2021年10月27日

誰とも繋がらずにセルフケアできる世界を。自由だからこそ抱える悩みを癒やす、AIジャーナリングアプリ「muute」

ジャーナリングを手軽にできるサービスとして、主にSNS慣れしたZ世代を中心に人気を集めているAIジャーナリングアプリ 「muute(ミュート)」。グッドデザイン賞も受賞した注目のセルフケアアプリについてミッドナイトブレックファスト社のお二人に伺いました。


嬉しい、楽しい、悲しい、苛立ち、モヤモヤ…
私たちの生活の中でこうした感情をその時々では感じられても、それらの感情を深掘ったり、客観的に振り返ったりすることは少ないですよね。
たとえ嬉しいことがあっても、嫌なことで上書きされて忘れてしまったり、自分の感情や思考の変化にも気づきづらい人は多いのではないでしょうか。

これまではそうした感情の変化やモヤモヤを友人や同僚など誰かと話すことで気付きを得ていたという人も多いはず。しかし、コロナ禍で人に会う機会も減り、知らず知らずのうちに、日常の小さなストレスや悩みや不安を抱えたまま過ごしているということも少なくありません。

そんな中で注目されているのが、”書く瞑想” とも言われているジャーナリング。思いついたことをひたすら紙に書き出し「今ここに集中する」状態をつくりだす行為のことで、マインドフルネスの瞑想と同じような安らぎが感じられると言われています。

今回は、このジャーナリングを手軽にできるサービスとして、主にSNS慣れしたZ世代を中心に人気を集めているAIジャーナリングアプリ muute(ミュート)をご紹介。2021年度のグッドデザイン賞も受賞した開発会社の代表とプロダクトデザイナーのお二人に聞いた開発秘話に迫ります。

ミッドナイトブレックファスト株式会社 代表取締役 喜多紀正さん(右)

早稲田大学、ミシガン大学大学院理工学部卒業後、日系消費財メーカー、外資系戦略コンサルティングファームを経て現職。

ミッドナイトブレックファスト株式会社 プロダクトデザイナー 岡橋惇さん(左)

ロンドン大学(UCL)心理学部卒。⼤学在学中にグローバルメディア企業でキャリアをスタート。卒業後、クリエイティブエージェンシーや外資系コンサルティングファームを経て現職。

AIが思考と感情を分析しフィードバックをくれる「muute」とは?

実は私も以前からmuuteを使ってます。今日はお話を聞けるのがとても嬉しいです! 改めてmuute のコンセプトや概要について教えていただけますか?
はい。muute は、日常で感じたことを日記のように自由に書き出し、自分の感情と思考を振り返ることで新しい自分を発見するための「ジャーナリングアプリ」です。
「ジャーナリング」って、日本ではあまり馴染みのない言葉ですよね。
そうですね。日本ではまだあまり一般的ではないのですが、海外では気軽なメンタル・セルフケアのひとつとして、関連したアプリやサービスも色々あります。ミッシェル・オバマ元大統領夫人やレディガガさんらが、日常的にジャーナリングをしていることを公表したことで広く知られるようになりました。

自分の感情をジャーナリングを通じて振り返り、今まで気づかなかった自己の感情の揺れ動きや思考パターン、価値観や願望などを発見し、今まで知らなかった新しい自分を見つけることにつながると言われています。
いきなりノートを開いてその日感じたことを書く! となると構えてしまいますが、muuteを使うと、ガイドに従って入力するだけで自分の感情を含めた投稿ができ、週ごとの感情の揺れ動きや自分が今どんな感情の中にいるのかが視覚化されるのが良いですよね。

筆者の実際のmuute画面

ジャーナリングにあまり馴染みのない人にとって、自分と向き合って感情を言語化するのは結構難しいことなので、muute上では「満足」「ドキドキ」「穏やか」「不安」「疲れた」など、デフォルトで24個感情の種類を用意しています。

この感情を自分で選択したり、思ったことや考えていることを質問に答えながら書き出す方法で、気軽に一日の振り返りができるようにしているんです。
私も実際にmuuteを使う中で、ぼんやりとしたFeeling(感情)や、具体的な Thinking(テーマ)の選択から入力できる機能には助けられています。こうして気軽に続けることで、いま自分がどう思っているのか? 気づきがあるのがとても良いです。
ありがとうございます。こうして記録された投稿は、ホーム画面で感情のアイコンと一緒に一覧で表示されるんですが、この感情アイコンをそれぞれタップできるってご存じでしたか?
例えば「ワクワク」をタップすると、過去に書いた「ワクワク」の感情を持った投稿だけが表示されるので、ちょっと落ち込んでいる時に「ワクワク」を感じる投稿だけを振り返ったりもできるんです。
それは気づかなかったです! アナログな日記をつけるだけでは振り返りづらいことが、アプリだから一覧性のあるものにできますね。ありがたい機能です!
ちなみに muuteではAI技術を使って思考と感情を分析されているそうですが、具体的にどのような部分でAIが使われているのでしょうか?
ユーザーが選んだアイコンと、どういう言葉が紐づいているかを分析や毎週日曜日と毎月1日にユーザーに届くフィードバック「インサイト」(以下イメージ参照)は文章の生成などはAIが自動で行っています。

