2025年9月24日

子どもたちの良さはメタバースで生きる。日本初のメタバースコースを開設したEMI高等学院が提案する「好き」を「才能」に変える第一歩

ゲーム好きが世界で活躍する時代へ。EMI高等学院 学院長であり、フリースクール「ちゃんぱす」を運営する山中恵美子氏が、子どもたちの学びのテーマにメタバースを選んだ背景と取り組みに迫ります。


専門領域に特化した学習を通して、メタバース人材として活躍できる未来をつくるーー。そんなユニークな学びを実践するEMI高等学院は、文部科学省のガイドラインとは一線を画した教育で、子どもたちの瞳に学ぶ楽しさ、好きを極める喜びを映し出しています。

EMI高等学院の先端テクノロジーをテーマにした学びはなぜ生まれ、その志はどこへと向かうのか。実際のカリキュラムや学校生活の様子とともに、学院長である山中恵美子氏にお話を聞きました。聞き手は、アステリア代表取締役社長の平野洋一郎です。

EMI高等学院 学院長|山中恵美子(やまなか・えみこ)氏
2003年にそろばん塾、2009年に学習塾を開校し、8年でグループ30校・卒業生2万人以上に拡大。塾内で生まれた独自の読書法「瞬読」は全国4,500名以上が受講し、著書は累計37万部。 2023年に通信制高校EMI高等学院・オンラインフリースクールを開校、2025年に小中学生向けキャリアアカデミー「ちゃんぱす」を開校。 ライフワークとして朝活コミュニティを運営。1700日以上続いており、累計参加者は14万人超。日々の小さな一歩を応援し、人生を動かす習慣の場となっている。

「夢中を極めた先に人生が拓ける」メタバースコース開設の経緯

EMI高等学院は、いわゆるオルタナティブ教育を実践されている教育機関で、メタバースを学べるコースが設置されていますよね。まさに世に役立つことと直結した学びを追求されていると感じています。私たちアステリアの事業との親和性も高く、なぜこうした学校の立ち上げに至ったのか、また実際に生徒の皆さんがいかにこの技術を習得しているのかに興味があります。

まずはメタバースという技術を選んで専門のコースをつくられた背景はどういったことでしょうか?
私自身は17年にわたって学習塾を営んできたのですが、年々、学校教育が合わず学校に行きづらいお子さんが増えていることを感じていました。ただ、この子たちって、普通に毎日学校に通うことができる子どもたち以上に、いろんなことを自ら思考して考えているんですね。

実際、「なんで学校に行かないの?」と聞くと、「先生の言う、こういうところがおかしいと思うから」「この仕組みって間違っていると思う」と、「なんで」に対する明確な理由が返ってくることが多いんです。
なるほど。親や先生に言われたからやるのではなく、世の中で当たり前とされていることを「なぜ?」と疑う力があるとも言えるかもしれませんね。
そうなんです。次第に私も「この子たちの言うこともまた、正しいのかもしれない」と思うようになりまして。それなのに学校に行かないだけで、ご近所からは変な目で見られたり、親御さんも悲観的にとらえてしまったりーー。実際問題、小学校・中学校へ行かなかった子どもたちの選択肢って非常に狭いんです。出席日数が足りないので全日制の高校は入りにくいので、通信制の学校を選ぶしかない。周りからは「あの子は通信にしか行けなかった」というような見られ方をすることも少なくありません。

 そんな現状を目の当たりにして、この子たちのために何かできないのかを考えました。学校に行かない時間を無為に過ごしてしまうと、学校に通っている子どもたちと差が開いてしまうけれども、その時間を豊かに過ごすことができたら、逆転できるんじゃないかと思うようになりました。かといって、「勉強」という同じ土俵で戦うことはなかなか難しい。ただ、家で過ごす子どもたちって、大体の子たちがみんなゲームをしているんですよね。その中でも熱中しているのが、『Pokémon GO』『あつまれ どうぶつの森』『Minecraft』といったメタバース系のゲームです。

たしかに、そうしたゲームの画面の中では疑似的な世界が広がっていますよね。自宅から世界と繋がっているとも言える。
そこで「こんなに子どもたちが夢中になっているのなら、メタバースを学べる学校をつくったらどうだろう」と考えたのが始まりです。当時、メタバースの学校を調べたところ、まだなかったんですよ。これだけ多くの人が夢中になっているものだということを考えると、その需要に対してエンジニアも足りていないんじゃないかと。であれば、この子たちにメタバースを作る方の技術を勉強させてあげられたら、社会に出たときの最強の武器になる、と思ったんです。
山中さんご自身は、教育現場には長く携わって来られたけれど、テクノロジーを専門にされていたわけではないですよね。どのようにコースの設立に至ったんですか?
まずはたくさんの関係者にメタバースに詳しい人を紹介してもらいました。中にはメタバースを教える講師業をされている方もいて、私の構想にも強く共感してくださったんです。「エンジニアの世界は、年齢も性別も国籍も関係ない。学校に行ってないこの子たちも輝ける職業だ」という一言で、考えが確信に変わりました。
それは心強い言葉ですね。とはいえ、それまでの塾の経営とはまた別の領域へのチャレンジです。成り立つのかどうか、不安はなかったですか?

