2024年10月9日

SUZUKI ジムニー×NFT、イベントにNFT・web3を活用するスズキの狙いとは

2023年にスタートした自動車メーカーのスズキ株式会社によるNFT・web3プロジェクト。新時代のモータースポーツ「NEO SERIES」のスポンサーとなったスズキは、国内人気NFTプロジェクトがデザインするコラボジムニーをNFTとして配布しました。イベントにNFT・web3を活用するスズキの狙いはどのようなものか、本試みについて詳しく伺います。


2023年7月にスタートした自動車メーカーのスズキ株式会社によるNFT・web3プロジェクト。
その第一弾は、NEO NFT PROJECTとのコラボレーション。新時代のモータースポーツ「NEO SERIES」のスポンサーとなったスズキは、国内人気NFTプロジェクトがデザインするコラボジムニーをNFTとして配布しました。

イベントにNFT・web3を活用するスズキの狙いはどのようなものか、本試みについて詳しく伺います。インタビューに応えてくださったのは、スズキ株式会社 デジタル化推進部DX推進課の大瀧一輝さんと、金原悠太さんです。

※本インタビューはオンラインにて行われました

<大瀧一輝さん>(写真・右上)
2013年、新卒でスズキ株式会社に入社。二輪エンジンの解析を担当するCAEエンジニアとしてキャリアをスタート。お客様とのコミュニケーションやニーズ把握に課題を感じ、デジタルマーケティング活動を行うワーキンググループを組成。スズキ公式ECモール「S-MALL」の企画・開発に従事し、顧客接点の構築・拡大におけるDX業務を推進。現在は、免許非保有者や子供たちとのコミュニケーションにも取り組む。

<金原悠太さん>(写真・左下)
2019年、新卒でスズキ株式会社に入社。2020年より2年間、IT本部にて社内の調達関係システムの開発・保守業務を行った後、自らの希望でWeb3施策の検討を開始。新規顧客の獲得や既存顧客のエンゲージメント向上におけるNFTの活用を推進する。

<聞き手・アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト 奥 達男>

スズキが取り組むweb3プロジェクトのはじまり

今日は宜しくお願いいたします。
まず、自動車メーカーのスズキがNFTを配布するというので驚きました。もともとどういったきっかけで、いつ頃スタートすることになったのでしょうか?
時期としては『STEPN(ステップン)』という、ランニングやウォーキングをすることによって仮想通貨(暗号資産)を稼ぐことができる “Move To Earn” というジャンルのNFTゲームがブームになった頃でした。2021年頃にかなりバズったことで、Move To Earnという言葉自体も話題になり、自動車メーカーをはじめとする移動手段を提供している会社でも「このジャンルで何か取り組みを検討する必要があるのでは?」という雰囲気があったんです。

自動車メーカーは、B to B to C のようなビジネスモデルですが、メーカーはお客様と直接の接点が持てないため、どのように車やバイクなどの商品を使っているのかまではわからないということが長く続いています。そうした中で「どうすればお客様と直接接点を持ったり、コミュニケーションをしたり、ダイレクトに価値提供ができるか?」 というのが課題になっていました。私たちの部署では、スズキの中ではデジタルマーケティングの文脈でDXを行っていて、まさにこうした課題をデジタルで解決していくことが求められていたんです。

そうした顧客接点の構築拡大の文脈でいろいろな活動をしている中で、ちょうど『STEPN』などが盛り上がりを見せ、まさに私たちの課題を解決する上でもNFTが使えるのではないか? と思ったのがきっかけです。
そうした中で、今回はジムニーをかたどったNFTを配布されたわけですが、なぜジムニーだったのでしょうか。そしてお客様にNFTを届ける方法については、いろいろと選択肢があると思うのですが、なぜ「無料で配布」としたのか。その理由についても教えてください。
NFTの販売となるとお客様自身が暗号資産を持たなければならないなど、どうしてもハードルが上がります。まずは無料でたくさん配り、市場の中でどういった反応が起こるのかを見てみたかったので、実証実験としてトライしてみることになりました。なぜジムニーを選んだのか? ということについては、やはりジムニーは多くのユーザーに認知されていて、キャッチーだからです。さらに、もともとジムニーは納車に時間がかかる車種なので、車両の販売以外にも、デジタルコンテンツやIP利用という点でタッチポイントやビジネスの可能性を見出したいという想いもありました。

