2026年4月14日

ノーコードツール『Platio』で切り拓く、これからの林業。熊本県・小国町森林組合「電子入札アプリ」導入の裏側

熊本県小国町。270年の歴史を誇る「小国杉」の産地で、いま伝統と最新テクノロジーが融合しています。ノーコードツール『Platio』を活用し、定期開催する原木市に「電子入札アプリ」を導入。紙と鉛筆をスマホに持ち帰ることで、売り手と買い手、そして森林所有者はそれぞれ何を享受できたのか――。小国町森林組合の熱いDX物語をお届けします。


こんにちは。in.LIVEです。
今回は、熊本県阿蘇郡・小国町(おぐにまち)にある「小国町森林組合」を訪ねました。

この日は年25回開催される「原木市」の日。小雨の混じる寒い日でしたが、案内していただいた企画販売課 企画係長 入交律歌さんによると、「先週は、氷点下まで下がりました」とのこと。暖かいイメージのある九州ですが、山に囲まれた小国町の冬は、東北地方と変わらない厳しい寒さがあるそうです。

原木市の会場である広い敷地には、小国の山から切り出された『小国杉』の原木がピラミッドのようにズラリと並びます。その光景はまさに圧巻! なるほど、スギって一本ずつ売られているわけではないんですね……。

入交さん曰く、原木は、需要の高い3~4メートルごとにカットされ、直径を揃えた「山」単位で入札にかけられます。なかには一枚板のカウンターや家具になるような、一本で入札される立派な大径木も。

敷地を歩いていくと、人だかりを見つけました。入札の現場です。地元の材木店や家具職人に混じり、海外の輸出業者の姿もあります。そんな皆さんが手に握りしめているのは、スマートフォンです。

小国町森林組合では、2022年よりアステリアのノーコードツール『Platio』で構築された「電子入札アプリ」を独自導入しているのだそう。この日もアプリを介し、入札が行われていました。

「送信は終えましたかーー?」
そう声を上げるのは、法被姿で進行役を務める企画販売課長の梅木孝浩さん。このアプリの開発を主導した、いわば “林業DXの仕掛け人” です。

今回は、伝統ある市場にデジタルを持ち込んだ背景とその舞台裏を詳しく伺うべく、原木市を終えたばかりの梅木さんにお話を伺いました。

小国町森林組合 企画販売課長|梅木孝浩さん

熊本県阿蘇郡小国町出身。1994年入組。山林管理の仕事、原木市場の仕事を経験後、2017年から企画販売課に異動。山の現場を熟知し、建築現場のニーズとつなぐことができる数少ない職員として、阿蘇くまもと空港(WORLD’S BEST NEW AIRPORT TERMINAL2026世界第1位)や、エバーフィールド木材加工場(ウッドデザイン賞2025最優秀賞|国土交通大臣賞)など数々の建築物件への小国杉材の出荷を担い、産地と都市建築の両面を支える。

半世紀前から続く「原木市」と小国杉を取り巻く現状

先ほどはお疲れ様でした。まずは原木市の歴史や役割について聞かせてください。
原木市の仕組みが整ったのは50年以上前のことです。
それ以前は山の所有者が個別に仲買人と交渉していましたが、組合が窓口となって「市」を開くことで、買い手は欲しい材を買いやすく、売り手は適正な価格で販売できる、公平な流通が確立されました。
会場にはたくさんの原木が並んでいましたよね。毎回あんなにも並んでいたら、山が丸裸になるんじゃないかと心配してしまったのですが、企画販売課の入交さん曰く、「切るのが追いつかないくらいだ」と。
そうなんです。小国杉はいま、一番の成熟期を迎えています。戦後間もないころに植えた樹齢70年のスギがわんさかとあるんですよ。以前は、いま以上の高値が付いていたので、所有者さんもお子さんの結婚など、お金が必要なときに切って売るようなことをされていたそうです。
当時のライフスタイルが垣間見られるエピソードですね。

ただ、時代が進むにつれて価格は下降傾向にあり、所有者さんが売り時を見極めようとするうちに木がどんどん育ってしまい、今度は大きすぎて切るのが難しくなってしまいました。

さらには、高齢化や継承者の減少もあって技術者不足が課題になっています。経済林なので放置するわけにもいかず、国の支援を受けながら適切な手入れを行ったり、私たち森林組合でも林業従事者の育成を行ったりと、さまざまな取り組みを行っているところです。

