2022年9月7日

話題のNFTを企業で発行するには? 出品のフローと注意点を総まとめ

さまざまなビジネスチャンスが見込まれ、世界的にも大きなトレンドになっているNFT。今後は一般的な企業での発行ケースも増えてくるかと思います。今回の記事では、アステリア社がNFTを発行した手順を追いながら、企業でのNFT発行で押さえておきたいポイントや注意点についてご紹介します。


こんにちは!アステリアのブロックチェーンエバンジェリストの奥です。
日頃、企業でのブロックチェーン活用を模索したり、YouTubeチャンネルで世界のブロックチェーン関連ニュースの解説をしたりしています。

さて、実はアステリアでは2022年7月に、主力製品の「ASTERIA Warp」の誕生20周年を記念した当社オリジナルのNFTアートを発行しました。発行したNFTは、一般応募による抽選配布とNFTマーケットプレイス「OpenSea」のオークションに出品し購入者に配布。これまであまり前例のない取り組みに、業界でも少し話題にしていただきました!

【プレスリリース】 ASTERIA Warp 20周年 記念サイトを開設「すべての“つなぐ”のそばに。」創業者による 開発秘話 や20年の歩みを紹介、周年記念キャンペーンも実施!オリジナル NFTアート作品 も作成! OpenSeaでオークションに出品予定 https://www.asteria.com/jp/news/press/2022/06/24_01.php

デジタル作品を唯一無二のものとして証明できる NFT(Non-Fungible Tokens)は、アート業界でデジタルアーティスト・Beeple(ビープル)のNFT絵画が最高額約75億円の値をつけて落札されるなどかつてない盛り上がりを見せました。日本でも6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2022」においてNFTの利用推進が明記されるなど、デジタル資産の普及は今後も拡大していくことが予想されています。

さまざまなビジネスチャンスが見込まれ、世界的にも大きなトレンドになっているNFT。今後は一般的な企業での発行ケースも増えてくるかと思います。そこで、今回の記事では、実際にアステリア社がNFTを発行した手順を追いながら、企業でのNFT発行で押さえておきたいポイントや注意すべき点などについてご紹介していきます

奥達男のプロフィール写真

奥 達男(おく・たつお)
アステリア株式会社ブロックチェーンエバンジェリスト・コンサルタント

ブロックチェーン技術の啓蒙及び技術適用された事業モデルの創生・推進、コンサルティング、提案、POC、技術の講義、サービス構築や他社主催セミナーへの登壇などを担う。一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)にて、トークンエコノミー部会 部会長、ブロックチェーンエバンジェリストを務める。

アステリアが発行したデジタルアートのNFT

今回アステリアがNFTとして発行したのはデジタルアート。
デジタル資産やメタバースを含めた未来のビジネスモデルを探るコンセプトシンボルとして、ASTERIA Warp20周年を記念した当社オリジナルのデジタルアートをデザインしました。


ASTERIA Warpで使用されているアイコン約300種類を使って当社ロゴをデザインしたデジタルアート19点は特設サイトからの抽選により無償で配布、さらに、2002年発売当初の製品ロゴ(ASTERIA R2)を復刻させた唯一無二の作品1点はNFTマーケットプレイスOpenSeaに出品し、オークションでの売上はウクライナ避難民の支援団体に寄付しています。

企業がNFTを発行するときのざっくりフロー

企業がNFTを発行する際、手順としては以下のフローとなります。
そもそもどのようなNFTを発行するのか? という企画に始まり、利用規約を作成したり、暗号資産を購入したりと、最終的には経理部門など企業のさまざまな人たちを巻き込む形になります。

社内で承認を取っていく過程においても「なぜNFTなのか?」ということをしっかりと軸を持って説明していく必要があり、その点をうまく突破できるかは担当者の力の見せどころです!

(1)何をNFTとして発行するのかを決める
デジタルアートなのか、物理的なものが結びついている権利なのか、何かの証明書なのか…
世界で発行されている様々なNFT事例を参考に、自社事業の特色を活かせるNFTを検討します。

(2)発行するNFTはどのようなNFTなのか
単純にデジタルアートとして所有するというのもOKですし、何らかの権利をNFTに付与するというのもOKです。

(3)出品するNFTマーケットプレイスを選択
海外だとOpenseaやRaribleなど、国内だとコインチェック、GMO… さまざまなマーケットプレイスがあります。自社が発行するNFTと相性の良いものを選びます。ちなみにアステリアでは「OpenSea」を選択しました(理由は後述)。

