2024年7月26日

日本の中小企業のDXを一歩先へ進めたい!「アステリア軽井沢会」3人が語る、現場主導のDX

アステリアの地域共創エバンジェリストである松浦真弓が指揮をとり、同社の軽井沢リゾートオフィスにて開催するトークイベント、通称「軽井沢会」。記念すべき初回は、旭鉄工の木村哲也さん、富士通シニアエバンジェリストの松本国一さんとともに、”日本のDX” をテーマにクロストークを行いました。3人が語る「現場主導のDX」とは?


アステリアの地域共創エバンジェリストである松浦真弓が指揮をとり、同社の軽井沢リゾートオフィスにて開催するトークイベント、通称「アステリア軽井沢会」。さまざまな業界でDXを推進されている方をゲストに招きクロストークを展開します。

記念すべき初回は、旭鉄工の木村哲也氏、富士通シニアエバンジェリストの松本国一氏と考える、現場主導で実現するDXとは? DXを本気で実践、リードしてきたメンバーだからこそ語られた本音、ぜひ最後までご覧ください。

登壇者プロフィール

木村哲也(きむら・てつや)氏| 旭鉄工株式会社 代表取締役社長

1992年東京大学大学院工学系修士修了、トヨタ自動車に21年勤務。主に車両運動性能の開発に従事後、生産調査室でトヨタ生産方式を学び2013年旭鉄工に転籍。製造現場はもちろん、経理、営業でもIoTデータを活用する体制を構築し収益を年10億円上乗せ。また、電力消費量は42%、ガス消費量は21%節減している。「IoTは入れただけでは意味が無い」とIoTモニタリング、データ分析、カイゼン指導までトータルで生産性向上を実現するKaaS(Kaizen as a Service)を全国展開中。これまで数百回の講演、100社以上のカイゼン指導実績あり。著書に『付加価値ファースト 〜常識を壊す旭鉄工の経営~ 』がある。

松本国一(まつもと・くにかず)氏|富士通シニアエバンジェリスト

IT全般、働き方改革分野を得意分野とし、年間250回を超える全国各地での講演活動や年間200社を超える働き方改革相談を通じ、IT全般の活用やデザインシンキング・ワークショップを用いた各企業・団体での働き方改革・DX支援活動を実践。 様々なメディア、業界紙への執筆なども務めている。

松浦真弓(まつうら・まゆみ)|アステリア株式会社 地域共創エバンジェリスト

半導体商社でのフィールドエンジニアを経て、IT企業にて、製品企画、マーケティング、ビジネスコミュティ構築などに携わる。2018年9月よりアステリア株式会社に入社し、マーケティングに従事。現在は、社長付 地域共創エバンジェリストとして、DX、ノーコード、モバイル・クラウド活用、地域創生、働き方改革などの分野で、各地での講演活動を行っている。

「日本企業がDXに遅れをとった理由」を考えよう

さあいよいよ始まりました、アステリア軽井沢会。木村さん、松本さん、今日はよろしくお願いします。さっそく本題ですが、私がまずお二人にお伺いしたい質問は「なぜ日本のDXは遅れているのか?」です。松本さんはどのように見ていますか?
振り返ってみると、日本では2018年に「DXレポート」というものが発行され、そこで初めて “デジタルトランスフォーメーション” という言葉や、今ここに取り組まなければならないということが公式に発表されました。しかし、グローバルで見ると「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉自体は2003年頃に誕生しています。つまり日本は約15年遅れでこの言葉を知ったということなんです。

この15年の間に、世界でDXは当たり前のものになり、デジタルを使ってどんどんやりたいことを実現していました。ところが日本はどちらかというと “手段” にこだわりすぎて、なかなか動きが遅かったんですね。
「とりあえずデジタル技術を導入すれば何らかの目的が達成できるんじゃないか」と。そんな風に受け取った人も多かったのではないでしょうか。大事なのは「そもそも何を達成するためにデジタルを使うのか? 」ということなんですけどね。
そうなんです。場合によってはデジタル技術を使わなくてもいいわけですから。目的が達成できるのであれば、やり方を少し変えるだけでも良いですよね。

その結果、実態として、2018年から約6年かけて一体どのくらいの企業がDXに成功しているのか? データで見ると、たったの16%なんです。DXレポートが発表された2018年からの約6年間、多くの日本企業が一生懸命このテーマに取り組んできたことを考えると、少し残念な数字ですよね。
同感です。企業の方とDXについて語るとき「うちはDXがとても進んでいます!」と自信を持って語る方って、ほとんどいないように感じますね。

核となるのは「デジタル」ではなく「トランスフォーメーション」

お話を伺っていると、重要なのはデジタルではなく「トランスフォーメーション」の方だと感じます。もちろんデジタルを活用することで、より効率的で新しいことができるという見方もあるんですが。

