2023年9月22日

【防災の日・特集記事】予測できない気象災害。今すぐできる“スマホの中の防災対策”とは? フジテレビ 気象プロデューサーに聞いてみた!

フジテレビにて気象プロデューサーとして活躍されている川原浩揮さんに、大雨や台風などの気象災害への備えについてお話を伺いました! いざという時に使える便利なサービスや、いま話題の “フェーズフリー” という考え方、また気象災害が起きた際に企業が地域のためにできることとは?


毎年9月1日は「防災の日」。この日は関東大震災が発生した日であり、全国的に台風シーズンを迎える時期でもあることから、防災への心構えを準備するという意味で「防災の日」に制定されています。さらに今年は、1923年に発生した関東大震災から100年という節目にあたります。

改めて、私たちが防災について考え、自分を守るため、そして大切な人を守るための具体的なアクションについて学ぶ機会にするために、in.LIVE では、防災に関わる最新情報を持つ専門家の方にお話を伺っていきます。

本記事では、フジテレビにて気象プロデューサーとして活躍されている川原浩揮さんに、大雨や台風などの気象災害への備えについてお話を伺いました。いざという時に使える便利なサービスや、いま話題の “フェーズフリー” という考え方、また気象災害が起きた際に企業が地域のためにできることについて、一緒に学んでいきましょう。

お話を伺ったのは……

フジテレビ 気象プロデューサー 気象予報士 / 防災士 川原浩揮

フジテレビ 気象プロデューサー 気象予報士 / 防災士
川原浩揮(かわはら・ひろき)さん

1978年、愛知県生まれ。フジテレビにアナウンサーとして入社後、希望して制作の現場へ。報道局で社会部記者として警視庁捜査一課を担当。その後、情報制作局へ移り、「とくダネ!」「グッディ!」「バイキングMORE」で、ディレクター、演出、プロデューサーを歴任。去年夏に気象センターへ。夕方ニュース「イット!」でスタジオ解説を務めるほか、最新の気象情報からオススメの食べものを予報する「食べヨミ」(協力:日本気象協会)など、新規の気象コンテンツ開発を手がける。

気象災害は予測できるもの? 異常気象で変わりつつある現状

田中伶
今日はよろしくお願いします!
まずは川原さんが詳しい「気象災害」について、他の災害との対策の違いなどについて教えていただけますか。
川原浩揮
台風に関しては、“何日後に来る”という予測ができる気象災害だとよく言われています。防災という観点で言うと「タイムライン」という考え方が重要で、例えば、三日前までには何をしよう、二日前には何をしよう、一日前からはこうしよう、という段階的なアクションです。

身近な台風のケースだと、自分が住んでいる地域にくる三日前までは「確認」をする。ハザードマップや避難所の確認ですね。そして二日前になったら「準備」。避難をする際に持って行くものを準備したり、家にとどまる場合に必要な物を買い足したりして備えます。
そしていよいよ一日前は、命を守るための「行動」の日。避難所に行ったほうが安全な場合は、状況が悪化する前に避難所に行っていただきたいですし、家にいたほうが安全な場合は家の二階部分で過ごすなど、居場所も含めて身の安全を守る状況を作る必要があります。
田中伶
あらかじめ段階的なシミュレーションをしておけば、当日になって「どうしよう」と焦らずに済みそうですね。一方で、最近では気候変動などにより、突然の異常な大雨による深刻な被害が日常的に起きているように感じます。
川原浩揮
まさにそうなんです。年々、「ゲリラ雷雨」や「線状降水帯」という言葉をニュースで耳にする機会も増えていますよね。これらは突然現れ、どこで起きるか分からない上に、どれくらいの被害が出るかわからないというのが特徴です。

雨の降り方、土砂の崩れ方、川の氾濫の仕方、都市部の冠水の仕方…。
世界有数の優秀な予報能力を持っているといわれる気象庁のコンピューターをもってしても、「ゲリラ雷雨」など激しい雨をもたらす積乱雲がどこに発生するか? ということを正確に、余裕を持って予測するのは非常に難しいことなんです。「これぐらいのことが起きそうだ」という予測や考えを上回るような被害も起きていて、これまでの常識の範囲を上回ってくることもあります。

これまで通用してきた対策では足りないというのが現状です。常に、予想を上回るような状況があるかもしれないと心がけることが、まず第一に重要です

気象災害において、今すぐできる “スマホの中の備え”

田中伶
予想を上回る可能性もあるという中で、普段の備えとして私たちができる具体的な対策はあるのでしょうか。
川原浩揮
普段の備えとしてぜひおすすめしたいのは、災害が起きたときに使える情報やサイトを事前に整理しておくこと。スマホのホーム画面にひとつフォルダを作っておいて、「何かあったらここを見よう」というサイトやアプリをまとめておくのが便利です

普段から見ることはあまりないかもしれませんが、気象庁のサイトにも有益な情報がたくさんあります。たとえば『キキクル』ってご存知ですか?

