2025年6月6日
世界最大級のグローバルピッチコンテスト『スタートアップワールドカップ2025九州予選』が2025年5月23日、熊本城ホールで開催されました。熱気に包まれたイベントのハイライトをレポート形式でお届けします。
アステリアの社外取締役でもあるアニス・ウッザマン氏が創業者兼CEOを務める、米 ペガサス・テック・ベンチャーズが主催する「STRATUP WORLD CUP スタートアップワールドカップ」。
今年も“イノベーションの聖地”、シリコンバレーで行われる世界大会への出場権を競って、100以上の国と地域から3万社以上のスタートアップがエントリー。そして、ここ日本では、東京予選、東北予選に先駆け、九州予選が 2025年5月23日(土)、熊本城ホールで開催されました。
スタートアップワールドカップ九州予選の審査方法について語る、アステリア代表の平野
九州予選には100社を超える応募の中から10社がファイナリストに選出され、熱戦のピッチバトルを繰り広げました。会場とオンライン合わせて約2,000名以上の観客が固唾を飲んで見守るなか、日本代表としてシリコンバレー行きの切符を手にできる、最初の1社が決定しました!
本記事では、ファイナリスト10社のピッチバトルの模様はもちろん、その前後に行われたゲスト対談やパネルディスカッションの様子を、余すことなくご紹介します。
13時のイベント開始に先駆け、11時よりホワイエやロビーではスタートアップ展示会が行われました。出展社はファイナリストに選ばれた10社をはじめとするスタートアップのほか、スポンサー企業も参加。
今年は、ヘルスケアを含む医療系スタートアップや人手不足の解決や業務効率化に向けたDX関連スタートアップの出展が目立っていました
一方、開場時刻である正午時点ではまだ人もまばらなホールも、開会時刻が近づくにつれ、どんどん席が埋まっていきます。いよいよ開会です。
イベントは、全身に響く力強い和太鼓のパフォーマンスで幕開け。まずは九州予選の共催者である熊本市から、市長の大西一史氏がステージに立ち、「今日を、ここ熊本からスタートアップエコシステムを育て発展につなげていくための機会とし、シリコンバレーに羽ばたいていくスタートアップを応援していきたいです」と力強いメッセージを発信。
続いてのプログラムは、実業家 堀江貴文氏と、熊本市長 大西一史氏によるスペシャル対談。
スタートアップワールドカップ(第1回)の日本アンバサダーを務めた堀江氏は、福岡県の出身でもあり、大西市長と地元トークを交えながら『各地域から始まる、日本のイノベーションの未来』をテーマに、実業家としての活動にも触れつつ、九州という「地域」の持つ魅力と可能性を独自の視点で語りました。
対談の締めくくりには、九州のスタートアップや若者に向け、このような応援メッセージを届けてくれました。
(堀江氏)「20代のうちにやっておいたほうがいいことをよく聞かれますが、僕くらいの年齢になると動物としての個体差が出てきて、健康じゃない人が増え、やる気が起きない日も増えてきます。つまり、50代になるとスタートアップなんてできなくなるんです。その点、若いうちはその差が付きづらいので遺伝的に体力がない人でも10代20代は頑張れる。ですから、スタートアップをやるなら10代20代が最適です。僕もできることなら戻りたいです。」
その後は来賓あいさつや、熊本県知事である木村敬氏からのビデオメッセージ、大会会長であるアニス氏による大会概要説明と続いたのち、イノベーション業界をリードし続ける10名の審査員が呼び込まれました。
九州予選の審査員を務められたのは、こちらの方たちです。
九州予選審査員(登壇順)
・株式会社広済堂ホールディングス 代表取締役社長COO兼CFO 前川 雅彦氏
・フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 元代表取締役社長 今庄啓二氏
・ i-nest capital株式会社 代表パートナー 山中 卓氏
・ 山口大学大学院技術経営研究科 特命教授、JCRファーマ株式会社 社外取締役 林 裕子氏
・肥銀キャピタル株式会社 代表取締役社長 田島 功氏
・アステリア株式会社 代表取締役社長CEO 平野 洋一郎
・ヒューリック株式会社 専務取締役、株式会社ミダスキャピタル 社外取締役 大櫃直人氏
・株式会社Monozukuri Ventures CEO 牧野成将氏
・株式会社eiicon 代表取締役社長 中村 亜由子氏
・株式会社日本経済新聞社 編集総合解説センター担当部長 上田敬氏
ここで始まったのが、審査員の皆さんによる〇×クイズ形式のパネルディスカッション。
モデレーターである、一橋大学名誉教授 米倉誠一郎氏のリードのもと、『これからのスタートアップ業界のトレンド』をテーマに、「今後、日本からも世界的なユニコーンが生まれる」「日本のスタートアップには多様性が欠けている」という二つのお題について、各審査員は独自の考えや思いを披露。参加者に貴重な示唆を与えてくれました。
