2024年9月10日

「変わる」を「変わった」に変えていく。意志ある中小企業のDX化にコミット IT顧問化協会(eCIO)の取り組みから考察するDX成否の分け目

アナログをデジタルに変えるだけでなく、そのプロセス、社員の思考やマインドまで、DXには企業を次のステージに引き上げるポテンシャルがあります。そんなやる気と勇気までも引き出すIT顧問化協会 本間卓哉さんの取り組みに、アステリアCEO平野が迫ります。


あらゆる情報がクラウドでつながる時代、ビジネスはもちろん生活の中でもデジタルの便利さを感じるシーンはますます多くなりました。しかし、日本の産業を支える中小企業の中には「大胆な投資ができない」「社内に推進役がいない」のように課題を抱えるところも。こうした悩める企業に寄り添い導く存在となる『IT顧問』を輩出しようと活動するのが、一般社団法人 IT顧問化協会(eCIO)代表理事 本間卓哉氏です。

「日本の中小企業のDX」をテーマに、DXの実践と課題、さらにはテクノロジーの展望まで、アステリア株式会社 代表取締役社長CEO平野洋一郎がとくと話を伺いました。

一般社団法人 IT顧問化協会(eCIO)代表理事
本間卓哉(ほんま・たくや)氏
1981年秋田県生まれ。株式会社IT経営ワークスなど、Good Smile Groupとして9つの会社を経営している。適切なITツールの選定から導入・サポート、ウェブマーケティング支援までを担うITの総合専門機関として、「IT顧問サービス」を主軸に、数多くの企業で業務効率化と売り上げアップを実現。2015年に「一般社団法人IT顧問化協会」を発足し、代表理事を務める。同協会では主に専門家向けに「業務DX推進士」の認定を行っている。
主な著書に『全社員生産性10倍計画』、『売上が上がるバックオフィス最適化マップ』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

伴走型の支援体制で、中小企業のDX化を応援

まずは団体の名称であるIT顧問化協会ですが、「化」とあるのは珍しいですよね。
そこに注目していただいたのは初めてなので、嬉しいです。この「化」には、企業のIT活用を支援できる専門家のネットワークをつくりたいという思いが込められています。
なるほど。広がりを意識されているんですね。
そうなんです。私は2010年に株式会社IT経営ワークスを立ち上げ、事業の一つとしてIT顧問サービスをスタートしました。当時はクラウドが出始めたころで、これからはその活用に課題感を持つ企業がいっぱい出てくると考えたからです。

ただ、ITやクラウドについて指南できる人が少ないことも同時に懸念していました。特に私が支援する中小の企業様は社内にIT人材がいないケースが多いことから、一社に深く関わるよりも、多く広く支援がしたい。コンサルティングのようにアドバイスで終わるのではなく、利益につながるようにお役に立ちたいと思ったのです。
それで「顧問」なんですね。
ええ、ITコンサルを肩書とする人はごまんといますが、顧問となるとなかなか見かけません。なぜなら、それだけ責任が問われるからです。実際、2010年当時はIT業界で名乗る人はほぼ皆無でした。

これが出発点で、その次に『eCIO認定制度』をつくりました。この「e」は、external(エクスターナル:外部の、外側の)の頭文字です。

顧問として外から支援を行う役割、ということですね。あとは、『業務DX推進士』の認定制度もありますが。
こちらも同じような役割です。コロナを機にDXの推進が社会的に重要視されるようになりましたが、多くの企業は内製で取り組むことが難しく、外部の支援を求める必要にかられました。そこで協会はDXを進めるためのフレームワークをテキスト化し、スキルに不安を持つ企業の担当者への頒布を始めました。

これを知識としてインプットしていただいたうえで試験を受け、パスされた方を『業務DX推進士』として認定しています。
どなたでも受験できるんですか。
できます。しかしながら、会社にどのような機能があるのか理解できるくらいの知識がないとイメージがつかないかもしれませんね。
実際、どういう属性の方が取得されていますか。
たとえば、社内でDX推進を担われる方や支援側として、中小企業診断士の方は企業支援の一つの手段として、ITベンダーの方は中立的な立場でお客さまを支援したい思いで、取得されるケースがあります。これは『業務DX推進士 Expert』というもう一つ上の資格取得となります。また、最近は独立された方も多いですね。

ただ、ビジネスモデルの確立に頭を悩ませている方もいらっしゃるので、私たちの経験や実績をもとにアドバイスもしています。
こうしたフォローがあると、独立された方も分かりやすく安心ですね。
ちなみに、僕らが『業務DX推進士』の資格取得を一番にお勧めしたいのは、実は総務部門(コーポレート部門)の方なんです。
おや、それはなぜですか。
総務は会社のあらゆる情報をつかさどる部門だからです。一見、コストセンターに見られがちですが、“データを扱える総務”になると、とても重宝されるようになります。
なるほど。変えていきたい思いがあっても変え方がわからない場合に、その道筋をつくれる資格取得を通じた学びは最適なんですね。