「当たり前」のなかに隠れていた負担。アプリがもたらした驚きの業務効率

アプリを導入する前、原木市での入札現場はどのように動いていたんですか?
以前は、買い手さんが入札票に金額を書いて僕らに手渡ししていました。
僕らはその場で最高値を確認して落札者を読み上げ、落札した入札票を一人のスタッフに、それ以外の入札票は廃棄し、また次の入札へと進んでいました。

原木市が終わると、事務所に戻り、入札票1枚1枚を見ながら落札者の情報や落札額をパソコンに入力していきます。入力を終えたら、入札票の金額とデータに間違いはないか、二人体制でチェックします。その後、落札者に送る精算書や請求書、所有者さんに送る売上書の作成と発送を行い、完了です。この事務作業に、毎回2時間はかかっていました

現在も大量に保管されている、手書きの入札表

一つひとつ誤りが無いよう入念なオペレーションが組まれていることがよく分かります。入札票をアプリに置き換えたことで、どのような変化があったのでしょうか?
一つは、入札票を受け取る人を立てる必要がなくなりました。
入札金額を自動ソートして最高値を確認し、「完了」ボタンを押すだけで入札が済むようになりましたので、入札票をやり取りする時間も削減されています。

ただ、最も大きいのは、入札と同時にデータが確定することです。入力プロセスとチェック作業が不要になったことで、事務負担が劇的に軽減されました。正直、導入前はそれが「当たり前の業務」だったので課題だとも思っていませんでしたが、アプリを使ってみて初めて「実はこれって大きな負担だったんだ」と気づかされましたね。

「鉛筆のほうが楽」を「意外といいね」に変えた、現場主義の設計

アプリは梅木さんが主体となって開発を進めてこられたそうですが、工夫したポイントを聞かせてください。
買い手さんは高齢の方が多く、スマホをお持ちであっても電話しか使わないという方、アプリを使ったことがないという方もいらっしゃったので、一つの画面で入札を済ませられることを念頭に、スライドを必要最小限にして面倒だと感じない操作性を大切にしました。画面も入札票がそのまま表示されているようなイメージでつくっています。

あとは、入力が結構面倒なので、入札伝票の番号をプルダウンで選べば、原木の情報が表示され、確認後はそのまま入札できるようにしています。

先ほど画面を見せてもらいましたが、初見でも分かりやすく、操作も簡単だなって思いました。
入札者が手入力するのは金額だけです。その後、「入札」のボタンを押せば、リアルタイムで組合側の端末に情報が飛ぶようになっています。

とはいえ、「入札を紙からアプリに移行します」と、買い手さんにお伝えしたときには、さまざまな反応があったんじゃ……。
やはり、「面倒だ」「鉛筆で書いた方が楽」という声はあがりました。いままで何十年と、紙と鉛筆でやってきていますからね。
そうですよね。こうした声にどのように対応されたんですか?
初日に、すべての入札をアプリで行うのではなく、「まずは一部だけやってみましょう」と始めたんです。すると、思いのほかサクサクと進んだので、「じゃあ、次もアプリでいいですか?」「この次も……」と進めた結果、すべての入札をアプリで完結することができたんです
それは、誰にとっても大きな成功体験ですね!
買い手の皆さんからも「意外といいね」と。早い段階で理解を示していただけました。使い心地については、最初は「入札中に電話がかかってきたら困るね」といった声がありました。画面が切り替わってしまうので、アプリをすぐ再表示できるのか不安があったようです。ただ、いまでは「入札中だから、あとでね」と返されて、すんなり入札に戻ってこられます。
皆さん、すっかり使いこなしていますね。
そうですね。それから、今日のように雨が降って入札票が濡れてしまうと、鉛筆が走らなくなるんです。濡れて破れるリスクもありましたし、そもそも天気に関係なく「鉛筆の芯が折れて書けない」とかも。こういったトラブルもなくなりました。

ただ、スマホは充電が切れると入札ができないので、「しっかり充電してきてください」と、毎回、アナウンスしています(笑)。

小雨が降る中で行われた原木市

確かに!
試行錯誤した点に戻るんですが、入札の電子化って、ともすれば「森林組合が楽するためでしょう。買い付ける側にメリットはないよね」という声につながりかねません。そのため、「皆さんも便利になりますよ」という部分を、あらかじめしっかり設計しました。

その一つが集計画面です。これまで買い手さんは請求書が届いて初めて、どのくらいの量を、いくらで買ったのか、正しく把握できていたのですが、アプリではリアルタイムで確認できます
それは便利ですね。たとえば、予算オーバーを防げますよね。
そのとおりで、結構、好評なんですよ。「もう一山買ったら、トラック1台分になるな」「今日はここまでにしておこう」のような判断材料として使っていただいています。
現地に行かずとも入札できる点も、アナログから変わったことによる買い手側のメリットだと思うのですが、いかがですか?
そうですね。私たちも出品情報を原木市の前日までにアップしていますので、データだけで判断して入札される方もなかにはいらっしゃいます