(4)NFTを発行するブロックチェーンの選択
Ethereum、Polygon、Solana など、ブロックチェーンには色々な種類があります。選ぶ際には 信頼性、情報の多さ、市場のシェア、手数料、ノード数、分散性 などを考慮することが大事です。

(5)経理部門との調整
NFTはブロックチェーン技術を使って発行しますが、NFTを発行する際に、使用するブロックチェーンに手数料を支払う必要があります。その支払いには暗号資産が使われるため、まずは暗号資産を購入する必要があります。暗号資産をどのように購入するのか? また、NFTで売り上げた暗号資産をどのように扱うのか、経理部門への事前確認が必須です。

(6)実際に暗号資産購入
暗号資産を購入します。アステリアでは Ethereumのネイティブ通貨であるEthを購入しました。

(7)利用規約作成
NFTの購入者に対する利用規約を作成する必要があります。購入者はNFTを購入することで、どんな権利を有するのか、そして、出品したNFTが流通する過程で何かあった場合のリスクについても利用規約でカバーする必要があります。

(8)NFTにする対象物を用意
OpenSeaで出品できるデータ形式はjpg、png、gif、mp4なので、今回用意したデジタルアートを jpgファイルにしました。ファイルサイズについては、あまり大きすぎるとIPFS(※)に保存する際や、保存されているファイルを確認する際に異常に時間がかかってしまうので、5MB程度に揃えました。

※IPFS:InterPlanetary File Systemの略で、分散型で管理されるファイルシステムのこと。NFTを発行する際、NFTに紐づいているコンテンツの保存先として、①誰かが管理しているサーバ(中央集権型)、②IPFS(分散型)の大きく2つに分かれます。NFTはブロックチェーンで管理されているので分散型になっていますが、紐づいているコンテンツを中央集権型のサーバに保持するとなると、そのサーバを管理している企業や団体の信頼性が必要となります。IPFSはこうした企業の信頼性を必要としない分散型の仕組みでコンテンツが保持されます。

(9)実際にブロックチェーンを使って、NFTを発行!
EthereumにNFTを発行するコントラクトをデプロイ(※)し、用意したJPGファイルをIPFSに保存。その保存先を含めたメタファイル(※)を用意した上で、IPFSに格納します。そしてそのメタファイル保存先の情報をNFTに含め、先ほどデプロイしたコントラクトにより、NFTを発行します(デプロイや発行には手数料がかかります)。

※デプロイ:ブロックチェーン(この場合はEthereum)にプログラムを配置すること
※メタファイル:NFTに関連する情報が入っているファイルのこと。例えば、デジタルアートのNFTの場合、デジタルアートの画像データの保存先の情報などがあります


(10)NFTマーケットプレイスへ出品(オークション)
(9)で発行したNFTを元に、NFTマーケットプレイスのOpenseaに出品します。
マーケットプレイス選びでは、有名どころを中心に、国内外のマーケットプレイスで検討しました。今回のように法人としてデジタルアートを出品する場合には、法人契約が必要なマーケットプレイスが少なくないことが分かりました(※ちなみに、個人で出品する場合も、審査などは発生します)。法人契約は、社内手続き等で時間がかかることが多いので注意が必要です。

色々と検討した結果、世界中に多くのユーザーを抱えていて、利用上の情報がネット上にも豊富なことからOpenseaを選択してみることにしました。Openseaでの出品方法は「固定価格出品」と「オークション出品」がありますが、今回は「オークション出品」を選択しています。オークションの期間や初値を設定し、出品手続きは終了です。

オークション期間になれば、自動的にオークションが開始され、オークション終了日に自動的に終了します。

(11)オークション開始・無料配布受付開始
(10)で設定した通り、自動でオークションが開始されます。
一方、別で用意していた無料配布の対象のNFTは、NFTを受け取るためのメールアドレスを入力していただくページを用意して、募集を開始しました。

(12)オークション終了・無料配布受付終了
(10)で設定した通り、自動でオークションが終了。最終的には0.15Ethで落札されました。無料配布の方は、おかげさまで沢山の方からの応募が集まりました。

(13)当選者の方にNFTを配布
応募の中から抽選を行い、当選したEthアドレスに、該当のNFTを送付して終了です。

NFTを受け取る人のためのサポートも

さまざまな苦労を乗り越え、無事にアステリアのオリジナルNFTが発行されました!(拍手!)