正直、不安しかありませんでしたし、当時もいまも必死です。だけど子どもたちに、“夢中を極めた先に人生が拓ける” という瞬間を見せてあげたい一心でした。

メタバースを基礎から実践までじっくり学べる充実のカリキュラム

実際にメタバースコースではどういったことを学ぶんですか?
このコースは3年間の履修を基本とし、メタバースのプロフェッショナルを目指します。最初の1年ではメタバースの基礎をしっかりと学びます。マーケティングやグラフィックデザインの基本を押さえ、最新のVRデバイスにも実際に触れてもらいます。また、3DCGソフトの「Blender」を使って3Dモデルをつくり、自分の作品として発表する実践的な学習を始めていきます。2年目からは、ゲーム開発で広く使われている「Unity」と、開発言語である「C#」を使い、いよいよゲーム開発に挑戦します。完成した作品の発表会も行い、生徒同士、お互いの成果を分かち合います。

最終学年となる3年目は、これまでの集大成として卒業制作に取り組みます。自分の構想をいかに形に落とし込んだか、制作した成果物を企業の方にプレゼンする機会も用意しており、メタバース人材として活躍するための一歩を踏み出します。
3年間でそこまで学べると、メタバースの知識だけでなく開発から活用までしっかり身に付きますね。
そうですね。講師陣も第一線で活躍しているプロフェッショナルを揃えているので、開発のためのアイデア出しや仕様書の作成も含め、現場で必要とされる知識とスキルを網羅できるようにカリキュラムを組んでいます。

中にはキーボードを打つことにも慣れていない状態の生徒さんもいますが、在学中に自分で作ったアイテムを『Fortnite』の中で販売できるぐらいのレベルにまで成長します。
このメタバースコースは、授業だけでなく、生徒さん同士のコミュニケーションもすべてメタバース空間で行われると聞きました。実際の学校生活はどんな雰囲気ですか?
自分でつくったアバターに自分でデザインした服を着せてメタバース上の教室に入り、先生や友だちと普通にコミュニケーションを取っています。「今日はここのワールドにみんなで遊びに行かない?」と話し合ったりしている生徒さんもいますよ。

授業の一環で一人ひとりがつくった遊園地があったりするので、そこにみんなで遊びに行ったり。やっぱりバーチャルの空間なので、学校の教室のように目に見える範囲が全てではなく、無限に広がる世界とつながっているような感覚を持っているような印象がありますね。

色々な可能性を秘めた、楽しい世界ですね。
子どもたちは「居心地がいい」と言ってくれることが多いですね。
親御さんの評判はいかがですか?
はじめは「パソコンに向かって、一体何をしているんだろう?」というような反応ですが、何年間も部屋に閉じこもっていた我が子が、画面の先にいる相手と会話を楽しんでいたり、笑ったりする姿を見て、「メタバースの世界に、この子の居場所があるんだな」と認識されることも多いようです。さらにはその延長でお子さんのほうから、「たまには現実世界でも外に出てみようかな」と言い出したり。

結果的に家族とのコミュニケーションも増えたという報告を受けて、とても嬉しかったです。得意なことや好きなことを見つけて、この分野なら誰にも負けない! という感覚を持つと性格や態度にも表れるんでしょうね。こんなにも変わるんだ! と私も驚いています。
テクノロジーを扱っている会社としては、テクノロジーが人を幸せにしたり、行動を変えたりっていう実例があると本当に嬉しいです。

メタバースの世界を家でも学校でもない「第3の居場所」と認識した子どもって、性格もガラッと変わるんですよ。学校では先生から手のかかる子どもと思われるような子でも、オンラインの世界に入ると、物知りのいい子になったりするんですね。世話好きな子なら、困っている人を見つけて声をかけられる優しい子になるし、イスにじっと座っていられない子どもも、オンラインでは飛び出していける力が強みになって、新しい世界を臆さない勇敢な子、と長所に転換されるんです。

子どもたちの誰しもが必ず良さを持っています。それを発揮できる場所としてメタバースの世界があることを、たくさんの方に知っていただきたいです。

正解を探す力よりも、自ら考え、問いを立てる力を

この世界は新しい技術がどんどん出てきますが、メタバース以外に取り組まれていることはありますか?
メタバースに生成AIを組み合わせた学びを始めており、現在、生成AIコースも開講を準備しているところです。それから、メタバースに詳しくなるにつれ、英語や世界情勢に関心を示す生徒が増えています。というのも、たとえば、NFTマーケットで作品を売買するようになると、海外の人と取引するようになるんですね。すると、英語を勉強したいって言い出すんですよ。

他方、メタバース上にいるゲームプレイヤーも外国の人が多いですから、「一緒にゲームしている人が、サウジアラビア人なんだよ」「韓国人なんだよ」っていう話から、「じゃあ、そこはどんな国なのかな」と、世界のことを知りたくなったり。そうやって興味の幅がどんどん広がっていくのを見てきました。

