2021年8月11日

IoTを活用したCO₂濃度の見える化を総務部だけで実現! 山梨県厚生連健康管理センターに聞いた、医療機関×DXの第一歩とは

山梨県最大規模の健診施設である山梨県厚生連健康管理センターにて、受診者やスタッフの方の安心安全な生活を守るために実現した、アステリア製品「Gravio」を活用したCO₂濃度の見える化。導入を担当された皆さまに詳しくお話を伺いました。


山梨県最大規模の健診施設として、県民の健康を長年に渡り支え続けている山梨県厚生連健康管理センター。コロナ禍においても真っ先に感染対策に取り組み、その一環として、アステリアが開発するGravio」のセンサーを活用した二酸化炭素濃度(CO₂濃度)見える化ソリューションを導入しています。

今回の記事では、実際にセンサーを活用している山梨県厚生連健康管理センターにお邪魔させてもらい、医療機関でのIoTの導入効果や、業務に携わるスタッフの皆さんの変化についてお話を伺いました。

山梨県厚生連健康管理センター
山梨県内を事業区域として、JA組合員をはじめ県民の健康を守るため、人間ドック、各種健康診断を行っている健診専門の医療機関。日本総合健診医学会の優良総合健診施設に認定されており、MRIやヘリカルCT等の先進医療機器を駆使し、医師や専任スタッフの最先端医療技術による精度の高い検査を行っている。https://www.y-koseiren.jp/

参事  齊藤 祐紀様(写真中央)
健康推進部 企画広報課長  志村 直樹様(写真左)
総務部 企画管理課長 兼 総務課長  桜田 一哉様(写真右)

山梨県内で12万人が利用する健康管理センター

本日はよろしくお願いします。今日は山梨県厚生連健康管理センターにお邪魔させていただきましたが、こちらはどのようなことを行っている施設なのでしょうか?
こちらはJA山梨厚生連(山梨県厚生農業協同組合連合会)が運営している健康管理センターで、山梨県の地域の方々や、JAグループの組合員やご家族の皆さん向けに、人間ドックや健診、健康教室などを行っています。

JA共済やJAバンクなど、JAグループの中には色々な組織がありますが、会員の皆さまの健康管理を行うのが、私たちJA山梨厚生連の業務です。もともと昭和61年に開設されたものを移転し、2018年にリニューアルオープンとなりました。

現在は「つなげるやさしさ。」プロジェクトとして、健診や受診の後押しなど健康寿命延伸に繋がる活動を幅広くしています。健診バスを使った出張健診もしていて、山梨県内では最大規模、年間約12万人の方に受診いただいていますね。

今回初めて訪れたのですが、細部までデザインにこだわっていて明るく、本当に素敵な施設ですよね。良い意味で病院らしくないというか…。
有難うございます。健診を受ける方が緊張感を持たずに受診できればいいなという想いで、受診者の方がリラックスして過ごせる環境づくりにこだわっているんです。「JA山梨厚生連の健康管理センターであれば、人間ドックや健診も年に何回か行きたい」と感じてもらえるような環境づくりを心がけています。

IoT機器の活用で、感覚的だった「密」を見える化

どのような経緯で、IoT機器を活用した感染症対策を検討されたのでしょうか?
コロナ禍であっても健康診断はとても大切ですし、私どもの施設では、各自治体への協力として新型コロナワクチンの接種も行っています。そうした中で、皆さんにできるだけ安心安全に受診してもらえるよう、基本的なマスク着用や手指消毒、換気、ソーシャルディスタンスの確保はしていましたが、課題も少しあって…。
具体的にどのような課題を感じられていたのでしょうか?
スタッフの目視による密の回避となると、全フロアにいるスタッフが「ここは少し人が多いな」という場所を確認して、受診者の方を誘導したり、待合人数を減らしたりするんですね。空気を循環させるための換気をした際に、受診者の方から、暑い・寒いという声が挙がったり、夏は虫が入ってきたりと、皆にとって心地よい空間にするのは難しいと感じることもありました。

コロナの影響で、現場のスタッフたちの仕事は非常に増えています。そんな中で人力だけで施設内の環境を対策していくというのは、スタッフの大きな負担になっていましたし、何より「密」というものを感覚的なものでしか判断できないことに課題を感じていましたね。


そこで「密」状態を見える化するという対策を検討されたのですね。
はい。GravioのCO₂濃度見える化ソリューションを導入し、センサーでCO₂濃度を測定して、基準値を超えると警告ライトにて換気の必要性を周囲に通知するという仕組みを構築しました

人が密集するとCO₂濃度が高まるという法則を活用したもので、GravioのCO₂センサーとディスプレイで二酸化炭素濃度の数値を表示させ、その濃度レベルをライトの色でレベル別に知らせています。

