2021年11月10日

災害発生時の被災状況を報告するアプリを1日で作成! 熊本県小国町が取り組んだ ”現場主導のDX” 舞台裏

災害発生時の被災状況をリアルタイムで報告するスマホアプリをたった1日で制作し、活用していることで注目を集める熊本県小国町役場。自治体ならではの工夫やアプリ活用に至るまでの苦労など、防災DXの舞台裏に迫りました。


さまざまな業界で「DX」が進められる今、私たちの安心安全な暮らしを守る「防災」という分野でもテクノロジーの力が求められています。

そうした中、熊本県の北部の九州山地に位置する小国町(おぐにまち)では、災害発生時、どこでどのような被害が出ているのか、どの道路が寸断されているのか? といった情報を職員がリアルタイムで報告できる「被災状況報告アプリ」をたった1日で制作し、積極的に活用しているそう

電話や来庁者から報告される被災状況を大判の紙に手書きで書き込んでいた従来の方法から、現場の職員がスマホやタブレットを通じ、写真や位置情報とともにアプリで報告するスタイルへ。本部のモニターで町全体の被災状況を地図で素早く確認し、状況把握ができるようになったといいます。

また災害が起きたときだけではなく、職員の出勤管理や検温報告ができるアプリを自治体内で作成して日頃から活用することで、いざというときに職員たちが迅速にアプリを使って対応できるような仕組みづくりにも力を入れているそう。

今回の記事では、そんな小国町役場で ”現場主導のDX” を推進する職員のお二人にお話を伺いました。

小国町役場総務課 総務係長 松本徳幸 氏
小国町役場政策課 地域振興係長 長谷部大輔 氏

聞き手:アステリア株式会社 松浦真弓

最初の一歩は「検温報告アプリ」、テンプレートで見つけた可能性

もともと小国町では、コロナ禍での働き方として「検温報告アプリ」を導入されたんですよね。アステリアのモバイルアプリ作成ツールである Platio(プラティオ)をそこで初めて使ったと聞いています。
そうですね。Platioを使って自分たちで作成した検温報告アプリを2021年1月頃から関係者でテスト的に一ヶ月ほど使ってみて、問題なさそうだなという感触がつかめたので、庁舎内の全職員での活用をスタートしました。
もともとPlatioはこの検温を主な目的として使っていく予定だったんです。ところが、Platio内のテンプレートを色々と見ているうちに「災害報告アプリ」のテンプレートを見つけて、これは役場内でも使えるのではないかと

小国町の町域の約8割は山林で、そのうち約75%は「小国杉」と呼ばれるスギの人工林です。2020年7月に九州で発生した記録的な豪雨では、800箇所以上で水害が発生し、家屋への浸水や道路の分断なども多くありました。職員の人数も限られている中で、そうした被災状況の把握や報告には課題も感じていまして。
テンプレートがあるなら簡単に作れるのでは? という松本さんの気付きがきっかけだったのですね! ちなみに従来はどのような方法で被災状況の把握をされていたのでしょうか?
まだアプリを導入する前、約一年前の豪雨の時は、突然だったのでなにも準備していなかったんですね。初日はそんなに被害は多くなかったのですが、翌日から徐々に住民の方から電話があって、それを総務課の職員が書き留めて、それを壁に貼りだした大きな紙に道路とか家屋とか河川とかに分けて、手書きで書き出して…。2日目、3日目となると当然数が多くなってくるので、書き足すうちに重複が出てきたりということもありました。

