2025年3月21日

プロジェクトのコアメンバーは全員20代! ミロク情報サービスが社内で活用する、生成AIを実装した顧客からの問い合わせシステム「MJS BOT」開発秘話

会計事務所や中堅・中小企業向けに財務会計や税務などの自社開発システムを提供する、ミロク情報サービス(MJS)。同社は、生成AIを活用した顧客からの問い合わせ対応システム「MJS BOT」を社内で展開し、対象部署の生産性の向上に貢献しているそう。本プロジェクトの立ち上げの舞台裏について、現場のメンバーたちに詳しくお話を伺いました。


個人や企業に限らず、人々が生成AIに触れる日常が当たり前になってきました。
日々の生活に役立てている人は多いと思いますが、自社の事業やプロジェクトにどのように生成AIを活用するべきか? という点は、まだまだ考えあぐねている人も多いのではないでしょうか。

今回 in.LIVE でインタビューをさせていただいたのは、会計事務所や中堅・中小企業向けに財務会計や税務などの自社開発システムを提供する、ミロク情報サービス(MJS)。同社は2024年から、生成AIを活用した顧客からの問い合わせ対応システム「MJS BOT」を社内で展開しており、対象部署の生産性の向上に貢献しているのだとか。さらに本プロジェクトを牽引しているのは、入社1~3年目という社歴の短い若手メンバーだということで、その舞台裏について、現場のメンバーたちに詳しくお話を伺ってみました。

自社事業やプロジェクトに、いかに生成AIを取り込むかーー?
そう悩んでいる方々にとってのヒントになるかもしれません。

第一製品開発部 財務APグループ 若杉 泰周さん
2022年MJSに新卒入社、企業様向け製品であるMJSLINKシリーズ、Galileoptシリーズの財務システムを担う部署にて、債務関連の処理を担当。2年目から、MJSで開催された技術勉強会をきっかけに生成AI関連の勉強を始める。ワーキンググループでは、「自分が使いたいAI」を目指して、RAGシステムを作成。システムが評価され「MJS BOT」としてプロジェクト化をする。現在は、生成AI関連、データ分析を中心にアーキテクチャ設計を主に取り組む。

製品企画開発部 企業系製品企画グループ 佐藤佑哉さん
2022年に大学を卒業後、会計事務所に就職。在職中、MJSではなく競合他社の会計ソフトを使用し、確定申告や年末調整、経理代行業務に従事。その経験から、業務効率化を図る会計ソフトの開発に興味を持ち、「より使いやすいソフトを提供したい」との思いでMJSに転職。入社後は研修を受けつつ、若杉の提案でフロント画面の開発にも携わる。現在は、要件定義と「MJS BOT」のフロント開発を並行して行っている。

製品企画開発部 技術基盤グループ 文勝浩さん
2010年MJSに新卒入社。以来、企業様向け製品であるMJSLINKシリーズ、Galileoptシリーズの基盤開発業務に従事。支社のお客様担当者やカスタマーサポートセンターからのトラブル対応の相談を受けることも多く、今回のワーキンググループ発足を機に生成AIでサポート業務を何とか効率化できないかと思い、プロジェクトに参画。プロジェクトマネージャとして若手社員を牽引している。

<聞き手・アステリア株式会社 エバンジェリスト 森一弥>

社内で発足した “生成AIプロジェクト” のワーキンググループが、システム立ち上げのきっかけに

まずは、今回のプロジェクトの発端についてお伺いできますか?
若手を中心としたワーキンググループで始まったと聞いたのですが、本プロジェクトのリーダーである文さんから、詳しい経緯について教えていただきたいです。
弊社内では、これまで複数の領域においてAI活用の検討が進められていましたが、専門的な人材がいなかったことから実現には至っていませんでした。そこで社内では、外部の専門家を招いた定期的な勉強会と並行して、2023年6月頃から、生成AIスペシャリストの育成も兼ねた社内業務の効率化を行うワーキンググループを立ち上げることになったんです。