ライトが緑色だと「適正(800ppm未満)」、黄色に光ると「注意(800〜1,000ppm)」、そして赤色に光ると「要換気(1,000ppm以上)」と、受診者の方にも分かるような卓上サインも出しています。施設を訪れた皆さんがよく見えるところに設置することで、施設内のどの場所にいても安心して過ごしてもらえるように徹底しているところです。

確かに施設を見回すと、本当にどこからでも、このセンサーが目に入ります。施設内でどれくらい設置いただいているのでしょうか?
今は施設内の3フロア、合計14カ所に設置していますね。 人が集まりがちな受付の周辺や、待合スペースなどを中心に設置しています。

施設内の換気はもちろん重要なのですが、「とりあえず全開にする」というやり方では別の問題が出てきますし、明確な基準が必要です。さらに大切なのは、その基準が誰にでも分かることだと強く感じています。

単純に数値だけを測定する機器は他にもありますが、やっぱりその数値を誰かがずっと見ておくのもオペレーション的に難しいですし、数値だけを見ても一般の方はピンときません。Gravioのセンサーは、数値化して色で教えてくれるので、その場にいる受診者の方もスタッフも安心できるのが大きなメリットでしたね。

そう言っていただけて安心しました。もともとGravioを知ってくださったきっかけは何だったのでしょうか?
アステリアが愛媛県のHITO病院さんと発表されていたプレスリリースです。

◆エッジコンピューティングによる 3密回避 ソリューション HITO病院(愛媛県四国中央市)がIoTエッジウェア 『Gravio(グラヴィオ)』を導入。当社独自CO₂センサーの計測値から院内施設の 密 状態を見える化! https://www.asteria.com/jp/news/press/2020/07/02_01.php

厚労省の方からは施設内の二酸化炭素濃度が1000ppmを上回らないように、という具体的な数値が出ていたので、測定器について色々調べていたときにこちらの取り組みを見つけまして。すぐに問い合わせをさせていただいて、導入を進めましたね。
センサー導入後、現場のスタッフの皆さんや、受診者の方の反応はいかがですか?
これまでとは違って、「ライト黄色になったら換気!」と全員が明確に認識して、スタッフが速やかに対応してくれています。全フロアのセンサーの数値は、私の自席にあるパソコンにも飛んでくるのですが、私が現場を見に行くよりも先にスタッフが進んで動いてくれていますね。

あとは、受診者の方も、興味を持ってくださる方が多いです。やはり人間ドックを受けにきている方などは健康に対する意識も高いですし、待ち時間にセンサーが自然に目に入り、「科学的根拠に基づいた対策をしてくれるのは安心できる」とお声がけいただいたこともありました。

反応といえば、現在はGravioのセンサーを役員室にも置いているんですけど、こちらでも、黄色に光れば「窓開けましょうか」と、能動的なアクションが生まれています。役員層が進んで「密」対策に意識を向けることで、組織全体の意識向上につなげていきたいですね。

”ノーコード” だから、システム部門の手を借りずに実装完了

今回導入にあたっては、基本的に総務部の桜田さんが中心となって進めてくださいましたが、もともと桜田さんは、情報システム部門としての経験があったわけではないですよね?
一切ないです。正直なところ、コンピュータに詳しいわけでもありません。おっしゃるとおり、通常こういうシステムを導入するとなると、情報システムの部署が担当することになるかと思うのですが、今回Gravioの導入にあたって皆さんと打ち合わせやデモをしていただくなかで、「ノーコードであれば、私自身で構築できるんじゃないかな」と思いまして。 もし行き詰まったらシステムの部署にお願いをしようかなとは思いつつ、最初の問い合わせから2ヶ月後には、センサーの設置やソフトウェアの設定が完了して稼働開始しました。
システムまわりの経験が全くなく、情報システム部門の手を借りずともここまでお一人で対応できたのは凄いですね!
実際にデモをやっていただいたのはもちろんですが、本当にアステリアの皆さんが親身に対応してくださって。設定などでも分からないことがあったときに、オンラインで気軽に質問することもできたので、プロジェクトを一人で完遂できましたね。

別部署に新しく仕事を頼むとなると、なかなか負担に感じさせてしまうところもあると思うのですが… なんとか一人でここまでできてよかったです。
確かに、情報システム部署のメンバーも本業で手一杯なので、新しい施策まで手が回らないこともあったと思います。今回は特にコロナ関連で、急ぎで対応しなければいけないこともありましたので、桜田が迅速に判断し、アステリアの皆さんの手も借りながら、一人でプロジェクトを完遂してくれたのは助かりましたね。

セキュリティ周りのことは、逐一、情報システム部門に確認する必要がありましたが、Gravioはクラウドサービスではないですし、セキュリティ面で安全だったこともスムーズに進められた要因の一つですね。情報システム部門の手を煩わせずに、一人でも実装できそうだと感じたことが、Gravioを採用した大きな理由の一つでもあります。
そう言っていただけてよかったです!
Gravioの実装に関しては、実際にやってみた感想などありますか?
とにかく簡単でした。今回はセキュリティの検証などもあったので、問い合わせから実装まで2ヶ月ほどかかりましたが、すぐに取り掛かっていれば、センサーが届いた翌日とかにはできていたかもしれません。スマホを使っていない方や高齢の方でも、簡単に設定できそうだな、という感想です。