またもうひとつのプロジェクトは「KATANA」というバイクのNFTなのですが、こちらはもともと熱量の高いファンが多く集まっています。そこでNFTを使って既存のファンの方により愛着を持ってもらって、顧客単価やLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を向上できないかと考えていました。

要は両極端なところに振ろうといろいろ考えた結果、ジムニーとKATANA、2つの事例が先行することになったんです。
まずはハードルが低めなところから、そしてそれぞれ違ったターゲットを見据えたプロジェクトを実験的に行ったのですね。
はい。まったく車に興味ない人や、免許を持っていない人たちの中でも、“ジムニーならわかる” という人たちは多くいます。そのIPの強さを使って、その人たちが少しでもジムニーのファンになって愛着を持ってもらうことができないか? ということでジムニーを選びました。

『STEPN』が盛り上がっていたので、自分たちでもさまざまなNFTプロジェクトを調べたり、関連するDiscordに入って活動したりしていたのですが、ちょうどそのタイミングで「NEO NFT PROJECT」というプロジェクトが立ち上がって。それが大きなきっかけになりましたね。

そもそもNEO NFT PROJECT(※注釈1)はeモータースポーツを題材にしていて、ドライブシミュレーターを使ってデジタル上でレースをするプロジェクトなんです。レースの参加権としてや、そのレースの優勝者を予想して応援するかたちでNFTを使うというものなんですね。
(※1 編集部注釈)NEO NFT PROJECT
「新時代のモータースポーツエンターテイメントを創り出す」をミッションとしたNEO NFT PROJECTは、NFTを所有することで参加でき、優勝すると人気NFTがもらえるweb3時代の新しいモータースポーツエンターテイメント。https://neonftproject.com/


非常に相性が良いというのが分かります。ちょうど情報収集をしていた中で、タイミングよくこのプロジェクトと出会ったんですね。
はい。早速チームの人たちと連絡を取り合い、何か一緒にできないですか? と相談し合いました。仮想通貨の投機性ではなく、マーケティングの文脈として「特定の製品が好きであることを証明するためにNFTを活用していきたい」と考えていたので、本レースからは一旦離れ、エキシビションマッチのような形で、レース車両ではないジムニーを使ってレースをするというプランを一緒に考えました。

具体的には、NFTプロジェクト対抗レースのようなかたちでレースを開催し、そのNFTプロジェクトの世界観を反映したジムニーで、それぞれレース車両を作って参加し、最終的にはその車両をそのままNFTとして記念品のような形で配布するというものです。

初めてのNFTイベント、ファンたちの反応は?

そして開催されたのが「NEO SERIES 2023 AUTUMN DAMD CUP Rd.3」ですね。どんな人が参加されているのか、とても気になります。
参照: スズキ「ジムニー」、eスポーツレースに登場 NFTも(日本経済新聞より)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2201C0S3A021C2000000/


私たちも「NEO NFT PROJECT」にどんな参加者がいるかは知らなかったのですが、実際に開催してみると、web3に詳しい人だけではなく、eスポーツを楽しんでいるような人たちも集まっていることが分かりました。プロジェクトの特性上、最初はその投機勢や、一獲千金、みたいなものを求めてくる人たちが多かったり、NFTやブロックチェーン原理主義みたいな人たちが多かったりした印象でした。

ですが、実際に蓋を開けてみると、若くて、新しいことに興味があって、かつ投機的な部分にも魅力を感じている人たちが結構多かったですね。

<写真はNEO WINTER 2023の様子>

実際のNFTの配布について、イベントも含めて参加者の方々の反応はいかがでしたか?
特に印象に残っているのは、ある女性のお話。彼女は免許を持っておらず、かつ今後も免許を取るつもりもないと話していましたが、このイベントを通してシミュレーターでジムニーを擬似的に運転し「少しジムニーが好きになった!」と話していたんです。なんかかわいいかも! みたいな。

