2025年7月10日

フィジカルAIで製造・物流業界を席巻! ネクストユニコーン企業Mujin滝野CEOが語る、これからのロボットベンチャーの戦い方

独自の統合自動化プラットフォームで物流や製造現場の自動化DXに大きな変革を起こしている株式会社Mujin。その成長の要因とは、次なる戦略とは――。アステリア代表平野洋一郎が切り込みます。


品質管理に生産性の向上、コスト削減、さらには深刻な人手不足や熟練技術の継承問題など枚挙にいとまのない製造・物流業界の課題に、先進技術『フィジカルAI』によるデジタルツイン技術でアプローチする 株式会社Mujin

同社は人手に頼っていた複雑な作業を、事前のプログラミングを必要としない知能ロボットによって自動化し、個別の作業を単に自動化するだけでなく、現場データの見える化を叶える統合自動化プラットフォームでビジネスモデルを根底から変革。現場の課題解決に貢献することで、製造・物流の未来を切り拓いています。

今回のin.LIVEでは、株式会社Mujin CEO 兼 共同創業者である滝野一征氏にお話を伺います。Mujin創業の経緯や、その急成長を支える要因、ロボットベンチャーとしての独自の戦い方まで、普段聞けない話が盛りだくさん。さらには、先進国の製造・物流業界が直面している課題も深く掘り下げています。

『フィジカルAI』で、業界の視線を一心に集める滝野氏の、思考の深淵を覗き込むような、示唆に富んだ対談をぜひお楽しみください。聞き手は、アステリア代表 平野洋一郎です。

滝野 一征(たきの・いっせい)氏|株式会社Mujin CEO 兼 共同創業者
製造業の中でも世界最高の利益水準を誇る超硬切削工具メーカー、イスカル社の日本支社で、生産方法を提案する技術営業として活躍。営業成績1位となるなど輝かしい実績を残す。その後、ロボットの知能化により世界の生産性向上に貢献したいという想いを胸に、2011年にデアンコウ・ロセン博士とMujinを設立。

Mujinのはじまり。「ロボットを知能化できるソフトをつくる」

今日はよろしくお願いします。まずは滝野さんの経歴からお聞かせください。
私はアメリカの大学で学び、卒業後は外資系金融機関に就職する予定でした。なんですが、私はウォーレン・バフェットが大好きで。当時、彼が買収することを決めた製造会社に興味を持ち、方向転換をして、そちらの会社に就職しました。ここでセールスエンジニアとしてキャリアをスタートし、1年目に新人賞を獲得、3年目には日本No.1のセーラーとなり、当時、最年少でセールスのプロダクトマネジャーに昇格しました。

この会社は20%成長を20年も続けていて、社員は1万人ほど。本当に優秀な人ばかりで、あらゆることを勉強させてもらったと感じています。その後に退職して、2011年にMujinを設立し、いまに至ります。
共同創業者である世界的ロボット工学者のロセン博士(デアンコウ・ロセン氏)とは、どうやって出会ったのですか?
出会ったのは前職のときです。当時、彼はロボットのオープンソースとして知られるROS(Robot Operating System)をつくったウィローガレージで働いていました。このROSはいまも多くの研究者が使うシステムで、日本にも広めようと2009年に開催された『国際ロボット展』に参加したんです。このウィローガレージでは私の大学の先輩も働いていて、「ちょっと手伝いにきてくれ」と呼ばれて行った先にロセンがいたんですよ。

当時はそれっきりでしたが、一年後「東京大学の特別研究員として来日することになった」と連絡があり、その後も折につけ呼び出されては、彼の研究分野に関する話を聞かされたり、相談を受けたりと関係が続きました。

何がきっかけで一緒に創業することになったんですか?
皆さん「ロボット」と聞くと、勝手に動いてくれる気がしませんか?
でも、全然そんなことはないですよね。すべてプログラミングが必要ですし、動作が1ミリでもずれたら全部やり直し。それだけロボットのプログラミングは大変で、お金もかなりかかります。ロボット自体は高くても1台300万~400万円ですが、ロボットシステムとなると、3000万円以上もするんですよ。なぜなら、プログラミングやセンサーを搭載できるエンジニアの人件費がかかるからです。

“ロボットを自動化するには莫大なお金と時間がかかる” と、そんな話をロセンから聞いたとき、ソフトウェア技術で自動化できれば、もっと安く簡単に、ロボットの自動化ができるんじゃないか? という仮説が立ちました。そして、それを実現できる技術をロセンが持っているのなら、製造業や物流業の方々もみんなが助かります。「その世界を一緒に目指そう」と、二人で創業を決めました。