ピンチをチャンスに変える、医療機関 × DX の第一歩

医療機関として、迅速に、IoTやDXというテーマに取り組まれているのは素晴らしいことだと思います。
もともと私たちの3カ年の中期経営計画では「IoTを活用した健康管理システムの構築に向けた準備をすすめる」というものがあったんです。新型コロナウイルスの感染症対策としてスタートしたセンサーの導入ですが、今回の取り組みを足がかりに、さらにチャレンジしていきたいですね。
Gravioを活用して、さらに挑戦してみたいことはありますか?
気軽にできそうなものでは、例えば、今フロアに設置されているサイネージに、各センサーの数値を一覧表示させて受診者の方に見えるようにしたり、換気後の部屋の温度の変化が分かる温度センサーなどを設置したり…。あとは、私たちは外来診療も行っているので、混雑状況をカメラで自動把握してウェブサイトにリアルタイムで表示させたりできるようになればいいなと思っています。

他にも、現状、手書きで入退室管理を行っている部屋について、ドアの開閉センサーをカメラとセットで活用することもできそうだなと。IT技術を活用することで、組織のセキュリティという点でも、コンプライアンスが高められたらいいなと期待しています。今回のCO₂センサーの導入を皮切りに、今後さまざまな場面でIoTを活用していけたらという想いです。
楽しみですね。私たちの方からも色々とご提案できるようにしなければ。
他には、Gravioに限らず、医療機関で取り組めるDXとして、何かアイデアがあったりしますか?
やっぱり、ウエアラブルデバイスの活用には可能性を感じますね。病気を早期に発見することも大事ですが、それ以前に、病気にならない身体づくりのお手伝いをしていかなくてはいけません。私たちの健康管理センターでは、人間ドックを受けると、結果などすべて当日中にお渡ししていて、その日のうちに、医師や保健師、栄養士が指導をさせてもらうのですが、健康的なライフスタイルというのはなかなか一人では続けられなかったり、意識するのも年に一回だけだったり。受診したあとも、受診者の皆さんの健康を守っていく上で、ウエアラブルデバイスを活用して、ライフログを送ってもらったり、その上で健康指導をさせていただいたり。長期的なお付き合いができるきっかけになれたらと思っています。

他にも、AIを使った生活習慣病予測や、自分の撮ったMRやCTの画像を、VRで見れて、医師からの説明を受けられるようになるといいなと考えているところです。やはりただ画面上で見る以上に、自分ごととして捉えられると思いますので。

あとは、現在は「エスコート」と呼ばれる担当者がついて施設の案内をしているのですが、ここでも受診者をリラックスさせられるような可愛らしいロボットが、バーチャルなコンシェルジュとして案内してくれたり。
まさに未来の健康管理センターですね! 効率的で精密、かつ、ワクワクするような施設になっていることを感じます。これなら、一年に2回、3回と受診してみたいなあと思えるかも。
私たちの役員は、「ただの”健診屋”になってはいけない」と言っているんですね。まさにそのとおりだと思っていて、アミューズメントパークのような、行くのが楽しみになるような場所になれば、今私たちが目指している健康寿命の延命というビジョンにもつながるのではと思っています。

今回は「密」回避の対策としてGravioを導入はしていますが、コロナが収束したあとも、受診者の方が安心して健診が受けられるための施策として活用を続けていくつもりです。きれいな空気を可視化する、というのは、感染症対策でなくとも、ほっと安心できる空間づくりの一助として重要だと思いますから。Gravioの活用で、山梨県厚生連のIoTを進める足がかりができたと感じています。
受診者の方がほっと安心するような、温かい雰囲気を大切にされている健康管理センターだからこそ、空間づくりのアイデアも沢山出てきそうですよね。貴重なお話をお聞かせいただき、有難うございました!

編集後記

今回は、山梨県最大規模の健診施設として、県民の健康を長年に渡り支え続けている山梨県厚生連健康管理センターにお話しを伺いました。受診者やスタッフの方の安心安全な生活を守るために総務部だけでいち早く実現した、IoTを活用したCO₂濃度の見える化。

本事例は、アステリアが運営するGravioの事例サイトでも詳しく紹介されていますので、興味のある方はぜひご覧くださいね。https://www.gravio.com/jp-case-article/y-koseiren

なお、最近はCO₂センサーの精度についても話題に挙がることが多くなっています。簡単な検証動画をこちらで紹介していますので、気になる方はぜひあわせてチェックしてみてください。

最後まで読んでいただき、有難うございました!

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。