生成AIを活用したシステムのプロトタイプを作成してみよう、ということで、色々とアイデアを出す中で、「CSC(カスタマーサポートセンター)の問い合わせ対応を、生成AIを使って効率化するのはどうか?」というアイデアが出ました。

先輩社員である私がリーダーとなるかたちで、若杉さんや佐藤さんを含めた若手社員が集まり、プロジェクトがスタートしました。

まさにそのメンバーであるのが、若杉さん、佐藤さんですよね。生成AIについての座学から始まって、プロトタイプを作成して社内に展開、実際に多くの方に使ってもらえるシステムにまで発展させたのはすごいですよね。
さまざまな関係部署の皆さんのサポートがあったからだと思います。
今はCSCで利用してもらっている「MJS BOT」ですが、多くの方のフィードバックをもらいながら、どんどんブラッシュアップさせたいと思っています。ワーキンググループなので、部署や部門を超えた人たちの意見が入ってくるのが面白いところですね。
私自身は一昨年、会計事務所から転職してきたばかりなのですが、入社して間もない頃に、若杉さんに「MJS BOT」の前身となるチャットボットのプロトタイプを見せてもらったんです。

当時すでに生成AIを使っていましたし、関心を持って自分でも勉強していたので、自分と同い年の社員が自らオリジナルのチャットボットを作っていることを知って「こんなことができるの!?」と驚いたのを覚えています。そこで意気投合して、このワーキンググループに参加しました。現在は「MJS BOT」のフロント画面の開発を担当しています。

お互いに良い刺激になったんですね。かなり若いメンバーが多いと聞きましたが、皆さんの社歴はどれくらいなんでしょうか?
いまチームに関わっているメンバーは、社歴が1~3年目ぐらい。
なので、年齢的にはみんな20代ですね。
全員20代……! 会社全体として見ても非常に若いメンバーたちが中心となって動かしているんですね。座学から始めて、プロトタイプまで立ち上げるのは大変ではなかったですか?

実際のところ、ワーキンググループが始まる前に行っていた有志による自主的な勉強会で、初めて「RAG(※)」という存在を知りました。当時は「今はChatGPTが流行ってるから〜」ぐらいの軽い気持ちだったんですが、実際に自分で作れることが分かって、やってみよう! と。そこで実際に作ったものを、外部の講師を招いた勉強会で、講師の方に見てもらったりする中で、まだまだブラッシュアップできる! もっと良いものが作りたい! と、徐々に前のめりな気持ちになりました。

もともと、ゼロからなにかを作りたいという気持ちで入社したので、ワーキンググループを通じて、普段の業務では使わないような新しい開発言語に触れられることも魅力的でしたね。

(※)RAG・・・
「Retrieval Augmented Generation」の略。AIが回答を生成する際に、外部のデータベースや文書から関連情報を検索し、それをもとに応答を作成する手法。より正確で最新の情報を活用できるのが特徴。

生成AIを活用した顧客からの問い合わせ対応システム『MJS BOT』でできること

では、改めて「MJS BOT」について、具体的にどんなことができるチャットボットなのか教えてください。
弊社には15種類以上の自社製品があるのですが、その製品について、日々CSCではさまざまな問い合わせに対応しているんですね。実際に製品を利用しているユーザーの方からの問い合わせですが、カスタマーサポートとして働く社員の方たちは複数の製品を担当しているので、どうしてもすぐに答えられなかったり、その場で即座に解決できなかったりするので、調査後の折り返し対応となることもあります。

そこで、ユーザーからの問い合わせ内容について、すぐに社内の膨大な関連データを参照した上で、適切な回答を生成してくれるチャットボットを開発しました。これが「MJS BOT」です

そもそもお客様からの問い合わせって、電話で受けていることも多いので、その場ですぐに解決したいところですよね。
そうなんです。弊社には「保留は30秒以内」というルールもあるので、それまでに解決できるのが理想です。社内のCRMにあるナレッジやよくある質問、製品マニュアルなど、たくさんのサイトを参照して、限られた時間の中で手動で調べていたところを、RAG技術により自動化したのが「MJS BOT」の大きな特徴です。

