2019年1月21日

テレビや紙面での露出が約2.4倍に!ファンが増え続ける「串カツ田中」の”旬”を捉えた先読み広報の裏側

全面禁煙化や新入社員研修用の店舗など、次々と新たな話題を仕掛ける「串カツ田中」で広報を担当する永瀬さんのお仕事に注目。話題の発信方法について日々の業務の中で考えられていることを聞きました。


日が暮れると灯り出す、赤と黄色の提灯に白いテント。ガラス越しに見える賑わう店内、アットホームな雰囲気が漂う居酒屋といえば……「串カツ田中」を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか?

「みんなで行くと楽しい!」「思い出すと行きたくなる!」
と、多くの方に愛され、人気店へと発展した串カツ田中。2018年には、お客さん視点だけではなく、業界に先駆けた「店内の全面禁煙化」や、社員やアルバイトのモチベーション向上施策など、企業のイメージアップにつながる話題がメディアを賑わせていました。

「ここ1年でテレビや紙面での露出が約2.4倍に増えました」と語るのは、串カツ田中で広報を担当している永瀬もなみさん。多くのファンを作ることができた背景には、話題作りだけではなく、その発信方法や考え方にもヒントがありそうです。

今回は、アステリア株式会社の広報・IR室長、長沼 史宏氏が主宰する広報勉強会でご縁があり、実際に永瀬さんの「旬を捉えた話題発信」についてのお話を伺うことができたので、その内容を一部抜粋してご紹介します(以下、永瀬さんの言葉でお伝えしていきます)。

株式会社串カツ田中ホールディングス
経営戦略部秘書兼広報担当 永瀬もなみ氏

小売業界、IT業界を経て、2015年株式会社ノート(現 株式会社串カツ田中ホールディングス)に秘書として入社。2016年東証マザーズ上場時に当社初の広報となる。広報未経験から広報部門の基礎を構築。「串カツ田中の串カツで、一人でも多くの笑顔を生むことにより、社会貢献する」の理念のもと、広報全般を一人で担当。現在秘書も兼任中。

“串カツ” でひとりでも多くの笑顔を

みなさん、改めて「串カツ田中」のことはご存知でしょうか? 
この”田中”という名前は、副社長である田中のお父さんがつくっていた、田中家の伝統の味を再現していることが由来なんです。

大手企業を退職してバーを開業した社長の貫と、そのお店のアルバイト第一号だった副社長・田中で立ち上げたのが「串カツ田中」のはじまり。今でこそ串カツのお店として知られていますたが、2002年の創業当初は、流行りのデザイナーズレストランや懐石料理のお店をやっていたんです。

とことん流行を取り入れたので話題にはなったのですが、リーマンショックを機に経営は難航し、倒産寸前に。大阪に帰る準備をしていたところ、かねてより探していた田中家秘伝の串カツレシピを発見し、そのレシピをもとに2018年12月「串カツ田中」創業。2008年に「串カツ田中」が開業して以来、十年後の今では国内217店舗、海外2店舗にまで広がっています(2018年12月1日現在)。

”串カツ田中の串カツで、一人でも多くの笑顔を生むことにより、社会貢献をする”ということを理念に、お客様、スタッフ、そして取引先や株主など、子どもも大人も笑顔にすることを常に念頭においています。日本を代表する食といえば、串カツ!となるような文化を作りたいと本気で思っているんです。国内1000店舗を目指して、今日も力を尽くしています。

社員も知らない!?「串カツ田中」秘伝のレシピ

私たちが大事にしているのは「メニュー、店舗、接客」の3つの軸。毎日でも気軽に立ち寄れる大衆的なお店を目指して、ブランドを構築してきました。

中でもメニューへのこだわりは強く、当社の串カツのレシピは、社長と副社長しか知らないんです。先ほど、副社長・田中のお父さんから教わった伝統の味を再現しているとお伝えしましたが、そのレシピは社員の私も知らされていません。

しっかりと他社と差別化できる完成されたレシピが全店舗に納品されているので、ブレがなく、どこの店舗でも均一の味を提供することができています。もちろん日々、味やメニューのブラッシュアップも欠かせません。

また店舗の特徴として意識しているのは、エンターテイメント性のある、楽しめる食事体験。例えば、みんなでたこ焼きを焼いたり、お客様にその場でポテトサラダを作ってもらったり、店員とじゃんけんをしてハイボールのグラスのサイズが変わったり、お子様はソフトクリームが無料でもらえたり…。大人も子供も、大人数でも少人数でも、どのお客様にも楽しんでいただけるお店づくりを心がけています。実はこうしたサービスは、スタッフとお客様との接点が増えるきっかけにもなるんです

またガラス越しに店内の賑わいが伝わるよう、路面出店を多くしているのも戦略の一つです。

明るく元気な接客ができるように、スタッフ自身が心から楽しくやりがいを持って働くための環境づくりや教育環境にも力を入れており、今年からある施策を開始しました。これまでにない施策を始めるということは、当社の考えを知ってもらう絶好のチャンス。多くの媒体に取り上げてもらえるように、発信方法も工夫しました。

ここからは、わたしが取り組んできた広報のお話をお伝えしていきたいと思います。

影響もデータも分からなかった異例の「全面禁煙化」。その裏側は?

