2018年5月24日

3Dデータを活用したデジタル接客の最前線!バーチャル時代を追い風に変える、PARCOのリアル店舗集客術

『カエルパルコ』『VR PARCO』など、テクノロジーを活用した新たなショッピングスタイルを提案し続けるPARCOが、昨年12月に3Dスキャナを使った試着サービスをスタート。サービスの概要、導入の背景について伺いました。


こんにちは。ライターの香川妙美です。
今回は、株式会社パルコが運営するファッションビル「SR6」(東京・渋谷)におじゃましてきました。

こちらでは現在、MARK STYLER株式会社がショールーミングストア『RUNWAY channel Lab. SHIBUYA』を展開中。「MERCURYDUO」「dazzlin」といった同社人気ブランドの最新作が一堂に展示された店内には、お洋服に混じって(というよりも堂々と!)、巨大3Dスキャナが設置されています。

3Dスキャナで試着姿を撮影し、出力されたQRコードにスマホからアクセスすれば、後ろ姿はもちろん、頭上から足下まであらゆる角度から、着こなしをチェックできるのです。

「気になるお洋服を試したものの、鏡だと後ろ姿など細かいところまで印象がつかめない」。
そんな悩みを過去のものに変えてしまう、最先端のデジタル接客をin. LIVEが体験してきました。

お話を伺ったのは、株式会社パルコの安藤寿一さんです。

株式会社パルコ グループ ICT戦略室 安藤寿一 さん

2013年株式会社パルコ入社。静岡PARCO・宇都宮PARCOの営業担当を経て、2017年9月にグループICT戦略室(現職)に異動。主に3DやVR技術に関する業務を担当。

早速、3Dスキャナを体験してみました!

PARCO SR6に設置された、全身の撮影ができる3Dスキャナ
今日はよろしくお願いします!
早速ですが、3Dスキャナを体験させてください。中に入ってもいいですか?ライトが点灯しているからか、中はほのかにあったかいですね。
どうぞどうぞ。真ん中に立ってもらってもいいですか?
360度どこからでも撮影できるので、どの向きでも大丈夫ですよ。
じゃあ、せっかくなんで、失礼して後ろ向きでお願いします(ポーズも取っちゃおう)。
3Dスキャナを使って撮影してくれる安藤さん。まるでDJブースのよう!
では、動かないでくださいね。撮影しますよ。
(5秒後) はい!OKです。
えっ、もうおしまいですか?
撮影自体はこれで終わりなんですが、ちょっと待ってくださいね……あ、出てきました。画像を見るには、このQRコードが必要になるので。はいどうぞ。
3Dデータが閲覧できるURLをQRコードで受け取る
ありがとうございます。このQRコードをスマホなどから読み込めば、画像にアクセスできるんですね。
そうです。処理に少し時間がかかるので、30分後にアクセスしてみてください。

〜 30分後

あ、出てきました。すごーい!自分の姿が3Dデータ化されてる!
指でスライドすると、クルクル回転して後ろ姿のチェックもできる。へえ、わたしの後ろってこんな感じで見えてるんだ。あっ、頭頂部まで(笑)。
指で画面をなぞると、3Dデータになった自分をあらゆる角度でチェックできる!
自分の後ろ姿や頭頂部なんて、見る機会なかなかないですもんね(笑)。あとはピンチアウトで拡大して、生地の質感を見たりもできますよ。
いやあ、こんな体験初めてです。撮影自体もそうだし、体験の延長を持ち帰られるだなんて、家に帰ったあともワクワクしてしまいますね。

今日はこの体験を提供することになったいきさつや、パルコのテクノロジーを活用した新たな取り組みなど、色々とお伺いさせてください。よろしくお願いします。

テクノロジーの活用による商業施設の新しい楽しさを創造

3Dスキャナが設置されたPARCO SR6の外観
PARCOにはもともと“ファッション文化の発信地”というイメージを持っているのですが、近年はそこにテクノロジーが掛け合わされ、かなりエッジが効いているなあと感じています。

昨年、Web 上でPARCOの店頭商品の取り置き・購入ができる「カエルパルコ」内に、バーチャルショッピングを体験できる「VR PARCO」が期間限定でオープンしたと聞いたときには、それだけでワクワクしてしまいました。

洋服を買うという行為はもとより、この体験がしたいというユーザーの欲求をぐいぐい掻き立てますよね。こういったテクノロジーの活用は、ファッション業界、また小売業界としてみても先駆者的な試みに映るのですが、力を入れるきっかけは何だったのでしょうか。

カエルパルコ内に期間限定でオープンした「VR PARCO」
リテールの分野における ICT の活用は、他と比べて遅れをとっているといわれています。例えば、昨今はAIやVRが話題になっていますが、店頭で活用してお客様の心を満たすという点は、まだまだこれからかな、と。

話は変わり、パルコは、社会活動の一つに、“新しい才能の発見と応援”を掲げており、インキュベーターとして若手ファッションデザイナーや日本のモノづくりを応援しています。これはIT に関しても同じスタンスです。ファッション・リテール 分野でのITの活用方法を開拓し、新たな消費体験を率先して提供できれば。そんな使命のもと、積極的に取り組んでいます。
今回の3Dスキャナは、どういった経緯で導入に至ったのでしょう。発想の起点となったものってありますか。
VR技術を応用したサービスを手掛ける、株式会社Psychic VR Labさんから提案を受けたことがきっかけです。お客様の試着した姿を3Dデータにすれば、着こなした画像をぐるぐる回して見ることができると聞き、これなら実店舗に近い接客をWebでもできるなって。