現在のインターフェースとしては、まだ Chat GPT のようなチャット形式の連続したやり取りはできず、一問一答形式で質問を返してくれるAIサービスになっています。なのでどちらかというと「AI検索エンジン」のほうが近いかもしれませんね。
なるほど。開発時にこだわった点や、イチオシの機能などがあれば教えてください。
一番の推しは、質問に対する「MJS BOT」からの回答内容について、質問者がフィードバックできるところです。現在は5段階評価とテキストでフィードバックできるようにしているので、回答に対する満足度をチェックすることができます。

またカスタマーサポートの管理をしている人や、私たちのような開発に携わっている人が、特定の質問に対して、どういった資料が参照されているのか? というデータを見ることができるのも大事なポイントかなと。

こうしたデータ解析・分析には、マイクロソフトが提供している「Power BI」を採用しています。グラフがたくさん入っているので、視覚的にもフィードバックや満足度合いの結果が見やすいのもポイントです。

ゆくゆくは、自分たち開発の手からは離れて、CSCの方たちが自分たちで精度を上げていくことができることを目指しています。どういったデータを参照元として追加すればより使いやすくなるか? など、自分たちで考えてより使いやすいものにしていくことができれば良いですね。

チャットの回答に対する満足度が測れるのは良いですね。他にこだわりポイントはありますか?
細かいですが「UI/UX」にはこだわっていて、サポートをしている方に気持ちよく使ってもらえるような工夫をしています。

例えば、質問を入力する際の入力欄については、入力欄を大きく広げるときの動きをできるだけ滑らかにしてみたり。「どういうふうに動くと気持ちが良いか?」を自分たちなりに研究して作っています。回答結果が返ってくるまでの待ち時間には、画面上に弊社のオリジナルキャラクター「ミロにゃん」がアニメーションで表示されるようにしたりと、ほんの数秒でも待ち時間が気にならないような工夫もしています。

あとは回答結果が表示されるときに、この回答に引用された資料が逆引きで見れるようになっているんです。CSCでは引用資料を必ず確認するようにしているそうで、参照元をすぐにチェックできるUIになっています。

「MJS BOT」がサポートセンターに導入されることで、現場の皆さんに新しい仕事が増えてしまうようなことは避けたかったので、とにかく今までの業務フローのまま、参照元の情報を更新したりできるように考えました。

そうやって情報を更新することで、翌日には新しい情報が「MJS BOT」に自動で組み込まれ、毎日チャットの精度が上がっていくようになっています。
ただ便利で使いやすいだけではなく、チャットの精度が自動的に上がっていくような仕組みまで考えて設計されているのが素晴らしいですね。

自社のAIチャットを現場の方たちに活用してもらうための工夫

こうして開発された自社専用のAIチャットですが、実際に社内のメンバーたちに使ってもらうための工夫はなにかありますか?

私自身、自社用のチャットを導入したというお話はたまに聞くのですが、「環境は用意したけど誰も使ってくれない」というお悩みをよく耳にします。「MJS BOT」は現場の皆さんにもかなり積極的に使ってもらっている印象ですが、社内での周知など、どんな工夫をしたか教えていただきたいです。

もちろん私たちも、自分たちで作ってみたのは良いけれど、利用者に広まらない、ということに最初は悩みましたね。私たちは、CSC部門の責任者の方に「MJS BOT」について共感してもらって、時間をかけて説明したのが一番良かったかなと振り返っています。

特に「これをみんなが使うことで精度が上がる」、さらに「最終的にこのMJS BOTをお客様に公開して使ってもらうことができれば、自分たちのところに来る問い合わせの数も減らせる」という点は、しっかり強調して伝えました。なので、利用することを強制はしないけれど、できるだけ使って、フィードバックを入れたり、ナレッジを投稿してほしいと皆さんに協力をお願いしました。
やはり地道な周知が必要なんですね。開発への想いが、現場の皆さんに伝わったのも素晴らしいです。
「MJS BOT」をリリースして一ヶ月頃にアンケートを取ったのですが、思った以上にポジティブな意見が多くて安心しました。「生成AIでこんなことができるなんて知らなかった!」「今までの対応スピードが上がりました!」などなど……。