次にExcelでまとめたのですが、そのデータを各課に展開して各職員が確認していくと、消し込み作業やフィードバックにばらつきがあって、本部としては被災場所や被害の全容がなかなかつかめなかったんですね。
現場の状況を報告するために役場に戻ったりと、職員の方の工数も増えそうですね。
はい。今のアプリができてからは、確認に行った職員がスマホやタブレットで写真を撮影して位置情報と一緒にアップすれば、すぐに本部も町長もリアルタイムに確認が出来ますから
この「被災状況報告アプリ」は1日で作成されたとのことですが、主にお二人で対応されていたんですか?
そうですね。小国では毎年梅雨前に町内の危険箇所のパトロールを職員たちが行っているので、もともとはその報告作業をアプリでできないかなと思っていたんです。今年の5月に「来月くらいには大雨が降るからそろそろやろうか」と話をしていた矢先に、全国的に一ヶ月ほど早い梅雨入りが発表されまして。

松本から「これ明日から使いたいから作って」と言われて(笑)。じゃあ今日中に作らないとってことで、テンプレートを編集して、今の形に近いものを作りました。
素晴らしいスピード感ですね! 「明日必要になるかも、じゃあもう今作ってしまおう!」というフットワークの軽さ、なかなか真似できないことだと思います。
さすがにそのときは突貫作業だったので、今の被災状況報告アプリにある ”報告の種類によってピンの色分けをする” とかそういった細かい機能はなかったんですよね。

幸いその年の梅雨では大雨に至らず、災害も一件もなかったのですが、このときに「各職員が写真を撮って、位置情報と一緒に被災状況を入力して報告ができる」というアプリのベースは出来上がりました。あとはそれがどういう災害なのか。例えば、家屋なのか河川なのか農地なのか、という項目ごとに色分けをして見やすくしたり、対応済みかどうかもすぐに報告できるようにチェックボタンをつけたりといった修正をかけていきました。
そうして完成した「被災状況報告アプリ」は、2021年8月2日、Platioを開発するアステリアと共同会見というかたちで発表されたんですよね。防災DXというキーワードや、テクノロジーを活用した新たな災害対策の取組みが重要視されている背景もあり、他の自治体からもすぐさま問い合わせが入るなど反響も大きかったと記憶しています。

小国町の渡邊誠次町長と、アステリア株式会社CEOの平野洋一郎氏

関連リンク:熊本県小国町が「被災状況報告アプリ」を導入し、災害対策を強化 https://www.asteria.com/jp/news/press/2021/08/02_01.php

アプリ発表の翌週に大豪雨!? 被災状況報告アプリ、デビュー戦の舞台裏

「被災状況報告アプリ」の発表をされたのは2021年8月頭でしたが、なんとその翌週に小国町は大変な豪雨に見舞われましたよね。
はい、まさにその豪雨が被災状況報告アプリのデビュー戦ともなりました。
実際に初日に運用してみると、やはり気づいた点がいくつかあったので、それを自分たちですぐさま修正する形でアプリをブラッシュアップしていきました。
いざ運用してみて、気になったポイントは具体的にどういうところだったのでしょうか?
たとえば災害対策の中でも特に重要なのが ”道路の寸断状況” でして、車両が通れなくなるだけでなく、例えば道路と一緒に電柱が壊れたり、ケーブルが寸断されてテレビが映らなくなったりと二次的な被害が大きいんです。そこで、道路の被災状況を早期に確認できるよう、通行できるかできないかをチェックボックスで入れられるようにしました。

また各被害の対応状況をオン/オフで切り替えられるようにしていたのですが、ここについては「対応済み/対応中/未対応」の3段階が必要では? と指摘があり、初日で修正をかけました。
そういった指摘は、実際にアプリを活用した現場の各職員さんから上がってくるものなんですか? それともお二人がご自身で提案をして改善していくんですか? 
町長交えての災害対策本部の会議があるので、そこで職員から意見があがってきますね。それが総務課から、政策課である私に伝わってくるような感じですね。
ちなみに現場の職員の方々からの反応、反響はいかがでしたか? 初めてその場でアプリを使うとなると、色々と意見も出てきそうですが。
特に不満の声が出たりすることはなかったですね。はじめは、従来の書面での報告もできるようにしていたので、使わない職員もいました。でも便利だと感じた職員は、特に問題なくアプリで報告していましたので、わりと抵抗なく受け入れられていると思いました。