店舗にいれば、商品をすみずみまでチェックできますが、ショップブログやカエルパルコだとなかなかそうはいかない。「襟の部分はどうなっているんだろう」など、痒いところがどうしても出てきてしまうんですよね。そういうお客様の「もうちょっとこうだといいな」に応える策として、3Dスキャナはいいな、と。さらには撮影した画像をスマホから見ることができるので、試着体験を外に持ち出せる感覚も新鮮に感じました

※ PARCO SR6 での3Dスキャナの展示は2018年5月末までとなっています

お客様が3D撮影自体を楽しんでいる

テナントの2階に設置された3Dスキャナ
導入にあたって、大変なこともあったと思うのですが。たとえば、セッティングとか……
セッティングは大変でしたねえ。見てのとおり、大きいんですよ。天井ギリギリまで高さがあるので。当初、他の拠点に導入する案もあったのですが、設置が難しいため、SR6に置くことになりました。組み立てからセットアップまで、1日がかりでした。
テナントさんは、戸惑ったんじゃないんですか?
マークスタイラーさんは、SR6を自社のオンラインストアと連動したショールーミングストアとして活用したいという意向をお持ちでしたので、3Dスキャナとの親和性は高いと考えていました。ですので、試着してネットで買うという体験をお客様に提供したいのであればと提案したところ、「おもしろい。ちょっとやってみましょう」と言っていただけました。
お客様の反応は、どうだったんでしょう?
「わー、すごい」「これどうなってるの?」といった感じでしょうか(笑)。 近未来を感じさせる見た目のせいか、テンションが上がるみたいですね。

3Dスキャナで撮影することを特別な体験として捉えてくださっているように感じています。ただ、その一方で課題も浮き彫りになってきました。3Dスキャナに対する心理障壁がちょっとあるみたいなんですよね。複数で来店されるお客様はワイワイ賑やかに楽しまれるのですが、お一人だと……ね。

恥ずかしいというか、体験するのにちょっと勇気がいるらしくって。ですので、今後の展開のためにも、より気軽に体験していただくための工夫が必要と考えているところです。

VR×3Dデータで、ウィンドウショッピング体験をよりリアルに

3Dスキャナの体験は、今後他のPARCOでもできるようになるのでしょうか?
そうですね。SR6以外のでの活用を目指していますが、お客様サービスの他にテナントへのツールとしての提供を考えています。

ショップブログにコーディネートを載せるために利用していただくことで、売り上げや来店につなげていければと。お客様へは、「3Dスキャナ撮影=楽しい」という切り口をご用意できたタイミングで、新しく展開したいと思っています
他にもテクノロジーを使った施策が進んでいるんですよね。
VRコンテンツ内に3Dデータを配置し、お買い物体験を実店舗により近い形で提供できればと考えています。洋服を着せたマネキンを3Dスキャナで撮影し、そのデータをVR空間にオブジェクトとして配置するイメージです。お客様がマネキンを指で回したり、後ろに回り込んだりすれば、商品をあらゆる角度から見ることができます。

簡単なモーションセンサーを腕に装着すれば、他者と空間の共有もできるので、友人や恋人と一緒にショッピングを楽しむというリアルの体験そのものを再現できるんじゃないかと期待しています
すごい! そうなると、距離や場所、時間といった物理的な制限を考える必要がなくなりますね。
実は、このレベルの実装はすでに完了していて、この5月にSR6でデモンストレーションを実施します。そして2019年秋開業予定の渋谷PARCOでは、この延長線で、何らかの新たなショッピング体験をお客様にお届けできればと思っています。

現代は、ただ商品を置くだけではお客様は足を運んでくれません。
実際に店舗に足を運びたくなる仕掛けを、ITを活用しながらどんどん作っていきたいと思っています。

服をまとうように、環境をまとう。そんな未来がやってくる

最後に、安藤さんはテクノロジーの普及、新しい技術の登場が、これからの世の中にどんな変化をもたらし、また活かされていくとお考えですか?
まず、VRやMR(Mixed Reality:複合現実。仮想世界と現実世界を組み合わせた現実を作る技術)は、今後ますます当たり前のものになると言われています。装着するゴーグルも、メガネのようなコンパクトな造りになり、誰もが手に取りやすい状況になると思います。

あるVRクリエイターさんは、近い将来人は服をまとう感覚で、空間をまとうようになるんじゃないかと言っていました。そんな世界を彼は、UMWELT(=環世界)という言葉で表現しています。

環世界とは、「ハエの目には世界がスローモーションに映っている」「犬が見ている世界は黄色い」といったように、種族によって時間や空間の認識が異なる概念のことなんですが、そうしたそれぞれによって違う知覚世界を人間が体験できるようになる。家の中にいながら森林浴をしたり砂漠に出かけたり、買いたい家具を試しに部屋に置いてみたり。そんな時代もまもなくなんじゃないのかな、と。

そうなると、あらゆる産業で、また新しい製品やサービスが生まれ、生活のクオリティはますます高まっていくのだと思います。
安藤さんのお話を聞いていると、またワクワクしてきました。
PARCOでは、そんな未来の片りんに触れることができるのですから、ますます目が離せません。続報を楽しみにしています。今日はありがとうございました!

編集後記

人は未知なるモノに圧倒し、驚き、興奮する。3Dスキャナを体験しながら、そんなことを感じていました(ちなみにスキャナに入ったときの気分は、TKのミュージックビデオ。え?分からない?)。

ファッション好きな人にとって、洋服を選ぶことはイベントに参加する感覚に近いのではないでしょうか。いつ、誰と、どこに、着ていくための、一着。それを選ぶ楽しみを増幅させてくれる、今回の3Dスキャナ。

テクノロジーは、ただでさえワクワクするショッピングを、特別な体験へと昇華してくれる、魔法の道具なのかもしれません。最後まで読んでいただきありがとうございました!

※ PARCO SR6 での3Dスキャナの展示は2018年5月末までとなっています

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。