そうした「好きを極める」学習自体は、小学生や中学生にも必要だなと常々感じていましたので、高等学院とは別に「ちゃんぱす」というフリースクールをオンライン上につくりました。これは今年スタートしたばかりの取り組みです。

◆小中学生向けキャリアアカデミー「ちゃんぱす」 https://chanpass.com/

これまでの画一的な教育から脱却しようと、多様性を重視する取り組みがかなり求められていますから、年齢層を問わず、さまざまな場所にニーズがあるでしょうね。
そう思います。「うちの子も通わせたい」「もっと昔からあればよかったのに」と言っていただくことも多いです。しかしながら、テストや受験に目の向くご家庭はまだまだ多いですよね。私は17年間のうちに2万人の生徒を送り出してきました。それだけ教育に情熱を注いできたのですが、勉強一辺倒では幸せになれない、とひしひしと感じています。「生きていくために必要な力」と、「偏差値を上げるための勉強」の間には、ズレがあるとずっと思ってきました
受験勉強って「正解を探して答える力」です。でも、世界はどんどん変化していて、それよりも「考える力」「問いを立てる力」が求められています。何が正解なのか、生成AIに聞けば答えてくれる時代を生きているいま、生きていくために必要な力とは、日本が再び世界と伍していくための力につながることだと。そこまで思い巡らせていく必要があるでしょうね。
その点、世界で通用するエンジニアになるために必要なスキルについて、平野社長はどう考えていますか?
私は、「発想力」「創造力」といった言葉に集約されるようなスキルがより求められていくと思っています。定型化されたこと、ヒトが過去に経験していることはAIに任せ、ヒトは今までにないようなことに取り組む姿勢や、五感に基づいた発想やアイデアがより重要視されていくんじゃないかと。

自分の感覚に基づいて、「こんなことがやりたい」「あんなところに行きたい」、そういう欲望や妄想が今後は大事になってくると思います。

私はEMI高等学院やちゃんぱすと並行して、「瞬読」というメソッドを提唱する活動をしています。瞬読とはいわば、右脳の潜在能力を活用した速読法なのですが、平野社長のおっしゃる力もまた“右脳力”ですよね。アイデアを生む力や発想力、こういうのをやってみたいって思い描く力は、まさに右脳がつかさどる部分です。

メタバースコースでも、複数の生徒に同じ質問をして同じAIを使っても、誰が使うかによって答えが変わってくるんですよ。そこで試されるのが、まさに平野さんがおっしゃった “問いを立てる力” です。

「こういう問いを立てたら、こういうことができるかな」のような発想やアイデアは、テクノロジーがどんどん発達するなか、ますます大事になってくる、とAIを使えば使うほど感じています。

思いに駆られた行動で、日本と世界を変えていく

これからのEMI高等学院とちゃんぱす、そして山中さんご自身が実現したいことを聞かせてください。
世の中を変えるリーダーになるような考え方や行動力を持った人材を、世界に向けて輩出していきたいです。そして、個人的にはやりたいことにどんどん取り組んでいきたいです。人生一度きりなので、思い立ったら後先考えずに、まずはやることを実践しています。EMI高等学院も構想に10年を要したものの、動き出してからは1年で開校に漕ぎつきましたし、ちゃんぱすに関しては、今年の2月に構想を固めて、4月にはスタートしています。考えているだけでは何も変わりません。動きながら改善していくことを信条に、行動していきたいです。

考え過ぎて初動が遅かったり、思っていても動かなかったりする人が多いなか、山中さんの行動力は素晴らしいですね。行動派として、どんどん日本を変えていってほしいですし、教え子の皆さんもぜひ山中さんに続いてほしいです。

メタバースも実際にはソフトウェアで作られているんですよね。ですから、私たちソフトウェアメーカーが、メタバースでの教育に何か貢献できることがあるかもしれません。
そう言っていただけると、いろいろと思いつきそうな気がします。ソフトウェアという媒体に介在してもらうことで、取り組みの意義や想いをもっと広く届けられるんじゃないかなって思います。
アステリアはテクノロジーの会社ですが、テーマは「つなぐ」なんですよ。ソフトウェアのリリースを通して、いまの社会の流れとは違う接点をつないでいく。親御さんの隠れた思いをつなぐ。子どもさんの興味と実態をつなぐ。そういう部分を担えると面白いなと感じました。
それは、とてもワクワクします。
今日はメタバースを切り口に、子どもたちのこと、教育にまつわる深いことまでお話を聞けて、いろいろなことに思いを巡らせる機会となりました。ありがとうございました。

関連リンク

EMI高等学院 メタバースコース
https://emi-ko.jp/course/metaverse/

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この記事を書いた人
香川妙美 山口県生まれ。音楽業界での就業を経て、2005年より自動車関連企業にて広報に従事。2013年、フリーランスに転身。カフェガイドムックの企画・執筆を振り出しに、現在までライターとして活動。学習情報メディア、広告系メディア等で執筆するほか、広報・PRの知見を活かし、各種レポートやプレスリリース、報道基礎資料の作成も手掛ける。IT企業・スタートアップ企業を対象とした、広報アドバイザーとしても活動中。