田中伶
キキクルですか。初めて聞きました。
川原浩揮
キキクル(=危機来る)という名前のとおり、雨が今どう降っているか、土砂災害・浸水・洪水の危険性が今どれほどあるかというのを、それぞれ地図上で色分けして表示し、どんな行動を取ったらいいかを視覚的に教えてくれるWebサイトです。

気象庁が提供しているもので、全国地図から見ることができるので、例えば離れた場所に住んでいる家族の近所の状況などもリアルタイムで確認できます。

気象庁「キキクル」:https://www.jma.go.jp/bosai/risk/ (画像はイメージ)

川原浩揮
黄色は「注意(警戒レベル2相当)」、赤は「警戒(警戒レベル3相当)」、紫は「危険(警戒レベル4相当)」。さらに黒は「災害切迫(警戒レベル5相当)」、災害がすぐ間近に発生している可能性が高い状況を示していて「直ちに命を守る行動を取ってください」というメッセージになります。
田中伶
今どれくらいの危機感で行動したらいいのか? は、◯◯県南部、みたいに広いエリア報道されているとあまりピンと来ないことがあるんですよね…。キキクルだと、色別で表示されるので、説明がなくても分かりやすいですね。「紫になっているからすぐに避難して!」と、離れた場所に住む家族にも伝えやすいなあと…。
川原浩揮
そうなんですよ。初めて見てもひと目で分かるという特徴があります。
実はキキクルの良いところはもう一つあって、それがハザードマップを重ねることができるという点なんです。例えば土砂災害のキキクルでは「土砂災害警戒区域等」というボタンがあって、ここをクリックするとキキクルの地図上にハザードマップを重ねられます。 自分や家族が住んでいる場所が土砂災害警戒エリアにないか? そしてその場所がピンポイントでどういった状況になっているのか? それが同じ画面で見られるのは非常に便利です。

気象庁「キキクル」:https://www.jma.go.jp/bosai/risk/ (画像はイメージ)

田中伶
こんなサービス、そして機能があったとは、全く知らなかったです…!
川原浩揮
またハザードマップといえば、最近は『重ねるハザードマップというものが国土交通省のサイトで見られるようになっています。スマホで見ると現在地とも連動させられるし、洪水、土砂災害、高潮、津波などについて、ボタンひとつでリスクを重ねて見ることができるんです。さらに「避難所ボタン」を押すと、自宅周りの避難所が表示されます。

国土交通省「重ねるハザードマップ」:https://disaportal.gsi.go.jp/maps/index.html (画像はイメージ)

川原浩揮
避難所は、地図上でそれぞれのマークを押すと、さらに、どんな災害のときに使える場所かが表示されます。
災害のときに使う避難所を決めたら、一度、ご自宅から避難所までのルートを、災害を想定しながら歩いてみることをおすすめします。ハザードマップを参考に実際に歩いてみると、ここのルートは大丈夫だなとか、津波のときにはこっちの道は使えないな、といったことがわかるんです。ぶっつけ本番にならないためにも、余裕があるときにぜひ一度試してみてください。
田中伶
ハザードマップって、昔は区役所に貰いに行ったりしていましたよね。こんなに進化しているとは知りませんでした! 近隣の避難所は認識していたけれど、確かに状況によっては解放されない可能性もありますね…。
川原浩揮
そうなんです。それからもうひとつ、東京都が作っている『東京都防災というアプリも素晴らしいのでぜひダウンロードしてみてください。こういう災害が起きたら、どんな状況が起こりえるか? 何に気をつけたらいいのか? といった一般的な情報が、すごく見やすくまとまっています。都民向けのページもありますが、エリアを問わずに使える情報が満載です。こうしたエリアに特化した防災アプリやホームページも色々とありますので、ご自宅がある地元自治体の防災ページを一度検索されるのもおすすめです。

また、日本気象協会の『知る防災』というページもあります。
東京都防災のアプリと同じように、災害ごとに何が起こりうるか、そういった状況では何をどうしたら良いのかが一画面でシンプルに把握できます。こちらも何かあったときに非常に頼りになります。
田中伶
毎日アプリを繰り返し開いてみるというのは、ちょっとハードルが高いですが、時間があるときにアプリをダウンロードしておいて、自分のスマホの「防災フォルダ」に入れておく。どんな情報があるのか一度開いて見ておく、というのは今すぐにできますね。