当社の広報はわたしが初めてで、本格的に広報として仕事を始めたのは2年前から。ちょうどそのタイミングで「プレミアムフライデー」という言葉がメディアを賑わせていたんです。そこで、当社はプレミアムフライデーの施策が開始する1ヶ月前にフライングして実施を開始しました。フライングの”フライ”と、揚げ物の”フライ”と、フライデーの”フライ”の3拍子そろったことを、ユーモアを混ぜながらPRをし、注目を浴びたんです。

他社が様子を見ている間にスピード感をもってはじめたことで、インパクトを残すことができ、多くの媒体に取り上げていただけたのだと思っています。

(写真は「串カツ田中」の本社に行った方だけがもらえるオリジナルの水。なんとラベルの裏は10%OFFのクーポン付き!)

それから今年多くの媒体に取り上げていただいたのは、なんといっても”全面禁煙化”についてでした。お酒とタバコはセット。そうお考えの方も多いのではないでしょうか。私たちのお店も喫煙されるお客様の多い大衆居酒屋ですが、今年の6月に思い切って、全面禁煙化を打ち出しました。

背景としてオリンピックへ向けた東京都の動きや、健康推進法改正への動きもあったのですが、当社が禁煙化した理由はそこではありません。禁煙化を進めたのは、「お子様を大事にする」という経営方針があったためです

当時は、「子どもが来る意外な居酒屋」として特集を組んでもらうなど、家族でも行ける居酒屋として認知されはじめていた頃でした。しかし、お子様の隣には喫煙者…という状況。180店舗規模の大衆居酒屋で「禁煙化」の取り組みをされているところはまだなく、影響もデータもわからない中で、もちろん売り上げが減少するリスクもありました。

そんな中で、「お子様を大事にする」という軸ととことん向き合った結果が「全面禁煙化」という決断でした。そしてやるからには、他社にはないインパクトを!という思いもあり、会社で決定してから3日後にはリリースを発表しました。

なぜ、そこまでしてお子様を大事にするの?と、お思いの方もいるかもしれません。「串カツ田中」のメインターゲットは20~40代の男女。つまり今、小学生・中学生のみなさんが10年後、20年後にメインターゲットとなるのです。このような理由からも、長くにあたりお客様に愛されるお店になるために、「お子様を大事にするお店」でありたいと私たちは常に心がけています。全面禁煙化も、その想いを形にした施策だと思っています。

メディアが欲しいのは ”店員が灰皿を回収する画” と “第二報” 、一歩先をを読むことで広がる広報術

当時発表したプレスリリースがこちらです。

この規模の居酒屋では初めての試みであるということ、オリンピックへ向けて健康推進法案に関する話題があがっていた時期であることを踏まえて、「初」「規模」「意外性」そして、「旬」のネタであることを意識したワードをいれました。内容ももちろんですが、大事なのは、いかに興味を持ってもらえるかだと思っています。

それから「串カツ田中のリリースだ!」と、気がついてもらえるようにヘッダーをわかりやすく派手にすること、伝えたい部分は四角で囲ったり、色をつけたり、メインビジュアルを用意したり、とにかくビジュアルを意識しました。広報の方なら常に意識していると思いますが、プレスリリースではどこに目線を持ってきてもらいたいかが大切です。

たくさんのことを伝えたいと思うと、つい欲張って枚数が多くなってしまいがちですが、1枚でわかりやすく伝えたいことを書き終えることも大事だと思っています。そもそも長い文は読みにくいですし、リリースは読まれない前提。どうしたら一瞬でも手に止めてもらえるか?ということと常に真剣に向き合っています

また、これらのリリースはメディア向けではありますが、喫煙者やお客様が読んでも、不快に感じないか?ということも意識しています。万人が読んでも理解して受け入れてくれるような書き方が理想ですね。

さらにこれらのリリースを出した後に、メディアの方々がどのような反応をするだろう?というのもあらかじめ予想をしていました。おそらくテレビが入るのではないか?と考え、その場合、短い時間でお茶の間に伝わるためにはどんな絵がいいか?など、先回りして考えていました。

案の定、テレビの撮影依頼をいただきましたが、事前に心構えをしていたこともあり、テレビ目線で視聴者に伝わるアイデアをこちらから提供することができたんです。例えば、テレビ目線でほしい絵としては「灰皿を店員が回収する」「禁煙ポスターを貼る」「担当者から禁煙化の意図を話す」など。これらの絵は、店舗のスタッフをはじめ様々な部署の協力も必要になるので、あらかじめ社員に共有するなど、社内でのコミュニケーションも意識していました。