それから、原木市が近隣で同日開催されるケースもあるんですよ。すると、前日までにうちの下見を済ませ、当日は別の会場から、こちらの入札にも参加する、という方も。次の予定があって最後まで参加できないという場合にも、アプリなら事前入札できます。皆さん、便利にお使いのようです。

買い手さんの時間の自由度を高めることにもつながっているんですね。あとは、アプリになったことで、「売れ筋」の傾向をつかめるようにもなったと思うんですが、成約率や成約単価の面でも効果は生まれていますか?
これまでは落札者の入札票のみを残し、ほかはすべて破棄していたため、価格差や入札数(=需要の高さ)といった傾向を読むことができなかったのですが、いまはこれらも可視化できるため、所有者さんに「こうした規格の需要が高く、単価が上がってきています」「このサイズで切ってください」といったことをお伝えできるようになりました。

デジタルが拓く、林業の新しい未来

アプリ導入後、同じく入札式で物品の売買をされているようなところから、視察や問い合わせが入るような動きはありますか?
たとえば、今年1月末には同じ熊本県の天草地域の森林組合で研修会を行ってきました。
熊本県が林業DXに注力していることもあり、うちのアプリを先進事例として紹介していただいたことがきっかけになったんですよ。
小国町の「電子入札アプリ」の誕生が良い波及効果を生んでいるんですね。今回はアステリア社が提供するモバイルアプリ開発ツール『Platio』を使って開発したとのことですが、同じツールを使って、今後挑戦してみたいことはありますか?
原木市においては、データ活用を販売後も広げたいと考えています。たとえば売れた原木は落札者がトラックで運び出すのですが、現在は、紙の購入リストと原木の伝票をドライバーさんが一つずつ確認して積み込んでいます。ドライバーが途中で交代すると、「これって積んだのかな?」と都度迷い、時間がかかってしまうそうで。
なるほど。積んだものにチェックを入れたら画面から消えていくような仕組みが加わると、その時間もなくなるし、積み間違えも防げるようになりますね。
そうですね。組合側も在庫を把握できるようになるので、そういうものができればな、と思っています。それから、せっかく『Platio』を使っているので、原木市以外の業務でも積極的な活用を進めています。

たとえば、私たちは木工所を持っているのですが、そこにある機械の点検にアプリを使っています。修理の必要有無も把握できるので、現場に行かずとも状況をつかめる点は、便利です。このほか、ドライバーのアルコール検査システムや、アルバイトの勤怠管理システムも運用しています。

バックオフィス業務にまで、『Platio』の活用が進んでいるんですね。
あらかじめテンプレートがたくさん用意されているので、頭に浮かんだアイデアを実行に移しやすいんですよね。まずは使えそうなテンプレートをベースにつくり、使ってみる。すると、新たな気づきが生まれ、使いやすいようにカスタマイズする動きへとつながっていきます。
現場のDXに『Platio』を有効活用されていることがよく分かりました。
最後に、梅木さんが考える「地域産業×デジタル」の可能性について聞かせてください。どのような介在の仕方だと事業がより便利に、そして楽になるのか、または人手不足を補えるのかなど、そういった点から考えていることはありますか?
山の管理にドローンを使ったり、危険な作業をロボットが代行したり。法令の壁はありますが、手間と時間のかかる部分をテクノロジーが補う未来は必ず来ると思っています。その変化に即応できるよう、いまのうちから備えておきたいです。それが、小国の山を、そして林業という文化を守ることにつながると信じています。

林業に関わるさまざまな取り組みを紹介する、森林組合の事務所

なるほど。林業という昔から日本に根付いてきた産業を支える上で、テクノロジーの活用は欠かせないものなんですね。in.LIVEでは小国町森林組合さんの活動を引き続き、応援しています。今日はありがとうございました!


いかがでしたでしょうか。270年の歴史を持つ小国杉。その伝統を守るということは、決して過去に固執することではなく、現代の道具をしなやかに使いこなし、次世代につなぐ「仕組み」を整えることなのだと教わった気がします。

梅木さんの「まずはつくって、使ってみる」という軽やかな一歩。
それが小国杉が見せる密度の濃い年輪のように、少しずつ、しかし力強く、日本の林業の未来を拓いていくのだと感じました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

関連リンク

・小国町森林組合「阿蘇小国杉のくらし」 https://ogunisugi.com/
・モバイルアプリ作成ツール「Platio」https://plat.io/ja/

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。