え! あのお手紙みたいなほっこりした文面はAIで生成されているんですね! すごく温かみがあるので、誰か人の手で書かれたものなのかなと思っていました。
はい、全て自動化されています。ユーザーが投稿した内容を私たちが見ているということは一切ありませんし、一般的なSNSのように誰とも繋がったりすることはないので、安心して使ってもらえたらと思います。

自由だからこそ抱える悩みがある。Z世代にジャーナリングの選択肢を

そもそもmuuteが誕生したきっかけは何だったのでしょうか?
私自身、ジャーナリングをやってたことがありました。ジャーナリングはペンと紙があれば誰でも簡単に出来るのですが、私の場合は書き出すことに加えて、同じくジャーナリングをやっている方々とお互いにフィードバックしあうことやっていました。もちろん書き出すだけでも気付きはあるんですが、フィードバックをされることによってより気付きを得れると感じていました。

実体験だけではなくて、Well-being(心身と社会的な健康を意味する概念)のトレンドやマインドフルネス(今、この瞬間に意識を向けること)のサービスが海外で非常に人気を集めていて、ここ5年〜10年くらいで、瞑想やジャーナリングアプリがすごく成長しているんです。このトレンドはいずれ日本にも来ると思っていたので、ジャーナリングとAIを掛け合わせ、デジタル上で提供したら面白いのでは? という気持ちがありました。
なるほど。ちなみに現在のmuuteのユーザーはどんな方たちが多いですか?
今は20~30代の女性たちに多く使っていただいています。実はもともと、20代前半ぐらいのZ世代をターゲットとしてプロダクト開発をスタートさせました。

Z世代はデジタルネイティブと呼ばれている世代です。誰もがSNSで繋がって情報収集し、簡単に編集して発信できる、非常に自由度が高い世代とも言えます。また価値観や生き方の多様化で、個人が個人として尊重されやすくなっている一方で、自由だからこそ抱える新しい悩みもあるということが、リサーチから分かってきました。

政治経済、テクノロジー、気候変動など少し未来の不確実性が高まっていて、その負担が自分たちにのしかかってくるっていうところも、現実的に理解している世代なんです。
そうした時代背景があるんですね。確かに最近は私たちも他人から押し付けられる「こうあるべき」というものがないからこそ、自分の考えや思想を明確に持つことが求められますよね。

実際にリサーチを進める中で「自分らしく生きたいけど、そもそも自分についてちょっとまだ良くわかっていない」というような悩みを抱えている方がこの世代の方に多いことが分かり、我々がこれを解決できないか? と思いました。

SNSを使うことに慣れていて上手なのですが、どうしても他人の目が気になってしまったり、本当の本音は言いにくいことがあるみたいです。これを「自己の空洞化」と呼んでいて、自分に立ち戻ってみると「自分は実は何がしたかったんだっけ?」とポカンと穴が開いているようなことがあると。そこをどう埋めていくのか? というところを考えていました。

そして、外から刺激を受けたり、情報にふれる機会は沢山あるけれど、自分と向き合うデジタル空間があまりないのでは? というところで、ジャーナリングという手法に着目しました。「あえてデジタルで繋がらない」という選択肢を提供することによって、自分と向き合ったり、心のセルフケアに活用してもらいたいという想いがあります。
ミュートというアプリ名には、“雑音をミュートしたデジタル空間”という意味も込められていると聞きました。明確なペルソナ設定や入念なリサーチのもと生まれたサービスだったのですね。リリースは2020年12月ですが、コロナ禍の影響もありましたか?
そうですね。Z世代に限らず、コロナ禍になって、より多くの方々がメンタルの不調を抱えたり、自分の内面に目が向くようになったと思います。そういった意味でも、社会的な流れとサービスのリリースがうまく重なったとは思います。