禁煙化実施後は、メディアの方々から毎週のように「売上に変化はありましたか?お客様の反応はどうですか?」などと、聞かれていた時期もありました。そこでわたしたちはあえて、「まだはじまったばかりなのでわかりません」と回答し、その翌月、第二報として禁煙1ヶ月の結果報告リリースを出したんです

当時発表したプレスリリース▽
串カツ田中禁煙化1カ月実施結果をお知らせいたします。 ~客数増、ファミリー層の増加~ https://kushi-tanaka.co.jp/news/entry/616

そこには、今までよく聞かれていた質問の答えやマイナスの意見、課題も偽りなく出したので、これがまた好評で、様々な媒体に取り上げていただきました。より多くの方に「串カツ田中」の想いを知ってもらうきっかけになったのではないかと思っています。

新人しかいない店舗?串カツ田中の教育制度

それからもうひとつ、先ほどお伝えした新人教育の新しい試み、”研修センター店”についてもお伝えできればと思います。

今年の4月から実施を開始した研修センター店。この店舗は、新卒や中途の社員が入社後、本配属を行うまでの1ヶ月間、当社の考え方や具体的な業務を取得することができる研修店舗のことです。実際の営業を通して身につけることで、業務への不安解消や同期とのつながり、離職率の低下、社員のモチベーション高揚につながるのではないかと考え、実施を開始しました。

この店舗を始めたのは4 月の入社シーズン。
これはメディアて的には「社員教育」に関わる情報が旬になる頃です。研修センター店を作ります!だけではなかなかニュースになりませんが、離職率の高い居酒屋業界であることや、入社の多い春ということも考慮し、ストーリーを織り交ぜPRしたことで、予想以上に多くの媒体で取り上げていただきました。リリースの時期や”旬”を意識することがいかに大切さか、を実感しました。

広報とは「社会とつながる翻訳者」

これまで紹介してきた事例は、企業の理念やミッションに沿った軸を考え抜いた結果、うまれた施策だと考えています。これらの事例を踏まえて、私が日頃、広報の業務で心がけていることは、ひたすらとにかく”社会とつながること”です。

どう露出したいのか?どこに露出したいのか?それはどの客層なのか?露出したい先にはどんな反応をする人がいるだろう?どんな単語ならひっかかるだろう?今、”旬”のワードはなんだろう?ということをひたすら考える。ただ、ひたすら考えるけれど、悩みすぎない。真似る、調べるということ。あとは社外で相談できる人をつくることも大事だと思っています。

広報は社外への翻訳者であり、社会と企業をつなぐパイプ役でもあると思っています。とはいえ社内の方と円滑にコミュニケーションが取れていないと情報は集まらないですし、情報を集めたいなら、こちらが常に情報を発信することも大切ですね。常に”旬なワード”にアンテナをはり続けることで、話題発信のタイミングや企画、そしてスピード感を持って実行できる可能性が高まるのでは、と思っています。

それから、失敗しても問題ないと思います(笑)。
失敗を恐れるより、とにかく行動してみることの方が大事なのかな、と。当社は変化を恐れない企業体質なので、これからも前に向かって日々勉強していければと思います。

【編集後記】

以上、「串カツ田中」で広報を担当する永瀬さんのお仕事に注目し、話題の発信方法について日々の業務の中で考えられていることをお届けしました。

現状に満足することなく、常に変化し続けている「串カツ田中」。企業理念を貫くだけでなく、社会とのつながりを大切にアンテナをはり続け、チャレンジし続ける前向きな永瀬さんの姿勢が、「串カツ田中」が人気店へと発展したひとつのきっかけなのでしょう。そして会社の成長、自分の成長だけでなく、社会へのインパクトを残すことのできる広報の仕事はとても魅力的な仕事だと改めて感じました。

永瀬さんの話を聞き終えたあと、「串カツ田中」に行きたい!という欲を抑えきれず、実は後日「串カツ田中」へ行ってきました!店内は、お子様連れの家族、女子会、大人数の会社員、3世代の家族、お一人様…と、本当に様々な世代で賑わい、アットホームで楽しい雰囲気が漂っていました。

この変わらない美味しさが、日本を代表する食として世界に発信される日は近いでしょう。これからも、国内1000店舗を目指している「串カツ田中」にご注目ください!

最後まで読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
石川妙子 アステリア株式会社 広報・IR室。in.Live編集部。 大学卒業後、大手銀行にて勤務。その後、自由大学の運営を経て、2015年より世界一周の新婚旅行へ。帰国後は、編集者として活動。インバウンドや農業メディアにも所属。2018年より長野を拠点に移し、東京との二拠点生活中。