その後、このイベントをきっかけに自分でシミュレーターを買って、歴代のジムニーの中から、自分の好きなジムニーの推し活を始めているという話も聞きました。
それは驚きのエピソードですね。新たなファンをweb3という文脈から獲得したという点でも、非常に大きな収穫だったと思います。
そうですね。これまでは「免許を持っていないと、そもそもそういうコミュニケーションが始まらない」という世界だったのですが、これをやってみて、NFTがむしろ新しい世界を切り拓いていると感じました。NFTは免許ではないけれど、カーライフを始める大切なきっかけになり得ます。
プロジェクトを現場で主導されていた金原さんの手応えはどうでしたか?
個人的な話ですが、僕は自動車会社にいなかったら多分車を所有していなかったんじゃないかな? と思ったりもします。そんな自分と同世代の人にも、プロジェクトに興味を持ってもらえたらと、これまでずっと思っていました。

別に免許がなくたって良いし、免許は持つべき、と自動車会社が強制するのもちょっと違う。だけど「NFTを持っていることが免許を持っていることに繋がる」といった感覚や、「NFTを持っていることがどこかへ行くきっかけになる」など、NFTが移動手段の代わりになるような世界線を作っていければ理想的だなと。そんなことを常々考えていたので、このイベントは非常に手応えを感じました。
そうそう。元々は最終的にはジムニーに乗ってもらいたいという方向を考えていたのですけれど、これはこれで面白く「実際の車には乗らずに推す」という世界観もあるということに気がつくことができましたね!

さらに、国内にはジムニーファンの方たちが普通にたくさんいらっしゃるので、その方たちも楽しめるイベントにするにはどうしたらいいか、古参ファンと新規ファンの両者は混じることができるかどうか、できるとしたら、そのジャーニー(ある段階から次の段階への道のり)をどう作っていくかなど、今、まさに検討している最中です。
いや〜とても面白いお話ですね。車を持つ人が以前に比べると減ってきた時代に、このNFTというものが救世主になり得るんだなと感じました。ちなみに、今回ジムニーのNFTは何枚配られたのですか?
イベントに参加しているコラボNFTプロジェクトのNFTを持っている方、もしくはNEOが発行したNFTを持っている方に「参加賞」という形で配布しました。全部で9種類、合計約1万5000 (2024年9月時点)ぐらいですね。
1万5000! 予想よりも多くて驚きました(笑)!
例えば、MEGAMI(※注釈2)はご存知ですか? 国内人気NFTプロジェクトがデザインするコラボジムニーがあるのですが、「MEGAMI × ジムニー」というコラボジムニーがあります。

MEGAMIプロジェクトのNFTフォルダーは数千人いらっしゃいます。その他のプロジェクトとコラボしたジムニーのプロジェクトにもたくさんいらっしゃいますので、これらのNFTフォルダーさん含めて、合計1万5000ウォレットに配られています。ですので、9種類持っている人もいるし、2種類しか持っていないみたいな人もいるので、様々ですが、トータルすると1万5000ぐらい配られているというところですね。

(※2 編集部注釈)MEGAMI(メガミ):
MEGAMIは、アリヲリが発行する日本発の商業利用が可能なNFTコレクション。ポケモンカードゲームやデュエルマスターズ、ウマ娘プリティーダービーなどの作品を手掛ける、日本を代表するイラストレーターさいとうなおき氏がキャラクターデザインを担当する人気のNFTプロジェクト。 https://www.megami.io/

ファンのコミュニティ形成や地方創生の可能性も。web3プロジェクト今後の展開

今回はNFTプロジェクトでしたが、自動車産業でweb3技術を活用する方法は他にも色々とあると思います。今後のデジタルマーケティングとして、可能性を感じられている技術はありますか?
ブロックチェーンの「改ざんできない」「証明できる」という利点は、“自分のアクションを証明する” ということと非常に相性がいいと思ったので、今回はNFTを使ってみました。それ以外にもいろいろ検討はしていて、新しい技術やツールを使って何ができるか? ということにトライしてみたり、現場部門と一緒に実証実験したりしています。

最初にお話しをしたとおり、顧客と直接接点を持てずになかなかコミュニケーションが取れないという課題があったわけですが、実際にやってみて思ったのは、これからは “コミュニティ” も不可欠だということです。コミュニティでアクションを取った人の行動履歴を証明して、それに対してインセンティブを与えるようなことをいろいろ考えていくと、これは“DAO(分散型自律組織)”に近づいていくところがありますよね
確かに。熱烈なファンのコミュニティが、ゆくゆくはDAOになっていくということなんですね。
はい。ここまでジムニーの話を中心にしましたが、熱烈なファンといえばKATANAのプロジェクトも外せません。シンプルに説明すると、製品に愛着のある方々の熱量や、愛のある行動を証明するためにNFTが使えないかと思っています。