”どうすればトランスフォーメーションできるのか?” という話で思い出したんですが、現在は大多数の人がスマートフォンを使っていますが、十年ぐらい前までは、業務の中で自分のスマートフォンを使うなんて、わりと抵抗があったはずなんですよ。ところが今は真逆。若い世代の人たちが「パソコンでやるのはちょっと面倒です」「スマホのほうがいいです」となりますよね。

そういったことを考えると、もう既に皆が手にしているモノや技術を使って「これをどう活用すればトランスフォーメーションできるのか?」ということを考えていく段階にきてるんじゃないかな、と思います。
やりたいことや実現したいことが、自分のスマホの中に実装されていますし、普段からプライベートのさまざまなことをスマホで効率化している時代ですからね。その享受を受けているからこそ、なぜ業務に使わないのか? という話になるのも納得です。

木村さんの会社では、どのようにスマートフォンを活用されていますか?
僕の会社では、例えば現場の巡視。現場を巡回して「こういうところが危ない」といった気づきがあれば、みんながスマホで写真を撮ってコメントを上げるようになりました。これまでは紙に記載して提出していましたが、スマホの方が圧倒的に効率的だし、全体への共有もスピーディーです。

「こういうところが危険だ」って、紙に書いても分かりにくいんですが、写真だったら一発で理解できますから。
それってつまり、自分たちの ”伝える” っていう目的を達成するためにデジタルを活用しているわけですよ。DXなんですよね、ある意味。
そうですね。僕はDXっていうのは「デジタルで楽(ラク)をすることだ」と思っていて。楽になる方法としては、いきなり大がかりなことを考えなくてもいいんです。小さなことから「デジタルでこんなに楽になった!」ということに慣れていけば、だんだんと大きなことができるようになるんですよ。
大きい企業ほど、中期計画の中にDXのための大きな予算を取って、投資して、3〜5カ年計画でどうなっていくのか? と考えるケースも多いんですよね。大きな予算がプールとしてあるのは良いのですが、DXのやり方としてはあまり正しくないのかな、と感じます。

例えばさっきの木村さんの話のように、現場の人たちが「こんなふうに変わったら嬉しいよね」と議論して、紙ベースではなく、カメラでの報告ができる仕組みを作ってみる。結果的に自分たちがどれだけ楽になったのか? というのを体験してみる。

大して楽にならないならやめればいいし、楽になったなら続ければいい。そういったトライアンドエラーをどんどん回して、予算を切り崩していくっていうやり方をしたほうが、DXはうまくいくと思うんですよね。

カイゼンのための ”見える化” と、生成AIの活用

木村さんには、以前 in. LIVE で「見える化とカイゼン」をテーマにインタビューをさせていただきました。そこでもお話しいただきましたが、やっぱりカイゼンの第一歩は問題の見える化だと。

カーボンニュートラルは「見える化とカイゼン」で推進。老舗自動車部品メーカー 旭鉄工発のIoT活用方法とは【前編】

そうですね。当社の場合、DXに取り掛かる際、まずは徹底して、問題の見える化を行いました。自社の製造ラインがどれだけ止まっているのか、サイクルタイムがどれだけ遅れているのか…。もちろん数値を出しただけでは終わらせず、これまでは1時間に100個つくっていた部品を、1時間に120個つくることができるようにすることで、現場の社員の残業をなくす、といったカイゼン活動をしてきました。
そもそも見えていない問題は解決できないですもんね。今はこれが問題だ、という認識をみんなで持つこと。そのための見える化ですよね。
おっしゃる通り。僕はいつも「見えない問題は直らない」と話しています。いろいろな会社の社長とお話しすると「うちはそんなに効率悪くないです」って皆さんおっしゃるんです。だけど実際に測ってみると、製造ラインが50%も動いていなかった、なんてことはよくありますよ。

それから、カイゼンに使える事例やデータって、実は各企業で、紙ベースで保管されていたりするんですよね。特定の人は持っているけれど、簡単に誰もがアクセスできないし、現場で共有するのも難しい。だけどこれがデジタルとしてデータが溜まっていけば、生成AIが「カイゼン活動の手法として使えるデータ」をピックアップできるようになると思いませんか?
なるほど。ここで生成AIの活用、という話に繋がってきますね。
皆さんの想像どおり、生成AIの活用によって、データが簡単にためられるようになることに加えて、読み解くスピードが上がります。そうすることで、カイゼンのスピードも、そして人材育成のスピードも速くなるはずですよ。カイゼンした効果が見えると、現場の人たちはどんどん楽しくなって、またカイゼンできることを探す。

「こんなに良くなったんだ」っていう発見や実感は、非常にモチベーションになるんですよね。

「DX人材」育成の救世主にもなり得る、ノーコードツール

面白くなってきましたね。先ほど木村さんがおっしゃった「人材育成」というところは、かなり大きなポイントだと思っています。さまざまな業界で「DX人材不足」という声が聞こえていますが、企業の中で一番多くを占めている人材って誰なのか。それは経営者でもないし、IT人材でもないし、やっぱり現場の人たち。