そうですね。なお、テクノロジーは日進月歩しているため、『業務DX推進士』は2年更新です。変化や進化を追うのが好きな人には、うってつけの資格だと思います。
ちなみに、顧問は今どのぐらいいらっしゃるんですか。
登録者は100名ぐらいですが、1,000人は欲しいですね。すると、より協会らしくもなり、国に対しても一定の影響力を持つことができます。依頼も引く手あまたなので、若手の方をはじめ多くの方に挑戦していただきたいです。
経済産業省は、2030年にIT人材が最大で79万人不足すると試算しています。これを踏まえると1万人いてもいいかもしれませんね。加えて、国の取り組みに『ITコーディネータ資格』がありますが、こことの違いはどういうところでしょうか。
こちらは国からの依頼という形で、補助金や助成金を原資に相談員として企業の業務効率化を支援するケースが多いと理解しています。一方、私たちがコミットしているのは、業績アップです。そのためのIT活用であり、効率化や生産性向上の支援です。企業の伴走者になって現場を理解し、人も育てながら、業務をITでつないでいく点が大きな違いになります。
この役割を担う人が増えると、いろいろな企業が助かりますね。

DX成功の要諦は「逆算」して「つなげる」こと

先ほどテキストの話が出ましたが、企業の数だけ課題があると考えると、まとめるのは大変だったでしょう。
とても大変でした。ただ、共通項があってですね、たとえば先ほどの総務のようなバックオフィス業務——人事労務、勤怠管理、経費精算は、どの企業にもある機能なので、これらを取り上げ、どのような概念でつなげばよいのかをお伝えしています。
「つなぐ」ですか!私たちも、自分たちを“つなぐエキスパート”として打ち出しているので、つい反応してしまいました。
DXって僕の中では「つながる」なんですよね。たとえば、中小企業の多くが業務にExcelを駆使していますが、これでは業務のDX化は難しいと感じています。

そこで、脱Excelです。となると、数あるクラウドツールの中からその会社にあったプロダクトを選び、元のデータとつなぐ必要があります。そこをどのような概念で実行するのかをとらえていく必要のある時代だな、と思っています。

具体的に、どういう概念で進めるのですか。
たとえば、営業職の新規採用が決まると、労務管理システムに従業員マスタを設定します。勤務が始まると勤怠管理や給与計算が必要になり、経費精算も発生します。商談を経て契約が決まれば、開発費やソフトウェアの利用料金がお客さんから支払われます。こうした人やお金の動きは、最終的に会計に集約されますよね。

ですので、会計から逆算してつないでいくのが僕たちのアプローチです
そのような考え方や実践方法がテキストに掲載されているんですね。そのうえで、たとえば、会計にExcelを使っている会社なら、会計ソフトを入れると思うんですが、どれがよいのか迷ってしまいますよね。
そうですよね。
ですから、私たちも選定に加わります。私たちの一番の強みは、中立的視点で各プロダクトを評価し、企業の立場で本当に必要なものを導入できることです。ですから、導入前のテストも一緒に行いますし、「これなら大丈夫ですね」と、太鼓判も押すので失敗することがありません。
それはやはり、顧問だからなせる業ですか。
コンサルタントでもできることかもしれませんが、私たちはあくまでも「伴走型」のスタンスを貫いています。
なるほど。レコメンドして終わるのではなく、寄り添う形ですね。実際、私どもが提供するデータ連携ツール「ASTERIA Warp」でつながるサービスは直接のアダプターだけでも100以上もありますが、最近のアダプターはサードパーティーの方々です。新しいクラウドもどんどん出てきていますが、こうしたサービスが増えれば増えるほど私たちのつなぐ価値はどんどん高まると思います。

「変える」という強い意志表示と、小さな成功体験が社内を変える

本間さんは企業のDX支援に長く携われていますが、うまくいったケースに共通することは何でしょうか。
一番は経営者が「変える」と意志表示していることです。こうした経営者は、私たちとの会議に必ず出席されますし、「こうしてくれ、ああしてくれ」と言われることもなく、私たちの話にしっかり耳を傾けてくださいます。なお、私たちの場合、社内に専門チームを設けていただくのですが、こうした動きもまた変える意志を周知する大きなポイントになります。実務担当者に、この思いの強い方を据えることもうまく進めるカギです。
この条件が揃わずうまく進まない場合には、どのようなアプローチをされていますか。
実は、初顔合わせの日は大体、敵対視されています。というのも、現場の方は変えたいと思っていませんから。
そうですよね。「自分の仕事が無くなるかもしれない」って身構えてしまいますよね。
ですので、いきなりデジタル活用云々を唱えても、みんな疲弊してしまうので、まずはグリップを握ります。そこから少しずつ成功体験を積んでいただくんです。
なるほど。どのように進めていくんですか。
たとえば、「Excelで管理している数字がすごく多いんです」という話が出てきたら、「でしたら、これらをデータベース化しませんか?」と提案します。このとき、「でも、難しいんでしょ? 使ったことないし」のような反応があるんですが、ここで一部のデータを業務改善アプリに載せ替えて見ていただくんです。すると、「集計ってこんなに簡単なの!」「こういうアプリって簡単につくれるんだね!」のような反応に変わるんです。