たとえば、建設課の職員はすぐに道路状況の確認に行くのでその際にアップしていたり、ほかにも窓口業務の職員たちも、朝の通勤時に「あっ、ここ大変だ!」と気づいて、自分のスマホで写真を撮ってアップしていたり。「簡単に報告できて便利だ」ということがわかると、職種や年代を問わず、気軽に受け入れられるんだろうなという印象ですね。
現状は、全職員90名が自身のタブレットやスマホから報告できるようにしています。このときの豪雨でアプリを通じて報告された被災状況は30件ほどありました。

もちろん件数という成果だけではなく、このときのアプリ活用はテレビ熊本のニュースにも取り上げられ、熊本県の職員の方が話を聞きに来るなど、嬉しい反響もありましたね。これからもより自分たちのスタイルにあった形で、アプリを改善していきたいと思っています。

自治体でのDX推進に欠かせないのはステップを踏むこと

従来のやり方を重視する自治体でのDXというのは、なかなかハードルが高い部分があると思います。小国町で ”現場主導のDX” が成功したポイントはどこにあったと思われますか?
やっぱり小さなことから順番に、ステップを踏んだということでしょうか。 比較的ハードルの低い「検温報告アプリ」から始めたことによって、全員がアプリを活用する方向に向いたというのは大きかったと思います。一度アプリが使えるようになれば、報告のやり方はほぼ同じなので、「これもPlatioでできるんじゃないか?」って、なんでもアプリ化のアイディアを出してそれを実現できる道筋は出来たんじゃないかな。

そうそう、最近はタイムカードを廃止して、全職員の出退勤管理もPlatioでアプリを作成して使い始めたんですよ。
わあ、それは大きな改革ですね。職員の方からの反対意見はなかったですか?
勤務状況を自分の携帯から報告して大丈夫なのかとか、携帯が調子が悪く出勤が押せなかったらどうすればいいのかとか。そういった意見はありました。でもそれは別にアプリに反対しているわけではないので、細かい不安を取り除いてあげるのは大事なことだと思って一つずつ対応しています。各課にタブレットを配布しているので、携帯を使えない場合はここから報告してください、とか。正直ここまで進めるのは大変ではありましたが、これがクリアできれば、あとはもう大体のことは大丈夫! という手応えがありますね。

今となってはPlatioを活用するというスタンスが職員たちの中にもできつつあるので、アプリを作ってQRコードを配ったら、それぞれインストールやアップデートもすぐに出来るんですよ。今度からこれを使いますと一言言えば、そのまま自然に広がっていくような状態にはあるので、非常にやりやすいですね。
そういった基盤があったからこそ、今回の災害報告のような複雑なアプリも自然と受け入れられたのですね。まずは検温や勤怠の報告という簡単なところから始めて、その次に災害報告や、より複雑なアプリも手にとってもらう。素晴らしい広がり方だなと思います。このステップを踏んだ展開が、成功の秘訣かもしれませんね。

小国町で実現した ”現場発のDX” とこれから

現場発のDXとして、さまざまなチャレンジをされている小国町ですが、これから作っていきたいアプリや、こういう場面でDXを進めていけたらというイメージはありますか?
例えば、選挙の投票者数の報告。選挙当日に男女ごとの投票者数を電話で総務課に報告してもらうんですが、これもアプリでできるかな? とかね。(※注)

※実際、2021年10月31日の衆議院議員選挙では、Platioを使った投票者数管理アプリを活用

参考プレスリリース: 総選挙(10/31)での選挙管理委員会への報告業務をスマホアプリで完結!Platioで国政/地方選挙における自治体業務のDX「投票テック」が実現 https://www.asteria.com/jp/news/press/2021/11/01_02.php