Mujinの何がすごい? 世界が刮目する技術とは

僕らの行う事業は、現実世界でハード製品も扱うような、それまでのロボットのインテグレーションよりもずっと複雑なものです。
ソフトウェアを組むことも動かすこともできるエンジン、ですよね。
そうです。バーチャルで考えたことをリアルな世界で動かせるもので、『フィジカルAI』と呼ばれています

同じ「AI」でも、バーチャルで完結するものは失敗のコストが低く、お客様にも「徐々に良くなりますよ」と言えるのですが、フィジカルAIは自動運転やロボットなど現実世界で物理的に動かすものなので、絶対に失敗が許されません。
自動運転でミスが起これば、人命にかかわりますからね。
はい。そこで必要になるのが、デジタルツインの技術です。
これは「誤差があればセンシングによって修正し、それをデジタルに戻して計算してまたリアルに反映する」という作業を1秒間に何万回と行うものですが、このバーチャルとリアルを合わせた技術は非常に高度で、お金も時間もかかるため、僕らのあとに続く企業はいまだ出てきていませんね。

この技術でこれまで自動化が難しかった作業の自動化が可能になる事で、大手ロボットメーカー様各社が入り込めなかった新たな市場開拓を共にできることにつながります。

製造や物流の世界にロボットでベンチャーが参入するのが難しく、大手企業も長い時間をかけてきたという背景のあるなか、御社が早期にポジションを確立できた理由はどんなところにあるのでしょうか。

一つはハードウェアベンダー様との良好な関係づくりです。
ハードウェアベンダー様は自社絶対主義なので、僕らが「御社のハードに、Mujinのソフトを入れてください」と正面からお願いしたところで聞き入れてもらえません。ですから、僕らのお客様からベンダーさんに「Mujinのシステムを、御社のロボットで使えるようにしてほしい」と言っていただくことで導入につなげていきました。

ただ、それだけだと、ベンダーさんにうまみがないので、同時にメリットも打ち出していきました。
それは、どのような?
まず、Mujinはハードを持たない、ソフトウェアの会社です。これは、ハードを持ってしまうと、ハードウェアベンダー様からは競合として見られてしまうためです。

ロボットベンチャーが育たないのはまさにそれで、ロボットをつくった瞬間に大手企業を敵に回してしまうからなんですね。その点、Mujinが提供するのはソフトであり、このソフトを使うとハードウェアの性能をより高めることができます。すると、いままで参入の難しかった分野でもロボットが売れるようになるので、ハードウェアベンダー様のロボット販売台数が純増するんです
なるほど。彼らの市場を奪うどころか、広げているんですね
当社のソフトもノーコードで使えるので、最初はSlerさんから嫌な顔をされたんですよね。だから、私たちもまずは大手のお客様に気に入ってもらい、「◯◯様に導入していただいています」と名前をお借りできて、ようやくSlerさんが付いてきてくれました。「ユーザーさんに言われるなら、しょうがなし」みたいな感じです。

このとき、インテグレーションも同時に担当していたのですが、これをずっとやっているとSlerさんを敵に回してしまうので、ある程度のところでパッと引くようにしていましたね。

僕らは、いまがまさしくそういうフェーズですね。
これまではMujinのプラットフォームをソリューションとして使って、お客様の生産ラインの一部を僕らがインテグレーションして製品を販売していましたが、最近はこれをプロダクト化してSIer企業様にご提供しています。ハードウェアベンダーさんと良い関係を築きつつあるのと同様、Slerさんとのコミュニティも徐々に広げています。

課題の本質を押さえた取り組みでビジネスを変革

そして、現在はロボットプログラムの提供から、さらに事業を広げているんですよね。
はい。最近では新たにコンサルティング事業に乗り出しています。
これは何がきっかけになったんですか?
お客様は業務の自動化にあたり、要求仕様書の用意が必要になるのですが、「どうつくればよいのか分からない」や、「自動化をしていかなければいけないが何から手を付けたらいいかわからない」という声が多かったんです。

課題をとらえるために、まずは現場のデータ収集が必要ですが、これを人の手でやってしまうと、上がってくる情報の正しさに疑問符が付いてしまいます。その上流工程でソフトウェアを設計しなければならないので、データにムラや誤りがあっては、現場が必要とするソフトにはなりません。もっというと、誤った情報をもとに動くことで、無駄な設備投資が発生してしまうんです。

なるほど。そこで、データの取得から御社が入ってやっているんですね。
はい。僕らはまず各担当の方に、オペレーションはどうなっているのか? 受発注は正しくできているのか? 在庫は適正なのか? など、いろいろな項目をヒアリングしてそれぞれを数値化し、スコアリングを行います。点数を出さないことには、その企業様の状態が分からないからです。