もっと耳を傾けていたくなるほど活発な議論が飛び交ったパネルディスカッション! その熱気と興奮をそのままに、いよいよメインプログラムであるピッチコンテストがスタートです。
10社で世界への切符を競うピッチコンテストは、30秒のイメージVTRと3分30秒のスピーチ、質疑応答の三つで構成。登壇者はそれぞれ、事業戦略やマーケット環境、参画メンバーの情報等を披露し、自らのプロダクトの価値と将来性を訴えかけます。
トップバッターは、MUSVI株式会社。
自身が長崎出身という代表の阪井氏が、同社プロダクト、テレプレゼンスシステム『窓』で、会場と東京のオフィスをつなぐデモンストレーションを行いながら、事業の概要や強みについて熱く語りました。
続いて、登場したのは九州大学発スタートアップ、株式会社JCCLです。
Co2を分離回収して有用物質に転換する技術を持つ同社は、すでに小型の装置を市場に投入。今後はその販売網を日本、そして世界に広げていくことで、「カーボンニュートラル社会の実現につなげたい」と意気込みを口にしました。
3番手の Anydeli株式会社 は、飲食店向けモバイルオーダー決済システムを提供するスタートアップです。人件費の高騰、人手不足、材料費の高騰など、年々厳しくなる飲食店の経営の助けとなる、注文と会計周りのDXプロダクトについてスピーチしました。
4番目にステージに立ったのは、熊本発のフードテックスタートアップ、トイメディカル株式会社。塩分過剰摂取による健康問題を、減塩に代わる『塩分オフセット技術』で解決することを目指しています。「健康も美味しさも諦めない。世界の人が笑って暮らせる社会をつくっていきたい」と熱意に満ちた語りが印象的でした。
前半最後の登場者は、leaeningBOX株式会社。
『AI時代の教育プラットフォーム』を標榜し、教育のオンライン化に必要な機能を備えた学習管理システムを開発・運営しています。安価な料金体系を実現することで、「誰一人と取り残さない教材づくりを支援し、世界中に教育機会を創出したい」と、プロダクトにかける思いの丈を話しました。
ここまでで、ピッチコンテストは前半が終了。熊本市のエモーショナルなPRムービーを挟んだのち、後半がスタートします。
6社目となる、Marble XR株式会社は、福岡発のスタートアップ。
キャラクターなどのIP(知的財産)を最短5分でAR化できる、フォトアプリ『mARbie』を提供しており、プロダクトがもたらす体験価値や、独自のユニークなサービスについて、力強いスピーチを披露しました。
続いて、PuREC株式会社が登場。
同社は、骨や軟骨の元となる細胞を培養した医薬品『REC』の研究・開発を行う島根大学医学部発のバイオスタートアップ。このRECには椎間板再生という新しい治療法の確立だけでなく、希少難病への効果にも期待が寄せられているそうで、「この技術で世界に挑みます」と、情熱を傾ける姿を見せました。
白熱のピッチも終盤に差しかかります。
8番手のアップセルテクノロジィーズ株式会社は、コールセンター事業で蓄積した「声」のビッグデータをもとに開発したAIプロダクト『PUT』で勝負。まるでオペレーターとつながっているかのようなストレスのない通話と、ヒトに代わる労働力としての期待を打ち出し、「世界で勝負できるユニコーン企業を目指す」と雄弁に語りました。
9社目にステージに立った株式会社Lboseもまた、熊本発のスタートアップ。
製造業を中心にDXの伴走支援を行う同社は、前日にリリースしたばかりのAI-OCRプロダクト『かんたん受注DX』に触れながら、こうしたソリューションと専門的知見を持つメンバーを掛け合わせ、「企業のDXの成功率を高めていきたい」と今後の展望を口にしました。
そして、ついにラストのピッチがスタート。
トリを務める株式会社 aiESG は、九州大学発のAIスタートアップであり、原材料を入力するだけで、すべてのサプライチェーンのESG評価を分析できるデータベースを独占保有。企業活動の「見える化」により、持続可能な経営とサステナブルな未来に貢献したいとステージから抱負を述べました。
審査員らからも、ピッチの内容をより深めることを目的とした鋭い質問が投げかけられます。
以上、10社のファイナリストによるピッチコンテストが終了。事業への深い使命感と熱意が漲る登壇者たちのスピーチは、瞬きするのも惜しいくらいの白熱した時間を創り出しました。
ここから優勝者が決まるまでの時間も、プログラムは盛りだくさん。少しの休憩を挟んで始まったのが、本日のスタートアップ展示会出展者による「スタートアップ1分間スピーチ」です。次のステージへの期待が膨らむ、独創的かつユニークな企業がそろっていました。
また、その後の「スポンサーあいさつ」に続いて始まったのが、過去の日本予選のチャンピオンによる「スタートアップワールドカップ地域予選代表パネル」。世界を知る二人が、世界に挑んだ経緯、それによって現れた周囲の変化や自身の心境の変化についてトークを交わします。
