですね。
そうですね。やってみないとわからないっていうのは現場ではよくあることで。そもそもアルコール検知器を買おうと思っても手に入らない! というような壁もありましたよ。

実際にアプリを作って現場でシミュレーションして全員が運用できるという状態まで持っていくには、正直2〜3ヶ月はかかるだろうと思っていました。それがほぼ1ヶ月で形になったのは、本当に良かったですね。

“面倒くさいからアプリ化できないか?” 社員が発想できることこそ、本当のDX

裕生さんでは、いま社内だけで5〜6個のアプリを作成、運用されているんですよね。社員の方から自発的に「こういうアプリが作れないか?」と声が挙がるのは大きな一歩ですね。
そうですね。先ほどの社有車の管理だって、もともとは社内の紙ベースでの社有車運転日報を使ってやっていたんですが、現場の方たちにとっても非常に面倒だったわけです。
 一日の仕事が終わってからわざわざパソコンを開いて、エクセルで社有車運転日報作成するという。面倒だから、ついつい翌日、来週と作業を溜めてしまったりというケースも見ました。そうすると、運転日報そのものの精度も落ちるし、「日報」の意味がなくなってしまいます。こういうことを総括して、
「これが面倒なんだけど、なんとかできないか?」って。私はその動機が一番良いと思う。「面倒くさいことがなんとかできないか」っていうのを言って、考えてくれたのが一番うれしくて、それこそが本当のDXだと思っています。

弊社も含めてビルメンテナンス業界の会社って、まだまだDX以前、そもそもさまざまな業務のデジタル化において躓いているところも多いと思うんです。そういう意味でも、私は “Platioが社員にとってのイグニッションツールになる”と思っているんです。

イグニッション…、「点火」するためのツールということですか。
まずは従業員たちがデジタル化ということに意識を向ける、点火するような役割をPlatioには期待したいですね。企業のDXというのは、まずはそこからだと思います。

最初にお話したように、ビル管理となると、オーナーさんやクライアントさんの意向があるのでどうしてもフォーマットが決まっていることもあるんですけど、自社の社有車の日報なんて、記録さえ残っていればフォーマットは何でも良いわけですから。

アナログな業界において、「DX」が企業のアドバンテージに

社内での管理が便利になった、ということ以外に、良かったことはありましたか?
そうですね。最近はSDGsなどの観点から、クライアントによってはペーパーレスが求められているところもあります。業務をアプリ化することが資源の削減に繋がり、そういったことがクライアントからも評価されるようになればいいなという期待はありますね。

我々は古い会社ですけど、こうやって新しいことにチャレンジしている、ということがクライアントに伝わるだけでも、絶対にプラスになると感じています。
DXに取り組んでいること自体が、企業としてアドバンテージになっていくと良いですよね。
ありがたいことに弊社でのビルの設備管理、清掃、警備事業は、古くからやらせていただいている事業所が多いんです。それは各事業所の設備員、従業員が本業をしっかりとやって、信頼を勝ち取ってきてくれたからだと思っています。だからこそ、こうしてDXや新しいことを始めたとしてもプラスアルファになり得る。

弊社の場合はアナログの仕事がメインなので、アナログの仕事ありきでデジタル化をしないといけないだろうなと。DXという言葉や手段だけが先行しないように、これまでと変わらずバランスを取りながら、他の業務や拠点に展開して推し進めていきたいですね。
デジタル化することが目的とならないように、自社の価値は何なのか? という足元をしっかりと見据えながら進めていく必要がありますね。貴重なお話の数々、ありがとうございました!

関連リンク

・あなたの業務を3日でアプリに! モバイルアプリ作成ツール「Platio(プラティオ)」 https://plat.io/ja/

・株式会社裕生でのPlatioを活用した事例の詳細はこちら https://plat.io/ja/case/yusei

・株式会社裕生 https://kk-yusei.jp/
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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。