続いて、その結果をもとに点数が取れていない項目を分析し、新たなフローやデータベースによる可視化を行います。そして、戦略とKPIをつくり、「これを達成するために自動化しましょう」ということで、ようやく仕様やデザインに着手しています。場合によってはROIの計算もしています。
これはもう経営コンサルタントですね。
まさにそのとおりで、僕らは自動化からコンサルを始めたんですが、いまとなっては経営コンサルに近いです。というのも、生産コストが大きいほど、1%下げただけでも相当のインパクトがあります。バランスシートの中身もほとんどが在庫だったりもするので、これを適正化するには、オペレーションを人からデジタルに変えて分析可能な状態にし、そのデータを見ながら回していかなければなりません。

ですので、Mujinは現在、コンサルも自動化ソリューションも提供しています。Mujinに一気通貫してお任せいただければ、経営にも改善がみられるようになると思います。
そうなると、お客さんはほとんどが日本の企業になるんですか。
もともとは100%でしたが、いまは海外の売上が増えていますね。
そうなんですね。国内は人手不足が問題視されているので、オートメーション化を急務にする会社の多いイメージがありますが、いかがですか?
たしかに日本は急務ですが、アメリカはもっと急務です。僕らはお客様に投資回収率を計算してもらうんですが、その中でも人件費は非常に大きいです。

ちなみに、アメリカ大手の小売の倉庫で働く方の時給ってどのくらいだと思いますか? いまは34ドル、日本円でおおよそ5,000円です。つまりは、ものすごくインフレなんです。人がいなくて給料が高い部分を自動化しないことには、会社が息絶えてしまいます。 インフレーションレートも5%を超えているので、経営判断を1年先延ばししているうちに全社員の給料は最低でも5%上がってしまうんです。
課題の中身が違うんですね。
自動化の市場は世界で900兆円と膨大であり、毎年、膨れ続けています。
これは先進国の人が少なくなりつつあるのもありますし、アメリカはトランプ大統領が、「移民は入れない」「アメリカに工場をつくる」とも言っていますから、人が減ることにもなるでしょう。
自動化に追い風が吹いていますね。

日本のモノづくりを守るために。自動化のもう一つの大切な側面

そして、日本にはもう一つ懸念があるんです。
それは、いま、技術を持っている方々のノウハウがデジタライズされていないことです。いわゆる職人さんって、団塊ジュニア世代がほとんどで、おそらく数年後には、優秀な人材が第一線からリタイヤされます。

するとその先では、これまで作ることができた製品が作れなくなる世界が待っています
人から人への技術の承継は難しいですね。
承継って、あまりにも時間がかかりそうですよね。優秀な職人さんたちはその道一筋に数十年かけて技を磨いらっしゃいますが、いまの時代、同じ会社にずっと勤め続ける若者はほぼいないので、なかなか難しいのではないでしょうか。
職人さんの後ろについて技を見て、それをロジック化してデジタルに落とし、オートメーション化していくことが、これからの一番の課題になりそうですね。
はい。自動化とは人は減らすだけでなく、人を補完しながら知識をデジタル化して、日本の技術を未来永劫残すことでもあります。これは、「会社を資産化する」ともいえます。そうしないことには伝統伎は消えるばかりです。

たとえば、“大工の大手企業”なんてあまり聞かないですよね。

たしかに、そうですね。
大工さんは知識やノウハウが一人ひとりの頭の中に入っている世界であり、技を習得した人は、どんどん独立していきます。つまり、会社のアセットにならないから大手にならないんです。

でも、これからはノウハウを残していかないことには、日本はものづくりができない時代になりました。中小規模のメーカーはどんどん廃業しています。ここには承継問題もあります。廃業か、もしくは大手企業に買い取ってもらうか。選択肢がこの二つになっているんです。
Mujinの技術やコンサルで、中小企業を救うことは可能なんですか。
もちろんできますが、僕らがコンサルティングをした場合、その会社は大手になっている可能性も……(笑)。
なるほど(笑)!

“会社の資産化” ができていない会社が中小企業として存在しているのではないかという見方もあります。意外にも海外には中小企業って少ないんですよ。アメリカはM&Aが盛んなので、イグジットか、大きい会社に買ってもらうことがゴールになっています。
私たちもオートメーションのキーがデータであることに着目し続けてきましたが、ここから先、フィジカルAIの潮流によって、アステリアもデータでつなぐことをもっと積極的に考えていく必要を感じています

さて、ここまでいろいろなことを伺ってきましたが、最後にMujinの将来展望を聞かせてください。

これからは、コンサルからソリューション、そしてメンテナンスまで、お客様をしっかりサポートすること、そして、統合ソリューションとプロダクト化の両面から経験を積み上げ、他のお客様にも展開していくことで、さらなるスケールを目指します。

経営層から現場層まですべて対応できるソリューションを持っている強みを、ますます活かしていきたいですね。
私たちも応援しています。ぜひ頑張ってください!

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。