だからこそ、DXを進める中でも、その現場の人たちにどうやって無理なくDXを進めてもらうか? ということが大事です。その環境を整えるというのが経営者の役割ですし、できるようにしていく、チャレンジをする風土を作る。これは会社、ひいては経営者の役割なのでは、と考えています。
そうですよね。トランスフォーメーションって、つまりは変革です。変革のためにできることを考えられる人は、やっぱり当事者、つまり現場の人しかいないと思うんですよね。松浦さんがおっしゃるとおり、DX人材がエンジニアである必要はないです。プログラミングができることよりも重要な能力は、物事を分解して理解する力。

現場ごとにやりたいことが違う中で、そのやりたいことを実現するために、どういうふうに物事を分解するか? を、現場の人たちも考えられるようになる必要があります。
現場の方っていうのは、その現場の職務のプロですからね。その現場の課題というのも熟知しているわけで、だからこそその人たちが、日曜大工みたいに自分でアプリなり何なりを組み立てたりね。

アステリアが提供しているノーコードツール「Platio」を活用すれば、現場で使えるアプリが簡単に作成できます。もちろんいきなり100%のアプリができるということはまずないです。まずは現場で使ってみて、より使いやすくするための意見を集めて、さらにブラッシュアップさせて…と。これこそが現場主導のDXだな、と私は考えています。
うちの会社でも、みんなどんどんカイゼン提案やプレゼンテーションが上達していますよ。「こういうふうに計算したらできました」「こういうデータが取れました」とか。
そう考えると、やっぱり経営者の方が、現場の人たちに「やってみなよ」って権限を渡してあげる。チャレンジの機会を与えてあげることが大事ですね。

正直、DXに取り組んで失敗することなんてよくある話だし、やってみないと分からないことも沢山あります。でもその経験がまた次の経験を生むじゃないですか。上司の方や経営トップの方が「なんで失敗したんだ!」なんて言わないようにしてほしいなって。
私も、絶対にそういったことは言わないですね。失敗したのはいいから「じゃあ次何ができるか」って言うようにしています。まあ自分自身も失敗することはたくさんありますし(笑)、あんまり気にしないですね。
そうそう。経営者の方の役割っていうのは、現場の方たちがDXを進めたい、チャレンジしたい、となったときにしっかり支援することですね。チャレンジする人を応援する風土づくりはやっぱり大事なんだなと改めて感じました。
もちろん上下の関係だけではなく、横の部門の人たちもそうだと思います。部門同士での情報共有がうまくできていないとDXは進まないんです。「今はこういう状態なんだな」と互いに認識しあって、情報を取り込みながら進めていけるような環境が理想的ですね。

現場主導のDX、最初の一歩を踏み出す勇気

先ほどの話に戻りますが、ノーコードツールだと、ある意味ゲーム感覚でサクッと作って、それを現場で試せる良さがありますよね。
そうですね。例えば私が「こんなアプリを作ってみました」って皆さんに見てもらったり、現場に持ち帰っていただいて必要な機能を自社用にアレンジして追加していただいたり。

これまでプログラミングやアプリ開発といえば、プログラマーだけのものでしたが、ノーコードツールやIoTは違います。大げさかも知れませんが、これって「デジタルの民主化」みたいなものなんじゃないかと思っていて。なので、悩まれている皆さんは、ぜひまずはチャレンジしていただきたいなと。
そうですね。DXにおいては、「まず一歩目を踏み出す」ってすごく重要です。トランスフォーメーションのための一歩を踏み出す。その勇気を、現場の方々だけではなく、経営層が持つこと。

なんとなくデジタルって遠い世界の話で、誰かが構築して自分たちに与えてくれるインフラ、みたいに思われがちなんですが、今日の木村さんのお話みたいに、自分たちが楽になるために何が必要なのかを考えて、変えていくことを現場のみんなとやっていくこと。そうすることで結果的には、会社の業績も上がって、経営層も現場もみんながハッピーなはずなんですよね。
そうそう。さっき松本さんおっしゃったように、ダメだったらやめればいい(笑)。
失敗することでモチベーションが下がっていくんじゃないかと認識されることも多いんですけど、そもそも失敗がなければ、成功に導くこともできません。将来の成功を見越して、自分たちがいまどんな経験をするべきか? というところが、DXのポイントになると思いますよ。
いやあ、盛り上がりましたね。色々な発見がありましたし、このディスカッションをヒントに、さまざまな業界で「楽になるための小さな一歩」が踏み出されることを祈るばかりです。

改めまして、木村さん、松本さん、本日はありがとうございました!

本イベントは、アステリア株式会社の軽井沢リゾートオフィスにて開催されました

日本企業のDX推進を本気で考える「アステリア軽井沢会」。今後もさまざまなゲストをお招きしながらトークを展開していく予定です。今後の活動もどうぞお楽しみに!

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この記事を書いた人
in.LIVE 編集部 アステリア株式会社が運営するオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」の編集部です。”人を感じるテクノロジー”をテーマに、最新の技術の裏側を様々な切り口でご紹介します。