言語化しづらい感情の可視化で、幅広い世代に広まる

実際のユーザーさんからはどんな反響をいただいていますか?
「なんとなくただモヤモヤしていたのが、こういう風に言語化されてとても助かってる」という声をいただいています。アンケート調査でも9割方の方が、muuteを通じて、より深く自分を知ることができたと思っていることも分かりました。

昨年のリリースからすぐにSNSで話題になり、約1ヶ月でAppStoreランキングのヘルスケア/フィットネス領域で1位を獲得しました。これは我々も意図していなかったといいますか、驚きでしたね。
もともとのペルソナはZ世代とのことでしたが、実際には幅広い方々に届いたんですね。
そうですね。Z世代に使ってもらいたいと思っていたのはもちろんその通りになっているんですが、今の時代、Z世代であろうがミレニアル以上であろうが、デジタルで繋がりすぎていることに息苦しさを感じている方々は多いと思います。どの世代にもニーズはあるんだろうなと。
逆に、他のSNSのように「人に見られている」ということがないからこそ、続けるのが難しい部分もあるのかな? と思うのですが、muuteでジャーナリングを継続するために工夫されている点はありますか?
継続をサポートするわかりやすい例としては、他のサービスとの連携ですかね。
例えば今は「Spotify」などと連携しています。ジャーナリングって、本来は自分が書かないとフィードバックが返ってこないものですが、Spotifyと連携していることで、自分が聴いている曲が自動で記録されていきます。
なるほど! 確かに聴いてる音楽でテンションをあげる場合もありますよね。iPhoneだとヘルスケアとも連携しているようですが、歩いたり走ったりすることが、自分の感情と連動しているというところからなのでしょうか?
「思考」「感情」「行動」の三軸で自分をよりよく知るということを提供したかったんです。行動で一番簡単に取れるデータが歩数でした。
他にも、アプリをダウンロードしておくと「今日の言葉」というかたちでさまざまな格言が毎朝プッシュ通知される機能を追加しました。この格言のチョイスもすごく気をつけていて、ただ「頑張れ」「やれば出来る」みたいなものではなくて、「駄目でもいいんだよ」「悲しい時もあるよ」というような、すべてを受け入れてくれるような格言を選択しています。
あとは使いやすさ。UIをよりなめらかに、ストレスなく使ってもらえるように日々改善していますね。
muuteの公式インスタが、ライフスタイルメディアのようになっているのもいいですよね。読みものとして毎回楽しみにしています。
有難うございます。あれも自分たちで運営していますが、プロダクトの宣伝としてではなく、セルフケアに関連するコンテンツをを発信しているという感じですね。
アプリそのものの魅力はもちろんですが、その世界観がプロジェクトのメンバー皆さんに浸透しているのが素晴らしいですね。
ありがとうございます。muuteのゴールを含めて、我々が達成したいことをビジョニングセッションとしてチーム全員でアイデアを出しながらやったり、チーミングの時間を多めに取れるように意識しています。チームの仲が良いことも、ビジョン共有するには大事だと思いますね。

日常の生活の中で気軽にセルフケアできる世界に

セルフケアやメンタルに関するサービスだと専門の方が監修していることもありますが、muuteはそういうことは掲げていないですよね? 
今のところ監修はつけていないですね。あくまでも日常の生活の中で気軽にセルフケアするツールとしてサービスを提供したいという想いがありました。ジャーナリングを始めとするセルフケアが特別なことではなく、誰もがやっているような世界をつくっていきたいです。
今はサービス自体はフリーで出してるので、今後は有料のプレミアムプランも考えてかないといけません。まだタイミングは分からないですが、次の大きな変化になりそうです。あとは、習慣化しやすくするために目標設定ができるような新機能などの体験の改善も今後は検討していきたいですね。

※本取材はオンラインで行われました

編集後記

本記事を執筆した筆者自身、2021年2月からmuuteを使いはじめたのですが、muuteのおかげで、自分のストレス解消法がわかったり、一日の歩数が少ない日はネガティブになりがち… というような、これまで自分でも知らなかった新たな発見がありました。
今や誰もがSNSを使いこなす一方で、それによってストレスになっていることも多い時代。日本でのジャーナリングの習慣はまだ始まったばかりですが、muuteというアプリをきっかけに、自身でセルフケアできる人が増え、自分のことを知るきっかけになったら幸せですよね。これからのmuuteの自然な広がりが楽しみです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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この記事を書いた人
成瀬夏実 フリーランスのWEBライター。2014年に独立し、観光・店舗記事のほか、人物インタビュー、企業の採用サイトの社員インタビューも執筆。個人の活動では、縁側だけに特化したWEBメディア「縁側なび」を運営。