いきなり全部ではなく、少しを変えて心理的障壁を低くするんですね。
まずは現場の方に「このように変えたら、いいよね。楽だよね。楽しいよね」を体験していただく。そこから少しずつ歩み寄る。すると、「あれもしたい、これもしたい」と要望が出てきます。

このように、「自分でもできた」を感じられる体験をたくさん提供して社内に変化を起こし、変わり続ける大切さを実感していただくことが、私たちの使命なのかもしれません

あらゆる発想の転換で変化と柔軟に向き合う

日本のデジタル競争力は、国際的に低い位置で甘んじていますよね。力を付けていくにはどうすればよいと考えていますか。
日本の業務システムは、オンプレミスから来ています。一括で投資し、そこから償却する。そんな時代がずっと続いてきました。ただ、現代はクラウドサービスをサブスクリプションで利用するのが世界的に見ても主流です。ここ10年でだいぶ変わってきてはいますが、オンプレミスからクラウドへの転換が、まず必要ではないでしょうか。
クラウドサービスが台頭してきたことによって、中小企業も導入しやすくなりましたよね。
ただ、普及にともないワンライセンスの単価も上がってきました。これが次の障壁にならなければよいのですが。

ちなみに、オンプレミスとサブスクでは財務諸表の載り方が変わってくることもあって、サブスクに対する投資の概念がまだ弱いと感じます。とはいえ、オンプレミスの場合、「事業形態の変更にともない仕様を変更しようと思ったら百万円単位でコストがかかる」のような話はよくあります。これだと大変です。
クラウドのほうが変化に適応しやすいですよね。
そうですよね。
ですから、経費のかけ方にも新しい発想を持って変わり続ける会社になる必要があります。IT投資はコストと捉えがちですが、日本の労働人口は減少していくので、これからはシステムやロボットをいかに活用するのかを考えなければなりません。ITに投資し、私たちはヒトにしかできない仕事に注力していかないことには、いずれ立ち行かなくなります。

国際競争力を付けていけるのか否かは、こうした発想のできる企業や経営者が増えていくかどうかに、かかっているということですね。

AIが活躍する未来を見据えた取り組みでビジネスシーンをリードしていく

DXと一口に言っても、新しいクラウドもありますし、最近だと生成AI、ブロックチェーンなど新しい技術も出てきています。中小企業が特に注目しているテクノロジーはありますか。
やはり、AIですね。その破壊力はすさまじく、僕らの業務領域でもものすごく大きな変革が起こると感じています。なかでも生成AIがシステムに組み込まれていくと、業務効率は格段に上がります。たとえば、クラウド会計システムとGPTを連携させれば、「何々に関する数字をまとめて」とプロンプトで指示するだけで、瞬時に情報が出せるようになりました。

それから、バックオフィス業務はいろいろなものが複雑に連動しているぶん、ちょっとエラーが起こるとすぐつながらなくなってしまいますが、生成AIならつながっていない理由は何かを自動で察して、修復してくれる。そんな時代も近いと思います。
生成AIはテキストや表だけじゃなく、画像や映像もつくれます。これらも業務DXに役立てられそうですね。

これは僕の構想というか妄想ですが、数年後には本間卓哉のAIもできているんじゃないかと。
なるほど! 『AI YURIKO』みたいな。すると、“IT顧問化1万人計画”も補えそうですね。
可能性は十分ありますよね。
『AI HOMMA』ができると、本間はどういうときに怒りやすいのか、または笑うのか、そういった感情も加味した立ち振る舞いができるようになるはずです。あくまでも妄想ですが、実際に研究しているスタートアップも存在するので、これができたら経営者の生産性は一段と上がると思います。
確かに。それは面白いですし、そんな遠くない未来に実現しそうですよね。そういう時代と今をどうやってつないでいくのかが、また一つポイントになりますね。その点、一歩前を走って知見を広げようとする本間さんのような存在は、国際的なデジタル競争で後れを取る日本にとっても心強いことだと思います。

そして、今日は「つなぐ」大切さを改めて感じました。
私たちアステリアも、あらゆる「つなぐ」ニーズにお応えしていますが、会計から逆引きする考え方は、とても新鮮でした。私たちも本間さんとともに、あらゆる企業がDXでさらなる成長に向かえる道筋をつくりたいと思います。未来の話まで聞くことができて大変楽しかったです。

今日はありがとうございました。

★本インタビューの様子をダイジェストにまとめた動画が、アステリアの公式YouTubeチャンネルにて公開中です。

関連リンク

・IT顧問化協会(eCIO) https://ecio.jp/

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。