登壇したのは、下記の方たちです。
・【2023 世界決勝戦ファイナリスト】HOMMA GROUP株式会社|代表取締役 本間毅氏
・【2024九州予選優勝者 世界決勝戦ファイナリスト】株式会社StapleBio|共同創業者・取締役CSO 勝田陽介氏
・京都大学経営管理大学院 教授 山田 仁一郎氏(モデレーター)
トークの最後には、日本から世界にチャレンジするスタートアップに向け、それぞれ下記のメッセージを発信しました。
(本間氏)「これから大成功するビジネスをつくろうとしたとき、お客さんは日本人じゃない可能性が高いと思っています。世界を相手にしないと世界に名立たる会社はつくれないかもしれないと考えると、スタートアップワールドカップに挑むことは最初の入口になるはずです。」
(勝田氏)「自分を大切にすることは、自分を最大限に信じることです。その結果、たとえ失敗しようとも、その失敗を『経験』という言葉に置き換えれば、成功するときに必要なものになってきます。堀江さんも話していましたが、早く動くことが成功するうえで大切になると思っています。」
続いてのプログラムは「スペシャル対談」。ここで登場したのが、タレントの田村淳氏です。
対談相手を務めるアニス氏が質問を投げかける形で、田村氏はテクノロジーやイノベーションに興味を持ったきっかけから、自身が手がける遺書動画サービス『ITAKOTO』やオープンイノベーション施設のことまで、ざっくばらんなトークを展開。
ときおり観客席からの笑いを取りながら、アニス氏とのテンポの良い掛け合いで会場を大いに沸かせたのち、偉大な起業家を目指している本日の参加者に向けて、このようなメッセージを贈りました。
(田村氏)「一番重要なのは、思いに駆られることです。このピッチコンテストも、サービスの良さを伝えることは重要だと思うんですが、『なぜ自分はこれがやりたいのか』という思いや夢を一番に語らないことには、投資家やサービスを受ける人には刺さらない、と強く思います。
また、自分の夢や目標を語ったとき、それを止めようとする人がいたなら思い切ってリジェクション(拒絶)したほうがいい。そして、より自分の道を照らしてくれる人とつながり、ぜひ次の道を探してください。」
九州予選の優勝者発表もいよいよ…… の前に、この日一番の盛り上がりを見せた(!?)のが、熊本市のイメージキャラクター「ひごまる」と熊本県PRマスコットキャラクター「くまモン」による圧巻のダンスパフォーマンスです。
キレッキレに踊るくまモンと、その横で左右に揺れてリズムを取るひごまるの対比が印象的でした(笑)。
開始から4時間が過ぎてもまだ冷めやらぬ、興奮に包まれた会場に、ついにその瞬間がやってきました。10社のファイナリストと審査員がステージに勢揃いするなか、いよいよ結果発表です。
第3位に選ばれたのは、細胞医薬品『REC』の研究・開発を行うPuREC株式会社。
続いて第2位には、Co2の回収・分離技術で世界のカーボンニュートラル実現を目指す株式会社JCCLが選ばれました。
そして、九州予選のチャンピオンに輝いたのは、『塩分オフセット技術』で健康問題の解決を目指す、トイメディカル株式会社です。おめでとうございます!
見事、シリコンバレー行きの切符を手にした同社は、今度は日本代表として10月に開催されるスタートアップワールドカップ世界決勝戦に挑みます!
ステージの真ん中に立った代表の竹下英徳氏は、受賞の喜びをこのように語りました。
(竹下氏)「実は2020年の東京大会にも出場したのですが、そのときはまだプロダクトができておらず、今回の出場により、5年越しのリベンジができました。
当社の始まりは、人工透析を受けることになった僕の友人から『ラーメンが食べられるようになりたい』と、相談を受けたことでした。このように、世の中には病気によってQOLが下がって苦しんでいる人がいっぱいいます。しかし、『食』は人間の原点ですから、もっともっと楽しんでほしい。そう思ってこの事業を続けています。世界にこの事業が広がっていくといいな、と思っています。」
スタートアップワールドカップ2回目の挑戦で、世界への糸口をつかんだトイメディカル。
塩はどの国でも使われている調味料であることから、まさに“世界で戦えるプロダクト”といえるでしょう。実際、この5月にスペインで開催された欧州最大級の食品技術展示会でも健康食品部門の『Foodtech Innovation Awards2025』を受賞。すでに世界から熱い視線を受けています。
九州から世界へ。その挑戦に大きな期待を寄せたいと思います!
さて、熱狂渦巻いた九州予選に続き、『スタートアップワールドカップ2025日本予選』は、7月18日(金)に東京予選、8月22日(金)に東北予選が開催される予定です。トイメディカルとともに世界大会へと進む2社の決定が早くも待ち遠しいこのごろ。
その行く末と、大白熱必至の世界大会の様子をぜひウォッチしてくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!