他にも、役場の公用車を使う際に今はレンタカーのように目視で車体の傷をチェックしたり、実際、紙を持っていって十数件の項目をチェックしたりしているんですが、この辺もアプリを使えばもっと簡単にできるんじゃないかな…。コピー用紙の使用簿なんかも、アプリやセンサーで管理できたらいいなとか、アイデアは色々ありますね。
実際に作って動かすことも大事ですが、今ある課題から「これはアプリで解決できるぞ」と発想すること。そこを繋げられるスキルを持てることが、”現場主導のDX” において非常に重要なんですよね。
そういうアイデアや意見がもっと現場の職員からも挙がってくるようになれば理想的ですね。実際、Platioを使えばノーコードで誰でも直観的にアプリが作成できるので、まずはその基となるアイデアがあれば。
「自治体×DX」というのは非常に大きなテーマですが、これから取り組む人たちに必要とされるスキルやマインド、 よりうまく使っていくにはどういう心構えが必要だと思いますか?
長期的とまでは言わなくても、少し長いスパンで、あまりお金をかけずに、働いている人たちを楽にするにはどうしたらいいか? というのを考えるのが良いのかなと思います。

良い町のためには、という大きなテーマももちろん大事ですが、まずは自分たちの事務作業や対応業務を効率化した方が、早く仕事が終わって労働環境も良くなる。そうすると新しく良い人材も入ってきやすくなって、結果的に良い町づくりに貢献できる大きな改善につながると。最初からあまり気構えず、自分たちが楽になるようなステップから始めるのが大事かなと思いますね。
私は、最初は簡単なことから始めるということ。それから、プロジェクトの主軸になる人材が一人は必要だなと思います

小国町の場合は、たまたま長谷部君のような「最初なんでもいいから作ってみよう」と取っ掛かりを作ってくれる人がいたから、うまく転がり始めました。叩き台になるものがなければ、周りが意見することもできませんし、その良さを理解することもできませんので。
まず、小さなチャレンジから、ということですね。そして、アイディアの創出や、スキルの共有という点では、、Platioのユーザーグループというか、コミュニティみたいなものがあれば、ほかのユーザさんたちとも意見交換や助け合いができるかもしれませんね。レベルごとの掲示板があれば、「やっぱり、そこ、つまづくよね!」みたいなコミュニケーションがユーザー同士でできるようになったり。

これからも小国町のような ”現場主導のDX” が多くの自治体や企業でも進むように、我々も積極的に取り組んでいきたいと思います。貴重なお話とご意見をありがとうございました!

編集後記

まずは職員たちの検温報告という身近なところからスタートし、ステップを踏みながら、防災テック、投票テックと大きなDXにも取り組まれている熊本県小国町役場の皆さん。

その裏で活用しているアステリア株式会社のモバイルアプリ作成ツール Platio についても「パーツを組み立てるような感覚で簡単にアプリを作成できるので、現場で紙や電話で行っていたアナログ業務をすぐに移行することができた」と話してくださいました。

テクノロジーを活用することに対する心理的なハードルが低くなれば、アクションを起こすスピードはより早くなり、無駄もなくなり、高い生産性を実現できるはず。Platioを活用した小国町役場でのさまざまな取組み、今後もどうぞご注目ください!

参考リンク

熊本県小国町 公式サイト www.town.kumamoto-oguni.lg.jp/
モバイルアプリ作成ツール「Platio」 https://plat.io/ja/

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この記事を書いた人
松浦真弓 アステリア株式会社ノーコード変革推進室副室長兼エバンジェリスト。 大学卒業後、商社にて半導体のフィールドエンジニアとして勤務。3DCAD関連ソフトウェアの開発会社に転職し、製品企画、マーケティング、営業などの職務を経験。その後、IT企業にて、IoTのビジネスコミュニティ創立およびマネジメントに従事、IoTビジネスの支援やソリューション構築に携わった。2018年9月よりアステリア株式会社にて、事業開発と地域創生を推進する一方で、モバイルやクラウド、SalesTechなどの分野でエバンジェリストとして活動している。