実際にやってみて分かったことは、初めて使ってみたときに効果を感じた人は、その後もずっと使い続けてくれるということです。逆に、初めて使ったときに間違った回答を返されたり、思ったような回答じゃなかったりした人は「やっぱり信じられない」と使わなくなったり。これは仕方ないかもしれないですね。

とはいえ、利用後のアンケートの結果では、全体の6割以上の方は「非常に満足している」とポジティブな意見でした。「MJS BOT」は部門内で段階的にリリースしていますが、実際、約半年で2万件以上の利用があったことも分かっています
約半年で2万件…! それはかなり大きな数字ですね。

全社での展開も視野に。「MJS BOT」今後の展開

若手社員を中心としたワーキンググループで誕生した「MJS BOT」ですが、今後はどのような発展や展開を想定されていますか?
全体的なところでお話をすると、いま課題が大きく2つあって、まず一つ目は、回答の精度を向上させること。そしてもう一つは、回答のスピードを上げること。今は返答が返ってくるまでに10秒ほどかかっているので、それをいかに早くさせるのか追求したいと思っています。

「MJS BOT」自体、ゆくゆくは弊社製品の利用者であるお客様に公開できればと考えているので、精度と速度、この2点はすごく重要なんです。
誰が使ってもストレスがないものにするには、欠かせないポイントですね。精度を上げるために工夫していることはありますか?
自分が答えを知っている質問を入力してみて、その回答を確認したり、先ほどの話にも出てきた「Power BI」で、質問者からのフィードバックを見える化して分析したりすることでしょうか。
あとは「MJS BOT」を使い始めたことで、ユーザーからの問い合わせに対して一番よく引用されている資料は「よくある質問(FAQ)だった」ということも分かったんです。その内容をCSCの方にフィードバックしたところ、FAQの更新方法を変えていくことになったようで。

これまではかなり時間をかけてチェックした上でFAQを更新していたようなのですが、それよりもスピード重視でどんどん新しい情報を入力していこうと、運用のスタイルが少し変わったという話を聞きました。

おお〜、なるほど。「MJS BOT」を利用することで明らかになったデータが現場に反映されているんですね。それは素晴らしいです。
シンプルな単語で表現すると、やっぱりモニタリングの強化と、継続的な精度の向上ですね。ただ「作って終わり」ではなく、「Power BI」の分析をより強化したり、逆に古いデータをしっかり削除していくことも重要だと考えています。
データを削除するのも重要、というのは、実際に運用してみたからこそ分かる発見かもしれないですね。
あとは機能的な話ですが、今の「MJS BOT」は一問一答形式なので、インターフェイスとして「スレッド形式」にできたらと思っています。XやThreadsに近いかたちで、スレッド形式で会話が連続して表示されるようなUIを目指したいです。

チャット形式が良い! という声もあったのですが、カスタマーサポートというカテゴリにはスレッド形式のほうが合っているように感じているので。
ほかにも、開発者からのナレッジを「MJS BOT」の画面上で投稿できるようにしたり、生成AIを多段活用して、話題の「AIエージェント」化したり……。まだまだできることはたくさんあると思っています。

全体的な展開としてはどうでしょうか?
現在は本社のCSCでの利用がメインですが、支社にいるカスタマーサポートなど、段階的に全社向けに展開していきたいと思っています。

また、今後は開発チーム内にも「MJS BOT」を公開して、新しく入ってきた社員がシステムについてわからないときに、先輩に都度聞くのではなく、チャットで検索して製品について理解したり、トラブルの対処方法などを学べるようにできたらいいなと。人材育成や研修といった面でも有効に活用できるかなと思っています。
まだまだ野望は尽きないですね……!
とても興味深いお話を色々とお聞かせいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。