私はもともとバイクのエンジニアで、エンジンの解析などをやっていたのですが、バイクのエンジンを作っている中でお客様の顔は見えませんでした 。エンジンの出力目標などを考えることはありますが、それが本当に顧客に求められているものなのか? ということもわからないんです。それよりももっと顧客接点やお客様のインサイトを捉えたいとデジタルマーケティングをやるようになり、いつ誰が何を買ってくれたのかが分かるようにしたECサイトを作ったんですね。そうすると、KATANAに対して信じられないぐらい熱量を持った人たちがたくさんいることに気づきました。

年に一回、全国から浜松にバイクに乗って集まってくる「KATANAミーティング」というイベントがあるのですが、これは推し活でいうところの聖地巡礼なので、これに参加したということは絶対に証明してあげたいし、それに対するインセンティブをどんどん作っていきたいと考えているんです。

<2024年9月に開催された「KATANAミーティング」会場の様子>

そうした想いで、KATANAのNFTを発行、イベントで配布しました。
今年も9月にKATANAミーティングを開催したのですが、今回はほぼ全員にNFTを配ろうと、NFT取得者に対して当日受け取り可能なユーティリティを用意して配布しました。

<実際に会場で配布されたNFTのチラシ>

イベントを通してKATANAの熱量を高めたい! という想いが根底にはあるのですが、ファンの方たちはバイクに乗って浜松に来てくださるので、これは地方創生の文脈でも引き合いがあると思っています
ファンのコミュニテイを通じた、地方創生の文脈ですか。
はい。例えばNFTを持っている人たちを対象にKATANAの特別ディナーをレストランやホテルに提供してもらったり。それをきっかけに外から人を呼び込むことができれば地方経済にも貢献できます。今後も、そういった可能性を探りたいですね。
今回お話にあったのは、ジムニーとKATANAですけれども、他の製品も同じように展開されていくイメージなのでしょうか?
そうですね。実はいま色々と仕込んでいる最中で、これまでのジムニーやKATANAはアイコニックなところだったのですが、次は軽トラを使った何かをやりたいと思っています。
軽トラですか! 面白いですね。
軽トラというと、農業や漁業などで使われているイメージがあると思うのですが、意外と面白い使われ方をしていて。出店者自身が乗っている軽トラを使って物販を行う「軽トラ市」というマルシェのようなイベントがあるので、当社としてもこういった軽トラの面白い取り組みや価値をお客様に知ってもらうために、これもNEO関係でコンテンツを考えています。そこから発展して、さらに違う車種というところも今後は検討していきたいです。
まだまだ沢山の可能性を秘めた分野なんですね。
そうですね。NFTはただ保有しているだけではなく、ユーティリティがついて初めて価値を出してくるものだと思うので、当日もらった瞬間にユーティリティが得られるようなことも考えていきたいですね。ポイントプログラム的なものにするのか、コレクション要素を持たせるのか……。

まだ具体的な企画にはなっていないですが、“スズキのNFTを持っているといいことが起こる” という認識を、ユーザーの皆さんに持ってもらえたらいいなと思っています
とっても面白かったです。スズキがいかに明確なプランを描きながらweb3に取り組まれているのかがよく分かりました。壮大なお話がお伺いできて、大変勉強になりました。これからの取り組みも楽しみにしています!
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この記事を書いた人
高橋ピョン太 ゲーム開発者から、アスキー(現・アスキードワンゴ)のパソコンゲーム総合雑誌『LOGiN(ログイン)』編集者・ライターに転向。『ログイン』6代目編集長を経て、ネットワークコンテンツ事業を立ち上げ、以来、PC、コンシューマ向けのネットワークコンテンツ開発、運営に携わる。ドワンゴに転職後、モバイル中心のコミュニケーションサービス、Webメデイア事業に従事。現在は、フリーライターとして、ゲーム、VR、IT系分野、近年は暗号資産メディアを中心にブロックチェーン・仮想通貨関連のライターとして執筆活動中。