川原浩揮
はい。防災対策=物資の備え、という印象が強い方も多いと思いますが、それ以外にもできることはたくさんあります。“スマホの中の備え”、ぜひ皆さんやってみてください。

“備えない防災” フェーズフリーという考え方

田中伶
続いて、最近メディアで見かけることもある「フェーズフリー」という考え方について教えていただけますか。
川原浩揮
“備えない防災”とも呼ぶことがあるようですが、フェーズフリーというのは、日常と災害が起きたときの垣根をなくすこと。普段から使用しているものやサービスを、日常時だけでなく非常時にも役立てるという考え方ですね。

防災対策の重要性は分かっていても、今日いきなり防災グッズをひと通りそろえることができるかというと、なかなか難しい。まずはできる範囲から、日常使いするものをちょっと多めにそろえておくとか、もしもの時にも使えそうだなと思ったものを1個買い足しておくとか。普段の生活の中に取り入れることで、有事の際にプラスに使えるというものなんです。

田中伶
非常時のための物資を買うというよりは、いつものお茶や水、電池を多めに買っておいたり、ちょっと早めに買い足しすることを心がけたり。日常の延長のようなものなんでしょうか。
川原浩揮
まさにそんなイメージです。あとは見落としがちですが、普段から使っているモバイルバッテリーの電池を満タンにしておくことも、立派な防災習慣ですよ!

防災グッズをいきなり全部揃えるのはハードルが高いですが、こうしてフェーズフリーの考え方で少しずつ防災の意識や習慣を取り入れていく。すると「次は手動発電式のバッテリーも持っておこうかな」と、少しずつ次のアクションへの扉が開かれていくと思います。

災害が起きたときに、企業ができる役割とは

田中伶
少し話が変わるのですが、防災意識を高めるために、また実際に災害が起きてしまった際に、企業としてできるアクションにはどんなものがありますか?
川原浩揮
そうですね。最近は、被災地に企業の方が資材や商品を送ってくださったり、ボランティアに出向いてくださったりすることが年々増えているように感じています。「大雪の影響で国道で立ち往生が起きた」という情報が広まると、周辺の企業の方がお弁当を持って差し入れに来てくれたり、運転手の方がトラックに積んでいた荷物の中の食べられるものを配ったり。

現場にいた社員さんが独自の判断でやられているのか、企業が元々そういう方針を持っているのかまではわかりませんが、社員の方が「会社に怒られるかも…」ではなく、咄嗟の判断でそういう行動を取られているとしたら、企業の防災意識としても素晴らしいと思うんですよね。

田中伶
なるほど…。地域に何かが起きたときにどういう役割を果たせるか? ということも、考えて準備しておけると良いですね。非常時における共通の認識を、社内でも持っておけると心強いです。
川原浩揮
最近では、BCP(事業継続計画)という言葉もよく聞くようになりました。これは、自然災害などの有事の際にも、企業活動を継続、もしくは早期に復旧できるよう、その備えを普段からしておく動きを指します。例えばものをつくる会社であれば、企業活動を継続すること(=ものを作り続けること)が、被災地にとっての支援になるし、復旧の際の柱になったりするんです。

企業として、自社の社員や家族の安全を守る役割はもちろんですが、地域に対して果たす役割についても社内で議論できるとベストですね。

ご存知のとおり、今年は関東大震災の発生からちょうど100年の節目に当たります。
改めて防災に気を向けられる方も多いと思うので、家族や同僚と気軽に話してみてください。それこそが防災の第一歩になると思います。
田中伶
早速、身近な人たちと話してみようと思います。本日はありがとうございました!

編集後記

取材が行われた、フジテレビオフィスからの景色

以上、今回はフジテレビで気象プロデューサーとして活躍されている川原浩揮さんにお話を伺いました。川原さんがおすすめされていたアプリやWebサイトを実際に見てみると、日常から活用できるさまざまな情報が想像以上に分かりやすく網羅されていて、今このタイミングで知っておけてよかった! と思うことばかり。

また取材の中では、最近のテクノロジーの進歩によって、気象予報もどんどん進化しているというお話もありました。台風が来るときの進路を予想する「予報円」というものがありますが、この精度がどんどん上がっていて、予報円のサイズが去年に比べるとコンパクトになり、よりポイントを絞って把握できるようになっているのだとか…! 視聴者としては気づきにくい変化ですが、その裏には、予測技術の進歩、またそれだけの計算を可能にするコンピューターの技術の進歩があります。

こうした未来の技術革新にも期待しつつ、今一人ひとりができる備えをしっかりして、安全と安心を確保していきたいですね。

最後まで読んでいただき、有難うございました。

この記事がよかったら「いいね!」
この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。