冒頭でご紹介したとおり、全部で20のNFTが作られました。1つは旧ASTERIA Warpのロゴを基にしたデジタルアートのNFT。ベースにはASTERIA Warpのアイコン300種類を使っています。

https://opensea.io/assets/ethereum/0x5435ccf8ba769e00e5250bd7a0265c7d36d3c745/20

このNFTはOpenseaで一週間限定でオークションに出品されました。
残り19のNFTは、Asteriaの文字のロゴを基にしたデジタルアート。それぞれのデジタルアートに1から19までの数字がナンバリングされています。

https://opensea.io/assets/ethereum/0x5435ccf8ba769e00e5250bd7a0265c7d36d3c745/3

こちらのNFTは、無料配布を行いました。古くから当社製品をご愛用いただいているユーザー様やパートナー企業様を始めとする方々にご応募いただきました。

ちなみに今回のNFT発行にあたって、急遽「ASTERIA Warp20周年記念オリジナルNFTアート作品を発行」や「暗号資産ウォレットMetaMask(メタマスク)インストール方法」などの動画も作成しました。OpenSeaを利用するにはそもそもウォレットを持っている必要がありますが、なかなか日本ではウォレットを持っている方も少ないため、このような動画を作成して、初めて入札しようとする皆さんのサポートをしました。

<作成した動画の一例>

企業がNFTを発行する際につまずきやすいポイント

以上が、今回アステリアでNFTを発行・配布するまでに行ったフローです。技術的な話が多くなりましたが、まず大前提として、NFTの発行にあたっては社内の様々な部門と検討していく必要があります。

特に、NFT発行までに時間がかかった点は2つあります。
1つ目は、何をNFTとして発行し、そのNFTはどんなNFTなのかを決めるという点です

NFTは、デジタルアート、ゲームアイテム、トレーディングカード、証明書…とここに書いたのは、ほんの一部ですが、様々なものへ応用が効く技術です。今回発行するNFTはどんな役割を持つNFTで、そのNFTはどんな価値を持っているのかをデザインし、了承を得る部分に大変時間がかかりました。

今回、NFTを発行する上で、社内に向けて、いろんな提案しました(メタバースで使えるデジタルアイテムや社員をアバター化したNFT、SDGsに関連したNFT、書家による記念書物NFT…)様々な案に対して、社内で議論を重ね、ようやくデジタルアートに決定しました。
また今後アステリアで発行するNFTには、単にデジタルアートという価値だけではなく、権利のようなものを持たせたいと考えているので、これは次の機会にぜひ実現したいと考えています。

そして、2つ目は、利用規約の内容検討、作成です
NFTの購入者に対する利用規約を作成するのですが、購入者がNFTを購入することでどんな権利を有するのか? ということだけではなく、出品したNFTが流通する過程で何かあった場合のプロテクトも記載する必要があります。これは言わば保険のようなものなので、しっかりと時間をかけて作ることで、企業としては安心な内容となっていきます。また完成した利用規約におけるリスクも明確に把握し、社内に認めてもらう必要があります。

様々なリスクを想定し、複雑なケースを想定した内容にする必要があります。入念に作業を進めるためにも、ここはしっかりと時間をかけました。

企業でのNFT発行の可能性とこれから

企業でのNFT発行にはいくつかの壁はありますが、適切な手順を踏めば、誰でも気軽にNFT発行にチャレンジできます。まだまだ黎明期の技術でもあるので、企業の話題づくりにもぴったりです。

仮にもし私が改めて、企業でのNFT発行に挑戦できるなら…
もっとたくさんの人を巻き込んで、コミュニティ前提のNFTを発行して運営してみたいなと企んでいます。他にも、話題のメタバースに絡んだ仕様のNFTにしてみたりもできるでしょうか。

NFTはいわば価値の塊です! その企業が提供する製品の開発背景やユーザーベネフィット、企業のパーパスなどを基点に、社内の幅広い部門の関係者と議論することも重要なプロセスです。これからNFTを発行しようと思っている皆さんは、こうした議論を経て自分たちが提供する必然性がしっかりと担保された”NFTコンセプト”を作り上げていってください

まだまだ挑戦は終わりません!
企業でのNFT発行については、アステリアにも知見が溜まっていますので、真剣に検討したいという方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。

最後まで読んでいただき、有難うございました!

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この記事を書いた人
奥 達男 アステリア株式会社 ブロックチェーンエバンジェリスト、コンサルタント。ブロックチェーン技術の啓蒙及び技術適用された事業モデルの創生・推進、コンサルティング、提案、POC、技術の講義、サービス構築や他社主催セミナーへの登壇などを担う。一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)にて、トークンエコノミー部会 部会長、ブロックチェーンエバンジェリストを務める。